落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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魔族からのギフト4

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魔族の情報交換用の仮想空間に呼び出されたリリス。

呼び出されたのはリリスの実体では無く、意識のみの召喚なのだが。

自分に対する苦情と聞いて釈然としないリリス。

その様子を見て黙り込んでしまったギグルだが、気を取り直したように口を開いた。

「本当に自覚がなさそうだな。それでは端的に言おう。リリス、レームのダンジョンに厄介な化け物を送り込むのは止めてくれ。」

えっ?

そう言われて最初は何事か分からなかったリリスだが、ふと思い当たる事がひらめいた。

「もしかして・・・・闇ですか?」

リリスの返答にギグルは大きく頷いた。

「その通りだ。お前がワームホールを通してレームのダンジョンに送り込んだ、あの闇の化け物は何なのだ? 自由意志を持ち、あらゆる生命体を貪り食う。それを魔素に分解し魔力を蓄え、無限にパワーアップしていく。儂ですらあんなものは見た事も無い。」

「しかもその核にお前の魔力の波動が感じられるではないか! どうやってあんなものを創り出したのだ?」

う~ん。
困ったわね。

「あれは私がワームホールに送り込んだのではありません。自分で飛び込んでいったんです。」

リリスはアブリル王国でのこれまでの経緯を簡潔にギグルに伝えた。

その説明にギグルは眉を上げて驚いた。

「そうするとあれは偶然に生まれたものだと言うのだな。」

「そうなんです。私の持つ闇魔法の強化スキルが暴走してしまって・・・」

リリスの言葉にギグルはう~んと唸って考え込んだ。

「不意に流れ込んできた魔族に敵対する残留思念が引き金になったとしても、それだけの事であれほどにスキルが暴走するものなのか? もしそうだとしたらお前の持つ闇魔法の強化スキルは、余程特殊なものなのだろうな。そのような稀有なスキルを何処で手に入れたのだ?」

「まあ、手に入れたと言うか・・・私の中で再構築したんですけどね。」

そう言いながらリリスは、デビア族の長老タレスから貰ったブレスレットの事をギグルに話した。
その話にギグルは驚きの表情を見せた。

「デビア族の埋め込み型のブレスレットだと? それは彼等のリーダーに受け継がれてきた魔道具ではないか! リリス。お前はデビア族の過去からの種族的な遺産を受け継いだ事になるのだぞ! その自覚があるのか?」

ギグルの話にリリスは驚くばかりだ。
あのブレスレットはそんなつもりで貰った物ではない。
あの場に居たジニアもその事を知っているような雰囲気ではなかった。
そう考えるとタレスの意図が分からず困惑してしまう。

「デビア族のリーダーになるなんて私は聞かされていませんし、ブレスレットも既に魔力の形に変換したうえでスキル化されてしまいましたからね。」

「お前がスキル化したと言うのだな?」

「私の意志では無く、自動的に再構築しちゃうんですけどね。」

リリスの言葉にギグルはう~んと唸り、言葉を発する事なく口をパクパクさせていた。
そのギグルの小さな呟きがリリスにも聞こえて来た。

「自動的に再構築・・・・・つまりはそう言うスキルを持っていると言うのか?」

しばらくブツブツと言いながらも、ギグルはリリスの顔を再び見つめた。

「お前と言う存在が儂には良く分からん。だがいずれにしてもあの闇の化け物を処理して貰わなければならない。今は特殊な亜空間に閉じ込めているが、その状態すら何時まで維持出来るか分からないのだ。」

ギグルはそう言うとパチンと指を鳴らし、リリスの目の前に大きな半透明のモニター画面を出現させた。
そこには亜空間の中に閉じ込められた闇の化け物が写し出された。
闇の化け物はその身体から無数の触手を伸ばし、亜空間の壁に接触を試みている。
その様子は脱出の為の試みを試行錯誤しているように思えた。

「ついでに奴の所業も見ておけ。」

ギグルはそう言うと、モニター画面の映像を変えた。
そこに映し出されたのは巨大な洞窟の中を蠢く闇の化け物だ。
洞窟の天井は高く、何処まで上に続いているのか分からない。
その洞窟の中のところどころに小さな溶岩の池がある。
その熱気で洞窟内は高温になっているだろう。
火山の火口付近の洞窟のイメージだ。

「ここはレームのダンジョンの第70階層だ。」

ギグルの言葉にリリスは驚き、モニターの画面を凝視した。
ここは現時点ではまだ誰も到達していない階層だ。
そう思うと少し興奮してしまうリリスである。

蠢きながら触手を伸ばし、触れるものを全て取り込んでいく闇の化け物。
その行く手に立ちはだかるのは2体のレッドドラゴンだ。

その全長は15mほどで、接近する闇の化け物を咆哮で威嚇している。
全身をビリビリと震わせながら威圧を放っているのだが、闇の化け物にはまるで効いている気配もない。

業を煮やして1体のレッドドラゴンがブレスを放った。
だがそれをまるで待っていたかのように、闇の化け物はその巨体を大きく広げてそのブレスを受け止め、飲み込んでしまった。

更に闇の化け物はその伸び切った状態のまま素早く飛翔し、ブレスを放ったレッドドラゴンの上から覆い被さった。
その状態で徐々に縮小して締め付けていく。

最初は暴れまわっていたレッドドラゴンの反応も徐々に薄れ、ついには消え去ってしまった。
完全に魔素に分解してしまったのだろう。

その様子を見てもう1体のレッドドラゴンが飛び上がり、逃げ去ろうとした。
だが闇の化け物はそれを見逃さない。

一瞬にしてその巨体を破裂させ、その飛び散った大小の破片が逃げ去ろうとするレッドドラゴンの身体に付着した。
その破片はそのまま大きく膨れ上がり、レッドドラゴンの身体を覆ってその自由を奪ってしまった。
更にあちらこちらに飛び散った破片までもそこに集結していく。
それは数分間の所業である。
巨体に戻った闇の化け物は、あっという間にレッドドラゴンの身体を覆い尽くしてしまったのだ。
当然ながらレッドドラゴンは暴れまわり、ついに闇の化け物の内部でブレスを吐いてしまった。
それは捨て身の攻撃だ。
死なば諸共と言う竜のプライドに基づく行動だろう。
それでも闇の化け物は何の影響もなく収縮し、レッドドラゴンを締め付け、魔素に分解していく。

程なく2体目のレッドドラゴンも消滅してしまった。

闇の化け物はそれでも満足していない様子で、周囲の大地や木々を魔素に分解して吸収しながら、下層へと向かった。
だが映像はそこで途切れた。

「この先はお前に見せても意味が無いだろう。儂の空間魔法で何とか亜空間に分離して閉じ込めたのだが、それでもまだ暴れまわろうとしている。儂の力をもってしても奴を消滅させるところまでは出来んのだよ。」

ギグルは困り果てたような表情でリリスを見つめた。

「奴のお陰でレームのダンジョンの過半数の階層が消滅状態に近い。奴の餌はダンジョン内の魔物であり、ダンジョンを構成する魔素でもあるからだ。」

「これでは開店休業だよ。どうしてくれるんだ?」

ギグルの視線がリリスに突き刺さる。
かといってリリスにはどうする事も出来ない。
申し訳有りませんと言いながら頭を下げるだけだ。

「闇の化け物も何時脱出するか分からんぞ。また暴れ出したらもう手が付けられん。」

ギグルの表情は悲嘆に暮れていた。
あの闇の化け物をどうすれば良いのか?
リリスはう~んと唸って考え込んだ。
その時リリスの脳裏にふと、開祖の霊廟を訪れた際の記憶が蘇った。

そう言えばあの時出現した闇も魔物化して暴れていたわ。
あれを処理したのはゲルだったわね。
あの時はジニアの覚醒の為の依り代になったんだっけ・・・。
闇の亜神なら今回の闇の化け物も処理出来るのかも。

「私、闇の亜神に掛け合ってみます。彼等なら何とか出来るかも知れません。」

真顔でそう言うリリスにギグルは一瞬疑いの眼差しを見せた。
だがその表情は直ぐに冷静なものに変わった。

「そんなに簡単に亜神などと言う存在と交渉出来るとは思わないが、お前の事だから何かしらの根拠があるのだろう。」

「まあ良い。出来るだけ早めに手を打ってくれ。今は何とか亜空間に閉じ込めているが、あの闇の化け物の事だ。何時そこから脱出するか見当もつかんからな。」

そう言いながらギグルは小さな魔道具を取り出した。

「これは儂の位置座標を示す魔道具だ。闇の転移を用いれば儂の傍に辿り着く事が出来る。お前が眠っている部屋にこれを送り届けておこう。」

「朗報を待っているぞ。」

その言葉と共にギグルの姿が消えていく。
リリスもそのまま深い眠りに陥っていった。


翌朝。

目が覚めるとベッドの枕元に小さな木の実の様な魔道具が置かれていた。
リリスはそれを手に取り精査した。

確かにギグルの気配が感じられる。

魔力を流してみると、リリスの脳裏にそれらしき位置座標が浮かび上がった。
だがその位置座標は時々刻々と変化している。

忙しい人ねえ。

そう思うとつい頬が緩んでしまう。

リリスはその魔道具を制服のポケットに入れて登校準備を始めた。




闇の化け物の処遇はジニアに頼んでみよう。

ギグルにはそう言ったものの、都合よくジニアに会えるとは限らない。

リリスは学院にいる間中、ジニアを呼び出す方策を練っていた。

メルがゲルを呼び出した事があったわね。
それよりもサラの亜神召喚スキルを活用させて貰おうかしら?
でもその為にはサラに亜神の事を説明しなければならないわねえ。

そんな思いであれこれと思いあぐねていたリリスだが、その解決策は意外にも早く舞い込んだ。

その日の放課後。

自室に戻るとドアの向こうに妖しい気配がある。

これは亜神の気配だ!

急いでドアを開けると、

「「お帰り!」」

二人分の声が返って来た。

ソファに座っているのはノームと白いストライプの入ったブルーの小鳥。

チャーリーとレイチェルの使い魔だ。

お邪魔しているよと言う言葉を聞き流し、リリスはブルーの小鳥をガシッと掴んだ。

「レイチェル! お願いがあるのよ!」

突然の事で焦ったのはブルーの小鳥である。
翼をばたつかせて抵抗を試みた。

「どうしたのよ。落ち着いて話をしましょうよ。」

「ジニアを呼び出して欲しいのよ!」

リリスはそう言うと、ギグルに聞かされた話を説明した。
その話にノームもブルーの小鳥もうんうんと頷いた。

「そうやなあ。闇の処理は闇の亜神に任せるのが得策やね。僕等でも処理は出来るけど、管轄する属性が違うから、僕らが最善の方法を取るとは限らんからねえ。」

ノームはそう言うとソファの背に身体を預けて背中を伸ばした。

「レイチェルはジニアと気が合うから、呼び出すのも簡単やろ?」

ノームの言葉にブルーの小鳥は頷きながら、その魔力を循環させて探索を始めた。

数分の沈黙の後、ブルーの小鳥がうんうんと頷き始めた。

「うんうん。居たわよ。大陸の中央に居るみたいだけど、今呼び出してみるわね。」

ブルーの小鳥の身体からフッと小さな振動波が放たれた。
それに伴って部屋の中の空気も振動し、小さな空気の渦がリリスの身体の傍に生じたかと思うと、小さな黒い闇が宙に浮かんだ。
その闇は徐々に形を変え、程なく一つ目の黒いカラスの姿に変貌した。

ジニアだ!

カラスはその単眼で周囲をぐるりと見回した。

「どうしたのよ? 急に呼び出すなんて、何事なの?」

「ああ、ごめんねジニア。私の用事で呼び出して貰ったのよ。」

リリスはそう言うと闇の化け物に関する一連の話を説明した。

「ふうん。それは興味深いわね。その処理は受け持っても良いわよ。でもとりあえず実物を見てみたいわね。」

「そう言って貰えるとありがたいわ。ギグル様の位置座標はこの魔道具で分かるので、闇の転移で一緒に行って貰って良い?」

リリスは制服のポケットから木の実の様な形の魔道具を取り出し、それをカラスの傍に置いた。
カラスはその魔道具を脚で器用に摘み上げ、魔力を流して発動させた。

「可変性の位置座標ね。でも自動的に追跡出来るように工夫されているから大丈夫よ。」

カラスの言葉にノームとブルーの小鳥もソファから乗り出してきた。

「僕も行くからな。」

「私も行くわよ。」

一緒に付いて来ると言うのか?

本体の一部とは言え、闇の亜神と土の亜神と風の亜神の3体を連れて行って、ギグルはどんな顔をするだろうか?

そう思いながらリリスは3体の使い魔と共に、闇の転移でギグルの元に転移して行ったのだった。















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