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古代竜との出会い3
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デルフィの研究施設。
そこで出迎えてくれたデルフィの表情が険しい。
だがふっと通常の表情に戻った。
「気のせいか?」
そう呟くデルフィにユリアスがどうしたのかと尋ねた。
デルフィは申し訳なさそうな表情になり、その頭をポリポリと掻いた。
「気を悪くしないでくれ。一瞬リリスから、喉元に刃を突き付けられたような気配を感じたのだよ。」
「そんな事をしませんよ。私はナイフだって上手に使えませんから。」
リリスはそう言って場を和ませようとした。
だが何となく、自分が新たに持った暗黒竜の加護の気配がその要因かも知れないと思った。
そのリリスの不安は後ほど現実のものとなる。
気を取り直してデルフィは、満面の笑みを見せながら、リリス達を施設の奥に案内した。
「闇の神殿を発掘中に、隠し扉の奥から木箱に入った化石を見つけたのだ。どうやらそれは古代竜のものらしい。それでラダム殿を交えて検証しようと思ったのだ。」
「ラダム殿の話ではリリスも、古代竜の骨格標本に興味を持っているそうじゃないか。それで魔法学院が休みなら見せてあげようと言う事になったのだよ。」
そうなのね。
あくまでも善意で同行させてくれたって事ね。
リリスはそう思いながら、造り笑顔でデルフィに感謝を述べた。
化石の保管場所に案内される途中、通りすがりのドラゴニュートの職員達が怪訝そうな表情でリリスを見つめた。
その視線がどうしても気になる。
ここに来たのはやはり拙かったのかしら?
そんな思いに駆られながらリリスは広い保管庫に足を踏み入れた。
幾つもの台座があり、そのうちの一つの台座の上に大きな木箱が置かれ、その周囲に化石化した骨が無造作に並べられている。
そこから微かに竜の気配が漂って来るのを感じて、リリスはブルっと身震いをした。
これって当たりかもね。
クイーングレイスさんの気配がするんだもの。
でもこんなに早く見つけるなんて・・・。
4人は台座の周りに立った。
デルフィはその骨の化石を取り上げて、撫でるように触れながら口を開いた。
「これらは古代竜の骨格の頭部の一部と腕の部分のようだ。細かい破片のようなものが頭部のものと思われる。」
「ラダム殿。そなたが扱った古代竜の化石と同種のものか検証してくれ。」
声を掛けられたラダムは嬉々とした表情で頷いた。
「うむ。任せてくれ。あの古代竜の骨の化石とは、かなり長い時間向き合っていたからな。」
そう言いながらラダムは化石化した骨を持ち上げ、軽く魔力を流して検証し始めた。
「確かに儂の元にある化石と同じような反応を感じる。これは同種の古代竜の化石である可能性が高いな。」
ラダムの声が興奮で高まっている。
その様子を見てデルフィも嬉しそうだ。
「同種の古代竜であれば、骨格標本に組み合わせる事も出来そうだな。これは是非ラダム殿が持ち帰ってくれ。それらを組み合わせた上で、儂もユリアス殿の研究施設に出向く事にしよう。この目で古代竜の全身骨格の標本を見るのが楽しみだ。」
「やはりラダム殿を呼んで正解だったようだ。」
デルフィの言葉にラダムは恐縮した。
「そう言って貰えるとありがたい。感謝しますぞ。」
ラダムは上機嫌で台座の上の化石を一つ一つ精査し始めた。
そのうちの小さな一つをつまみ上げ、ラダムはそれをリリスに手渡した。
「これは古代竜の頭頂部だと思われる。少し尖ったような形状になっているのが分かるかい?」
ラダムの言葉にリリスはハイと返事しながらその化石を軽く撫でた。
だがその時、何かがリリスの胸元に入り込んできたような気配を感じた。
リリスはハッとしてその場から後ずさりしたのだが、その直後に激しい悪寒を感じてその場に座り込んでしまった。
「どうした?」
心配するデルフィの言葉にリリスは辛そうな表情を見せた。
「すみません。吐き気がするので、少し外に出て良いですか?」
「そうか。それならこの施設の屋上に案内してあげよう。辛そうだから転移で送るぞ。」
そう言うとデルフィは闇魔法の転移を発動させ、リリスを研究施設の屋上のスペースに送り込んだ。
転移と同時に砂漠の熱い日差しと熱風が吹いてくる。
それは病人には逆効果だ。
リリスは吐き気に耐えられず、その場に吐き戻そうとした。
だがその時突然、暗黒竜の加護が発動してしまった。
どうして?
何故、暗黒竜の加護が発動したの?
解析スキルを発動させようとしたその時、リリスの身体中に闇魔法の魔力が充満し、自分の意志とは関係なく顔が斜め上に向いた。
次の瞬間、リリスの口から黒い塊りが飛び出し、それは斜め上空に向かって高速で舞い上がっていった。
はるか上空でその黒い塊りが弾けるのを感じたのだが、それと前後してリリスの体調も急に回復してきた。
あれは何だったのだろう?
訳も分からず混乱するリリスの脳裏に、微かに言葉が浮かび上がった。
(見つけてくれてありがとう、リリス。)
恐らくこれはクイーングレイスからのメッセージだ。
それにしても人騒がせね。
そう思ったりリリスだが、程なく再びデルフィ達の元に呼び戻された。
デルフィの表情が険しい。
施設の屋上での様子を、心配した職員が見ていたらしい。
その後、その職員は倒れてしまったと言うのだが。
「お前の様子を見ていた職員から聞いた。お前は何を吐き出したのだ?」
「それが私にも分からないのです。吐き気がして吐き出そうとしたら、急に顔が上に向かって・・・」
混乱するリリスを見ながら、デルフィは静かな口調で語り掛けた。
「今現在、ドラゴニュートの国中が大騒ぎになっているのだ。」
「リリス。お前がここに来た時から感じていた、この不穏な気配は何だ? 思い当たる事を話してくれ。」
どうしてそんな騒ぎになっているのよ?
リリスは仕方なく、暗黒竜の加護を受けた話を簡略に説明した。
この場に居るのはデルフィとユリアスとラダムだ。
加護の存在を知られても、それを口外する事は無いだろうと思ったからだ。
だがデルフィの顔には驚きの表情が見える。
「暗黒竜の加護だと! それにクイーングレイスと言えば、竜族にとっては伝説となる冷酷で凶悪な暗黒竜の女王ではないか。」
「どうしてそんなものを手に入れたのだ?」
デルフィの見つめる目が痛い。
リリスは止む無く事の次第を話した。
「お前には新たなスキルを構築するスキルがあるのか! 驚いた奴だな。しかも暗黒竜の仕掛けた禁忌を駆逐して、加護の形に再構築するなどと言う事が、本当に可能なのか?」
そう言われてもリリスは無言で頷くしかなかった。
デルフィはう~んと唸って黙り込んでしまった。
そのデルフィの元に施設の職員が伝言を伝えに来た。
その職員の目がリリスをジッと睨んでいる。
デルフィは職員からの伝言を聞き、静かに口を開いた。
「ドラゴニュート間の連絡用の仮想空間が現在混乱していて、使えなくなっているそうだ。不安と恐怖で誰もが震えあがっているのだよ。」
「お前がこの施設の屋上から上空に吐き出したのは、暗黒竜の魔力化した息吹だったのだ。勿論お前にその自覚は無かったのだろうが、竜族は強大な竜の気配には敏感なのだよ。特にドラゴニュートは竜族の中でも弱小な種族だ。他の竜族よりも過敏に反応してしまう。しかも暗黒竜と言う、絶滅したはずの未知の強大な竜の気配だからなあ。」
困ったわねえ。
そんな事になっちゃったの?
クイーングレイスさんったら何処まで人騒がせなのよ!
「リリス。お前の闇魔法の魔力を確かめたい。施設の地下の闘技場に付いて来てくれ。」
厄介な事になって来たわね。
リリスは心配するユリアスとラダムの傍を離れ、デルフィの案内で地下の闘技場に足を運んだ。
広い闘技場の空間が、目の前に広がっている。
その真ん中に立ち、デルフィはリリスの語り掛けた。
「ここなら多少の事があっても、職員達に影響は無いだろう。」
「リリス。お前の闇魔法を発動させて、試しに闇を創り上げてくれ。」
デルフィの言葉に従って、リリスは闇魔法の魔力を身体中に充満させた。
それと同時に連動している暗黒竜の加護が発動され、魔力が更に濃厚になっていくのが分かる。
手のひらに小さな闇を創り上げると、その球状の闇の周りに赤い稲妻がバチバチと音を立てて幾重にも走った。
その様子にデルフィはうっと呻いて後ずさりをした。
「闇魔法がかなり強化されているな。人族にとってはそれほど気にならないレベルかも知れんが、儂ら竜族はお前の闇魔法の魔力に含まれる暗黒竜の気配だけで卒倒してしまいそうだ。」
そう言いながらデルフィは闘技場の奥の扉を開けさせた。
そこから出て来たのは、鈍い金色の金属に包まれた大きなゴーレムだった。
「あれは訓練用のゴーレムだ。訓練用とは言え魔金属で構成され、多重シールドを常時発動しているので、ドラゴニュートでも並みの兵士では難敵だと思うぞ。」
「試しに黒炎であのゴーレムを倒して見せてくれ。」
黒炎で倒すの?
リリスもまだ闇魔法にはそれほど習熟していないので、自信を持って攻撃出来る状態ではない。
それでも暗黒竜の加護のお陰で闇魔法が相当強化されている自覚はある。
それを頼りにリリスは身体中に闇魔法の魔力を漲らせた。
両手を突き出し、2個の黒炎を発生させると、30mほど離れた場所でのしのしとあるくゴーレムに向けて放った。
リリスの手から放たれた直径20cmほどの黒炎は、ゴウッと言う音を立てて滑空し、ゴーレムの直前では直径が1mにも膨れ上がり、バチバチと稲妻を放ちながら着弾した。
黒炎は着弾と共にゴーレムの身体を包み込むように膨れ上がり、そのまま黒い不気味な炎を上げて静かに燃え上がっていく。
ゴーレムの身体は末端から魔素に分解され、あっという間に消え去ってしまった。しかも着弾地点の地面まで抉り取って分解し、大きな半円状の穴が開いてしまった。
その様子を見てデルフィは、う~んと唸って考え込んでしまった。
その後、気を取り直したようにデルフィはポツリと呟いた。
「言い忘れていたが、あのゴーレムは闇魔法に対する耐性も持っていたんだ。その上に多重シールドを発動していたのだが、そんなものは無意味だと言わんばかりの攻撃だったな。」
デルフィの表情に困惑の様子が見える。
分解された魔素によって闘技場全体が禍々しい空気に包まれ始めた。
リリスはその回収の為に闇を発生させ、闘技場の床にそれを展開させた。
闘技場の床は直ぐに闇で覆われ、立ち込めていた魔素を回収し、リリスにその魔素を魔力として変換しながら送り込んできた。
闇はその場で次に回収するものは無いかと探し求めるように、時折赤い稲妻を放ち、波打ちながらうねうねと蠢いている。
その有様が実に不気味でおぞましい。
「ううっ! もう良いぞ。片付けてくれ。」
デルフィの言葉に従って、リリスは闇を撤収した。
この時デルフィに施設の職員からの連絡が魔道具で届いた。
それを確かめて、デルフィはふうっと大きく息を吐いた。
「リリス。今ここにリンがやってくるそうだ。」
「えっ! リンちゃんが?」
突然の事で驚くリリスの目の前に、大きな魔力の塊が突然現れた。
それはそのまま二人の人影になっていく。
実体化したのはリンと護衛のハドルだ。
久し振りに見るリンは少し大人びた顔つきに見える。
だがリンは笑顔もなくリリスの駆け寄って来た。
「リリスお姉様。お久し振りですが・・・少し厄介な事になってしまっていますね。」
そう言いながらリンは手を前に突き出し、リリスの顔の前でリリスを精査し始めた。
「失礼はお許しくださいね。」
リンの表情は固い。
精査しながら時折うんうんと頷いている。
心配になったリリスの表情を見て、横からハドルが声を掛けた。
「リリス様。ご心配は要りませんよ。リリス様に危害は及びませんからね。姫様は案じておられるのですよ。リリス様が暗黒竜に取り込まれてしまったのではないかと。」
ハドルの言葉が終わらないうちに、リンはその手を下げ、満面の笑みでリリスに抱き着いた。
「良かった! リリスお姉様は大丈夫ですね。」
「当り前じゃないの。私は私よ。」
そう言いながら、リリスはリンの頭を撫でた。
リリスに向かうリンの表情は、さっきまでとは違ってあどけない子供の笑顔だ。
リンもリンなりに心配してくれていたのだろう。
「どうしてこんな事になったのですか?」
リンの疑問を解き、安心させるために、リリスは暗黒竜の加護を得るようになったいきさつを説明したのだった。
そこで出迎えてくれたデルフィの表情が険しい。
だがふっと通常の表情に戻った。
「気のせいか?」
そう呟くデルフィにユリアスがどうしたのかと尋ねた。
デルフィは申し訳なさそうな表情になり、その頭をポリポリと掻いた。
「気を悪くしないでくれ。一瞬リリスから、喉元に刃を突き付けられたような気配を感じたのだよ。」
「そんな事をしませんよ。私はナイフだって上手に使えませんから。」
リリスはそう言って場を和ませようとした。
だが何となく、自分が新たに持った暗黒竜の加護の気配がその要因かも知れないと思った。
そのリリスの不安は後ほど現実のものとなる。
気を取り直してデルフィは、満面の笑みを見せながら、リリス達を施設の奥に案内した。
「闇の神殿を発掘中に、隠し扉の奥から木箱に入った化石を見つけたのだ。どうやらそれは古代竜のものらしい。それでラダム殿を交えて検証しようと思ったのだ。」
「ラダム殿の話ではリリスも、古代竜の骨格標本に興味を持っているそうじゃないか。それで魔法学院が休みなら見せてあげようと言う事になったのだよ。」
そうなのね。
あくまでも善意で同行させてくれたって事ね。
リリスはそう思いながら、造り笑顔でデルフィに感謝を述べた。
化石の保管場所に案内される途中、通りすがりのドラゴニュートの職員達が怪訝そうな表情でリリスを見つめた。
その視線がどうしても気になる。
ここに来たのはやはり拙かったのかしら?
そんな思いに駆られながらリリスは広い保管庫に足を踏み入れた。
幾つもの台座があり、そのうちの一つの台座の上に大きな木箱が置かれ、その周囲に化石化した骨が無造作に並べられている。
そこから微かに竜の気配が漂って来るのを感じて、リリスはブルっと身震いをした。
これって当たりかもね。
クイーングレイスさんの気配がするんだもの。
でもこんなに早く見つけるなんて・・・。
4人は台座の周りに立った。
デルフィはその骨の化石を取り上げて、撫でるように触れながら口を開いた。
「これらは古代竜の骨格の頭部の一部と腕の部分のようだ。細かい破片のようなものが頭部のものと思われる。」
「ラダム殿。そなたが扱った古代竜の化石と同種のものか検証してくれ。」
声を掛けられたラダムは嬉々とした表情で頷いた。
「うむ。任せてくれ。あの古代竜の骨の化石とは、かなり長い時間向き合っていたからな。」
そう言いながらラダムは化石化した骨を持ち上げ、軽く魔力を流して検証し始めた。
「確かに儂の元にある化石と同じような反応を感じる。これは同種の古代竜の化石である可能性が高いな。」
ラダムの声が興奮で高まっている。
その様子を見てデルフィも嬉しそうだ。
「同種の古代竜であれば、骨格標本に組み合わせる事も出来そうだな。これは是非ラダム殿が持ち帰ってくれ。それらを組み合わせた上で、儂もユリアス殿の研究施設に出向く事にしよう。この目で古代竜の全身骨格の標本を見るのが楽しみだ。」
「やはりラダム殿を呼んで正解だったようだ。」
デルフィの言葉にラダムは恐縮した。
「そう言って貰えるとありがたい。感謝しますぞ。」
ラダムは上機嫌で台座の上の化石を一つ一つ精査し始めた。
そのうちの小さな一つをつまみ上げ、ラダムはそれをリリスに手渡した。
「これは古代竜の頭頂部だと思われる。少し尖ったような形状になっているのが分かるかい?」
ラダムの言葉にリリスはハイと返事しながらその化石を軽く撫でた。
だがその時、何かがリリスの胸元に入り込んできたような気配を感じた。
リリスはハッとしてその場から後ずさりしたのだが、その直後に激しい悪寒を感じてその場に座り込んでしまった。
「どうした?」
心配するデルフィの言葉にリリスは辛そうな表情を見せた。
「すみません。吐き気がするので、少し外に出て良いですか?」
「そうか。それならこの施設の屋上に案内してあげよう。辛そうだから転移で送るぞ。」
そう言うとデルフィは闇魔法の転移を発動させ、リリスを研究施設の屋上のスペースに送り込んだ。
転移と同時に砂漠の熱い日差しと熱風が吹いてくる。
それは病人には逆効果だ。
リリスは吐き気に耐えられず、その場に吐き戻そうとした。
だがその時突然、暗黒竜の加護が発動してしまった。
どうして?
何故、暗黒竜の加護が発動したの?
解析スキルを発動させようとしたその時、リリスの身体中に闇魔法の魔力が充満し、自分の意志とは関係なく顔が斜め上に向いた。
次の瞬間、リリスの口から黒い塊りが飛び出し、それは斜め上空に向かって高速で舞い上がっていった。
はるか上空でその黒い塊りが弾けるのを感じたのだが、それと前後してリリスの体調も急に回復してきた。
あれは何だったのだろう?
訳も分からず混乱するリリスの脳裏に、微かに言葉が浮かび上がった。
(見つけてくれてありがとう、リリス。)
恐らくこれはクイーングレイスからのメッセージだ。
それにしても人騒がせね。
そう思ったりリリスだが、程なく再びデルフィ達の元に呼び戻された。
デルフィの表情が険しい。
施設の屋上での様子を、心配した職員が見ていたらしい。
その後、その職員は倒れてしまったと言うのだが。
「お前の様子を見ていた職員から聞いた。お前は何を吐き出したのだ?」
「それが私にも分からないのです。吐き気がして吐き出そうとしたら、急に顔が上に向かって・・・」
混乱するリリスを見ながら、デルフィは静かな口調で語り掛けた。
「今現在、ドラゴニュートの国中が大騒ぎになっているのだ。」
「リリス。お前がここに来た時から感じていた、この不穏な気配は何だ? 思い当たる事を話してくれ。」
どうしてそんな騒ぎになっているのよ?
リリスは仕方なく、暗黒竜の加護を受けた話を簡略に説明した。
この場に居るのはデルフィとユリアスとラダムだ。
加護の存在を知られても、それを口外する事は無いだろうと思ったからだ。
だがデルフィの顔には驚きの表情が見える。
「暗黒竜の加護だと! それにクイーングレイスと言えば、竜族にとっては伝説となる冷酷で凶悪な暗黒竜の女王ではないか。」
「どうしてそんなものを手に入れたのだ?」
デルフィの見つめる目が痛い。
リリスは止む無く事の次第を話した。
「お前には新たなスキルを構築するスキルがあるのか! 驚いた奴だな。しかも暗黒竜の仕掛けた禁忌を駆逐して、加護の形に再構築するなどと言う事が、本当に可能なのか?」
そう言われてもリリスは無言で頷くしかなかった。
デルフィはう~んと唸って黙り込んでしまった。
そのデルフィの元に施設の職員が伝言を伝えに来た。
その職員の目がリリスをジッと睨んでいる。
デルフィは職員からの伝言を聞き、静かに口を開いた。
「ドラゴニュート間の連絡用の仮想空間が現在混乱していて、使えなくなっているそうだ。不安と恐怖で誰もが震えあがっているのだよ。」
「お前がこの施設の屋上から上空に吐き出したのは、暗黒竜の魔力化した息吹だったのだ。勿論お前にその自覚は無かったのだろうが、竜族は強大な竜の気配には敏感なのだよ。特にドラゴニュートは竜族の中でも弱小な種族だ。他の竜族よりも過敏に反応してしまう。しかも暗黒竜と言う、絶滅したはずの未知の強大な竜の気配だからなあ。」
困ったわねえ。
そんな事になっちゃったの?
クイーングレイスさんったら何処まで人騒がせなのよ!
「リリス。お前の闇魔法の魔力を確かめたい。施設の地下の闘技場に付いて来てくれ。」
厄介な事になって来たわね。
リリスは心配するユリアスとラダムの傍を離れ、デルフィの案内で地下の闘技場に足を運んだ。
広い闘技場の空間が、目の前に広がっている。
その真ん中に立ち、デルフィはリリスの語り掛けた。
「ここなら多少の事があっても、職員達に影響は無いだろう。」
「リリス。お前の闇魔法を発動させて、試しに闇を創り上げてくれ。」
デルフィの言葉に従って、リリスは闇魔法の魔力を身体中に充満させた。
それと同時に連動している暗黒竜の加護が発動され、魔力が更に濃厚になっていくのが分かる。
手のひらに小さな闇を創り上げると、その球状の闇の周りに赤い稲妻がバチバチと音を立てて幾重にも走った。
その様子にデルフィはうっと呻いて後ずさりをした。
「闇魔法がかなり強化されているな。人族にとってはそれほど気にならないレベルかも知れんが、儂ら竜族はお前の闇魔法の魔力に含まれる暗黒竜の気配だけで卒倒してしまいそうだ。」
そう言いながらデルフィは闘技場の奥の扉を開けさせた。
そこから出て来たのは、鈍い金色の金属に包まれた大きなゴーレムだった。
「あれは訓練用のゴーレムだ。訓練用とは言え魔金属で構成され、多重シールドを常時発動しているので、ドラゴニュートでも並みの兵士では難敵だと思うぞ。」
「試しに黒炎であのゴーレムを倒して見せてくれ。」
黒炎で倒すの?
リリスもまだ闇魔法にはそれほど習熟していないので、自信を持って攻撃出来る状態ではない。
それでも暗黒竜の加護のお陰で闇魔法が相当強化されている自覚はある。
それを頼りにリリスは身体中に闇魔法の魔力を漲らせた。
両手を突き出し、2個の黒炎を発生させると、30mほど離れた場所でのしのしとあるくゴーレムに向けて放った。
リリスの手から放たれた直径20cmほどの黒炎は、ゴウッと言う音を立てて滑空し、ゴーレムの直前では直径が1mにも膨れ上がり、バチバチと稲妻を放ちながら着弾した。
黒炎は着弾と共にゴーレムの身体を包み込むように膨れ上がり、そのまま黒い不気味な炎を上げて静かに燃え上がっていく。
ゴーレムの身体は末端から魔素に分解され、あっという間に消え去ってしまった。しかも着弾地点の地面まで抉り取って分解し、大きな半円状の穴が開いてしまった。
その様子を見てデルフィは、う~んと唸って考え込んでしまった。
その後、気を取り直したようにデルフィはポツリと呟いた。
「言い忘れていたが、あのゴーレムは闇魔法に対する耐性も持っていたんだ。その上に多重シールドを発動していたのだが、そんなものは無意味だと言わんばかりの攻撃だったな。」
デルフィの表情に困惑の様子が見える。
分解された魔素によって闘技場全体が禍々しい空気に包まれ始めた。
リリスはその回収の為に闇を発生させ、闘技場の床にそれを展開させた。
闘技場の床は直ぐに闇で覆われ、立ち込めていた魔素を回収し、リリスにその魔素を魔力として変換しながら送り込んできた。
闇はその場で次に回収するものは無いかと探し求めるように、時折赤い稲妻を放ち、波打ちながらうねうねと蠢いている。
その有様が実に不気味でおぞましい。
「ううっ! もう良いぞ。片付けてくれ。」
デルフィの言葉に従って、リリスは闇を撤収した。
この時デルフィに施設の職員からの連絡が魔道具で届いた。
それを確かめて、デルフィはふうっと大きく息を吐いた。
「リリス。今ここにリンがやってくるそうだ。」
「えっ! リンちゃんが?」
突然の事で驚くリリスの目の前に、大きな魔力の塊が突然現れた。
それはそのまま二人の人影になっていく。
実体化したのはリンと護衛のハドルだ。
久し振りに見るリンは少し大人びた顔つきに見える。
だがリンは笑顔もなくリリスの駆け寄って来た。
「リリスお姉様。お久し振りですが・・・少し厄介な事になってしまっていますね。」
そう言いながらリンは手を前に突き出し、リリスの顔の前でリリスを精査し始めた。
「失礼はお許しくださいね。」
リンの表情は固い。
精査しながら時折うんうんと頷いている。
心配になったリリスの表情を見て、横からハドルが声を掛けた。
「リリス様。ご心配は要りませんよ。リリス様に危害は及びませんからね。姫様は案じておられるのですよ。リリス様が暗黒竜に取り込まれてしまったのではないかと。」
ハドルの言葉が終わらないうちに、リンはその手を下げ、満面の笑みでリリスに抱き着いた。
「良かった! リリスお姉様は大丈夫ですね。」
「当り前じゃないの。私は私よ。」
そう言いながら、リリスはリンの頭を撫でた。
リリスに向かうリンの表情は、さっきまでとは違ってあどけない子供の笑顔だ。
リンもリンなりに心配してくれていたのだろう。
「どうしてこんな事になったのですか?」
リンの疑問を解き、安心させるために、リリスは暗黒竜の加護を得るようになったいきさつを説明したのだった。
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