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リリアのストレス発散3
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リリス達の前に現われた女神の姿の女性。
それはタミアの仮の姿だ。
「あなたは火の亜神の使いの方・・・・でしたよね。」
マーティンの言葉にタミアは優しく頷いた。
リリスは訝し気にタミアを見つめ、おもむろに念話を送った。
『また小芝居を始めるの?』
リリスの念話にタミアはニヤッと笑って視線を逸らし、意外にも冷静に念話を送り返してきた。
『加護の現状の把握と今後のフォローだと思ってよ。』
そうなの?
リリスはふうんと唸ってマーティン達の背後に回り、タミアの様子を眺める事にした。
タミアはリリスの動作を一瞥すると、優し気な表情でマーティンに話し掛けた。
「加護が自律進化を始めているようですね。予想以上にリリアの覚醒が早いかもしれません。」
タミアの言葉を聞き、マーティンは問い掛けた。
「リリアは・・・先ほどのリリアは闇落ちした状態ではなかったのですね?」
「それは大丈夫よ。それに、幸いにもミラ王国の神殿には高度な聖魔法の使い手が居ます。時折魂魄浄化や胎内回帰などを受ける事で、今後も闇落ちからの回避は充分可能でしょう。」
「それでも闇落ちしてしまう可能性がゼロではありません。それ故にあなた達が常に注視し、配慮してあげる事が必要ですね。」
そう言いながらタミアはパメラに視線を向けた。
「あなたはリリアの親族ですね。」
「はい、姉のパメラです。」
おずおずと答えたパメラに、タミアは一層の笑顔を向けた。
「リリアの持つ加護はあまりにも特殊なものです。それ故にリリアの親族がフォローしてあげなければなりません。彼女が闇落ちせずこの加護を使いこなし、その機能制限を完全に解除したなら、火魔法のスペシャリストとしてこの大陸中にその名声を轟かせるでしょう。」
タミアの言葉にパメラは少し顔を曇らせて問い掛けた。
「もしもリリアが闇落ちしてしまったら、どうなるのですか?」
この言葉に反応して、タミアはその表情を固くした。
「彼女が加護の機能制限を完全に解除した上で、もし闇落ちしてしまったら・・・・・」
「おそらくミラ王国の全土が焼き尽くされてしまうでしょうね。人も魔物も命のあるものは全て消え失せてしまうと思っておきなさい。」
タミアの言葉にパメラはうっと呻いて唾を飲み込んだ。
マーティンも真剣な表情でタミアの顔を見つめた。
一瞬の間が過ぎる。
タミアは直ぐに笑顔に戻り、リリスに視線を送った。
「そこに居るリリスが色々と面倒を見てくれるでしょう。それほどに深刻に考えなくても良いわよ。」
あっ!
私に振るの?
リリスの心の叫びにタミアは念話を送る。
『あんたが面倒を見なくてどうするのよ。可愛い後輩でしょ?』
それとこれとは別問題だわよ。
そう思ったリリスだが、マーティンとパメラの熱い視線を直に感じてしまった。
リリアの事で二人に期待されているのが痛いほど分かる。
「リリス。よろしく頼むよ。」
マーティンの言葉にリリスは作り笑顔で頷くだけだった。
タミアはその様子を見ながら、リリスに問い掛けた。
「リリス。あの男達の事はどうするの?」
タミアが指さす方向には、魔力を吸い上げられて、その場で倒れてしまったジークと兵士達の姿があった。
リリスにとってこれはデジャブだ。
また、このパターンだわ。
仕方が無いわねえ。
「リリアの加護の件を、ジーク先生達には知られたくないんですけど・・・・・」
わざとらしく遠回しな言い方をしたリリスに、タミアは筋書き通りと言った拍子でうんうんと頷いた。
「そうですね。それなら前回のように記憶を操作するしかないですね。リリスとマーティンとパメラで協力して、何とか魔物達を倒したと言う設定で良いかしら?」
「それでお願いします。」
リリスの返答を受けて、タミアはパチンと指を鳴らした。
「私がこの場から消え去った5分後に、この男達は目が覚めます。それまでに話を合わせておきなさい。」
タミアはそう言うと、手を振りながら上空に消えていった。
リリス達はその5分間で打ち合わせを済ませ、ジーク達の目覚めを待った。
ジーク達の覚醒後、違和感なく話は進み、無事にこの日の魔物駆除の任務を終えたのだった。
アブリル王国からの帰国から数日後。
リリスは放課後の生徒会の部屋に向かうと、仲良く談笑しているウィンディとリリアの姿を目にした。
リリアの表情が明るいのは何よりの朗報だ。
「リリア。もう体調は良いの?」
リリスの問い掛けにリリアは少し申し訳無さそうな表情を見せた。
「はい。もう大丈夫です。色々とご迷惑を掛けてしまったようで・・・・・」
リリアの言葉尻が曖昧だ。
「その言い方だと、加護の発動の後の事はあまり覚えていないの?」
「ええ、それが・・・・」
リリアは少し思い巡らせるような仕草をした。
「何となく覚えているんですけど、手伝ってあげるから頑張ってみなさいって囁かれて、その後の事はうろ覚えなんですよね。」
リリアの話を聞き、ウィンディが首を傾げながら問い掛けて来た。
「囁かれたって・・・誰に?」
「それが良く分からないのよ。多分加護がその意思を伝えて来たんだと思うんだけどね。」
うんうん。
多分それで間違いなさそうね。
「リリアの加護は自律進化を始めているって、火の亜神の使いが言っていたわよ。加護が疑似人格を持ち始めているとも言っていたわ。」
「う~ん。それって良い事なんですか?」
これはリリアの素朴な疑問だ。
「悪い事じゃないと思うわよ。リリアを手助けしようとしてくれているんだから。」
「そうなのかなあ?」
リリアはあまり釈然としない様子だが、気にしても仕方が無いので話を切り替えた。
「そう言えばアブリル王国の魔物駆除以来、姉が随分私の事を気に掛けてくれるんですよ。少し気味が悪いほどなんです。」
まあ、それは無理も無いわね。
リリアの加護の実態を知ってしまったのだから。
「リリアの火魔法を見て少し見方を変えたんでしょうね。良かったじゃないの。」
リリスの言葉にリリアは嬉しそうに頷いた。
そのリリアの様子を見て、ウィンディも心底嬉しそうな笑顔を見せた。
彼女なりにリリアの家庭環境を心配していたのだろう。
その後しばらく談笑しながら生徒会の作業を進め、リリスは学舎を後にした。
学生寮に戻ると、自室のドアの向こうから妖しい気配が漂って来る。
ドアを開けるとまたもや亜神の使い魔達が潜入していた。
ソファに座って談笑している2体のピクシーとノーム。
今日はユリアとタミアとチャーリーなのね。
若干うんざりしながらリリスはカバンを机の上に置き、学生服のままソファの対面に座った。
そのリリスに赤い衣装のピクシーが声を掛けた。
「リリス。先日の魔物駆除の件はご苦労様だったわね。」
タミアに労われるとは思わなかったわよ。
リリスはそう思いながらもタミアに素朴な疑問をぶつけた。
「ねえ、タミア。あの時のサラマンダーって、もしかしてあんたが用意したの?」
「えっ? そんなの知らないわよ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーはソファの上に少し浮き上がった。
「リリスとリリアが居たから、ワームホールに繋がるダンジョンコアが強烈に刺激を受けたのよ。多分・・・・・」
「随分曖昧な言い方をするわね。それにしてもあのワームホールって、やっぱりどこかのダンジョンに繋がっているの?」
リリスの問い掛けにノームがしたり顔で身を乗り出してきた。
「なんや、知らんかったんか? あそこに発生するワームホールはレームのダンジョンに繋がっているんやで。」
「レームのダンジョン? それって何処にあるのよ?」
「大陸南部の山奥にあるんや。まあ、ミラ王国とは国交のない地域の獣人の国にあるから、あまり知られていないと思うけどね。」
このノームの言葉にリリスは違和感を感じた。
「国交がない地域だからと言っても、ダンジョンの名前くらいは知られている筈よ。それに賞金稼ぎや素材収拾の冒険者に、国境なんて有って無いようなものだわ。」
「うん。確かにその通りやね。でも最下層まで攻略されて既に500年も経ったら・・・・・誰でも忘れてしまうと思うで。」
そうなの?
「でも、今でも魔物がワームホールから続々と現れているじゃないの。それってどう言う事なの?」
リリスの疑問にブルーの衣装を着たピクシーが口を開いた。
「それはつまり、ダンジョンの機能は復活しているって事なのよ。でも正常に成長出来ていないのは、あのワームホールが元凶なの。そもそもあれって本来は、魔物を産み出すワームホールじゃ無かったのよ。」
ワームホールじゃなかったら何なの?
リリスの疑問は広がるばかりだ。
その様子を見ながらノームが再び口を開いた。
「あれは人や物資の通路だったんや。昔、獣人の国同士を結び付ける亜空間のネットワークを創ろうとした獣人の賢者が居た。その賢者は空間魔法を極めた人物で、君も会った事があるんやけどな。」
えっ!
私の既知の人物?
「獣人の賢者ってまさか・・・・・エイヴィス様?」
リリスの返答にノームはうんうんと頷いた。
「そうや。エイヴィスや。まあ、奴が超越者になる前の出来事やけどね。」
意外な人物の名前が出て来て、リリスもその経緯を知りたくなった。
その様子を察してブルーの衣装を着たピクシーが解説を始めた。
「リリスはエイヴィスから、ダークアーミンとダークリンクスとのし烈な抗争の事を聞いているの?」
「ええ、概要は聞いているわよ。」
リリスの返答に、ブルーの衣装を着たピクシーはうんうんと頷き話を続けた。
「それなら話は早いわ。ワームホールは元々ダークアーミンの魔導士が創り上げたものなんだけど、それをダークリンクス側で応用しようとしたのがエイヴィスなのよ。ダークリンクスに好意的な獣人の国を亜空間の通路で繋ぎ、人や物資の流通を計るものだけど、最大の目的は軍事利用だったのよね。」
「最初のうちは上手く運用出来ていたのよ。でも次第に構造上の無理が出て来たの。通路の随所で時空の歪を生み、最終的にはレームのダンジョンの最深部と交錯してしまったのが今の姿なのよ。」
ユリアの話にリリスは疑問を感じた。
「それにしても、どうしてそのまま放置しているの? エイヴィス様なら修復出来るんじゃないの? 例えその当時のエイヴィス様には出来なかったとしても、超越者になったエイヴィス様が修復出来ないとは思えないんだけど・・・・・」
リリスの疑問にノームが口を開いた。
「時空の歪への対処が面倒やから、あえて放置しているんやろな。」
ノームの言葉に赤い衣装を着たピクシーが乗り出してきた。
「そう言えば、そんな事をロキも言っていたわよ。管理者の意向もあって、あえて放置しているって。」
「そうか。ロキがそう言うなら、間違いないやろ。アイツはこの世界の秩序の維持を最優先するからなあ。」
ノームはそう言うと、リリスの顔をじっと見つめた。
「リリスはエイヴィスにもロキにも面識があるんやな。あの二人を見てどう思う?」
「どう思うって言われても、そもそもあの二人の素性も正体も分からないわよ。でも・・・・・」
リリスは二人を思い浮かべながら、自分の感想を口にした。
「ロキ様は確かにこの世界の秩序の維持に尽力しているように思えるわね。それに対してエイヴィス様は、割と自由奔放に動いている様に思えるんだけど。」
リリスの言葉にノームは強く頷いた。
「リリスの捉え方は正しいと思うよ。あの二人は管理者の持つ二面性を象徴しているのかも知れんね。ロキは現状維持に尽力し、エイヴィスは実験的な試みを時折展開していく。現状維持に多少の支障があったとしても、実験的な試みでこの世界の新たな発展を促す事が必要やと、管理者は考えているんやろな。」
「10の試みのうち、9の試みが失敗に終わったとしても、残りの1の試みで新たな進化発展の種を得られるのなら、それを重宝したいと考えているんやろうね。」
ノームの言葉にピクシー達もうんうんと頷いた。
同じ意見だと言う事だろうか。
「そう言えばロキから聞いたんだけど・・・」
赤い衣装のピクシーが訥々と話し始めた。
「時空の歪の状況によっては、レームのダンジョンの修復をするって言っていたわよ。そのうちにリリスにお呼びが掛かるんじゃないの?」
「私に何をしろって言うのよ。」
リリスの言葉に赤い衣装のピクシーはニヤッと笑った。
「だって、あんたってダンジョンの修復の実績があるでしょ?」
「それはそうなんだけど・・・・・」
リリスはそう言って言葉尻を濁した。
私は街の便利屋さんじゃないんだからね。
そんな不満を抱いたリリスであったが、この時のタミアの言葉が実現するのに、それほどの時間は掛からなかったのだった。
それはタミアの仮の姿だ。
「あなたは火の亜神の使いの方・・・・でしたよね。」
マーティンの言葉にタミアは優しく頷いた。
リリスは訝し気にタミアを見つめ、おもむろに念話を送った。
『また小芝居を始めるの?』
リリスの念話にタミアはニヤッと笑って視線を逸らし、意外にも冷静に念話を送り返してきた。
『加護の現状の把握と今後のフォローだと思ってよ。』
そうなの?
リリスはふうんと唸ってマーティン達の背後に回り、タミアの様子を眺める事にした。
タミアはリリスの動作を一瞥すると、優し気な表情でマーティンに話し掛けた。
「加護が自律進化を始めているようですね。予想以上にリリアの覚醒が早いかもしれません。」
タミアの言葉を聞き、マーティンは問い掛けた。
「リリアは・・・先ほどのリリアは闇落ちした状態ではなかったのですね?」
「それは大丈夫よ。それに、幸いにもミラ王国の神殿には高度な聖魔法の使い手が居ます。時折魂魄浄化や胎内回帰などを受ける事で、今後も闇落ちからの回避は充分可能でしょう。」
「それでも闇落ちしてしまう可能性がゼロではありません。それ故にあなた達が常に注視し、配慮してあげる事が必要ですね。」
そう言いながらタミアはパメラに視線を向けた。
「あなたはリリアの親族ですね。」
「はい、姉のパメラです。」
おずおずと答えたパメラに、タミアは一層の笑顔を向けた。
「リリアの持つ加護はあまりにも特殊なものです。それ故にリリアの親族がフォローしてあげなければなりません。彼女が闇落ちせずこの加護を使いこなし、その機能制限を完全に解除したなら、火魔法のスペシャリストとしてこの大陸中にその名声を轟かせるでしょう。」
タミアの言葉にパメラは少し顔を曇らせて問い掛けた。
「もしもリリアが闇落ちしてしまったら、どうなるのですか?」
この言葉に反応して、タミアはその表情を固くした。
「彼女が加護の機能制限を完全に解除した上で、もし闇落ちしてしまったら・・・・・」
「おそらくミラ王国の全土が焼き尽くされてしまうでしょうね。人も魔物も命のあるものは全て消え失せてしまうと思っておきなさい。」
タミアの言葉にパメラはうっと呻いて唾を飲み込んだ。
マーティンも真剣な表情でタミアの顔を見つめた。
一瞬の間が過ぎる。
タミアは直ぐに笑顔に戻り、リリスに視線を送った。
「そこに居るリリスが色々と面倒を見てくれるでしょう。それほどに深刻に考えなくても良いわよ。」
あっ!
私に振るの?
リリスの心の叫びにタミアは念話を送る。
『あんたが面倒を見なくてどうするのよ。可愛い後輩でしょ?』
それとこれとは別問題だわよ。
そう思ったリリスだが、マーティンとパメラの熱い視線を直に感じてしまった。
リリアの事で二人に期待されているのが痛いほど分かる。
「リリス。よろしく頼むよ。」
マーティンの言葉にリリスは作り笑顔で頷くだけだった。
タミアはその様子を見ながら、リリスに問い掛けた。
「リリス。あの男達の事はどうするの?」
タミアが指さす方向には、魔力を吸い上げられて、その場で倒れてしまったジークと兵士達の姿があった。
リリスにとってこれはデジャブだ。
また、このパターンだわ。
仕方が無いわねえ。
「リリアの加護の件を、ジーク先生達には知られたくないんですけど・・・・・」
わざとらしく遠回しな言い方をしたリリスに、タミアは筋書き通りと言った拍子でうんうんと頷いた。
「そうですね。それなら前回のように記憶を操作するしかないですね。リリスとマーティンとパメラで協力して、何とか魔物達を倒したと言う設定で良いかしら?」
「それでお願いします。」
リリスの返答を受けて、タミアはパチンと指を鳴らした。
「私がこの場から消え去った5分後に、この男達は目が覚めます。それまでに話を合わせておきなさい。」
タミアはそう言うと、手を振りながら上空に消えていった。
リリス達はその5分間で打ち合わせを済ませ、ジーク達の目覚めを待った。
ジーク達の覚醒後、違和感なく話は進み、無事にこの日の魔物駆除の任務を終えたのだった。
アブリル王国からの帰国から数日後。
リリスは放課後の生徒会の部屋に向かうと、仲良く談笑しているウィンディとリリアの姿を目にした。
リリアの表情が明るいのは何よりの朗報だ。
「リリア。もう体調は良いの?」
リリスの問い掛けにリリアは少し申し訳無さそうな表情を見せた。
「はい。もう大丈夫です。色々とご迷惑を掛けてしまったようで・・・・・」
リリアの言葉尻が曖昧だ。
「その言い方だと、加護の発動の後の事はあまり覚えていないの?」
「ええ、それが・・・・」
リリアは少し思い巡らせるような仕草をした。
「何となく覚えているんですけど、手伝ってあげるから頑張ってみなさいって囁かれて、その後の事はうろ覚えなんですよね。」
リリアの話を聞き、ウィンディが首を傾げながら問い掛けて来た。
「囁かれたって・・・誰に?」
「それが良く分からないのよ。多分加護がその意思を伝えて来たんだと思うんだけどね。」
うんうん。
多分それで間違いなさそうね。
「リリアの加護は自律進化を始めているって、火の亜神の使いが言っていたわよ。加護が疑似人格を持ち始めているとも言っていたわ。」
「う~ん。それって良い事なんですか?」
これはリリアの素朴な疑問だ。
「悪い事じゃないと思うわよ。リリアを手助けしようとしてくれているんだから。」
「そうなのかなあ?」
リリアはあまり釈然としない様子だが、気にしても仕方が無いので話を切り替えた。
「そう言えばアブリル王国の魔物駆除以来、姉が随分私の事を気に掛けてくれるんですよ。少し気味が悪いほどなんです。」
まあ、それは無理も無いわね。
リリアの加護の実態を知ってしまったのだから。
「リリアの火魔法を見て少し見方を変えたんでしょうね。良かったじゃないの。」
リリスの言葉にリリアは嬉しそうに頷いた。
そのリリアの様子を見て、ウィンディも心底嬉しそうな笑顔を見せた。
彼女なりにリリアの家庭環境を心配していたのだろう。
その後しばらく談笑しながら生徒会の作業を進め、リリスは学舎を後にした。
学生寮に戻ると、自室のドアの向こうから妖しい気配が漂って来る。
ドアを開けるとまたもや亜神の使い魔達が潜入していた。
ソファに座って談笑している2体のピクシーとノーム。
今日はユリアとタミアとチャーリーなのね。
若干うんざりしながらリリスはカバンを机の上に置き、学生服のままソファの対面に座った。
そのリリスに赤い衣装のピクシーが声を掛けた。
「リリス。先日の魔物駆除の件はご苦労様だったわね。」
タミアに労われるとは思わなかったわよ。
リリスはそう思いながらもタミアに素朴な疑問をぶつけた。
「ねえ、タミア。あの時のサラマンダーって、もしかしてあんたが用意したの?」
「えっ? そんなの知らないわよ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーはソファの上に少し浮き上がった。
「リリスとリリアが居たから、ワームホールに繋がるダンジョンコアが強烈に刺激を受けたのよ。多分・・・・・」
「随分曖昧な言い方をするわね。それにしてもあのワームホールって、やっぱりどこかのダンジョンに繋がっているの?」
リリスの問い掛けにノームがしたり顔で身を乗り出してきた。
「なんや、知らんかったんか? あそこに発生するワームホールはレームのダンジョンに繋がっているんやで。」
「レームのダンジョン? それって何処にあるのよ?」
「大陸南部の山奥にあるんや。まあ、ミラ王国とは国交のない地域の獣人の国にあるから、あまり知られていないと思うけどね。」
このノームの言葉にリリスは違和感を感じた。
「国交がない地域だからと言っても、ダンジョンの名前くらいは知られている筈よ。それに賞金稼ぎや素材収拾の冒険者に、国境なんて有って無いようなものだわ。」
「うん。確かにその通りやね。でも最下層まで攻略されて既に500年も経ったら・・・・・誰でも忘れてしまうと思うで。」
そうなの?
「でも、今でも魔物がワームホールから続々と現れているじゃないの。それってどう言う事なの?」
リリスの疑問にブルーの衣装を着たピクシーが口を開いた。
「それはつまり、ダンジョンの機能は復活しているって事なのよ。でも正常に成長出来ていないのは、あのワームホールが元凶なの。そもそもあれって本来は、魔物を産み出すワームホールじゃ無かったのよ。」
ワームホールじゃなかったら何なの?
リリスの疑問は広がるばかりだ。
その様子を見ながらノームが再び口を開いた。
「あれは人や物資の通路だったんや。昔、獣人の国同士を結び付ける亜空間のネットワークを創ろうとした獣人の賢者が居た。その賢者は空間魔法を極めた人物で、君も会った事があるんやけどな。」
えっ!
私の既知の人物?
「獣人の賢者ってまさか・・・・・エイヴィス様?」
リリスの返答にノームはうんうんと頷いた。
「そうや。エイヴィスや。まあ、奴が超越者になる前の出来事やけどね。」
意外な人物の名前が出て来て、リリスもその経緯を知りたくなった。
その様子を察してブルーの衣装を着たピクシーが解説を始めた。
「リリスはエイヴィスから、ダークアーミンとダークリンクスとのし烈な抗争の事を聞いているの?」
「ええ、概要は聞いているわよ。」
リリスの返答に、ブルーの衣装を着たピクシーはうんうんと頷き話を続けた。
「それなら話は早いわ。ワームホールは元々ダークアーミンの魔導士が創り上げたものなんだけど、それをダークリンクス側で応用しようとしたのがエイヴィスなのよ。ダークリンクスに好意的な獣人の国を亜空間の通路で繋ぎ、人や物資の流通を計るものだけど、最大の目的は軍事利用だったのよね。」
「最初のうちは上手く運用出来ていたのよ。でも次第に構造上の無理が出て来たの。通路の随所で時空の歪を生み、最終的にはレームのダンジョンの最深部と交錯してしまったのが今の姿なのよ。」
ユリアの話にリリスは疑問を感じた。
「それにしても、どうしてそのまま放置しているの? エイヴィス様なら修復出来るんじゃないの? 例えその当時のエイヴィス様には出来なかったとしても、超越者になったエイヴィス様が修復出来ないとは思えないんだけど・・・・・」
リリスの疑問にノームが口を開いた。
「時空の歪への対処が面倒やから、あえて放置しているんやろな。」
ノームの言葉に赤い衣装を着たピクシーが乗り出してきた。
「そう言えば、そんな事をロキも言っていたわよ。管理者の意向もあって、あえて放置しているって。」
「そうか。ロキがそう言うなら、間違いないやろ。アイツはこの世界の秩序の維持を最優先するからなあ。」
ノームはそう言うと、リリスの顔をじっと見つめた。
「リリスはエイヴィスにもロキにも面識があるんやな。あの二人を見てどう思う?」
「どう思うって言われても、そもそもあの二人の素性も正体も分からないわよ。でも・・・・・」
リリスは二人を思い浮かべながら、自分の感想を口にした。
「ロキ様は確かにこの世界の秩序の維持に尽力しているように思えるわね。それに対してエイヴィス様は、割と自由奔放に動いている様に思えるんだけど。」
リリスの言葉にノームは強く頷いた。
「リリスの捉え方は正しいと思うよ。あの二人は管理者の持つ二面性を象徴しているのかも知れんね。ロキは現状維持に尽力し、エイヴィスは実験的な試みを時折展開していく。現状維持に多少の支障があったとしても、実験的な試みでこの世界の新たな発展を促す事が必要やと、管理者は考えているんやろな。」
「10の試みのうち、9の試みが失敗に終わったとしても、残りの1の試みで新たな進化発展の種を得られるのなら、それを重宝したいと考えているんやろうね。」
ノームの言葉にピクシー達もうんうんと頷いた。
同じ意見だと言う事だろうか。
「そう言えばロキから聞いたんだけど・・・」
赤い衣装のピクシーが訥々と話し始めた。
「時空の歪の状況によっては、レームのダンジョンの修復をするって言っていたわよ。そのうちにリリスにお呼びが掛かるんじゃないの?」
「私に何をしろって言うのよ。」
リリスの言葉に赤い衣装のピクシーはニヤッと笑った。
「だって、あんたってダンジョンの修復の実績があるでしょ?」
「それはそうなんだけど・・・・・」
リリスはそう言って言葉尻を濁した。
私は街の便利屋さんじゃないんだからね。
そんな不満を抱いたリリスであったが、この時のタミアの言葉が実現するのに、それほどの時間は掛からなかったのだった。
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ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
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異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
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