落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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兄と妹のダンジョン探索3

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ギースのダンジョンの第3階層。

その後半部分を進むリリス達である。

ここからは毒蜘蛛が出て来るんだったわね。

リリスの記憶通り、森の中に続く小径を進むと、時折大きな蜘蛛が出現した。
体長は2mほどで手足を伸ばすと5mほどにもなる毒蜘蛛だ。

素早くリリアが対応してファイヤーニードルを放つ。
森の中で火魔法を使うのは顰蹙ものだが、ファイヤーニードルなら周辺を類焼させる頻度も低い。
最初は周りを燃やしてしまったが、それを回避すべくリリアはファイヤーニードルの火力を抑える工夫をした。
2度目3度目の蜘蛛との遭遇では、蜘蛛の体内で発火しても大きく燃え上がらず、ぶすぶすと煙を上げて焼き焦げていた。

上出来よ。それで良いわ。

リリスの思いを感じてリリアもニコッと笑った。

またところどころに仕掛けられた罠は、マーティンが察知してその周辺を素早く焼き払った。
その火の後始末は当然リリスの役割となる。
それは止むを得ないところだ。
ウォータースプラッシュで散水しながら、リリアとマーティンの様子を見ると、仲睦ましく会話をしている。
その様子を見てリリスも微笑ましくなった。
マーティンもリリアの成長を確かめる事が出来て嬉しそうだ。

仲睦まじい兄妹の様子を見ながら最深部に辿り着くと、下層に続く階段が前方に見えて来た。

そう言えば第4階層ってまだ行ってなかったわよね。

リリスは以前にここに来た時の事を思い浮かべた。
ダンジョンマスターのアルバに呼び止められ、足首に埋め込まれた元の世界の痕跡を作動させられ、そこから時空の歪とそれに伴う時間軸のズレに巻き込まれてしまったのだった。
だがそこでふと疑問が浮かぶ。

アルバは後に元の世界の超越者である事が判明した。
そのアルバはこのダンジョンで出会ったアルバと、本当に同一人物だったのだろうか?
最初にここで出会ったアルバは、明らかにこの世界で生まれ育った人物と言う印象だった。
ヒックスとは盟友だとも言っていたし、リリスが巻き込まれたビストリア公国での聖女召喚に関する事故の事も語っていた。

何処かで入れ替わったのかしら?

リリスは疑念を巡らせるが結局は分からないままだ。
気を取り直してリリスは階段を降りた。


ギースのダンジョンの第4階層。

そこは第3階層までとは一変して、古びた神殿の内部の様な場所だった。
通路の石畳は至る所が朽ちていて、石造りの壁も随所が崩れ、苔が石材の隙間を埋めて居る。

しかも、ムッとした空気の中に、時折腐臭も漂って来る。

これはアンデッドが出て来そうな雰囲気だ。

探索マニュアルを手にしたジークが、警戒しているリリスに向けて口を開いた。

「リリス君。この雰囲気でもう分かるよね。君の予感通り、ここはアンデッドの巣窟だ。探索マニュアルによると、レイスやグールが大量に襲って来る階層なんだよ。」

「でもこの階層では君の出番はほとんど無いだろうな。彼が居るからね。」

そう言ってジークはマーティンを指差した。
マーティンはそれを受けてうんうんと頷いた。

そうよね。
この人って高位のパラディンを目指していても、おかしくないような人なんだもの。

リリスはホッと安堵の表情を浮かべた。
リリスの持つ生活魔法程度の聖魔法では、アンデッドの駆除が上手く進まないからだ。

マーティンはマジックバッグから細身の剣を取り出した。
長さは150cmほどの銀色に輝く両刃の剣だ。
その柄には青い魔石が嵌められ、剣身全体から聖魔法の波動が放たれている。
恐らく名のある聖剣なのだろう。

マーティンはその剣を握り締め、聖魔法の魔力をグッと流し込んだ。
それに応じて魔石が光り、剣身全体が青白い光を放ち始めた。

聖剣を構えたまま、マーティンは先頭に立ち、速足で石畳の通路を歩き始めた。
そのマーティンの纏う聖魔法の魔力に反応して、通路の奥からギエエエエエッと言う金切り声が聞こえて来た。
アンデッド達が警戒しているのだろう。

通路の奥には広いホールがあった。
その中にマーティンが進むと、その前方から大量のレイスが金切り声を上げながら襲い掛かって来た。
辺り一面に邪悪な精神波が渦巻いている。
だがリリアは平然としているので、精神攻撃に対する耐性を持っているようだ。

マーティンは素早く走り回り、聖剣を振り回した。
その剣の放つ聖魔法の波動で、レイスがことごとく消滅していく。
まるで紙を切り裂くような光景だ。
ギエエエエエッと言う悲鳴がホール全体に反響し、およそ30体ほどのレイスが全て駆逐された。

それと入れ替わるようにホールの奥から腐臭が漂ってきた。
ゆっくりと近付いてくるのはグールの群れだ。
一応人の形はしているが全体が腐っているような見た目で、とても正視出来るようなものではない。しかも精神波による攻撃も激しく、纏っている腐臭も強烈だ。

顔をしかめながらもマーティンは聖剣を上段に構え、グールの群れに突入していった。
聖剣を振り回すと、グールの身体が引き裂かれ、うううううっと呻きながら床にドロドロになって崩れていく。
20体ほどのグールの群れが全て崩れてしまったところで、マーティンは聖剣を床に突き刺し、魔力を大きく聖剣に流した。
聖剣から放たれるのは浄化の波動だ。

ドロドロになったグールの身体は浄化され、全てがその場から消えてしまった。

ふうっと大きく息をするマーティン。
それなりに魔力を消耗したのだろう。
その背後からジークがパチパチと拍手をして近付いて来た。

「お見事。流石はマーティン君だね。アンデッド退治は君の特技だな。」

ジークの称賛にいえいえと謙遜しながらマーティンは、聖剣をマジックバッグに収納した。

えっ?
これでこの階層はもう終わりなの?

唖然とするリリスだが、出現したのは30体のレイスと20体のグール。
それだけで十分なほどの魔物の数だ。
それなのにリリスに違和感を与えたのは、何処までもマーティンの技量と手際の良さ故である。

「兄上。お疲れさまでした。」

そう言って笑顔で兄の労をねぎらうリリアの姿が微笑ましい。
その二人の様子を見ながら視線をホールの奥に向けると、リリスの目に下層への階段が映り込んできた。

第5階層ってどんなところだろうか?

リリスの思いを感じ取って、ジークが再び探索マニュアルを取り出した。

「次の階層は・・・・・砂漠だね。お決まりのサソリ達が登場するそうだ。」

う~ん。
そう言うパターンなのね。
定番と言えば定番だけど・・・・・。

気持ちを引き締めて、リリスは先頭に立ち階段を降りた。

ギースのダンジョンの第5階層。

そこは確かに砂漠だった。
蒸し暑い空気が満ち、上空からは灼熱の日差しが肌に届く。
時折吹く風が砂漠の砂を巻き上げている。

その砂漠の中にうっすらと見える赤土の小径がある。
これが順路のようだ。

ところがその小径を歩き始めた途端に、周囲の雰囲気が一変してしまった。
薄い紫のベールが掛けられたような大気に包まれ、直前まで肌に突き刺していた熱気も感じられない。
どうしたのかと思って周りを見ると、リリアもマーティンもジークもその場に立ち尽くしていた。
その視点が定まらず、ボーッとしていて意識も朦朧としている様子だ。

戸惑うリリスの目の前に黒い人影が現われ、徐々にその姿が鮮明になっていく。

そこに現れたのは魔族だった。赤く目が光り不気味なオーラを纏っている。
だがその容姿にリリスは見覚えがあった。

ヒックスだ。

「リリス。久し振りだな。数年間会っていなかったような気がするのだが・・・・・」

ヒックスの言葉に頷きながらも、リリスはふと疑問を持った。
ヒックスがここに現われると言う事は、このダンジョンのダンジョンマスターであると思われる。
だがヒックスは元々、オルトのダンジョンのダンジョンマスターだ。
以前にヒックスから聞いた話では、こちらのダンジョンのダンジョンマスターは、誰かに任せると言っていた。
それがアルバではなかったのか?

「ヒックス様。どうしてここに? オルトのダンジョンはどうされたのですか?」

リリスの問い掛けにヒックスはうんうんと頷いた。

「オルトのダンジョンは魔法学院の訓練用のダンジョンとして用いられていたので、これ以上手を加える事を差し控えたのだ。むしろこのギースのダンジョンを成長させる方が、儂としても面白いのでな。」

「でも、ここのダンジョンのダンジョンマスターってアルバ様でしたよね。ヒックス様の盟友だと聞きましたが・・・」

リリスの言葉にヒックスは首を傾げた。

「アルバ? そいつは誰だ? 儂の盟友にアルバと言う名の者はおらんぞ。」

えっ?
これってどう言う事なの?

疑問に満ちたリリスにヒックスは説明を求めた。
リリスはこのダンジョンでアルバから聞いた話をそのままヒックスに伝えた。
更にその後のアルバとの関りの中で、元の世界の痕跡をリリスの足首に見つけ、アルバがそれを誤って作動させた事から時空の歪に巻き込まれた事も話したので、ヒックスは随所でほうっ!と驚嘆の声をあげていた。

「そのアルバと言う奴がお前の前に現われた時期は、儂がまだこのダンジョンに本腰を入れて手を付ける前の事だ。儂の居ぬ間にダンジョンマスターを装って、お前に近付いたのだろう。」

「奴がお前に話していた話はおそらく、お前を油断させるためだったと思われる。奴の目的はあくまでも、お前の足首に残っていると言う元の世界の痕跡を作動させる事だったのではないか?」

う~ん。
そう言われれば、そうなのかも知れないわね。

「それで奴はお前の前に時折現れるのか?」

ヒックスの言葉にリリスはうんうんと頷いた。

「前回は使い魔の形で現われましたよ。タキシードを着たコオロギだったですけどね。」

ヒックスはリリスの言葉を聞き、ふんっと鼻で笑った。

「どこまでもふざけた奴だ。今度奴に会ったら、奴の真意を聞いてみるが良い。まあ、正直に事実を話すとは思えんが・・・」

「そうですね。そうしてみます。それで・・・・・」

リリスはそこまで話して一息入れた。

「私達をどうするつもりですか?」

怪訝そうに問い掛けるリリスにヒックスはふふふと笑った。

「ああ、そうだった。実はあの子に関心があってね。」

ヒックスはそう言うとリリアを指差した。

「あの子はかなり特殊な加護を持っている様に感じるのだ。加護と言うよりも禁忌と言っても良い。それを確かめたいのだよ。」

うっ!
嫌なところに気が付いたわね。
禁忌と言われるとそれに近いような気もするんだけど・・・・。

「確かめるって・・・・・どうするんですか?」

リリスの問い掛けにヒックスは平然と答えた。

「試しにサラマンダーを出現させてみようと思うのだ。」

サラマンダーと聞いただけで、リリスはうっと呻いて顔をしかめた。
そのリリスの様子を見ながら、ヒックスは手を横に振った。

「ああ、心配するな。サラマンダーと言っても低レベルで見掛け倒しの1体だ。時折放つブレスも普通の人族のファイヤーボール並みだから、駆逐するのにもそれほどの手間は掛からないよ。」

「でも見掛け倒しって事は・・・・・大きいんでしょうね。」

「うむ。全長は20mほどだ。」

ううっ!
そんなものを見せられたら、リリアが異常な反応を起こしかねないわ。

思わずやめてくださいと叫ぶリリスの声が届く前に、ヒックスはフッと姿を消し、リリスの周辺の様子も元に戻ってしまった。
リリア達も普通に会話し歩いている。
リリスもその会話に交じり、笑顔を見せながらも、内心では言い知れぬ不安に満ちていた。

もやもやしながらもしばらく歩くと、砂漠の向こう側からサソリらしき反応が探知された。
徐々に近づいてくるのは10体ほどのサソリの群れだ。

「うんうん。砂漠と言えばサソリだよねえ。」

ジークの言葉のテンションが上がっている。
それに嫌気がさしながらもリリスは前方の黒い塊りを見つめた。

10体のサソリが一丸となってこちらに向かって来る。

先ずはこれを始末しよう。

後々の事を考えると頭が痛くなってくる。

リリスはとりあえず目前の敵に集中し、迎撃態勢に入ったのだった。




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