落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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新たな加護4

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産土神体現スキルを発動させた日の夜。

リリスは就寝中にふと目が覚めた。
目が覚めたと言っても夢の中だ。
真っ白い部屋の中に大きなテーブルがあって、そこに何時もの賢者様達が座っている。
キングドレイクやシューサック、ドルネアやユーフィリアスの顔も見える。

リリスはその様子を斜め上方から俯瞰する形で眺めていた。
オブザーバーとして見ていろと言う事なのだろう。

ふと横を見ると、リリスの傍に三毛猫が近付いて来た。
何故か違和感なく空中に浮かんでいる。
だがもちろんこれは実体ではない。

リリスがその三毛猫に触れると、三毛猫は目を細めて擦り寄って来た。

あんたって何者なの?
私の転移時に魂に紐づけされた呪詛のようなものだって聞いたけど・・・。

訝し気に見つめるリリスの頬に三毛猫が擦り寄って来た。
振り払おうとしたものの、リリスはその愛らしい仕草につい頬を緩めた。

猫の姿に擬態するってずるいわよねえ。

そう思いつつ、リリスはテーブルに目を移した。
座長のロスティアが席に座って会議が始まる。

ロスティアは座っている面々に黙礼をして口を開いた。

「諸君に集まって貰ったのは、リリスが今回取り込んでしまった新しい加護とスキルに関する事だ。」

ロスティアの言葉にキングドレイクがフンと鼻を鳴らした。

「例の『世界樹の加護』の事だな。あれには驚かされたぞ。儂の加護をすら支配してしまったからな。」

キングドレイクの隣に座っているシューサックがうんうんと頷いた。

「確かにあれには驚かされた。だが今はその機能を凍結されているのだろう?」

シューサックの言葉にロスティアはそうだと答えた。

「超越者のロキが直接関与して凍結したらしい。奴の手に拠らなければリリスだけでなく、この世界もどうなっていた事か、想像すら出来ん。」

「そんな危険なものがまだリリスのステータスに組み込まれているのか?」

ユーフィリアスの言葉にロスティアはうむと唸った。

「親和性が高くて取り外せないのだよ。異世界の世界樹と意識のレベルでしっかり繋がっているからな。それにその世界樹を覚醒させ成長させたのもリリスの魔力だから、思っていた以上に絆が深いのだ。」

「育ててもらったお礼に加護とスキルをくれたって事だな。」

シューサックの言葉にキングドレイクがフンと鼻息を荒くした。

「お礼と言ってもその加護に完全に支配されそうになっていたじゃないか。脳内のリミッターの解除までして、何をするつもりだったのだ?」

そう言いながらキングドレイクはドンとテーブルを叩いた。

「まあ落ち着け、キングドレイク。今回の件で超越者が動き、30分ほど時空を巻き戻した事で生じる時空の歪は、管理者の権限まで行使して収拾してくれた。そこまでの存在が関与してくれたのだから、それで良しとすべきだな。今回の議題はそこではない。むしろ今後世界樹の加護とそのスキルをどう扱うかと言う事に関しての打ち合わせだ。」

ロスティアの言葉にシューサックが頷いた。

「リリスから切り離せない以上、監視しているしかないと言う事だな。」

「まあ、それだけではない。」

ロスティアはシューサックの言葉を受けて口を開いた。

「細胞励起は高位の精霊の持つスキルだが、これは人族ではまず取得するのが無理だ。これは充分に活用出来ると思う。」

「問題は産土神体現スキルで、一応停止状態になっているが、一度発動しているのでその履歴が世界樹の加護に刻まれている筈だ。それを元にして再発動させると言う事も出来ない事はないと思う。」

ロスティアの言葉にドルネアが驚いて口を開いた。

「そんな事の出来る者が居るのか?」

「勿論この世界では存在しないだろう。だが世界樹と交信している以上、向こうの世界から何者かが送り込まれて来る事も考えられる。」

「それは超越者に匹敵する存在だと言う事なのか?」

ドルネアの再度の問い掛けに、ロスティアは黙って頷き、少し間を置いて話を続けた。

「あの世界樹のある世界では、その世界の存続に関わる色々なものが不足しているようだ。その状況でリリスに目を付けられたら、予想外の展開を目にするかも知れんのだよ。」

ロスティアの言葉にシューサックはふうっと大きくため息をついた。

「リリスの元居た世界とこの世界とでのせめぎ合いに加えて、また別の世界までも加わってくるのか? 三つ巴の展開とはなあ。」

「リリスから世界樹の加護とそのスキルを切り離せれば、何の問題も無いのに・・・・・・」

シューサックの呟きにキングドレイクが冷静に反応した。

「それで世界樹の加護の現状はどうなっているのだ?」

「現状では、リリスの肉体や精神に対する実効支配力は停止されている。魔力やスキルに関しても同様に停止されている。だがあくまでも停止状態なので、異世界からの干渉などによっては再起動可能だと考えて良い。」

「厄介な物を取り込んだなあ。」

キングドレイクが嘆きの言葉を呟いた。
ロスティアはそれに同意するように頷いた。

「まあ、停止状態と言っても、細胞励起を効率よく展開出来るのはこの加護のお陰だ。それにリリス自身も細胞励起の恩恵を受ける。害悪だけの存在でも無いのだよ。」

「だから引き続き世界樹の加護を監視して欲しい。必要とあればそれぞれの連係を持って対処出来るように、今回リリスのステータス上に新たな設定を加えたので、そちらに従って貰う事になる。勿論非常事態にのみ有効な設定だがね。」

ロスティアの説明にキングドレイクが関心を示した。

「そうすると儂の覇竜の加護が支配されるような事も無いのだな。」

「それはもう有り得ない。安心してくれ。リリスの脳内リミッターの設定は引き続き必要なので、覇竜の加護による制限は今後も頼む。」

「それは勿論だ。奴は脳内のリミッターを解除すると、何をしでかすか分からんからな。魔物よりタチが悪い。」


私は魔王じゃありませんからね!

俯瞰して聞いていたリリスは、キングドレイクの言葉に憤激した。
そのリリスの気持ちを宥める様に、傍に居た猫が頬に擦り寄ってくる。
その仕草に少し癒されたリリスである。


「とりあえず、今日の会議はこれで終わりにしよう。」

ロスティアの言葉で会議が終わり、リリスの意識も深い闇の中に吸い込まれていったのだった。







翌日の放課後。

生徒会の事務作業を早めに終えたリリスは、学生寮の自室に向かっていた。
少し寝不足気味なので、仮眠を取りたいと思っていたからだ。

だが、そのリリスの意に反して、自室のドアの向こうに禍々しいほどの亜神の気配を感じた。

何事なの?

思わず立ちすくむリリスだが、意を決してドアを開いた。

「「「「「「お帰り!」」」」」」

幾つもの亜神の声が聞こえて来た。

うっ!
何故に集合しているのよ!

リリスの目に入ったのは6体の使い魔の飛び交う光景だった。

タミアとユリア、チャーリーはまだ分かるのだが、ウィンディに加えてゲルとユリアスまで居る。

「ユリアス様までどうして・・・・・」

リリスの呟きに紫のガーゴイルが小声で答えた。

「こいつらに無理矢理呼び出されたんだよ。『使い魔の姿で集合!』だってさ。」

何をしているんだか。

リリスの呆れる表情を見てノームが近付いて来た。

「すまんね、リリス。君の様子が尋常じゃないと感じて、僕らは集合したんや。」

「尋常じゃないってどう言う事?」

リリスの問い掛けにブルーの衣装のピクシーが答えた。

「リリス。あんたは自覚が無いの?」

そこに割り込む様に赤い衣装のピクシーが言葉を続けた。

「リリスが放つ魔力の味わいも異常だし、漂ってくる気配もこの世のものとは思えないのよ。」

異常と言われてもリリスには分からない。

「ねえ、タミア。魔力の味わいが異常ってどう言う意味なの?」

「それは僕が説明しよう。」

黒いガーゴイルが話に割り込んできた。

どうしたのよ?
ゲルにしては積極的に話し掛けてくるじゃないの。

「元々君の魔力は深い味わいがあって、僕達亜神の眠りを覚ますほどの刺激があったんだ。だが今の君の魔力にはそれに加えて、今まで感じた事も無い芳香が漂っている。僕達が無意識に引き寄せられるような、中毒性のある芳香と言って良い。」

「ええっ! 私ってそんなに変なの? 教師やクラスメイトには何も言われなかったわよ。」

驚くリリスの傍にノームが擦り寄って来た。

「まあ、普通の人族の感性では分からんやろうね。それにしてもこの気配は何やろか? まるでこの世のものとは思えん。何か、とんでもないものを取り込んだんか?」

リリスにしてみれば、世界樹から取り込んだスキルと加護しか思い浮かばない。
ノームの問い掛けに、リリスは世界樹の件を簡略に話した。

リリスの言葉にノームは大きく驚いた。

「世界樹って・・・・・この世界には無い筈やけど、そのスキルや加護をどうして具現化出来るんや?」

「それが出来ちゃったのよ。最適化スキルが良い仕事をしたって言うか・・・・・」

リリスの返答にノームは呆れてため息をついた。

「リリス。お前はそんなスキルまで持っているのか。それにしてもあの後、そんな展開になっていようとは思いもしなかったぞ。」

紫のガーゴイルがノームに代わって口を挟んだ。
そこに赤い衣装のピクシーが絡む。

「ユリアスが知らないのも無理も無いわよ。私達亜神ですらリリスの隠し持っているスキルを把握出来ないんだからね。」

「それにしても異世界のスキルや加護まで取り込むなんて、リリスは何になるつもりなのよ?」

そう言われてもリリスは何とも答えようが無い。
成り行きで取り込んでしまっただけだ。

「その世界樹の加護が、この世界に対する異世界からの浸食の足掛かりにならなければ良いけどね。」

黒いガーゴイルが意味深な言葉を吐いた。

「ゲル。嫌な事を言わないでよ。世界樹はあくまでも私に好意的なんだからね。」

そう言いながらリリスは、世界樹との接点である二の腕の小さな三つの黒点を何げなく擦った。
その途端に怯えるような波動が伝わって来た。

あらあら。
世界樹が怯えちゃっているわ。
自分がやり玉に挙がっているって感じたのね。
何の心配も無いわよ。
そっちの世界にこの亜神達が行けるはずも無いからね。

そう思いながら黒点を擦ると、それに反応して穏やかな細胞励起の波動が伝わって来た。
その波動にノームが敏感に反応した。

「ほう! 細胞励起やないか。それって高位の精霊のスキルやね。そんなものまで手に入れるなんて・・・・・」

そう言ってノームは天井を見つめた。

「ほら。そんなもんを発動させるから、精霊まで集まって来たで。」

ノームの言葉にえっ!と驚いてリリスは天井に目を向けた。
確かに淡い色合いの球体が幾つか浮遊している。
そのうちに大きめの球体もちらほらと現れるようになった。
精霊の数は次第に増えていく。

「いかんな。僕等の気配と細胞励起の波動が精霊に大きな刺激を与えているようやね。」

「一点に膨大な魔力が集中すると時空に歪が生じるかも知れんな。リリスの様子も分かったから、一旦解散しようか。」

ノームの言葉に亜神の使い魔達はふっとその場から消えた。
後に残されたのはユリアスの使い魔の紫のガーゴイルだけだ。

「結局儂は何の用事でここに呼ばれたのだ?」

紫のガーゴイルの虚しい口調の呟きがリリスの耳に届いた。

「まあ、あの連中から仲間扱いされているのも良いんじゃないですか。」

「仲間扱いってか? 仲間じゃないだろ、下っ端のパシリじゃないか。」

「それでも連中が懇意にしてくれれば、亜神の本体が降臨した際に、大きな災厄から逃れられるかも知れませんよ。リッチであるユリアス様は確実にその日を地上で迎えるのですから。」

リリスの言葉に紫のガーゴイルはう~んと唸った。

「5000年後かあ。今からそれを恐れてもどうにもなるまい。」

紫のガーゴイルは『帰る』と呟いて消えていった。

ようやく平穏な状況に戻ったと思ったリリスであるが、部屋の片隅に不審な気配が微かに残っている。

偶然にもそれに気付いたリリスは念のために魔装を非表示で発動させ、その方向をじっと睨んでいたのだった。









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