落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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久し振りのダンジョンチャレンジ 後日談

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久し振りのダンジョンチャレンジから戻ってきて数日後。

リリスは放課後に生徒会の部屋でエリスやニーナ達と作業をしていた。
今取り掛かっているのは、生徒向けに隔月で配布しているプリントの校正作業である。

この作業に新入生のウィンディも当然参加しているのだが、時折リリアが加わるようになった。
リリアは上級貴族の子女なので、基本的には生徒会の活動にはノータッチである。
だがウィンディと仲良く生徒会の部屋に入ってくる事も徐々に多くなってきた。

「ウィンディは面倒見の良い友達だから・・・」

そう言うリリアにウィンディは冗談で、

「私は地方貴族の子女なのでリリアの下僕ですよ。」

と言って、ケラケラと笑っていた。

上級貴族の子女なので、何とか関係を作ろうとして取り入ってくる同級生も居そうなものだが、リリアはそうではないらしい。

「私って上級貴族の子女と言っても落ちこぼれなので、誰も取り入って来ませんよ。」

そんな風に自虐的な言葉を放つリリアだが、ウィンディの話によるとクラスの編成にも特徴があるらしい。

「今年の新入生の中で、上級貴族の子女はリリアの他に男子が2名で、どちらも将来を嘱望されている剣技の持ち主なんです。それでその子達の取り巻きもそれぞれ2名づつ居るんですよ。」

「一方、女子はリリアの他は地方貴族の子女ばかりで、上級貴族と関係を持ちたがる王都周辺の貴族の子女は居ないんです。それでリリアに取り入ろうとするような女子も居なくて・・・・・」

まあ、それに加えてリリア本人の、陰キャで自虐的な性格もあるのだろう。
クラス委員として面倒を見てくれるウィンディと、自然に友人になったと言う事である。

「周りからは、私がリリアの下僕になったと言われています。」

そう言いながらケラケラ笑うウィンディを見て、リリアは失笑するだけだった。

それでもリリアは魔法の訓練には精を出しているらしい。
勿論、タミアの仮の姿である火の女神との邂逅がその切っ掛けである。

この日もウィンディに促されたリリアは、リリスに火魔法の上達ぶりを見て欲しいと言い出した。
当然生徒会の部屋では出来ないので、学舎の地下の訓練場に足を運ぶ事となる。

職員室の担当の教師に許可を貰って、リリスはウィンディとリリアと共に訓練場を訪れた。
更に、面白そうだと言いながら、エリスとニーナもリリスについて来た。

広い訓練場の片隅に木製の標的が10体ほど、等間隔で並んでいる。
この標的は勿論取り換えが出来、下部の金属製の台座の上に、人の形の木製の標的が立てられているだけの簡素な構造だ。

「ファイヤーニードルの数を増やせるようになったんです。」

そう言ってリリアは両手を開いて前に出し、魔力をグッと集中させた。
その表情が真剣だ。
瞬時に両方の手のひらの上に、5本ずつファイヤーニードルが縦に並んで出現した。

あらっ!
ニードルの出現スピードが速くなったわね。

そう思った矢先、5本の火の針はぐるっと円を描き、密集して手のひらの上でゆっくりと回転し始めた。
それはまるで発射準備を完了したガトリング銃の様な動きだ。

カッコイイわね!

そう思ったのはリリスだけでは無さそうで、エリスとニーナもその様子に見入っている。

リリアは気合を入れて、10本のファイヤーニードルを標的に向けて放った。
火の針はキーンと音を立てて素早く滑空し、5体の標的に2本ずつ命中した。
ボンボンボンと着弾音が続き、標的の内部から炎が噴き出していく。
5体の標的はあっという間に黒焦げになった。

飛行速度も火力も上がって来た様だ。

「良いわね。これならブラックウルフにでもダメージを与える事が出来るわよ。」

リリスの言葉にリリアは嬉しそうに頷いた。

「それで・・・・・ファイヤーアローなんですけど。」

リリアはそう言うと、両手のひらの上に細い火の矢を3本ずつ出現させた。
それらはニードルと同じように密集してぐるぐると回転している。
長さが15cm、軸部分の直径は1cmほどだ。
一応尾部は矢羽根の形に成っている。

「あらっ! 良いわね。様になっているわよ。」

「形はなんとか出来るようになりました。」

リリアは謙遜しているが、その形状で出現させるにはそれなりの努力をしたのだろう。
標的を新しいものに付け替え、リリアはファイヤーアローを標的に向けて放った。

キーンと金切り音を立てて、火の矢が標的に向かい、1体に2本ずつ弾着した。
ゴウッと衝撃音と爆炎が上がり、3体の木製の標的は見事に焼き尽くされた。

うんうん。
これなら上出来よ。

リリスの思いを代弁するように、エリスが口を開いた。

「良いわね。これなら少し大きめの魔物でも駆逐出来るわよ。」

「後は魔力量の問題よね。ある程度継続的に放てるように成れば良いんだけど・・・」

エリスの言葉にニーナが加わって来た。

「現時点でそこまで要求するのも酷じゃないのかなあ。数人でパーティーを組んで、お互いにカバーし合えるなら、その方が効率的だと思うよ。」

ニーナの言葉にリリアはうんうんと頷いた。
その間に、リリスはリリアを鑑定してみた。


**************

リリア・エル・ウィンドフォース

種族:人族 レベル14

年齢:13

体力:500
魔力:1000

属性:風・火

魔法:ファイヤーニードル   レベル3++(高度補正有)

   ファイヤーアロー    レベル2++(高度補正有)

   エアカッター      レベル1

   ファイヤーボール    レベル1

スキル:探知    レベル2

    毒耐性   レベル2

    投擲スキル レベル2

    火魔法操作 レベル2

    魔力吸引  レベル1(機能制限有)

    
(秘匿領域:解析済み)


(業火の化身:機能限定)
  

**************


うんうん。
リリアもそれなりに強化されているわね。
この火魔法操作って言うスキルが有能な気がするわ。

でも魔力吸引の機能制限って何だろうか?
アクティブでもパッシブでもないとすれば、考えられるのは加護がコントロールするのかも・・・・・。

その加護もまだ全てが解放されたわけじゃないのね。
年齢や鍛錬の度合いによって解放されて来るんだろうな。

そんな事を考えながら、リリスはリリア達としばらく談笑していた。





その日の夕方。

学生寮の自室に戻ったリリスは亜神の使い魔達の出迎えを受けた。

赤とブルーの衣装のピクシーとノーム、そしてブルーの身体に白いストライプの入った小鳥である。

「今日はどうしたの?」

そう問い掛けたリリスに、ブルーの衣装のピクシーが即座に答えた。

「まあ、特にこれと言った用件は無いんだけどね。」

用事も無いのに出て来ないでよ。

そう言いたげなリリスだが、何も言わずに使い魔達の傍のソファにドカッと座った。
そのリリスに小鳥が近付き、リリスの目を見て口を開いた。

「さっきまで、ウィンディとリリアの事で色々と盛り上がっていたのよ。」

「ああ、新入生の二人の事ね。レイチェルとタミアにとっては話のネタになるわよね。」

「話のネタってレベルじゃないんだけど・・・・・」

そう言って口ごもる小鳥に代わって、赤い衣装のピクシーが口を開いた。

「リリス。今回の件は極めて稀な事なのよ。わたしやレイチェルが見過ごす事の出来ないほどの特殊な加護の持ち主が、同じ時代に二人、しかも身近な場所に現われたんだからね。」

「うん? そんなに稀な事なの?」

話の内容が掴めていないリリスに、ブルーの衣装のピクシーが横から近付き、リリスの頬をツンツンと突いた。

「そもそもあんたが全ての原因、否、遠因なのよ。」

原因と言われても、リリスには何の事だか分からない。
増々困惑するリリスにノームが説明を始めた。

「僕から説明しよう。君の下級生のウィンディに、微かながら亜神のかけらのウィンディの気配が感じられる。これは因果関係がある事の証拠やと思うんや。」

「亜神のかけらのウィンディが、意識レベルで異世界の世界樹に吸収されてしまった。その余波で生じた時空の歪がこちらの世界にも影響を及ぼしたと考えられる。」

「つまりウィンディの消失を補うような動きが時空の歪を伴って、こちらの世界で稀有な加護の発生を促したように思うんや。」

ノームはしたり顔で話すのだが、リリスには納得がいかない。

「でも新入生のウィンディやリリアは13歳よ。最近の話じゃないんだけど、どうしてそこに因果関係があるのよ?」

リリスの疑問に今度はブルーの衣装のピクシーが口を開いた。

「そもそも時空の歪って時間軸のどの位置で生じるか、分からないし予測も出来ないのよね。召喚だってそうでしょ? 異世界からこちらに召喚されてきた人が、それぞれ別の時代に現れる事も多いわよね。それに世界樹のある世界の今が、こちらの世界の数千年前かも知れない。」

「もっと言えば二つの世界での時間の進み方そのものも、同じだとは限らないわ。」

そう言われれば、そうなのかも知れないけど・・・・・。

「13年なんてほとんど同時だと考えても良いかも知れないわよ。」

そう言いながら、ブルーの衣装のピクシーはリリスの傍から離れた。

「でも私が原因と言われてもねえ。」

リリスの疑問に再びノームが口を開いた。

「リリス。世界樹のある世界と、意識レベルでルートを開いたのは君やろ? それが亜神のかけらのウィンディの意識の消失に繋がった。直接的には原因ではないとしても、遠因である事は間違いないと思うで。」

「でもそれとリリア達の加護と本当に関係があるの?」

「まあそれは可能性の話やね。それでも正解である可能性は高いと思う。」

「う~ん。そうなのかなあ? でも彼女達の持っている加護ってそんなに稀有な加護なの?」

リリスの疑問は尽きない。
その表情を見ながら赤い衣装のピクシーが口を開いた。

「稀有な加護である事は間違いないわ。だって、『業火の化身』なんて、爆炎のマリアと呼ばれたリリスの母親でも持っていないわよ。」

「ねえ、タミア。その火魔法の加護と亜神のかけらのウィンディと何の関係があるの?」

問われた赤い衣装のピクシーは、ブルーの小鳥をちらっと見た。

「まあ、風の亜神と火の亜神は関係性が深いからね。何かと影響し合うのよ。」

赤い衣装のピクシーの言葉に小鳥もうんうんと頷いた。

「そうなのよね。風を送らないと火も起こらないでしょ? そう言う関係なのよ。」

う~ん。
それってこじつけじゃないの?

考え込むリリスにノームが再び近付いた。

「まあ、結局何が言いたいのかと言うと、君が新入生の二人の成長を見守ってくれって言う事なんや。」

「そんな事は分かっているわよ。でもね、チャーリー。見守るにしても限度があるわよ。」

「そこは出来る限りって事で良いよ。僕らもフォローするからね。」

ノームの背後から小鳥が言葉を続けた。

「チャーリーはフォローするって言ったけど、私達が直接関与する事は極力避けたいのよ。加護が異常反応を起こす事だってあり得るからね。」

「それって闇落ちや暴走って事?」

「そう。その可能性も無いとは言えない。」

小鳥がそう話した後、しばらく沈黙の時間が流れた。
その沈黙を破ったのは、気持ちを切り替えたリリスだった。

「分かったわ。出来る限りあの二人を見守っているわよ。まあ、可愛い後輩達だから、元からそのつもりなんだけどね。」

そう答えたリリスに赤い衣装のピクシーが話し掛けた。

「あのリリアって子にはあんたも親近感があるんじゃないの? あんたに似て、出来損ないから成り上がっていくタイプだと思うわよ。」

まあ、確かに私も出来損ないって言われていたからね。

リリスは魔法学院に入学する前の自分自身を思い浮かべた。
確かにリリアと重なってくる部分もある。

でも私はリリアのように卑屈にはならなかったわよ。
まあ、それは地方貴族の子女と上級貴族の子女の立場の差もあるんだろうけど・・・・・。

話が落ち着いたところで、亜神の使い魔達は順次消えていった。

リリスは明日また顔を合わせるであろうウィンディとリリアの事を思いながら、明日の授業の準備を始めたのだった。






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