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魔族からのギフト5
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レームのダンジョンの最深部。
ダンジョン本体から切り離された空間で、ギグルは極度に緊張して立ち尽くしていた。
彼の目の前にはリリスが居る。
だがその直ぐ後ろに得体の知れない男女が、不気味な笑顔で彼を見つめているからだ。
見た目は普通である。
色白で端正な顔立ちの細身の女性と、褐色の肌で長身黒髪の目の大きな女性。
その横には穏やかな風貌の小太りの中年男性が立っていた。
だがその3人が纏う魔力の圧が半端ではない。
恐ろしいほどの膨大な魔力をひしひしと感じさせ、それ故にその場の時空に歪を生じさせているのではないかと思うほどだ。
その存在感だけでギグルは圧迫され、冷や汗を流しながら、身体を小刻みに震わせていた。
ギグルの視線がリリスに向かい、その口が僅かに動く。
「リリス。お前は儂を、このダンジョンと諸共に滅ぼしに来たのか?」
ギグルの言葉にリリスはウっと呻いて3人を見た。
「どうして実体で来ているのよ。さっきまで使い魔だったじゃないの。」
リリスの言葉に中年男性の姿のチャーリーが口を開いた。
「使い魔の姿では失礼かと思たんや。リリスが世話になっているって言うしねえ。」
「そんな余計な配慮をしないでよ。しかも膨大な魔力を隠そうともしないんだから・・・」
わざとやっているのね。
ギグル様をからかっているとしか思えないわ。
そう思ったリリスである。
「ギグル様。この3人は敵ではありませんからね。」
そう言いながらリリスは3人の正体を明かした。
その言葉にギグルは驚愕の表情を見せる。
「3体もの亜神がこの場に揃っていると言うのか。リリス、お前はどうしてそんな事が出来るのだ?」
ギグルの言葉にチャーリーが平然と口を開いた。
「リリスの部屋には火の亜神と水の亜神も良く顔を出すけどね。」
チャーリーの言葉にレイチェルも続く。
「そう言えば超越者のロキも来た事があったわよね。」
「超越者! そんなものが実在するのか?」
ギグルの驚きにチャーリーは拍車を掛ける。
「剣聖なんてのも来たなあ。それに異世界の超越者っぽい奴も来たぞ。タキシード姿のコオロギが使い魔の奴、あいつ何て言う名前やったかなあ?」
「アルバじゃ無かった?」
レイチェルの言葉にチャーリーはポンと手を打った。
「そうやそうや。まあ、あいつは来ても歓迎せんけどね。」
チャーリーとレイチェルの話にギグルはう~んと唸って頭を抱えた。
「リリス。お前の部屋はこの世界の中心になっているのか?」
「いえいえ。そんな事はありませんよ。単なる集会所のようなものです。」
リリスの返答にギグルは再度頭を抱えた。
その様子を見ながら、ジニアは冷静に口を開いた。
「あんた達、ここに来た目的を忘れているわよ。」
そう言いながらジニアはギグルの目をジッと見つめた。
「あんたがギグルね。リリスから事の次第は聞いたわ。亜空間に閉じ込めている闇の化け物を処理して欲しいんでしょ?」
「うむ。そうして貰えるとありがたい。」
ギグルはそう言うとフッと魔力を流した。
ギグルの頭上に大きな半透明のパネルが現われ、そこに闇の化け物が蠢いている姿が映し出された。
その映像を見ながら、ジニアは手を伸ばし、そのパネルと魔力で交信を始めた。
「うん。この闇の化け物の生態と状況は把握したわ。確かにその核の部分にリリスの魔力の痕跡があるわね。それがこの闇の化け物の行動様式に直結している。これってリリスの分身のようなものだわ。」
ジニアの言葉にギグルは驚きながらも、リリスの顔を少し非難気に見つめた。
その視線が痛い。
「ちょっと待ってよ! あれが私の分身だなんて事は絶対に無いわよ。私ってあんなに貪欲で狂暴じゃ無いからね。」
リリスの憤激にジニアはアハハと笑った。
「リリスの分身と言うのはあくまでも核の部分の話よ。本体は完全に暴走しているからね。」
「それでもリリスに由来する要素があるから、暴走していてもリリスには敵意を向けないのよ。」
う~ん。
そうなのかしら?
良く分からないわね。
「それでこれをどうするの? ジニアが取り込んでしまうの?」
リリスの問い掛けにジニアはニヤッと笑った。
「そうしようと思っていたんだけどね。今、良い事に気が付いたわ。」
「あれってあんたの分身みたいなものだから、オーブの形状に収縮させて、広域多重シールドのデビア族の担当箇所に設置すれば良いのよ。そうすればデビア族の長老からあんたに託された責務も完了するわ。」
ジニアの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「要するに私の魔力を継続的に注ぐ役割を、あの闇の化け物に肩代わりさせるって事ね。」
「そう。そう言う事よ。」
そう答えてジニアはフッと姿を消した。
次の瞬間、ギグルの頭上の半透明のパネルに映し出された映像の中に、嬉々とした表情のジニアの姿があった。
(こんなもの、良く創ったわねえ。)
ジニアからの念話がリリスの脳裏に届く。
ジニアは両手を前に突き出して、闇の化け物の体表に触れた。
不思議な事に闇の化け物は何の抵抗もしない。
「うん? 何故抵抗せんのだ?」
まるで借りて来た猫のようにおとなしくなった闇の化け物の様子に、ギグルは首を傾げるばかりだ。
ジニアは一瞬で闇の化け物を従属させたようだ。
ジニアが魔力を放つと闇の化け物の身体が仄かに光り始めた。
徐々にその身体が小さくなっていく。
程なく球体になったそれはまさに闇魔法のオーブだ。
(このオーブを広域多重シールドの心臓部に設置してくるわね。)
ジニアからの念話が届くと共に、ジニアとオーブの姿が消えてしまった。
「どうした? 何処へ行った?」
戸惑うギグルにリリスはジニアからの念話の内容を話した。
その話が終わらないうちに、ギグルの目の前にジニアが姿を現わした。
「作業は終わったの?」
レイチェルの問い掛けにジニアはうんうんと頷いた。
「一番弱っていたオーブに融合させちゃったわ。そのお陰でシールドもかなり活性化しているわよ。」
ジニアの言葉にギグルは、ほうっ!と感嘆の声をあげた。
だが直ぐに暗鬱な表情に戻った。
「あの闇の化け物を処理してくれたのは有り難いのだが、奴のせいでレームのダンジョンの70階層まで極度にダメージを受けているのだ。それを修復させるとなると頭が痛い・・・・・」
ギグルの言葉に即座に反応したのはチャーリーだった。
「それなら僕に任せて貰おうか。ここは土の亜神の出番や。」
チャーリーはそう言うと、次の瞬間にその姿を消した。
それと共に地表部分からダンジョンの下層に向かって、膨大な土魔法の魔力が潜り込んでくるのをリリスとギグルは感じた。
「これは・・・信じられん。あっという間にダンジョンの上層部が修復されておるぞ。」
ギグルの言葉を聞き、ジニアとレイチェルも、
「私達も手伝って来るわね。」
と言いながらその姿を消した。
程なくダンジョンの上層から伝わって来たのは、土、風、闇の属性魔法の入り混じった魔力の激流だった。
闇の化け物によって魔素に分解されたダンジョン上層部を元通りに、否、それ以上に修復し更に強化していくのが分かった。
ギグルは驚きのあまり声も出ない。
魔力の激流はダンジョンの70階層を超え、更に深部まで強化していく。
最終的にリリス達の居る階層まで辿り着いた魔力の激流は、そのままダンジョンコアにまで流れ込んだ。
それに伴って大地が激しく振動し、大気が激しく流れている。
「おおっ! ダンジョンコアが300%まで強化されておるぞ!」
ギグルの言葉にリリスも驚くばかりだ。
程なくリリスとギグルの目の前にチャーリー達が現われた。
「こんなもんで良いかな?」
平然と話すチャーリーの言葉にレイチェルが自嘲気味に口を開いた。
「調子に乗って強化しすぎちゃったかもね。」
「攻略の為のレベルが爆上げしちゃったかもよ。」
ジニアの言葉にギグルは呆然としていたが、ハッと気を取り直し、ジニア達に深々と頭を下げた。
「ここまでしてもらって、本当にありがたい。儂の負担もほとんどゼロになったよ。」
「ああ、良いのよ。リリスがお世話になったって言うから、少し力を貸してあげただけ。気にしないで。」
ジニアの口調が軽い。
大した事はしていないと言わんばかりだ。
ジニアの言葉にギグルは再度頭を下げた。
その後しばらく談笑し、リリスはジニアによる闇魔法の転移で自室に戻ったのだった。
その日の夜。
リリスは真夜中に突然目が覚めた。
真っ白い空間の中、高さ3mほどの位置から斜め下方を俯瞰している。
また呼び出されちゃったのね。
うんざりしながら見ていると、真っ白な空間の中央に大きな白い丸テーブルと椅子が10脚ほど現われ、そこに何処からともなく真っ白な法衣を着た老人達が現われた。
良く見ると何時もの面々だ。
その各自が椅子に座って会議が始まる。
参加者が全員着席したのを確認して、座長のロスティアが話を始めた。
「今回集まって貰ったのは、リリスが魔族の魔道具から再構築した闇魔法のスキルの件だ。キングドレイクには負担を掛けたようだが大丈夫か?」
話を振られたキングドレイクはふんっと荒い鼻息を吐いた。
「あそこまで暴走するとは思わなかったぞ。覇竜の加護で抑え込むのに、かなりの魔力を費やしたからな。」
「まるで自分の魔力を投入したような言い草だな。リリスの魔力を投入しただけではないのか?」
隣に座っていたシューサックが皮肉交じりに口を開いた。
その言葉にキングドレイクはピクンと眉を上げた。
だがその対応は冷静だ。
「それはそうだが、あのスキルの暴走を食い止める道筋を創るだけでも、簡単では無かったのだ。下手をするとリリスの脳細胞にダメージが残る可能性もあったのだからな。」
キングドレイクの言葉に他の参席者もほうっ!と声をあげた。
「それほどに暴走していたのか?」
賢者ドルネアの問い掛けにキングドレイクは強く頷いた。
「うむ。あの『闇魔法スキル統合管理者』は魔族の魔道具から再構築したスキルだ。魔族由来のスキルと言うものは概して、術者の身体を犠牲にしてまでもパワーアップさせる類の物が多い。あのスキルはその際たるもので、その発動効果は強烈だが、その分リリスの脳細胞や神経細胞に対する後遺症が現われる可能性もあったのだ。」
キングドレイクの言葉に賢者ユーフィリアスがうっと唸って口を開いた。
「それほどのスキルなら再度暴走する可能性もあるのではないか?」
「確かにその可能性は高い。それ故に当面は覇竜の加護の管理下に置くつもりだ。」
そう答えてキングドレイクは座長に顔を向けた。
「それで良いのだな?」
ロスティアはキングドレイクの言葉にうんうんと頷いた。
「今のところ、それが得策だろう。本当なら一旦分解して、再度構築し直した方が良いのだろうが、その為の構成様子が足りないだろう事は充分予想出来る。」
「そうだな。リリスは基本的に闇魔法にはあまり習熟していないからな。まあ、無理もない事だ。」
このキングドレイクの言葉を聞き、シューサックはふと呟いた。
「そう言えば闇魔法を得意とする竜も居るのではないか?」
「うむ。黒竜と呼ばれる種族だな。暗黒竜とも呼ばれるが、古代竜の一族で既に生き残っている個体は存在しないはずだ。」
キングドレイクはそう言うと、フッとため息をついた。
「覇竜である儂らにとっても、奴らは手強い戦闘相手だったよ。奴らの技量を取り込めば、リリスも『闇魔法スキル統合管理者』を余裕で使いこなせるのだろうな。」
「お前はリリスを魔族にでもするつもりか? そこまで闇魔法に習熟する必要も無いだろうに。」
シューサックの言葉にキングドレイクは首を横に振った。
「そう言う意味で言ったのではない。リリスの持つ最適化スキルは優秀なスキルだが万能では無いのだ。闇魔法に関する引き出しが不足しているのだろう。それを補えればより完成度の高いスキルを再構築出来る。」
キングドレイクの話を聞きながら、ロスティアは話を纏めに掛った。
「当面闇魔法に関しては、覇竜の加護に頼る状況が継続する事を承知しておいてくれ。」
「「「「うむ。了解した。」」」」
参席者の多数の同意を得て会議は終わった。
参席者は席を立ち、そのまま消え去っていった。
何を聞かされているのかしらねえ。
覚めた目で誰も居なくなった部屋を俯瞰しているリリスである。
そのリリスの視界が徐々に暗転し、彼女は深い眠りの中に陥っていったのだった。
ダンジョン本体から切り離された空間で、ギグルは極度に緊張して立ち尽くしていた。
彼の目の前にはリリスが居る。
だがその直ぐ後ろに得体の知れない男女が、不気味な笑顔で彼を見つめているからだ。
見た目は普通である。
色白で端正な顔立ちの細身の女性と、褐色の肌で長身黒髪の目の大きな女性。
その横には穏やかな風貌の小太りの中年男性が立っていた。
だがその3人が纏う魔力の圧が半端ではない。
恐ろしいほどの膨大な魔力をひしひしと感じさせ、それ故にその場の時空に歪を生じさせているのではないかと思うほどだ。
その存在感だけでギグルは圧迫され、冷や汗を流しながら、身体を小刻みに震わせていた。
ギグルの視線がリリスに向かい、その口が僅かに動く。
「リリス。お前は儂を、このダンジョンと諸共に滅ぼしに来たのか?」
ギグルの言葉にリリスはウっと呻いて3人を見た。
「どうして実体で来ているのよ。さっきまで使い魔だったじゃないの。」
リリスの言葉に中年男性の姿のチャーリーが口を開いた。
「使い魔の姿では失礼かと思たんや。リリスが世話になっているって言うしねえ。」
「そんな余計な配慮をしないでよ。しかも膨大な魔力を隠そうともしないんだから・・・」
わざとやっているのね。
ギグル様をからかっているとしか思えないわ。
そう思ったリリスである。
「ギグル様。この3人は敵ではありませんからね。」
そう言いながらリリスは3人の正体を明かした。
その言葉にギグルは驚愕の表情を見せる。
「3体もの亜神がこの場に揃っていると言うのか。リリス、お前はどうしてそんな事が出来るのだ?」
ギグルの言葉にチャーリーが平然と口を開いた。
「リリスの部屋には火の亜神と水の亜神も良く顔を出すけどね。」
チャーリーの言葉にレイチェルも続く。
「そう言えば超越者のロキも来た事があったわよね。」
「超越者! そんなものが実在するのか?」
ギグルの驚きにチャーリーは拍車を掛ける。
「剣聖なんてのも来たなあ。それに異世界の超越者っぽい奴も来たぞ。タキシード姿のコオロギが使い魔の奴、あいつ何て言う名前やったかなあ?」
「アルバじゃ無かった?」
レイチェルの言葉にチャーリーはポンと手を打った。
「そうやそうや。まあ、あいつは来ても歓迎せんけどね。」
チャーリーとレイチェルの話にギグルはう~んと唸って頭を抱えた。
「リリス。お前の部屋はこの世界の中心になっているのか?」
「いえいえ。そんな事はありませんよ。単なる集会所のようなものです。」
リリスの返答にギグルは再度頭を抱えた。
その様子を見ながら、ジニアは冷静に口を開いた。
「あんた達、ここに来た目的を忘れているわよ。」
そう言いながらジニアはギグルの目をジッと見つめた。
「あんたがギグルね。リリスから事の次第は聞いたわ。亜空間に閉じ込めている闇の化け物を処理して欲しいんでしょ?」
「うむ。そうして貰えるとありがたい。」
ギグルはそう言うとフッと魔力を流した。
ギグルの頭上に大きな半透明のパネルが現われ、そこに闇の化け物が蠢いている姿が映し出された。
その映像を見ながら、ジニアは手を伸ばし、そのパネルと魔力で交信を始めた。
「うん。この闇の化け物の生態と状況は把握したわ。確かにその核の部分にリリスの魔力の痕跡があるわね。それがこの闇の化け物の行動様式に直結している。これってリリスの分身のようなものだわ。」
ジニアの言葉にギグルは驚きながらも、リリスの顔を少し非難気に見つめた。
その視線が痛い。
「ちょっと待ってよ! あれが私の分身だなんて事は絶対に無いわよ。私ってあんなに貪欲で狂暴じゃ無いからね。」
リリスの憤激にジニアはアハハと笑った。
「リリスの分身と言うのはあくまでも核の部分の話よ。本体は完全に暴走しているからね。」
「それでもリリスに由来する要素があるから、暴走していてもリリスには敵意を向けないのよ。」
う~ん。
そうなのかしら?
良く分からないわね。
「それでこれをどうするの? ジニアが取り込んでしまうの?」
リリスの問い掛けにジニアはニヤッと笑った。
「そうしようと思っていたんだけどね。今、良い事に気が付いたわ。」
「あれってあんたの分身みたいなものだから、オーブの形状に収縮させて、広域多重シールドのデビア族の担当箇所に設置すれば良いのよ。そうすればデビア族の長老からあんたに託された責務も完了するわ。」
ジニアの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「要するに私の魔力を継続的に注ぐ役割を、あの闇の化け物に肩代わりさせるって事ね。」
「そう。そう言う事よ。」
そう答えてジニアはフッと姿を消した。
次の瞬間、ギグルの頭上の半透明のパネルに映し出された映像の中に、嬉々とした表情のジニアの姿があった。
(こんなもの、良く創ったわねえ。)
ジニアからの念話がリリスの脳裏に届く。
ジニアは両手を前に突き出して、闇の化け物の体表に触れた。
不思議な事に闇の化け物は何の抵抗もしない。
「うん? 何故抵抗せんのだ?」
まるで借りて来た猫のようにおとなしくなった闇の化け物の様子に、ギグルは首を傾げるばかりだ。
ジニアは一瞬で闇の化け物を従属させたようだ。
ジニアが魔力を放つと闇の化け物の身体が仄かに光り始めた。
徐々にその身体が小さくなっていく。
程なく球体になったそれはまさに闇魔法のオーブだ。
(このオーブを広域多重シールドの心臓部に設置してくるわね。)
ジニアからの念話が届くと共に、ジニアとオーブの姿が消えてしまった。
「どうした? 何処へ行った?」
戸惑うギグルにリリスはジニアからの念話の内容を話した。
その話が終わらないうちに、ギグルの目の前にジニアが姿を現わした。
「作業は終わったの?」
レイチェルの問い掛けにジニアはうんうんと頷いた。
「一番弱っていたオーブに融合させちゃったわ。そのお陰でシールドもかなり活性化しているわよ。」
ジニアの言葉にギグルは、ほうっ!と感嘆の声をあげた。
だが直ぐに暗鬱な表情に戻った。
「あの闇の化け物を処理してくれたのは有り難いのだが、奴のせいでレームのダンジョンの70階層まで極度にダメージを受けているのだ。それを修復させるとなると頭が痛い・・・・・」
ギグルの言葉に即座に反応したのはチャーリーだった。
「それなら僕に任せて貰おうか。ここは土の亜神の出番や。」
チャーリーはそう言うと、次の瞬間にその姿を消した。
それと共に地表部分からダンジョンの下層に向かって、膨大な土魔法の魔力が潜り込んでくるのをリリスとギグルは感じた。
「これは・・・信じられん。あっという間にダンジョンの上層部が修復されておるぞ。」
ギグルの言葉を聞き、ジニアとレイチェルも、
「私達も手伝って来るわね。」
と言いながらその姿を消した。
程なくダンジョンの上層から伝わって来たのは、土、風、闇の属性魔法の入り混じった魔力の激流だった。
闇の化け物によって魔素に分解されたダンジョン上層部を元通りに、否、それ以上に修復し更に強化していくのが分かった。
ギグルは驚きのあまり声も出ない。
魔力の激流はダンジョンの70階層を超え、更に深部まで強化していく。
最終的にリリス達の居る階層まで辿り着いた魔力の激流は、そのままダンジョンコアにまで流れ込んだ。
それに伴って大地が激しく振動し、大気が激しく流れている。
「おおっ! ダンジョンコアが300%まで強化されておるぞ!」
ギグルの言葉にリリスも驚くばかりだ。
程なくリリスとギグルの目の前にチャーリー達が現われた。
「こんなもんで良いかな?」
平然と話すチャーリーの言葉にレイチェルが自嘲気味に口を開いた。
「調子に乗って強化しすぎちゃったかもね。」
「攻略の為のレベルが爆上げしちゃったかもよ。」
ジニアの言葉にギグルは呆然としていたが、ハッと気を取り直し、ジニア達に深々と頭を下げた。
「ここまでしてもらって、本当にありがたい。儂の負担もほとんどゼロになったよ。」
「ああ、良いのよ。リリスがお世話になったって言うから、少し力を貸してあげただけ。気にしないで。」
ジニアの口調が軽い。
大した事はしていないと言わんばかりだ。
ジニアの言葉にギグルは再度頭を下げた。
その後しばらく談笑し、リリスはジニアによる闇魔法の転移で自室に戻ったのだった。
その日の夜。
リリスは真夜中に突然目が覚めた。
真っ白い空間の中、高さ3mほどの位置から斜め下方を俯瞰している。
また呼び出されちゃったのね。
うんざりしながら見ていると、真っ白な空間の中央に大きな白い丸テーブルと椅子が10脚ほど現われ、そこに何処からともなく真っ白な法衣を着た老人達が現われた。
良く見ると何時もの面々だ。
その各自が椅子に座って会議が始まる。
参加者が全員着席したのを確認して、座長のロスティアが話を始めた。
「今回集まって貰ったのは、リリスが魔族の魔道具から再構築した闇魔法のスキルの件だ。キングドレイクには負担を掛けたようだが大丈夫か?」
話を振られたキングドレイクはふんっと荒い鼻息を吐いた。
「あそこまで暴走するとは思わなかったぞ。覇竜の加護で抑え込むのに、かなりの魔力を費やしたからな。」
「まるで自分の魔力を投入したような言い草だな。リリスの魔力を投入しただけではないのか?」
隣に座っていたシューサックが皮肉交じりに口を開いた。
その言葉にキングドレイクはピクンと眉を上げた。
だがその対応は冷静だ。
「それはそうだが、あのスキルの暴走を食い止める道筋を創るだけでも、簡単では無かったのだ。下手をするとリリスの脳細胞にダメージが残る可能性もあったのだからな。」
キングドレイクの言葉に他の参席者もほうっ!と声をあげた。
「それほどに暴走していたのか?」
賢者ドルネアの問い掛けにキングドレイクは強く頷いた。
「うむ。あの『闇魔法スキル統合管理者』は魔族の魔道具から再構築したスキルだ。魔族由来のスキルと言うものは概して、術者の身体を犠牲にしてまでもパワーアップさせる類の物が多い。あのスキルはその際たるもので、その発動効果は強烈だが、その分リリスの脳細胞や神経細胞に対する後遺症が現われる可能性もあったのだ。」
キングドレイクの言葉に賢者ユーフィリアスがうっと唸って口を開いた。
「それほどのスキルなら再度暴走する可能性もあるのではないか?」
「確かにその可能性は高い。それ故に当面は覇竜の加護の管理下に置くつもりだ。」
そう答えてキングドレイクは座長に顔を向けた。
「それで良いのだな?」
ロスティアはキングドレイクの言葉にうんうんと頷いた。
「今のところ、それが得策だろう。本当なら一旦分解して、再度構築し直した方が良いのだろうが、その為の構成様子が足りないだろう事は充分予想出来る。」
「そうだな。リリスは基本的に闇魔法にはあまり習熟していないからな。まあ、無理もない事だ。」
このキングドレイクの言葉を聞き、シューサックはふと呟いた。
「そう言えば闇魔法を得意とする竜も居るのではないか?」
「うむ。黒竜と呼ばれる種族だな。暗黒竜とも呼ばれるが、古代竜の一族で既に生き残っている個体は存在しないはずだ。」
キングドレイクはそう言うと、フッとため息をついた。
「覇竜である儂らにとっても、奴らは手強い戦闘相手だったよ。奴らの技量を取り込めば、リリスも『闇魔法スキル統合管理者』を余裕で使いこなせるのだろうな。」
「お前はリリスを魔族にでもするつもりか? そこまで闇魔法に習熟する必要も無いだろうに。」
シューサックの言葉にキングドレイクは首を横に振った。
「そう言う意味で言ったのではない。リリスの持つ最適化スキルは優秀なスキルだが万能では無いのだ。闇魔法に関する引き出しが不足しているのだろう。それを補えればより完成度の高いスキルを再構築出来る。」
キングドレイクの話を聞きながら、ロスティアは話を纏めに掛った。
「当面闇魔法に関しては、覇竜の加護に頼る状況が継続する事を承知しておいてくれ。」
「「「「うむ。了解した。」」」」
参席者の多数の同意を得て会議は終わった。
参席者は席を立ち、そのまま消え去っていった。
何を聞かされているのかしらねえ。
覚めた目で誰も居なくなった部屋を俯瞰しているリリスである。
そのリリスの視界が徐々に暗転し、彼女は深い眠りの中に陥っていったのだった。
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しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
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お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
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