落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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亜空間回廊の修復3

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見知らぬダンジョンで大量の魔物が押し寄せて来る。

この時リリスの心には迷いが生じていた。

ここはどうやら過去の世界である。
ここで大暴れして本当に良いのだろうか?
自分の行動が更なる時空の歪みを生じさせないだろうか?

傍に居るトニー達もここで人生を終わらせていたのかも知れない。
そうだとしたら、それを助ける事で生じるタイムパラドックスをどう解消するのか?

あれこれと思い巡らすリリスだが、リリス本人の生存本能には抗えない。

結局、自分が生き残る手段を選ぶだけよね。

意を決したリリスはダニエルに向かって叫んだ。

「ファイヤートルネードで敵を後方から押し出すようにしてください! 敵を泥沼に集結させたいんです。」

「何か策がありそうだな。任せろ!」

ダニエルはファイヤートルネードを発動させ、オーガファイターの後方から押し出すように操作した。
それによって後方から圧が掛かり、オーガファイターの群れが倒れ込む様に泥沼にはまり込んでいく。
リリスはその動きに合わせて、泥沼の幅や奥行きを更に拡張させた。

頃合いを見て、リリスは泥沼に火魔法を連携して発動させた。
リリスの両手から放たれる膨大な火魔法の魔力が、オーガファイターのひしめく泥沼に注がれ、あっという間にその温度が上がっていく。
魔力量が半減し、リリスの身体が小刻みに震え出した。
それでもリズが魔力を補充してくれているので、直ぐに身体が楽になるのがありがたい。

リリスは更に魔力を注ぐ。

泥沼の表面が次第に赤々と光り、炎熱が容赦なく周囲に広がっていく。
5分ほどで泥沼は溶岩の沼となってしまった。

ぐらぐらと沸き立つ溶岩の沼の中に、オーガファイターの群れが燃え上がりながら消えていく。後方から押し出され、逃げ場も無く溶岩の沼にはまり込み、跡形もなく焼き尽くされていく様は圧巻だ。
トニー達は言葉も無くその場に立ち尽くしていた。

ふとリズの顔を見ると、ハアハアと肩で息をしているので、リリスの魔力の回復と補充でそれなりに消耗しているようだ。

それでもリズが魔力を補充してくれているので、リリスはここで更なる試みに取り組んだ。

溶岩の沼の状態での拡張である。

イメージを創り上げ、土魔法と連携させながら魔力を放つと、溶岩の沼はその周辺部分を侵食するように徐々に拡大させていった。
まるで溶岩で出来た生き物の様な動きだ。

溶岩の沼の拡張によって、視界一面が真っ赤に燃え上がっている。
もはやここがダンジョン内部であるとは思えない。
火山の内部だと言っても間違いない情景だ。

広大な範囲に広がった溶岩の沼から、激しい炎熱がこちらにまで伝わってくる。
その炎熱を避けるように、ダニエルはリリスの前方に幾重にもシールドを張り続けた。

リリスによる溶岩流の発動から20分ほどで、オーガファイターの群れは全て焼き尽くされてしまった。

赤々と燃え上がる広大な溶岩の沼を目の前にして、リズは呼吸を整えながらリリスの背後でふと呟いた。

「あんたって・・・何者なの? こんなの人間の出来る事じゃ無いよ。」

その言葉を聞き、リリスは汗の滲む額を拭いながら、リズに向かって微笑んだ。

「リズさん、魔力の補充をしてくれてありがとう。私も魔力の補充を受けていなければ、あそこまでの成果を出せなかったですよ。」

「魔力を補充すれば誰でもあんな事が出来るって言うの?」

呆れるリズにリリスはお願いをした。

「リズさん。もう少し魔力を補充して貰って良いですか? 後始末をしなければならないので・・・」

そう言いながらリリスは赤々と燃えたぎる溶岩の沼を指差した。

「そうだよな。あれを元の状態に戻して貰わないと、地上へ戻るポータルにも辿り着けんからな。」

いつの間にか近付いて来たダニエルがリリスに言葉を掛けた。

リリスはうんうんと頷いて両手を前方に突き出し、溶岩の沼を表面から徐々に元の土の状態に戻していった。
それでも炎熱は残っている。
それを避けるために泥沼の表面を硬化させ、火魔法への耐性を付与させた。

それに伴って、ダンジョン内の隅々にまで伝わっていた炎熱も徐々に和らいでいく。

硬化された元の泥沼の表面は固い地面となって、そこが溶岩の沼であったとは到底思えない。
それでも地面は若干の炎熱を放っていたので、リリスは水魔法で広範囲に大量の水を散布した。

水で冷やすのが最善よね。

散布した水が蒸気となって立ち上がっていく。
そのお陰で残っていた炎熱もほとんど感じられなくなった。

リリスは前方に進むと、元の泥沼の表面を足でドンドンと踏みつけ、危険が無い事をトニー達にアピールした。
若干大袈裟ではあるが、リリスの意志は確実に伝わる。
その様子を見てトニー達は安心し、ふうっと大きく息を吐いた。

「俺達は夢でも見ていたのか?」

「リリス。お前は・・・・・・、まあ、何も言うまい。」

トニーは呆れるように呟きながらも、剣士のポールを呼び寄せた。

「ポール。魔力のマーキングポイントを探せ。この階層が攻略された時点で、近くに出現するはずだ。」

「了解。探知してみるよ。」

ポールはそう言うと魔力を集中させ、広範囲に探知を掛けた。
彼は剣士でありながら、索敵能力も優れているようだ。

「あそこだ!」

ポールが突然前方を指差した。
目を凝らして良く見ると、リリスが硬化させた地面に、いつの間にか石柱が出現している。

こんなものが出現するように仕組まれていたのね。

近付いてみると石柱は高さ1m程で、先端には直径10cmほどの宝玉が嵌められていた。

「俺達よりも先にここに到達したパーティから教わった通りだ。」

トニーはその宝玉に手を置いて、魔力を流した。

「さあ、みんな、この宝玉に魔力を流すんだ。こうやって魔力を流してマーキングすれば、ここで地上に戻っても、ダンジョン入り口から26階層に直行出来るぞ。」

トニーの言葉を受け、他のメンバーも次々に魔力を宝玉に流した。

「さあ、リリスもやるのよ。」

リズに勧められるままに、リリスも宝玉に魔力を流した。

このダンジョンの26階層に来る事は無いと思うんだけど・・・・・。

そう思いつつ魔力を流すと、宝玉はカッと明るく光り、石柱は霧のように消えてしまった。
それと同時に目の前に二つのポータルが出現した。
更にその傍に大きな宝箱も出現した。

「その二つのポータルは地上に戻るものと、次の階層に進むものだ。」

そう言いながらトニーは宝箱をじっと見つめた。

「罠じゃないだろうな。ダニエル。お前の使い魔に開けさせてくれ。」

「おう! 了解だ。」

ダニエルは機嫌良くその使い魔を召喚した。
リリスの目の前に現れたのは、頭頂まで1m以上ある青いサギだった。

サギにしては大きいわね。

ダニエルの指示を受けた青いサギはその長く鋭いくちばしを宝箱の方に向け、ツンツンと頭を揺らしながら宝箱に近付いた。意外に滑稽な動きをする使い魔である。
宝箱の前で静止すると、その長いくちばしで宝箱の鍵の部分をガンガンと強く突いた。
宝箱が反応しないので、罠を仕掛けられている様子は無さそうだ。

青いサギはくちばしで器用に鍵の部分を突き、その蓋を開ける事に成功した。
その中身を見る為にトニー達は宝箱に群がった。
この瞬間は冒険者達にとっての至福の時間である。

中から出て来たのは、多数の宝玉や宝石やアクセサリー、更に魔力を纏った短剣や防具、特殊なポーション類などであった。
それらをすべてマジックバッグに詰め込むと、トニーの指示で全員が地上へのポータルの上に乗った。
瞬時にポータルが作動し、リリス達はダンジョンの入口へと転送された。

そこから外に出ると、どこか見慣れたような街並みが広がっていた。
武器や防具を装備した冒険者が街中を闊歩している。
土埃にまみれた街路の両側には武器や防具やポーション類の店が立ち並び、反対側には飲食店や屋台が並んでいる。
店の呼子の声や人々の会話が喧騒となって耳に入ってきた。
更に飲食店や屋台から漂って来る料理の美味そうな匂いが鼻をくすぐる。
獣人の国とあって、人族よりも獣人の方が多いように感じるのもここの特徴なのだろう。

ダンジョンの街って何時の時代も同じなのね。

そう思いながら歩くリリスにリズが話し掛けた。

「リリス。お腹がすいたでしょ? 25階層の攻略を祝って、とりあえず腹ごしらえをするからね。」

リズの言葉が切っ掛けなのか、リリスも疲れと共に空腹を感じた。

トニーの先導で、リリス達は少し大きな飲食店に入った。
カウンターの上には幾つもの大皿が並んでいて、色々な料理が盛られている。
丸いテーブルが店内に20近く設置され、その周りに椅子が並ぶ。
店内は床も壁も木製で少し薄汚れており、決して奇麗な店ではない。
だがそれでも居心地が良さそうな店で、テーブルの半数以上が客に利用されている。

「この店は魔物の肉の香草煮込みが美味いんだ。みんな、何時ものオーダーで良いか?」

トニーの問い掛けにリズ達もおうっ!と快諾した。

「リリスにはとりあえず甘口で良いだろうな。」

そう言ってトニーは追加のオーダーを出し、店の奥のテーブルの周りに座る事にした。

「甘口があるって事は、辛口もあるのね。」

リリスの言葉にリズはうんうんと頷いた。

「トッピングするスパイスの違いで味が変わるのよ。ダニエルなんて激辛好みなんだから。」

そう言われてダニエルはへへへと笑った。

「俺は生来の辛い物好きなんだよ。」

テーブルに着いてしばらくすると、カウンターの奥から料理が運ばれてきた。
白い深皿の中に白濁したスープが注がれ、様々な野菜と魔物の肉の塊が顔を出している。
その香りはポトフのようにも思えるが、香草やスパイスでより複雑な香りを漂わせていた。

これは食欲をそそるわね。

そう思いながらもリリスは大人しく椅子に座り直し、トニー達の顔を覗き込んだ。

「全員の分が揃ったな。みんな、ご苦労様だった。さあ、食べるぞ!」

トニーの掛け声で全員が料理に手を出した。
リリスもスプーンでスープをすくい、そのまま口に運んだ。

芳醇な香りと濃厚な味が口の中に広がっていく。
その味わいに満足していたリリスだが、小さな肉のかけらが喉の奥に引っ掛かってしまった。

ゲホゲホとせき込むリリスの背をリズが優しく撫でる。

「慌てないで、落ち着いて食べなさいよ。」

笑いながらリズはカウンターの傍に居た店員に、水を持ってくるように頼んだ。
その店員がカウンターの奥から水を持ってこちらに向かって来る。

黒いメイド服を着たスタイルの良い女性だ。
だがその顔に見覚えがある。

レイチェルだ!

女性の店員はテーブルの上に水の入ったグラスを置き、笑顔でリリスに話し掛けた。

「こんなところで、何をしているのよ。帰るわよ。」

そう言ってパチンと指を鳴らすと、急に視界が暗転し、リリスの目の前には白い空間が広がっていたのだった。



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