落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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古代竜との出会い5

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リリスは眠っていた。

眠っていたはずだった。

だが夢とはとても思えない状況に陥ってしまった事は確かだ。

覇竜と暗黒竜のブレスでの対決に巻き込まれ、目の前が真っ白になってしまったリリスだが、気が付くと果てしなく広がる荒野の上空に浮かんでいた。

300mほどの上空から斜め下方に俯瞰している構図だ。

そのリリスの目の前で、30体ほどの竜達が闘っていた。

そしてその半数が覇竜であり、その半数が暗黒竜である事が何故か分かった。

高速でぶつかり合う竜、ブレスで攻撃し合う竜、大きな口で噛み付きあう竜。
更には巨大な黒炎を放つ竜も居て、その黒炎に身体を焼き尽くされていく竜も居る。

特に強烈なブレスによる闘いは激しく、荒野に幾つもの巨大なクレーターが出現するほどだ。
岩石や砂塵が上空にまで舞い上がり、至る所で爆炎が巻き上がる。
そのたびに犠牲になった竜の身体の一部が地に落ちた。

それでも覇竜の勢いは凄まじく、暗黒竜の闇魔法すら凌駕して駆逐し始めた。
それに耐え切れず闇魔法の転移でその場を離れようとする暗黒竜を、空間魔法で閉じ込めて身動きを取れなくし、強烈なブレスで焼き尽くしていく。

だが暗黒竜の中でも特に巨大な1体が覇竜の群れを覆う様に多数の巨大な魔方陣を出現させ、そこから一斉に巨大な黒炎を集中砲火のように放ち続けた。

あれは恐らくクイーングレイスだ。

リリスはそう感じて、その動きを見つめた。

大量の強烈な黒炎に覆われ、闇魔法に耐性を持つ竜を物量で倒していく攻撃は圧巻だ。
それでも態勢を立て直し、覇竜は空間魔法を駆使して四方に分散した上で、再度ブレスによる攻撃を仕掛けた。

終わりの見えない闘いが続いている。
その双方が息絶えるまで続くのだろうか?

荒野に累々と横たわる多数の竜の遺骸が虚しいだけだ。

ここからリリスの視界が変転し、早送りのように地上の様相が変わっていく。

竜の遺骸もあっという間に風化し、荒野の片隅に人族の姿が現われた。
その人族は荒野を開拓し、何処かの川から水路を引いて畑を耕し始めた。
そこから作物が収穫されていくにつれ、畑の周囲に民家が立ち並び、村となって広がっていく。

荒野の大部分が開拓され、耕作地になった。
だがその村を魔族が襲い、激しい闘いが始まった。
爆炎が立ち上がり、村のあちらこちらが焼かれていく。
その中で魔法を駆使して戦い合う魔族と人族。
その殺伐とした光景にリリスも顔をしかめた。

やがて大地は再び不毛の荒野と化し、荒涼とした風景が広がっていく。

その中で再びその土地の領有権を争って、竜の群れ同士が闘いを始めた。

だが今度は大規模な戦闘にはならなかった。

竜達を遥かに凌駕する敵が上空に出現したのだ。

上空を仰ぎ見る竜達の視界に入ったのは、天空を埋め尽くすほどの大量の魔方陣。
その一つ一つが巨大で、その魔方陣から巨大な火球が連続で放たれていく。
地表に到達した火球は直径が100mにも広がり、火球同士が連結し、分厚い火の絨毯のように地表を埋め尽くした。
火魔法に耐性のある竜であったとしても、厚さ50mにも及ぶその濃密な業火の絨毯に耐えきれるものは無い。

全てが焼き尽くされていく光景を目の当たりにし、リリスは言葉も無く唾を飲み込んだ。

その時遥か上空からケラケラと笑う声が聞こえて来た。
それは何故かタミアの声に似ていると感じたリリスである。

まさか・・・火の亜神の本体が降臨したの?

これは2万年前に起きた災厄を見せられていたのかも知れない。
全てを焼き尽くすのだろうか?

それにしても・・・・・どうしてこんな事を繰り返すの?

そう思った途端にリリスの視界が真っ白になり、リリスは白い空間の中を浮遊していた。

その浮遊感に若干の違和感を感じてリリスは周りを見回した。
だが何も見えない。

何処かに転移させられたのか?
否、元々夢の中なのでは・・・・。

その時、不安に駆られるリリスの脳裏に突然、何者かの言葉が浮かび上がった。

『無駄に繰り返しているわけではない。より良い文化や文明、更により良い生命体の成長を促しているのだ。』

そんな事って・・・。
全てを焼き尽くしてしまったら、より良い文明も生命体も何もかも無くなっちゃうじゃないの。

『全てを焼き尽くしているわけではない。業火の中からも生き延びる個体や種族は居る。それに、進化の流れは既に定まっているので、何もない荒れ野からでも魔素があれば生命は発生する。』

でも2万年でリセットしちゃうんだから、無駄にならないのかしら?
もっと長い年月で見続けたら良いと思うんだけど・・・。

『文明や文化の熟成には、2万年もあれば充分ではないか。』

『意に適うものが出現すれば、2万年でのリセットも変更するかも知れんがな。』

そうかなあ?
もっと他に方法や手段があるようにも思うんだけど。

『ならば、お前にアイデアがあるのなら・・・いずれ手伝って貰おう。エイヴィスのようにな。』

エイヴィス様のようにって・・・・・。
私に超越者に成れって言うの?

『慌てるな。今直ぐにと言う事では無い。お前はお前の人生が尽きるまで、人族としての使命を果たしてもらわねばならん。』

『私を手伝えと言うのはその後の話だ。』

それってどう言う事よ?
私の使命って何なのよ?

リリスの疑問に返答は無かった。
リリスの視界がそのまま消えていく。

ふと気が付くとリリスは再び真っ白な空間の中に居た。
だがそれは時折呼び出される空間だ。
何時ものようにリリスはその空間を斜め上から見下ろす位置に浮かんでいる。

また、何を見せるつもりなの?

眠りに就いてからの一連の出来事に、リリスの疑問は増長するばかりだ。

真っ白な部屋の真ん中に白い楕円形の大きなテーブルがあり、そこに白衣の初老の男性が二人座り、少し離れた席に妖艶な黒いドレスの女性が一人座っている。

男性はキングドレイクとロスティア、女性はクイーングレイスだ。
キングドレイクとクイーングレイスは軽く睨み合っている様子で、その間に座るロスティアが二人を仲裁しているように見える。

「お互いに過去の確執はあるだろうが、いがみ合いはほどほどにしておいてくれ。」

ロスティアの言葉にクイーングレイスはフンと鼻息を吐いた。
一方のキングドレイクはまだ冷静だった。

「リリスを依り代にしようと目論んで居たようだが、当てが外れて残念だったな。それでも加護として存在出来たのだから、それで良しとすべきだと思うぞ。」

「そんな事をあんたに言われたくないわよ!」

キングドレイクの言葉にクイーングレイスは言葉を荒立てた。

「あんた達は水の亜神のお陰で余生を全うしたそうじゃないの。私達は火の亜神に焼き尽くされたって言うのに!」

「それは単なる亜神の気紛れだ。」

そう言ってキングドレイクはロスティアの顔をちらっと見た。

「その火の亜神も水の亜神もリリスの周りに付き纏っているぞ。文句があるなら直接言ってみるか?」

「ヘッ?」

驚きのあまり、クイーングレイスは妙な言葉を発した。

「奴らだけじゃない。土の亜神も風の亜神も闇の亜神も纏わりついているからな。それ以外には超越者などと言う奴もたまに顔を出すから、飽きる事が無いわい。」

キングドレイクはそう言いながらガハハと笑った。

「何で、何でそんなものが集まってくるのよ?」

「まあ、それはリリスの魔力が引き寄せているのだろう。それにリリスを依り代にしている存在の影響もあるのだろうな。」

キングドレイクはロスティアの顔を見てニヤッと笑った。
その言葉にクイーングレイスは怪訝そうな表情を見せた。

「リリスを依り代にしている者が既に居たって言うの? それじゃあ私を排除したのもそいつのせいなの? それって誰なのよ!」

声を荒げたクイーングレイスの顔を見ながら、ロスティアはおずおずと手を上げた。

「それは儂だ。すまんなあ。」

「ええっ! あんたって何者なの?」

席を立ち身を乗り出すクイーングレイス。
その様子を見ながら、キングドレイクは失笑した。

「この場では座長と呼んでおるが、その正体は光の亜神だよ。」

ロスティアはキングドレイクの言葉に軽く頷いた。

「光の亜神の本体の一部だと言った方が正確だな。リリスとは色々な縁があって儂の依り代になって貰ったのだよ。」

「そうだったのね。それにしても光の亜神なんて居るの? そんなの聞いた事も無いけど・・・・・」

クイーングレイスは興味深そうにロスティアに尋ねた。
ロスティアは自嘲気味に口を開いた。

「まあ、儂等の存在そのものが君達の理解を超えているだろうからな。しかも他の亜神達と異なり、光の亜神は管理者の手足となって、焼き尽くされた地上を復活させる役割もある。その際には他の亜神達を束ねる立場にも立たねばならん。それ故に亜神達も儂の本体を座長と呼ぶ。」

「ふうん。そうなのね。」

そう言いながらクイーングレイスは口調を和らげた。

「私じゃ手出しも出来ない相手だって事は分かったわ。」

彼女の言葉にキングドレイクは静かに頷いた。

「そう言う事だ。それ故、儂等は加護として存在させて貰っているだけで、良しとすべきだと思うぞ。」

「う~ん。あんたに言われると癪に障るけど、実際にはそう言う事なのねえ。」

クイーングレイスはそう言うと神妙な表情になった。
その様子を見ながらロスティアは頬を緩めた。

「加護である以上はリリスの為になるように作動してくれ。儂の願いはそれだけだよ。」

「分かったわ。」

「勿論だ。」

クイーングレイスとキングドレイクの返答を受け、ロスティアは満面の笑みを浮かべつつその場を解散させた。

それと共にリリスの視界も再び真っ白になり、そのまま深い眠りに陥っていった。




翌日。

リリスは若干寝不足であったが、午前中の授業を何とかこなし、昼休みに図書館で少し仮眠を取ろうと思っていた。

だが、その意に反して職員室の隣のゲストルームに呼び出されてしまった。
呼び出したのは案の定、メリンダ王女である。

ゲストルームのソファに座る芋虫を肩に生やした小人の姿を見て、リリスは何となく嫌な予感に苛まれていた。

「どうしたのよ? またこんな時間に呼び出して。」

リリスの言葉に芋虫はゆらゆらと身体を動かした。

「用件は2件よ。まず例のチョーカーの件だけど・・・。」

「ああ、それなら何の異常も無かったわよ。今持っているけど渡そうか?」

リリスはそう言いながら、マジックバッグからチョーカーを取り出した。

このチョーカーはラダムから譲り受けた竜の鱗を元に、魔力誘導体を造り上げ、錬成し直したものだ。
リリスの持つ魔金属錬成スキルに依って、意外にも短時間で修復作業は済んだのだった。

そのチョーカーを見て小人が手を伸ばした。

「僕が預かっておくよ。リリス、手間を掛けたね。」

小人のねぎらいの言葉に若干恐縮しつつチョーカーを手渡したリリスだが、その直後に芋虫がゴホンと咳払いをした。

「それでね、もう一つの用件なんだけど・・・・・」

芋虫の言葉の歯切れが悪い。

芋虫が小人の肩をツンツンと突くのを合図に、小人は懐から小さな棒を取り出した。
灰白色の棒で長さは20cmほど。
全体に彫り物がされていて、両端には装飾が施されている。
芋虫から手に取るように促され、それを握ると微かに不思議な気配が漂って来るのだが、その気配にリリスはうっと唸った。

暗黒竜の気配がする・・・・・。
気のせいかしら?

「これって何なの?」

湧きあがる不安を隠して、リリスは芋虫に問い掛けたのだった。










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