213 / 314
思わぬ騒動1
しおりを挟む
亜神の使い魔達が去った後。
部屋に残った不審な気配をリリスは警戒していた。
「そこに居るんでしょ? どうして隠れているのよ。」
そう叫んだリリスの視線の先に、ふっと霧が生じて1体の小さな青い蝶が現われた。
その気配は間違いなくウィンディだ。
「どうしてわかるのよ。僅かな風の流れに偽装していたのに・・・」
「私の目は隠せないわよ! それに他の亜神達の喧騒の中でじっと静かにしていたから、余計に違和感を感じていたのよね。」
リリスはそう言って一呼吸間を置いた。
「それでまだ何か用事があるの?」
「バレてちゃあ仕方が無いわね。」
そう言いながら青い蝶がリリスに擦り寄って来た。
「実は私、世界樹に興味があって、私も意識のレベルで接触出来ないかと思ったのよ。」
「冗談じゃないわよ。異世界でまで暴れるつもりなの?」
「そんな事が出来るわけ無いわよ、意識だけがお邪魔するんだから。」
ウィンディの言葉にリリスはう~んと唸った。
どうしたものか・・・。
躊躇っているリリスに青い蝶は更に擦り寄り、その二の腕の黒点をその触覚で軽く突いた。
それと同時にウィンディの魔力がさっと流れ込み、一瞬にしてリリスの意識もそこに吸い込まれていく。
ちょっと待ってよ!
そう叫ぶ間も無く、リリスの意識とウィンディの意識は異世界の青い空を飛んでいた。
ウィンディの姿は使い魔ではなく、例のゴスロリの衣装だ。
「勝手な事をしないでよ!」
「まあそう怒らないでよ、リリス。それで世界樹ってあそこに見える巨大な樹木なの?」
ウィンディの視線の先に世界樹が見えている。
リリスがそうだと伝えると、ウィンディは嬉しそうな表情でその方向に急速度で飛び立っていった。
何を急いでいるのよ。
そんなに興味があったのかしら?
少し微笑ましい気持ちになってリリスもその方向に移動した。
抜けるような青い空を飛んでいるだけで気持ちが癒される。
更に世界樹からの癒しの波動が心地良い。
しばらく空を飛んで、リリスは世界樹の傍に辿り着いた。
世界樹から歓迎の波動が伝わってくる。
その波動に応えながらリリスはウィンディの姿を探した。
だがウィンディの姿が何処にも見当たらない。
入念に探知を掛け、巨大な樹木の枝葉の間をこまめに探すと、生い茂った葉をハンモックのようにして眠っているウィンディの姿を枝葉の奥の方に見つけた。
そんなに居心地が良いの?
そう思っているとウィンディの姿が次第に薄れ、そのまま消えていった。
あら!
ウィンディったら寝落ちして、意識が元の世界に戻ったのかしら?
その様子に微笑ましい思いを抱きながら、リリスはしばらく世界樹の傍で飛び回っていたのだった。
その翌日。
リリスは何時ものように放課後、生徒会の部屋に足を運んだ。
そこには珍しく生徒会長のロナルドと書記のルイーズがテーブルについていた。
まあ、珍しいわね。
この二人が同席しているなんて。
そう思いながらリリスはアンソニーに会釈をし、エリスの横の席に座った。
生徒会のメンバーが揃ったところで、ロナルドが話を切り出した。
「今日、集まって貰ったのは来年度の生徒会の事だ。」
「まもなく年度が替わり、僕は卒業する事になる。それで来年度の生徒会の役員の事なんだが・・・・・」
ロナルドは含みを持たせるように、一呼吸間を置いた。
「来年度の生徒会の会長はルイーズ、副会長はリリス、そして書記をエリスにやって貰おうと思う。まあ、順当な役職だと思うんだが、それで構わないかな?」
ロナルドの話に全員がうんうんと頷いた。
「採決など採る必要も無さそうだな。それじゃあ、その体制で新年度の生徒会をお願いするよ。」
そう言うとロナルドは席を立ち、意気揚々と部屋を出て行った。
後に残ったルイーズが改めてその場に立ち、挨拶を始めた。
「そう言う事で、来年度は私が生徒会の会長となります。リリスとエリスも新しい役職で私を支えてね。」
「「勿論ですよ。」」
声を合わせて答えたリリスとエリスである。
だがリリスは副会長の職は継続なので、それほどに新味を感じていないのも事実だ。
「それで、来年度の新入生に向けての生徒会のパンフレットは完成したの?」
ルイーズの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「もう出来上がっていますよ。」
あんたがここに顔を出さないうちに出来たわよ。
そう言いたかったリリスだが、ロナルドとの確執があって形だけの生徒会の役員であったルイーズにそれを言ってもきりがない。
大人の対応で気持ちを切り替えたリリスである。
「ヘルプに入ってくれた先輩や同級生も居ましたから、意外に早く出来たんですよね。」
そう言って笑うエリスの脳裏にはニーナやリンディの顔が浮かんでいた。
まあ、結果オーライってところね。
そう思ったリリスの思いはエリスにもアンソニーにも伝わっているようだった。
まあ、ルイーズなら会長職も無難にこなすだろう。
ロナルドのように無茶な行事の提案などもしないだろう。
そう考えると来年度も希望が持てる。
リリスはささやかな高揚感を持ちつつ、ルイーズ達と談笑していた。
だがその高揚感も夜までは続かなかった。
学生寮に戻り、自室のドアの前に立ったリリスは、部屋の中に異様な気配を感じた。
偽装はしているが、膨大な魔力の塊を感じる。
だがそれは亜神達のそれではない。
そうするとこれは何だろうか?
危険なものではないと思うのだが・・・。
恐る恐るリリスはドアを開いた。
「お帰り。」
部屋の中からそう声を掛けて来たのは、ソファに座る小さな龍だった。
ドラゴンではない。
あくまでも東洋的な龍である。
えっ!
まさか・・・・・。
「勝手にお邪魔して悪かったね。」
それは超越者のロキだった。
それにしてもこの使い魔のフォルムは何処で手に入れたのかしら?
どう見ても元の世界にあったイメージだわ。
リリスはカバンを机の上に置いて、ソファの対面に静かに座った。
「どうしたんですか? こんなところに来るなんて。」
リリスの言葉に龍はその顔をグイッとリリスの方に向けた。
「まあ、余程の事でもないと、儂も人の前には現われないのだがな。」
「・・・・・と言うと、余程の事があったって事ですか?」
リリスの問い掛けに龍はうんうんと頷いた。
「そうなのだよ。実はウィンディが消えてしまったのだ。それで亜神達も大騒ぎをしているところだよ。」
「ええっ!」
リリスは驚きのあまり、その場で立ち上がった。
その驚き様に龍も苦笑した。
「まあ、座りなさい。消えたと言っても使い魔の状態で消えたので、身体はある場所に残っている。だが意識が消えてしまっているのだ。」
「それでお前が何か知らないかと思ってここに来たのだよ。」
ううっ!
そんな事ってあるの?
リリスは前日のウィンディとのやり取りを、ロキに簡略に説明した。
それを聞き、ソファの上で龍が大きくため息をついた。
「そうだったのか。意識レベルで世界樹の元に行ったのか。そうすると取り込まれてしまった可能性が高いな。」
「取り込むって・・・世界樹にですか?」
リリスの問い掛けに龍が再度頷いた。
「そうだ。この世界には世界樹が無いので儂もそれほどに詳しくはないが、世界樹のその存在価値から考えると、あらゆるものを包摂する特性がある筈だ。養分として吸収し、周囲のあらゆる存在に再配分していくのだろう。」
「目に見えるものだけでなく、目に見えないものまでもな。」
リリスの脳裏にあの時のウィンディの姿が浮かび上がった。
気持ち良さそうに眠っていたとばかり思っていたのだ。
そのまま消えていったのは、寝落ちして本体に意識が戻ったのだとばかり思っていたのに・・・・・。
「でも意識まで吸収しちゃうんですか?」
「うむ。そもそも亜神とは意識を持つ膨大な魔力の塊だ。その意識も魔力によって形造られているのだよ。普通に考えればそれを取り込まれるなんて有り得ないのだが、相手が異世界の未知の存在となると、こちらの常識も通用しなくなる。」
「そうすると、ウィンディは・・・・・消滅したって事ですか?」
おずおずと問い掛けたリリスの言葉に、龍はハハハと笑った。
「消滅はしないだろう。それにウィンディは風の亜神の本体のかけらだ。本体降臨の為の七つのキーの一つに過ぎない。だがそれでもいなくなるとタイムスケジュールが大幅に狂ってしまう。それでお前に回収して欲しいのだよ。」
「回収ってウィンディの意識を・・・・ですか?」
「そうだ。だが全てでなくても良い。既にある程度は回収不能だろうからな。だが意識の核になる部分が吸収されずに残されている筈だ。それをさえ回収出来れば復活の余地はある。」
ロキの言葉にリリスはう~んと唸った。
そんな事が出来るのだろうか?
世界樹の元に何の支障もなく行けるのは自分だけだとしても・・・。
「そう言えばどうして私の意識は向こうの世界でも無事なんですか?」
「それはお前が世界樹にとって特別な存在だからだろう。あの世界樹はお前が目覚めさせ、お前が育てたようなものではないか。」
まあ、それは成り行きでそうなっちゃったんだけどねえ。
「でもどうやって回収するんですか?」
「それは意識レベルで世界樹と交渉するしかないだろうな。お前の言う事なら聞いてくれるのではないか?」
まあ!
随分人任せだわね!
リリスの思いを読み取って、龍は軽く頭を下げた。
「世界樹の取り扱いに関して、現状ではお前に頼むしかないのだよ。」
「儂や亜神などが意識レベルで向こうの世界に行ったとしても、どんな現象が起きるのか想像も出来んのだ。」
まあそうねえ。
今のところ、私の意識の訪問には、世界樹も歓迎してくれているからね。
「分かりました。とりあえず世界樹を訪ねてみましょう。」
「そうか。よろしく頼むぞ。」
龍はそう言うとその場から消えていった。
用件が済んだので帰ってしまったようだ。
その一方的な態度に呆れてしまう。
仕方が無いわねえ。
ウィンディったら余計な事をするんだから!
若干苛立つ気持ちを整理しながら、リリスはソファの上で二の腕の三つの小さな黒点に触れ、そこに軽く魔力を流した。
その途端にスッと意識が消え、目の前が暗転していく。
気が付くとリリスは青空に浮かんでいた。
勿論リリスの意識だけである。
抜けるような青空を飛び、遠くに見える世界樹を目指して移動する事5分。
5分と言っても体感なので、実際にはどれほどの時間を要しているのか分からない。
世界樹からは相変わらず歓迎の波動が伝わってくる。
それはそれでありがたいのだが、ウィンディの意識の核を探さなければならない。
本当に残っていれば良いのだけど・・・・・。
リリスは意を決して世界樹に向き合うのだった。
部屋に残った不審な気配をリリスは警戒していた。
「そこに居るんでしょ? どうして隠れているのよ。」
そう叫んだリリスの視線の先に、ふっと霧が生じて1体の小さな青い蝶が現われた。
その気配は間違いなくウィンディだ。
「どうしてわかるのよ。僅かな風の流れに偽装していたのに・・・」
「私の目は隠せないわよ! それに他の亜神達の喧騒の中でじっと静かにしていたから、余計に違和感を感じていたのよね。」
リリスはそう言って一呼吸間を置いた。
「それでまだ何か用事があるの?」
「バレてちゃあ仕方が無いわね。」
そう言いながら青い蝶がリリスに擦り寄って来た。
「実は私、世界樹に興味があって、私も意識のレベルで接触出来ないかと思ったのよ。」
「冗談じゃないわよ。異世界でまで暴れるつもりなの?」
「そんな事が出来るわけ無いわよ、意識だけがお邪魔するんだから。」
ウィンディの言葉にリリスはう~んと唸った。
どうしたものか・・・。
躊躇っているリリスに青い蝶は更に擦り寄り、その二の腕の黒点をその触覚で軽く突いた。
それと同時にウィンディの魔力がさっと流れ込み、一瞬にしてリリスの意識もそこに吸い込まれていく。
ちょっと待ってよ!
そう叫ぶ間も無く、リリスの意識とウィンディの意識は異世界の青い空を飛んでいた。
ウィンディの姿は使い魔ではなく、例のゴスロリの衣装だ。
「勝手な事をしないでよ!」
「まあそう怒らないでよ、リリス。それで世界樹ってあそこに見える巨大な樹木なの?」
ウィンディの視線の先に世界樹が見えている。
リリスがそうだと伝えると、ウィンディは嬉しそうな表情でその方向に急速度で飛び立っていった。
何を急いでいるのよ。
そんなに興味があったのかしら?
少し微笑ましい気持ちになってリリスもその方向に移動した。
抜けるような青い空を飛んでいるだけで気持ちが癒される。
更に世界樹からの癒しの波動が心地良い。
しばらく空を飛んで、リリスは世界樹の傍に辿り着いた。
世界樹から歓迎の波動が伝わってくる。
その波動に応えながらリリスはウィンディの姿を探した。
だがウィンディの姿が何処にも見当たらない。
入念に探知を掛け、巨大な樹木の枝葉の間をこまめに探すと、生い茂った葉をハンモックのようにして眠っているウィンディの姿を枝葉の奥の方に見つけた。
そんなに居心地が良いの?
そう思っているとウィンディの姿が次第に薄れ、そのまま消えていった。
あら!
ウィンディったら寝落ちして、意識が元の世界に戻ったのかしら?
その様子に微笑ましい思いを抱きながら、リリスはしばらく世界樹の傍で飛び回っていたのだった。
その翌日。
リリスは何時ものように放課後、生徒会の部屋に足を運んだ。
そこには珍しく生徒会長のロナルドと書記のルイーズがテーブルについていた。
まあ、珍しいわね。
この二人が同席しているなんて。
そう思いながらリリスはアンソニーに会釈をし、エリスの横の席に座った。
生徒会のメンバーが揃ったところで、ロナルドが話を切り出した。
「今日、集まって貰ったのは来年度の生徒会の事だ。」
「まもなく年度が替わり、僕は卒業する事になる。それで来年度の生徒会の役員の事なんだが・・・・・」
ロナルドは含みを持たせるように、一呼吸間を置いた。
「来年度の生徒会の会長はルイーズ、副会長はリリス、そして書記をエリスにやって貰おうと思う。まあ、順当な役職だと思うんだが、それで構わないかな?」
ロナルドの話に全員がうんうんと頷いた。
「採決など採る必要も無さそうだな。それじゃあ、その体制で新年度の生徒会をお願いするよ。」
そう言うとロナルドは席を立ち、意気揚々と部屋を出て行った。
後に残ったルイーズが改めてその場に立ち、挨拶を始めた。
「そう言う事で、来年度は私が生徒会の会長となります。リリスとエリスも新しい役職で私を支えてね。」
「「勿論ですよ。」」
声を合わせて答えたリリスとエリスである。
だがリリスは副会長の職は継続なので、それほどに新味を感じていないのも事実だ。
「それで、来年度の新入生に向けての生徒会のパンフレットは完成したの?」
ルイーズの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「もう出来上がっていますよ。」
あんたがここに顔を出さないうちに出来たわよ。
そう言いたかったリリスだが、ロナルドとの確執があって形だけの生徒会の役員であったルイーズにそれを言ってもきりがない。
大人の対応で気持ちを切り替えたリリスである。
「ヘルプに入ってくれた先輩や同級生も居ましたから、意外に早く出来たんですよね。」
そう言って笑うエリスの脳裏にはニーナやリンディの顔が浮かんでいた。
まあ、結果オーライってところね。
そう思ったリリスの思いはエリスにもアンソニーにも伝わっているようだった。
まあ、ルイーズなら会長職も無難にこなすだろう。
ロナルドのように無茶な行事の提案などもしないだろう。
そう考えると来年度も希望が持てる。
リリスはささやかな高揚感を持ちつつ、ルイーズ達と談笑していた。
だがその高揚感も夜までは続かなかった。
学生寮に戻り、自室のドアの前に立ったリリスは、部屋の中に異様な気配を感じた。
偽装はしているが、膨大な魔力の塊を感じる。
だがそれは亜神達のそれではない。
そうするとこれは何だろうか?
危険なものではないと思うのだが・・・。
恐る恐るリリスはドアを開いた。
「お帰り。」
部屋の中からそう声を掛けて来たのは、ソファに座る小さな龍だった。
ドラゴンではない。
あくまでも東洋的な龍である。
えっ!
まさか・・・・・。
「勝手にお邪魔して悪かったね。」
それは超越者のロキだった。
それにしてもこの使い魔のフォルムは何処で手に入れたのかしら?
どう見ても元の世界にあったイメージだわ。
リリスはカバンを机の上に置いて、ソファの対面に静かに座った。
「どうしたんですか? こんなところに来るなんて。」
リリスの言葉に龍はその顔をグイッとリリスの方に向けた。
「まあ、余程の事でもないと、儂も人の前には現われないのだがな。」
「・・・・・と言うと、余程の事があったって事ですか?」
リリスの問い掛けに龍はうんうんと頷いた。
「そうなのだよ。実はウィンディが消えてしまったのだ。それで亜神達も大騒ぎをしているところだよ。」
「ええっ!」
リリスは驚きのあまり、その場で立ち上がった。
その驚き様に龍も苦笑した。
「まあ、座りなさい。消えたと言っても使い魔の状態で消えたので、身体はある場所に残っている。だが意識が消えてしまっているのだ。」
「それでお前が何か知らないかと思ってここに来たのだよ。」
ううっ!
そんな事ってあるの?
リリスは前日のウィンディとのやり取りを、ロキに簡略に説明した。
それを聞き、ソファの上で龍が大きくため息をついた。
「そうだったのか。意識レベルで世界樹の元に行ったのか。そうすると取り込まれてしまった可能性が高いな。」
「取り込むって・・・世界樹にですか?」
リリスの問い掛けに龍が再度頷いた。
「そうだ。この世界には世界樹が無いので儂もそれほどに詳しくはないが、世界樹のその存在価値から考えると、あらゆるものを包摂する特性がある筈だ。養分として吸収し、周囲のあらゆる存在に再配分していくのだろう。」
「目に見えるものだけでなく、目に見えないものまでもな。」
リリスの脳裏にあの時のウィンディの姿が浮かび上がった。
気持ち良さそうに眠っていたとばかり思っていたのだ。
そのまま消えていったのは、寝落ちして本体に意識が戻ったのだとばかり思っていたのに・・・・・。
「でも意識まで吸収しちゃうんですか?」
「うむ。そもそも亜神とは意識を持つ膨大な魔力の塊だ。その意識も魔力によって形造られているのだよ。普通に考えればそれを取り込まれるなんて有り得ないのだが、相手が異世界の未知の存在となると、こちらの常識も通用しなくなる。」
「そうすると、ウィンディは・・・・・消滅したって事ですか?」
おずおずと問い掛けたリリスの言葉に、龍はハハハと笑った。
「消滅はしないだろう。それにウィンディは風の亜神の本体のかけらだ。本体降臨の為の七つのキーの一つに過ぎない。だがそれでもいなくなるとタイムスケジュールが大幅に狂ってしまう。それでお前に回収して欲しいのだよ。」
「回収ってウィンディの意識を・・・・ですか?」
「そうだ。だが全てでなくても良い。既にある程度は回収不能だろうからな。だが意識の核になる部分が吸収されずに残されている筈だ。それをさえ回収出来れば復活の余地はある。」
ロキの言葉にリリスはう~んと唸った。
そんな事が出来るのだろうか?
世界樹の元に何の支障もなく行けるのは自分だけだとしても・・・。
「そう言えばどうして私の意識は向こうの世界でも無事なんですか?」
「それはお前が世界樹にとって特別な存在だからだろう。あの世界樹はお前が目覚めさせ、お前が育てたようなものではないか。」
まあ、それは成り行きでそうなっちゃったんだけどねえ。
「でもどうやって回収するんですか?」
「それは意識レベルで世界樹と交渉するしかないだろうな。お前の言う事なら聞いてくれるのではないか?」
まあ!
随分人任せだわね!
リリスの思いを読み取って、龍は軽く頭を下げた。
「世界樹の取り扱いに関して、現状ではお前に頼むしかないのだよ。」
「儂や亜神などが意識レベルで向こうの世界に行ったとしても、どんな現象が起きるのか想像も出来んのだ。」
まあそうねえ。
今のところ、私の意識の訪問には、世界樹も歓迎してくれているからね。
「分かりました。とりあえず世界樹を訪ねてみましょう。」
「そうか。よろしく頼むぞ。」
龍はそう言うとその場から消えていった。
用件が済んだので帰ってしまったようだ。
その一方的な態度に呆れてしまう。
仕方が無いわねえ。
ウィンディったら余計な事をするんだから!
若干苛立つ気持ちを整理しながら、リリスはソファの上で二の腕の三つの小さな黒点に触れ、そこに軽く魔力を流した。
その途端にスッと意識が消え、目の前が暗転していく。
気が付くとリリスは青空に浮かんでいた。
勿論リリスの意識だけである。
抜けるような青空を飛び、遠くに見える世界樹を目指して移動する事5分。
5分と言っても体感なので、実際にはどれほどの時間を要しているのか分からない。
世界樹からは相変わらず歓迎の波動が伝わってくる。
それはそれでありがたいのだが、ウィンディの意識の核を探さなければならない。
本当に残っていれば良いのだけど・・・・・。
リリスは意を決して世界樹に向き合うのだった。
10
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる