落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リゾルタへの再訪4

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強制的に転移させられた神殿の中。

床一面に張り巡らされた呪詛の影響で、リリスとチラの頭痛と悪寒が酷くなりつつある。

早くここから抜け出さなければ。

そう思っていた時、タイミング良く解析スキルが発動した。

『呪詛の解析が終了しました。解呪出来ますよ。』

ああ、良かったわ。
良いタイミングね。ありがとう。
直ぐに解呪したいんだけど、どうすれば良い?

『呪詛構築のスキルを発動させながら、自分の魔力に纏わらせれば良いですよ。呪詛の分量に応じて解呪の呪詛の分量も多いので、可視化してしまう事は了承してください。』

可視化って?

『言葉通りです。』

う~ん。
それって呪詛構築のスキルを持っているって事を、他者に知られるって事よね。
でも緊急事態だから、仕方が無いわ。

リリスはおもむろに魔力を集中させ、呪詛構築のスキルを発動させた。解析スキルによって解析された呪詛のイメージを元に、新たに解呪の為の呪詛を構築していく。
その作業を始めると、リリスの身体の周囲に幾つもの光の球が出現し、ぐるぐると回りながら光の帯を幾重にも出現させた。その光の帯に文字が点滅しているが、これは解呪の為の呪詛なのだろう。
そのリリスの様子を見てチラは言葉も無く驚いていた。

まあ、こんな姿を見たら驚くのも無理は無いわよね。私だって驚いているんだから。

そう思いながらもリリスは魔力を集中させ、両手を前に突き出し、一気にそれを放出した。
光の球から伸びていた光の帯が瞬時に前方に向かい、通路全体を覆い尽くすほどに増え広がって拡散した。
目の前が白い光で埋め尽くされ、何も見えない状態だ。
それが1分ほど続くと、何事も無かったように光は消えてしまった。

終わったの?

リリスが床を見ると、そこには呪詛は全く見えなかった。全て解呪されたようだ。

「リリス様って・・・何でも出来るんですね。」

チラが呆然としながら呟いた。

「いいえ。私は私に出来る事しか出来ないわよ。」

会話が成り立っていない。
それでもニュアンスは通じたのかも知れないが・・・・・。

チラはハッとして両手で頬をパンパンと叩き、気合を入れて闇魔法の転移を発動させた。
瞬時にリリスの視界も暗転していく。


気が付くとリリスとチラは、宮殿の前の広場に立っていた。
既に夜も遅いのだが、周囲は騒然としている。

少し離れた広場に兵士達が集結しているようだ。
チラは近くに居た兵士に情報を求めリリスの傍に戻って来た。

「王城の近くの広場に土竜が出現し、暴れまわっているそうです。べリアと数名の魔導士で闇のシールドを張り、被害を最小限に抑え込んでいると兵士が教えてくれました。」

「土竜は全長が15mほどで、数種類の属性魔法に耐性を持っているようです。」

土竜って飛べない竜ね。巨大なトカゲのようなものだけど、色々な魔法を駆使して暴れるって聞いた事があるわ。
何時までも放置していると、王城にも被害が及ぶかも知れないわね。

リリスは周囲を探知しながら土竜の気配と魔力を探り、その方向に向かって走り出した。

「あっ! 待ってください、リリス様。危険ですから近付かないで!」

チラの制止を気にも留めず、リリスはまっしぐらに走り出した。
そのリリスの目に入って来たのは、破壊され焼け焦げた王都の街並みだ。
まだあちらこちらから火の手が上がっている。

数分でリリスの目の前に高さ10mほどの黒いシールドが見えて来た。
その周りを兵士達が取り囲んでいるのだが、直径30mほどの円形のシールドの中では土竜が暴れまわっているようだ。
時折闇のシールドに内部から土竜のブレスが放たれ、ズンッと言う鈍い衝撃音と振動が伝わってくる。
時にはバリバリバリバリバリッと言う雷撃音も聞こえて来た。

闇のシールドを取り囲む兵士達の中にべリアを見つけ、リリスはその傍まで駆け寄った。
べリアは両手を斜め上に突き出し、闇魔法の魔力を放ち続けているのだが、それを何時まで継続出来るのだろうか?
額から汗を流しながらシールドを維持させているべリアの様子はかなり辛そうだ。

リリスと目が合ったべリアは驚きの声をあげた。

「リリス様! ご無事でしたか!」

リリスはべリアの言葉にうんうんと頷いた。

「チラさんが助けに来てくれたのよ。それで・・・彼女の空間魔法で土竜を隔離出来ないの?」

リリスの言葉にべリアは残念そうな表情を見せた。

「それが駄目なんです。ここに居る魔導士の中にも空間魔法の使い手は居るのですが、土竜は色々な属性魔法に耐性を持っていて、空間魔法の発動も阻害してしまうのです。」

「闇魔法のシールドはどうにか役に立つようですが、他に対策を見つけないと、そのうちにシールドを維持出来なくなってしまいます。」

う~ん。
何とかしないとねえ。

「べリアさん。土魔法は試してみた?」

「いいえ、土魔法の使い手はここには居ないので・・・。それに土魔法で対応出来るとは思えないんですけど。」

あらあら。
土魔法も極めれば武器になるのよ。

「試してみるわね。」

リリスはそう言うと、兵士達の制止を振り切り、シールドの傍に近付いた。
魔力を十分に集中させ、リリスの身体中から土魔法の波動が放たれる。
リリスは闇のシールドの中を土魔法で泥沼にした。

深さを30mに設定して泥沼を出現させるつもりだが、その為には相当の魔力を費やしてしまう。
リリスは魔力吸引をアクティブで発動させ、大地や大気から魔力を吸引しつつ、泥沼を徐々に深くさせた。
闇のシールドの中から土竜の暴れる音が聞こえてくる。

どうやら土魔法は有効のようだ。

時折暴れる土竜の身体から弾かれた泥の塊が、闇のシールドの中から上空に放たれ、周囲の石畳にベシャッと落ちて来た。

「シールドの中で何が起きているのですか?」

「底なし沼に引きずり込んでいるのよ。」

リリスの言葉が信じられないようで、べリアは土竜の生命反応を探知してみた。
それは地下10mほどの位置に存在していると分かり、べリアは再び驚いた。

「こんな事って・・・・・」

「べリアさん。驚いている余裕は無いわよ。地下30mまで泥沼にするからね。土竜はしっかり埋葬してあげるわ。」

そう言いながらリリスは、闇のシールドで取り囲んだ地面を地下30mまで泥沼にし、土竜の存在と生命反応を確認した上で、泥沼の表面の厚さ1m程を堅固に硬化させた。

探知をすると土竜の生命反応は深さ30mの位置で激しく上下している。
呼吸が出来ず苦しんでいるのだろう。
だからと言って容赦はしないのだが。

べリアの指示で、闇のシールドが一旦解除された。

だが次の瞬間、リリスは驚くべき光景を見た。

硬化された泥沼の表面が徐々に泥に戻って行く。
土竜の生命反応を探知すると、徐々にその位置が上昇しているのが分かった。

それに伴って地面がゴゴゴゴゴッと揺れ始めた。

拙い!
あの土竜は土魔法を駆使している!

土魔法で自分の下の泥を硬化させながら、上に上がってきているのだろう。

程なく泥の中から、甲冑の様な土竜の背中が見えて来た。

「シールドを再開して!」

べリアが叫び、数名の魔導士によって、再び闇のシールドが張り巡らされた。

「まさか土竜が土魔法を駆使するとは思ってもみなかったわ。」

リリスはそう言って少し考えた。

「こうなったら意地でも埋葬してあげるわ。」

リリスはそう言うと、一気に魔力吸引スキルを発動させた。
リリスの周囲から強風が舞い込む様に魔力が吸いこまれていく。周囲の兵士達もその被害に遭ったようで、少し苦しそうな表情を見せている。

「ごめんなさい。でも今度はしくじらないわよ。」

リリスは魔力を循環させ、土魔法を発動させて、再び闇のシールドの内部を泥沼にし始めた。土竜が抵抗しないように加圧を掛けながら、徐々に泥沼に沈めていく。それに合わせてリリスは火魔法を連動させた。

溶岩流に沈めてやる!

様々な加護の連動もあって、リリスの火魔法は以前にも増して高度補正が効いている。
深さ10mほどの泥沼は徐々に温度が上がり、土竜も激しく暴れ始めた。
闇のシールドの中から蒸気が吹き上がり、周囲の温度も徐々に高くなっていく。
暴れる土竜が吹き飛ばした泥がシールドの外に落ちて来たが、それは既に赤々と燃え上がっていた。
ぐつぐつぐつと煮えたぎるような音が周囲に響き、ギエエエエッと言う土竜の断末魔の叫びが響き渡る。

それでもリリスは手を緩めない。
更に魔力を放ち、溶岩の沼を造り上げていく。
ハアハアと肩で息をしながら、リリスは魔力を放ち続けた。

その様子を見ながらべリアやチラも言葉を失っていた。
闇のシールドの中は地獄の様相だ。

程なくべリアは我に戻って、闇のシールドを解除させた。
その途端に周囲が溶岩の沼で赤々と照らされた。
それと同時に強烈な熱波が周囲に広がっていく。

闇のシールドを取り囲んでいた兵士達は我先に退避し始めた。

「リリス様。もう充分ですよ。土竜は跡形もありませんから・・・・・」

無表情になってしまったチラの言葉に、リリスはそうねと答え、赤々と燃え上がる溶岩の沼を土の地面に戻し始めた。
明るさが徐々に消え、溶岩の沼は程なく普通の地面に戻っていく。
それでも地下の熱気はまだ残っているようだ。
地面がまだ熱い。
その表面を火魔法の耐性を付与させながら硬化させていくと、熱さも和らぎ、普通に上を歩けるようになった。
硬化させた表面をトントンと踏みしめ、歩くにも支障が無い事をアピールして、リリスはふうっと大きく息を吐いた。


そのリリスの傍に、呆れたような表情のチラとべリアが近付いて来た。

「とんでもないものを見せられましたね。」

「ミラ王国がリリス様を重用する理由が分かりました。」

二人の言葉にリリスは苦笑いをした。

重用ねえ。
都合良く利用されるケースの方が多いわよ。

そんな本音を口に出来ないリリスである。

べリアの指示で兵士達の撤収が始まった。
リリスもその場を離れようとしていると、上空からパタパタと小さな使い魔が降りて来た。
良く見ると紫色のガーゴイルだ。

「えっ! ユリアス様。どうしてここに?」

驚くリリスの目の前にガーゴイルは停止した。

「リリス。儂はデルフィ殿に呼ばれて、数日前から研究施設に滞在しておるのだ。」

「デルフィ殿がリリスを呼んでくれと言っておられるので、これを持ってきたのだよ。」

そう言いながら、紫色のガーゴイルは小さな魔石を取り出した。

「これはデルフィ殿の研究施設に転移する為のものだ。至急転移してくれ。」

ユリアス様ったら、また『お使い魔』になったのね。
リリスは笑いを堪えながら、ユリアスから魔石を受け取った。

急にいなくなるとベリア達やメリンダ王女達にも迷惑を掛けてしまう。
リリスは近くに居たべリアに話の詳細を伝え、その許可を得て転移の魔石を発動させた。


リリスの視界が暗転する。

気が付くとリリスはデルフィの研究施設の中に居た。
だが周囲の様子がおかしい。

内部はがらんとしていて、まるで空き家だ。

戸惑っていると奥の方からデルフィが近付いて来た。
その表情は何時に無く憔悴しているようにも見える。

「リリス、来てくれたか。突然呼び出して悪かったね。」

出迎えてくれたデルフィの表情が冴えない。
何事があったのだろうか?

「この状態はどうしたんですか?」

「うむ。しばらくこの研究施設は閉鎖する事になった。儂も国外退去を命じられておるのだ。」
 
デルフィの言葉にリリスは驚いた。

国外退去って・・・賢者様に?

そのリリスの反応を見ながらデルフィはポツリと呟いた。

「今現在、ウバイド国王が軟禁状態なのだよ。」

うっ!
何が起きているの?

リリスは予期せぬ事態を知り、不安に満ちた目でデルフィを見つめていたのだった。




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