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リリアの迷走2
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リリスがリリアと会った数日後。
学院の休日を利用して、リリスは職員室の隣にあるゲストルームを借りていた。
そこに居合わせていたのはリンである。
リリアからの熱望に圧されて、ダメもとでリンに連絡を取ると、リンも面白がって話に乗って来たのだ。
久し振りに会うリンは、何気に大人っぽくなっている様に感じられる。
「リンちゃんって少し大人びた雰囲気になったわね。見た目は変わらないのに・・・・・」
リリスの言葉にリンはお気に入りの白いワンピースの裾を気にしながら、えへへと笑ってソファに深く座った。
「人化の見た目を変えられるまでにはまだ50年ほど掛かりますからね。」
「でもそれなりに忙しいんですよ。直近ではドラゴニュートの部族間の対立や抗争の調停などにも加わっていますから。」
リンの言葉にリリスはええっ!と驚きの声をあげた。
「リンちゃんってそんな事までやっているの?」
「ええ。私が今居る竜族が管理しているので、最終決裁者は私になっちゃうんです。揉め事があると双方の言い分も聞かなければなりませんし、何かとストレスが溜まるんですよね。」
「そんなの、リンちゃんが力ずくで決めれば良いんじゃないの?」
リリスの言葉にリンはアハハと笑った。
「そう言う訳にもいかないんですよ。上から強権的に押し付けるとどこかで不満が募りますからね。その時は良くても後で争い事が大きくなっちゃいます。そう言う事例を側近の者から幾度も聞かされていまして。」
う~ん。
それはストレスが溜まるわねえ。
古代から生き残った覇竜と言う立場だから、どうしても最終的には竜族としての決裁を迫られるんでしょうね。
「リンちゃんが少し大人びたように感じた理由が分かったわ。」
リリスはそう言うと、同情を含めた目でリンの目を見つめた。
その思いを感じてリンもありがたそうに無言で頷いた。
「まあ、何時までも子供じゃ居られないって事ですよ。」
う~ん。
見た目は子供、中身は大人って事?
まるで探偵アニメのキャラクターだわね。
「それでそのドラゴニュートの部族間の対立って、縄張り争いみたいなものなの?」
「大まかに言えばそう言う事ですね。水源や耕作地の奪い合いや、交易相手の争奪など色々ですよ。」
それって簡単じゃ無いわよね。
「まあ、それだけじゃなくて、竜族同士の生息地の奪い合いなどもありますから・・・・・」
そんな事まで・・・・・。それこそ力に任せたらどちらかが滅びるまで焼き尽くしてしまうんだろうなあ。
リンの心労を思うと心が痛む。
ストレス発散の為にリトラスと連絡を取って、王都で会ったと言うリンの行動も理解出来る。
リリスは改めてリンに感謝した。
「リンちゃん。私の誘いに応じてくれてありがとう。」
リリスの言葉にリンは手を横に振った。
「良いんですよ。私もリリアと言う子の話を聞いて、面白そうだと思ったから。確かに王都でリト君と一緒に歩いていた時に、ふと目が合った女の子が居たんです。小柄で少し地味な風貌の子でしたね。でも目が合った時、何か得体の知れない気配を感じたんです。」
「例えるのが適切ではないかも知れませんが、まるでタミアさんと初めて会った時の様な気配がして・・・・・」
うん。
リリアの持つ加護を感じ取ったとすれば、それって割と近い心象かもね。
「リリアって火魔法の特殊な加護を持っているのよ。それでね・・・」
そこまで話した時、ゲストルームの扉がコンコンとノックされ、失礼しますと言いながらリリアが中に入って来た。
リリアはリンを見た途端に満面の笑みを浮かべ、ソファに走り寄って来た。
「リリア・エル・ウィンドフォースです。リリアと呼んでください。」
そう言って頭を下げたリリアにリンも少し戸惑ったようだ。
リンちゃん、気圧されちゃっているわ。
リリスはそう思いながら、リリアにソファに座るように促した。
「リンディア・フローラルドレイクです。リンと呼んでくださいね。」
「うん。それじゃあ、リンちゃんって呼ぶわ。」
リリアはそう言うとリンの横に席を替え、嬉しそうに話を始めた。
リリスは部屋の片隅に椅子を置いて、二人の様子を眺める事にした。
だがふと足元を見ると、体長5cmほどの小さな熊と目が合った。
うん?
使い魔?
そう思ったリリスの脳裏に念話が飛んできた。
『リリス様。お久し振りです。ハドルです。』
ああ、護衛のハドルさんだったのね。
『はい。今日は使い魔の形で姫様の護衛に当たっています。』
『姫様からは、僅かでも竜の気配を感じさせるなと厳命されていますので。』
まあ、お気遣いありがとうございます。
リリスはハドルに感謝の念を送りながら、リンとリリアの様子を眺めた。
和気あいあいと話し込んでいるようで、二人共笑顔が絶えない様子だ。
だが話が進むうちにリリアの身体とリンの身体が触れあうようになり、些細な事で二人の手が接触したその時、バチッと火花が立ち上がり、リリアがソファに仰け反ってしまった。
リリアは口が半開きで明らかに意識を失っている様子だ。
「リリア! どうしたの?」
傍に駆け寄ったリリスにリンは呆然とした表情を見せた。
「有り得ないわ。こんな事って・・・・・」
そう呟きながら、リンは自分の手を擦っている。
「リンちゃん。何があったの?」
「それが・・・」
リンはリリアに視線を送り、小さく呟いた。
「手が触れた途端に、魔力を吸い取られちゃったんです。」
「そんな事でリリアが意識を失っちゃったの?」
今一つ状況を飲み込めないリリスの足元に、ハドルの使い魔の子熊が駆け寄って来た。
「リリス様。これって有り得ない事なんですよ。人族が覇竜から魔力を吸い上げるなんて・・・あり得ません。」
そう。
そうなのね。
確かに逆なら大いにあるかも知れないけど・・・。
「それに覇竜の魔力は人族にとっては濃厚過ぎて毒ですよ。ましてやこんな小さな子供であれば、命に関わるかも知れません。」
うっ!
それは拙いわね。
リリスは焦りながらリリアの身体を精査した。
だが意外な事に意識を失っているだけで、生命反応は正常だ。
吸い上げた分量が少なかったのかしら?
そう思いながらリリアの身体を抱き起そうとしたその時、突然リリスの目の前でリリアが立ち上がった。
そのまま背後の壁の傍に進み、こちらに向いて立つリリア。
だがその目は開いていない。
意識は失ったままのようだが。
何事かと思っていると、リリアの頭の上に小さな赤い光球が出現した。
その光球の周りを金色の帯が幾つも取り巻き、ゆっくりと回転している。
「何が起きているんですか?」
不思議そうにリンがリリスに問い掛けたが、リリスも分からないと呟くだけだ。
そのうちに、リリアの頭上の光球から機械的な声が聞こえて来た。
「魔力同化の進捗率50%」
「体細胞の変異阻止率80%」
うっ!
これってもしかして、リリアの加護が静かに発動しているの?
怪訝そうにリリアを見つめるリリスに、リンが渋面で口を開いた。
「リリスお姉様。今聞いた体細胞の変異阻止って、もしかして竜化の事じゃないですか?」
「う~ん。そう言われれば、それが思いつくわね。」
覇竜の魔力の影響で、リリアの身体に龍の様な形状が現われようとしているのかしら?
加護がそれを食い止めようとしているようだけど、そんな事ならリンちゃんの魔力を吐き出せば良いのに。
どうしても取り込みたいの?
何が目的なの?
そう考えると、リリスの脳裏に思い浮かぶのは『火魔法のレベルアップ』だ。
覇竜の魔力を取り込んでまでして、レベルアップを図ろうとしているのだろう。
そうすると、リンと何が何でも会いたいと思わせていたのはリリアの加護の仕業か・・・。
心配してリンの足元に寄って来たハドルの使い魔の子熊を、リンは冷静な表情で制した。
「ハドルさん。しばらく様子を見るわ。性急な行動に出ないでね。」
その言葉に子熊は頷き、その場に座り込んだ。
リンとリリスが見守る中、再び機械的な音声が聞こえて来た。
「魔力同化の進捗率99%」
「体細胞の変異阻止率95%」
そろそろ終わるのかしらね?
そう思っていると、思いも掛けない音声が聞こえて来た。
「体細胞の変異阻止率95% これ以上の進捗不能」
ええっ!
それって竜化を完全に阻止出来ないって事なの?
そう思ってリリアの身体を見つめると、首の周辺に鱗のようなものが出現し始めている。
拙いわね!
どうするのよ?
ソファから立ち上がり、リリアの傍に駆け寄ろうとしたリリスだが、この時突然解析スキルが前触れもなく発動してしまった。
どうしたの?
『驚かせてすみません。手助けを依頼されたので。』
手助け?
『依頼主は業火の化身です。自力で竜化を阻止出来ないので、最適化スキルを使わせて欲しいとの要請です。』
それってどう言う事?
私がそう言うスキルを持っている事を見抜かれているの?
『そう言う事ですね。可愛い後輩が竜化したら可哀そうだろうとも言っていますが・・・』
まあ!
人の弱みに付け込むなんて!
こんなところまでタミアに似ているわねえ。
良いわよ。
引き受けてあげようじゃないの。
それでどうしたら良いの?
『魔力を循環させて最適化スキルで処理する形に成りますね。』
分かったわ。
でもこんな騒動は二度と起こさないでって伝えてよ。
『それは既に承知しているようです。緊急事態なので勘弁して欲しいと頭を下げていますから。』
何処に頭があるのよ。
私にはそんな様子は見えないわよ。
『言葉の綾ですよ。察してやって下さい。』
何であんたが奴の肩を持つのよ。
まあ、良いわ。
リリアが竜化しちゃったら、マーティンさんに合わせる顔がないものね。
リリスはリリアの傍に歩み寄って両手を握り、魔力の循環を始めた。
「お姉様、そんな事をして大丈夫ですか?」
「ああ、良いのよリンちゃん。リリアの加護から頼まれちゃったからね。」
「頼まれた?」
意味が分からず、リンは首を傾げた。
その様子を見て苦笑しながら、リリスはリリアとの魔力の循環を進めた。
それと共に自分の持つ最適化スキルが発動しているのを感じる。
流れ込んでくる魔力は確かに濃厚だ。
時折、頭がくらくらする。
これは初めて出会った頃のリンの魔力ではない。
リンの成長に連れて、魔力もそれなりに濃厚になってきているのだろう。
これってリリアにはキツイわね。
そう思いながら耐える事約10分。
濃厚な魔力は全て消え去り、循環されて来るのはリリア本来の魔力だけになった。
それと同時にリリアの首の周辺の鱗も消え去っていった。
無事に済んだようだ。
気が付くと、リリアの頭上にあった赤い光球も消えている。
最適化スキルを労ってあげたいわね。
そう思いながらリリスは握っていた手を離し、リリアの傍を離れてソファに戻った。
「リリアちゃんはもう大丈夫なんですか?」
心配そうに問い掛けるリンにリリスは笑顔で答えた。
「うん。もう大丈夫よ。竜化は阻止出来たわ。」
「そうですか。良かったぁ。」
そう言いながらリリアの様子を見ると、リリアは突然目を開き、周囲を不思議そうに見回し始めた。
「私って、どうしてここに立っているの?」
そう言ってキョトンとしているリリアの様子を見ながら、リリスとリンはぷっと吹き出してしまったのだった。
学院の休日を利用して、リリスは職員室の隣にあるゲストルームを借りていた。
そこに居合わせていたのはリンである。
リリアからの熱望に圧されて、ダメもとでリンに連絡を取ると、リンも面白がって話に乗って来たのだ。
久し振りに会うリンは、何気に大人っぽくなっている様に感じられる。
「リンちゃんって少し大人びた雰囲気になったわね。見た目は変わらないのに・・・・・」
リリスの言葉にリンはお気に入りの白いワンピースの裾を気にしながら、えへへと笑ってソファに深く座った。
「人化の見た目を変えられるまでにはまだ50年ほど掛かりますからね。」
「でもそれなりに忙しいんですよ。直近ではドラゴニュートの部族間の対立や抗争の調停などにも加わっていますから。」
リンの言葉にリリスはええっ!と驚きの声をあげた。
「リンちゃんってそんな事までやっているの?」
「ええ。私が今居る竜族が管理しているので、最終決裁者は私になっちゃうんです。揉め事があると双方の言い分も聞かなければなりませんし、何かとストレスが溜まるんですよね。」
「そんなの、リンちゃんが力ずくで決めれば良いんじゃないの?」
リリスの言葉にリンはアハハと笑った。
「そう言う訳にもいかないんですよ。上から強権的に押し付けるとどこかで不満が募りますからね。その時は良くても後で争い事が大きくなっちゃいます。そう言う事例を側近の者から幾度も聞かされていまして。」
う~ん。
それはストレスが溜まるわねえ。
古代から生き残った覇竜と言う立場だから、どうしても最終的には竜族としての決裁を迫られるんでしょうね。
「リンちゃんが少し大人びたように感じた理由が分かったわ。」
リリスはそう言うと、同情を含めた目でリンの目を見つめた。
その思いを感じてリンもありがたそうに無言で頷いた。
「まあ、何時までも子供じゃ居られないって事ですよ。」
う~ん。
見た目は子供、中身は大人って事?
まるで探偵アニメのキャラクターだわね。
「それでそのドラゴニュートの部族間の対立って、縄張り争いみたいなものなの?」
「大まかに言えばそう言う事ですね。水源や耕作地の奪い合いや、交易相手の争奪など色々ですよ。」
それって簡単じゃ無いわよね。
「まあ、それだけじゃなくて、竜族同士の生息地の奪い合いなどもありますから・・・・・」
そんな事まで・・・・・。それこそ力に任せたらどちらかが滅びるまで焼き尽くしてしまうんだろうなあ。
リンの心労を思うと心が痛む。
ストレス発散の為にリトラスと連絡を取って、王都で会ったと言うリンの行動も理解出来る。
リリスは改めてリンに感謝した。
「リンちゃん。私の誘いに応じてくれてありがとう。」
リリスの言葉にリンは手を横に振った。
「良いんですよ。私もリリアと言う子の話を聞いて、面白そうだと思ったから。確かに王都でリト君と一緒に歩いていた時に、ふと目が合った女の子が居たんです。小柄で少し地味な風貌の子でしたね。でも目が合った時、何か得体の知れない気配を感じたんです。」
「例えるのが適切ではないかも知れませんが、まるでタミアさんと初めて会った時の様な気配がして・・・・・」
うん。
リリアの持つ加護を感じ取ったとすれば、それって割と近い心象かもね。
「リリアって火魔法の特殊な加護を持っているのよ。それでね・・・」
そこまで話した時、ゲストルームの扉がコンコンとノックされ、失礼しますと言いながらリリアが中に入って来た。
リリアはリンを見た途端に満面の笑みを浮かべ、ソファに走り寄って来た。
「リリア・エル・ウィンドフォースです。リリアと呼んでください。」
そう言って頭を下げたリリアにリンも少し戸惑ったようだ。
リンちゃん、気圧されちゃっているわ。
リリスはそう思いながら、リリアにソファに座るように促した。
「リンディア・フローラルドレイクです。リンと呼んでくださいね。」
「うん。それじゃあ、リンちゃんって呼ぶわ。」
リリアはそう言うとリンの横に席を替え、嬉しそうに話を始めた。
リリスは部屋の片隅に椅子を置いて、二人の様子を眺める事にした。
だがふと足元を見ると、体長5cmほどの小さな熊と目が合った。
うん?
使い魔?
そう思ったリリスの脳裏に念話が飛んできた。
『リリス様。お久し振りです。ハドルです。』
ああ、護衛のハドルさんだったのね。
『はい。今日は使い魔の形で姫様の護衛に当たっています。』
『姫様からは、僅かでも竜の気配を感じさせるなと厳命されていますので。』
まあ、お気遣いありがとうございます。
リリスはハドルに感謝の念を送りながら、リンとリリアの様子を眺めた。
和気あいあいと話し込んでいるようで、二人共笑顔が絶えない様子だ。
だが話が進むうちにリリアの身体とリンの身体が触れあうようになり、些細な事で二人の手が接触したその時、バチッと火花が立ち上がり、リリアがソファに仰け反ってしまった。
リリアは口が半開きで明らかに意識を失っている様子だ。
「リリア! どうしたの?」
傍に駆け寄ったリリスにリンは呆然とした表情を見せた。
「有り得ないわ。こんな事って・・・・・」
そう呟きながら、リンは自分の手を擦っている。
「リンちゃん。何があったの?」
「それが・・・」
リンはリリアに視線を送り、小さく呟いた。
「手が触れた途端に、魔力を吸い取られちゃったんです。」
「そんな事でリリアが意識を失っちゃったの?」
今一つ状況を飲み込めないリリスの足元に、ハドルの使い魔の子熊が駆け寄って来た。
「リリス様。これって有り得ない事なんですよ。人族が覇竜から魔力を吸い上げるなんて・・・あり得ません。」
そう。
そうなのね。
確かに逆なら大いにあるかも知れないけど・・・。
「それに覇竜の魔力は人族にとっては濃厚過ぎて毒ですよ。ましてやこんな小さな子供であれば、命に関わるかも知れません。」
うっ!
それは拙いわね。
リリスは焦りながらリリアの身体を精査した。
だが意外な事に意識を失っているだけで、生命反応は正常だ。
吸い上げた分量が少なかったのかしら?
そう思いながらリリアの身体を抱き起そうとしたその時、突然リリスの目の前でリリアが立ち上がった。
そのまま背後の壁の傍に進み、こちらに向いて立つリリア。
だがその目は開いていない。
意識は失ったままのようだが。
何事かと思っていると、リリアの頭の上に小さな赤い光球が出現した。
その光球の周りを金色の帯が幾つも取り巻き、ゆっくりと回転している。
「何が起きているんですか?」
不思議そうにリンがリリスに問い掛けたが、リリスも分からないと呟くだけだ。
そのうちに、リリアの頭上の光球から機械的な声が聞こえて来た。
「魔力同化の進捗率50%」
「体細胞の変異阻止率80%」
うっ!
これってもしかして、リリアの加護が静かに発動しているの?
怪訝そうにリリアを見つめるリリスに、リンが渋面で口を開いた。
「リリスお姉様。今聞いた体細胞の変異阻止って、もしかして竜化の事じゃないですか?」
「う~ん。そう言われれば、それが思いつくわね。」
覇竜の魔力の影響で、リリアの身体に龍の様な形状が現われようとしているのかしら?
加護がそれを食い止めようとしているようだけど、そんな事ならリンちゃんの魔力を吐き出せば良いのに。
どうしても取り込みたいの?
何が目的なの?
そう考えると、リリスの脳裏に思い浮かぶのは『火魔法のレベルアップ』だ。
覇竜の魔力を取り込んでまでして、レベルアップを図ろうとしているのだろう。
そうすると、リンと何が何でも会いたいと思わせていたのはリリアの加護の仕業か・・・。
心配してリンの足元に寄って来たハドルの使い魔の子熊を、リンは冷静な表情で制した。
「ハドルさん。しばらく様子を見るわ。性急な行動に出ないでね。」
その言葉に子熊は頷き、その場に座り込んだ。
リンとリリスが見守る中、再び機械的な音声が聞こえて来た。
「魔力同化の進捗率99%」
「体細胞の変異阻止率95%」
そろそろ終わるのかしらね?
そう思っていると、思いも掛けない音声が聞こえて来た。
「体細胞の変異阻止率95% これ以上の進捗不能」
ええっ!
それって竜化を完全に阻止出来ないって事なの?
そう思ってリリアの身体を見つめると、首の周辺に鱗のようなものが出現し始めている。
拙いわね!
どうするのよ?
ソファから立ち上がり、リリアの傍に駆け寄ろうとしたリリスだが、この時突然解析スキルが前触れもなく発動してしまった。
どうしたの?
『驚かせてすみません。手助けを依頼されたので。』
手助け?
『依頼主は業火の化身です。自力で竜化を阻止出来ないので、最適化スキルを使わせて欲しいとの要請です。』
それってどう言う事?
私がそう言うスキルを持っている事を見抜かれているの?
『そう言う事ですね。可愛い後輩が竜化したら可哀そうだろうとも言っていますが・・・』
まあ!
人の弱みに付け込むなんて!
こんなところまでタミアに似ているわねえ。
良いわよ。
引き受けてあげようじゃないの。
それでどうしたら良いの?
『魔力を循環させて最適化スキルで処理する形に成りますね。』
分かったわ。
でもこんな騒動は二度と起こさないでって伝えてよ。
『それは既に承知しているようです。緊急事態なので勘弁して欲しいと頭を下げていますから。』
何処に頭があるのよ。
私にはそんな様子は見えないわよ。
『言葉の綾ですよ。察してやって下さい。』
何であんたが奴の肩を持つのよ。
まあ、良いわ。
リリアが竜化しちゃったら、マーティンさんに合わせる顔がないものね。
リリスはリリアの傍に歩み寄って両手を握り、魔力の循環を始めた。
「お姉様、そんな事をして大丈夫ですか?」
「ああ、良いのよリンちゃん。リリアの加護から頼まれちゃったからね。」
「頼まれた?」
意味が分からず、リンは首を傾げた。
その様子を見て苦笑しながら、リリスはリリアとの魔力の循環を進めた。
それと共に自分の持つ最適化スキルが発動しているのを感じる。
流れ込んでくる魔力は確かに濃厚だ。
時折、頭がくらくらする。
これは初めて出会った頃のリンの魔力ではない。
リンの成長に連れて、魔力もそれなりに濃厚になってきているのだろう。
これってリリアにはキツイわね。
そう思いながら耐える事約10分。
濃厚な魔力は全て消え去り、循環されて来るのはリリア本来の魔力だけになった。
それと同時にリリアの首の周辺の鱗も消え去っていった。
無事に済んだようだ。
気が付くと、リリアの頭上にあった赤い光球も消えている。
最適化スキルを労ってあげたいわね。
そう思いながらリリスは握っていた手を離し、リリアの傍を離れてソファに戻った。
「リリアちゃんはもう大丈夫なんですか?」
心配そうに問い掛けるリンにリリスは笑顔で答えた。
「うん。もう大丈夫よ。竜化は阻止出来たわ。」
「そうですか。良かったぁ。」
そう言いながらリリアの様子を見ると、リリアは突然目を開き、周囲を不思議そうに見回し始めた。
「私って、どうしてここに立っているの?」
そう言ってキョトンとしているリリアの様子を見ながら、リリスとリンはぷっと吹き出してしまったのだった。
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