落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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レーム再訪4

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レームのダンジョンの25階層。

迫りくるスケルトンの集団を迎え撃たなければならない。
リリスは先ず泥沼や土壁を形成するために、土魔法の魔力を放った。

リリスの前方に長さ50m幅10mほどの泥沼が形成された。
更に魔力を注ぎ、その両脇に高さ2m程の土壁を造り上げた。
スケルトンが相手なので高い土壁は必要ない。
敵が飛び越えて来る危険性は無いからだ。

その手際の良さにイグアスはほうっ!と声をあげた。

だが泥沼や土壁は時間稼ぎの手段に過ぎない。
例え瞬間移動して目前に出現したとしても、そこには泥沼が待っているので、先手を取られる事は無い筈だと言うのがリリスの策略である。

改めて魔力を集中させ、リリスは両手に5本づつのファイヤーボルトを出現させた。
相手が動きの鈍いスケルトンなので、スピードを重視する必要は無い。
あくまでも火力重視の火矢だ。

リリスの前方に居た20体のスケルトン達にそれらは着弾し、激しい爆炎を上げてスケルトン達を焼き払った。
密集していたので巻き添えで焼かれてしまったスケルトンも居たようだ。

続いてリリスの左右斜め前方に配していたスケルトン達にも、リリスは容赦なくファイヤーボルトを放った。
左側の20体のスケルトンに着弾し、爆炎を上げて燃え盛る。
瞬時にリリスは右側の20体のスケルトンにもファイヤーボルトを放った。
だがそれらがスケルトン達に着弾する直前、スケルトン達の姿がふっと消えた。

うっ!
逃げられちゃったわ。

何もない大地に火柱が上がる。
それを忌々しく思いながら敵の気配を探ろうとしていると、スケルトン達は突然泥沼に位置に出現してしまった。
彼等はそのまま泥沼に嵌り込み、バシャバシャと激しく動き回ってそこから離脱しようとしている。
そのタイミングを逃さず、リリスはファイヤーボルトを連続で放った。
40本以上の火矢がスケルトン達に向かい、ランダムに着弾していく。
その激しい爆炎と共に泥が巻き上がり、大地がドドドドドッと激しく揺れた。

その様子を見ながらもリリスは油断していない。
残りのスケルトン達を探知しながら気配を探ると次の瞬間、泥沼の右側に配していた土壁がドーンと音を立てて崩れ去った。
瞬間移動の位置座標を間違えたのか、スケルトン達が土壁に衝突し、隊列を崩してよろめいていた。

それはリリスにとって格好の餌食である。

瞬時にファイヤーボルトを放ったリリスは、その着弾と爆炎を見届けると更に探知を掛けた。

後20体のスケルトンが残っているはず・・・。

だがスケルトンの気配が無い。

目を凝らして周囲を探知すると、かなり後方に20体のスケルトンが出現した。
一旦退避したのだろうか?

そのスケルトン達はその場から動かず、色々な光を放ちながら魔力を循環させているようだ。

アップデートしているの?

拙いと思ってリリスはそのスケルトン達にファイヤーボルトを放った。
10本の火矢がキーンと金切り音を上げて20体のスケルトンに向かい、全弾着弾するかのように思えた。
だが、スケルトン達の周囲に突然半透明のシールドが出現し、ファイヤーボルトの着弾を阻止してしまった。
敵のシールドの表面で火矢が激しく爆炎を上げる。
だがスケルトン達は無傷だ。

シールドが取り払われ、前進し始めたスケルトン達は、その様相が明らかに変わっていた。
その全身から赤い光を放ち、その周囲を幾つもの宝玉が周回している。

もしかして火魔法の耐性を強化したの?

嫌な気配を感じながら、リリスは再びスケルトン達にファイヤーボルトを放った。
キーンと金切り音を立て、10本の火矢が敵に向かった。
だが着弾した瞬間に爆炎は上がったのだが、瞬時に消え去ってしまった。
やはり火魔法を無効化しているようだ。

仕方が無いわねえ。

リリスは土魔法の発動に切り替え、スケルトン達の足元に深さ10mほどの泥沼を出現させた。
泥沼にはまり込んだスケルトン達を見ながら、即座にリリスはリンディに向かって叫んだ。

「リンディ! あの泥沼の周囲を隔離して!」

リンディはハイと答えて空間魔法を発動させ、泥沼を包み込む様に亜空間シールドで隔離した。
これでスケルトン達は万一瞬間移動を発動出来ても、泥沼の中から逃げ出せないだろう。

リリスは即座に泥沼を硬化させた。
敵を身動きの取れない状態にした上で、土魔法と火魔法を連携させて放っていく。
硬化された泥沼がそのまま溶岩の塊になっていくのだ。

球体上に隔離された亜空間の中は徐々に温度を上げ、溶岩のるつぼと化してしまった。
その球体上の上半分がこちらから見えている。
ぐつぐつと燃えたぎる溶岩の中では、さすがにスケルトンの火魔法の耐性も効果を失ってしまったようだ。
時折溶岩の中からスケルトンの一部が見え隠れしていたが、それも程なく消え去ってしまった。

もう良いわよね。

リリスはリンディに亜空間シールドの解除を指示した。
解除した途端に溶岩の炎熱が一気に広がって来た。
リリスはその溶岩の沼を土魔法で大地に戻し、その表面を硬化させ火魔法への耐性を付与した。
それによってまだ残っている地下の炎熱を遮るためだ。

リリスの一連の攻撃を見て、イグアスは深くため息をついた。

「お前の技量がここまでとは思わなかったぞ。最後のスケルトン達は、かなり高度の火魔法への耐性を身に付けていたはずだ。」

「それを問答無用で火力で押し切るとはなあ。」

そう呟きながら、イグアスはリンディと共にリリスの傍に駆け寄った。

だがその時、突然地面がゴゴゴゴゴッと地鳴りを響かせ、その振動が足元から激しく伝わってくる。
何事かと思って前を見ると、100mほど離れた地面に黒く大きな円が現われた。

「ワームホールだ! まだ何か出て来るのか?」

イグアスの叫びと同時にリリスの身体に戦慄が走った。
ワームホールの奥から、とてつもなく大きな魔物の気配が漂ってきたからだ。

この気配はまさか・・・・・。

三人が見つめる中、ワームホールの奥からグオオオオオオッと言う咆哮が聞こえて来た。

これは明らかに竜だ!

ワームホールから巨大な緑の顔が出て来たかと思うと、そのままグッと伸び上がるように竜が姿を現わした。

「グリーンドラゴンだ! こいつはこのダンジョンの最終階層の魔物のはずだ。そのラスボスがどうしてここに・・・」

イグアスの狼狽える声がリリスの耳に響いた。
グリーンドラゴンは翼を広げた姿で立ち上がった。その全長は20m以上ありそうだ。
瘴気と妖気を放ち、リリス達をグッと睨んだ。

3人の脳裏に戦慄が走る。

睨み付けた表情のまま、グリーンドラゴンは前屈みになり、ドーンと言う音を立てて前脚を地面に付けた。
その大きな顔がこちらに向かっている。

拙い!
ブレスを吐くつもりなの?

慌ててリンディにこの空間からの隔離を要請しようとしたリリスだが、その心配とは裏腹に、グリーンドラゴンは意外な仕草を見せた。
その大きな頭部を地面に付けたのだ。
まるでリリス達に屈しているかのような姿勢だ。

これって何なの?

唖然としているリリス達の目の前に、突然黒い人影が音も無くスッと現われた。
黒い影は目鼻もなく、のっぺりとした顔をこちらに向け、リリスの方に近付いて来た。

「お前がリリスなのか?」

低い声がリリスの耳に届いた。
不思議に敵意を感じない。
むしろ好意的な波動を纏っているように感じる。

リリスがハイと返事をすると、黒い人影はうんうんと頷くそぶりを見せた。

「儂の名はギグル、このダンジョンのダンジョンマスターだ。」

「ダンジョンコアがお前に謝意を伝えたいと言うので、儂が代わりに挨拶に来たのだよ。」

ギグルの言葉にリリスはそうなのかと思ったが、イグアスとリンディには何の事なのか全く分からない。

「ダンジョンコアが謝意を伝えるとはどう言う事だ?」

そう呟きながらイグアスはリンディと顔を見合わせた。
リンディも首を傾げるだけなのだが。

ギグルがパチンと指を鳴らすと、地に臥したグリーンドラゴンの目の前から赤い絨毯が出現し、リリスの目の前にまで音も無く伸びて来た。

「これってレッドカーペットなの? ここを歩けと言うの?」

リリスの問い掛けにギグルはうんうんと頷いた。

「グリーンドラゴンの頭部に触れて魔力を少し流してくれ。グリーンドラゴンも魔力を返してくるはずだ。」

「人族が高潔な竜と魔力による交歓をする機会など、まず無いだろうからな。その機会をお前に与える事で、コアが謝意を伝えたいのだろう。」

ギグルの言葉にリリスはそうなのかと思いながら、ゆっくりとレッドカーペットを進んだ。

私への謝意って、私の魔力で完全復活のきっかけを得たからなの?
それならそう仕向けたロキ様に感謝すべきだと思うけど・・・。

あれこれと思いながらリリスはグリーンドラゴンの大きな頭部の前に立ち、手を触れて魔力を流した。
その途端にグリーンドラゴンは目を見開き、うっと呻いてリリスの顔をじっと見つめた。

「何と濃厚な魔力だ。お前は本当に人族なのか? それに強大な竜の気配が魔力に込められているぞ。」

そう言いながらグリーンドラゴンは改めて魔力をリリスの手に返した。
濃厚な竜の魔力が伝わってくる。
だが覇竜であるリンの魔力に比べれば、まだ若干希薄かも知れない。

リリスはグリーンドラゴンに礼を言って、その頭部から手を離した。
その場でグリーンドラゴンに背を向け、ギグルの傍まで戻って来たリリスはふと尋ねた。

「あのグリーンドラゴンはこのダンジョンの最終階層の魔物なんですか?」

「そうだ。最終階層ではあのグリーンドラゴンと闘う事になる。その日を待っているぞ。」

いやいや。
絶対にそこまで行かないからね。

心の中ではそう思いながら、リリスはギグルの傍を離れようとした。
だがその時、グリーンドラゴンがギグルに声を掛けた。

「その娘を立ち去らせないでくれ。その娘は強大な竜の加護を持っているはずだ。是非この場で我輩と対決させてくれ。」

何を言い出すのよ!

リリスの心の声を感じ取った様に、ギグルはグリーンドラゴンに話し掛けた。

「この場で対決とはどう言う事だ? お前は最終階層でなければ、本来のスキルや力を発揮出来ないはずだ。」

「それは分かっている。我輩がこの場で放てるのは威圧や瘴気や妖気のみだからな。威圧のぶつけ合いをしたいと言っておるのだ。」

そう言ってグリーンドラゴンはその場に立ち上がった。

「威圧のぶつけ合いって言われても、私は威圧なんて放てないですよ。」

リリスの言葉にギグルはうんうんと頷いた。
だがグリーンドラゴンはそれでも引かない。

「我輩が威圧のぶつけ合いをしたい相手は、お前本人ではなくお前にその加護を与えた竜だ。我輩が本気で威圧を放てば、お前の持つ加護は必ずそれに対応するだろう。」

「威圧のぶつけ合いは竜同士の挨拶のようなものだからな。」

挨拶って言われてもねえ。

どうして良いのか分からず思いあぐねるリリスの様子を見ながら、ギグルはニヤッと笑った。

「奴があそこまで言っておるのだ。軽い気持ちで付き合ってやってくれ。ブレスのぶつけ合いをしろと、言っているのではないのだから。」

そう言われてもまだ躊躇しているリリスに、背後からイグアスが言葉を掛けた。

「とりあえずやってみたら良いのではないか。威圧だけなら実害は無さそうだし・・・・・」

イグアスの言葉に背中を押されるように、リリスはグリーンドラゴンの申し出を承諾した。

グリーンドラゴンはうむと唸って、リリスの傍から後ずさりをし、20mほどの距離を開けた。
その場に立ち上がったその姿は迫力満点だ。
頭頂まで20mほどもある大きな竜がリリスの前に立ち上がっている。
その両方の翼を大きく広げ、グリーンドラゴンはグーッと深く息を吸った。

「我輩の渾身の威圧を受けて見よ!」

グリーンドラゴンの身体中に激しく魔力が循環し、地面がビリビリと振動し始めた。

「グオオオオオオオッ!」

大きな咆哮と共に大気も震え始めた。
間も無く強烈な威圧に襲われるに違いない。

リリスは念のため魔装を非表示で発動させ、こぶしを強く握り締めて身構えたのだった。






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