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聖剣による祭祀2
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アストレア神聖王国に来た2日目。
リリス達は大神殿の祭祀の行われる巨大なドーム状の広間に居た。
様々な照明によってライトアップされた円形の舞台の周囲に、幾重にも席が設けられ、既にアストレア神聖王国の王族や貴族達が座っている。
その数は約50人ほどだが、別席でアストレア神聖王国支配下の国からも来賓が来ているようだ。
明らかに異なる文化様式の衣装の来賓達なので、その違いは明白である。
未だにアストレア神聖王国の支配下にある国もあるのね。
リリスの思いは肩に憑依している使い魔を通して、メリンダ王女にも伝わった。
メリンダ王女はこの式典に合わせて、1時間ほど前から使い魔との五感の共有を始めていたのだ。
「かつての全盛時の領土の半分になっても、未だにアストレア神聖王国の庇護の下で存続する国があるのねえ。」
使い魔の芋虫はそう言うと身体をくねらせた。
「まあ、何かしらの利害関係があるんじゃないの?」
リリスはメリンダ王女に話し掛けながら、昨日マキが剣技の予行演習をした舞台を見つめた。
この舞台の下は半地下状になっていて、聖魔法の魔力を纏った巨大な宝玉が設置されているのだが、その宝玉からの聖魔法の魔力の波動が青白く立ち昇り、演劇のスモークのように舞台の上に流れ込んでいる。
その情景は実に幻想的だ。
また宝玉の周囲の足場に神官や祭司達が並び、宝玉と聖魔法の魔力をやり取りし始めたので、辺り一面にも青白い魔力の渦が巻き上がり、祭祀の雰囲気を更に盛り立てている。
ノイマンとジークに続き、リリスが席に座ると、本日の祭祀の簡単な説明が大祭司であるミゲルによってアナウンスされた。
いよいよ祭祀の始まりだ。
ミゲルの案内で舞台にマキともう一人の女性が上がった。ミゲルによって二人の女性の名と素性が簡略にアナウンスされた。
マキがミラ王国の王家の外戚として紹介されたのは予定通りである。
もう一人の女性はレニと言う名前で、王国軍に所属するパラディンだと言う。
マキよりも背が高く、筋肉質でがっしりとした女性だが、その顔つきは凛々しく男装の麗人と言っても良いだろう。
互いに挨拶をして舞台の中央に進む。マキはショートソードの状態のアリアドーネを構え、レニはアリアリーゼを構えた。
ミゲルの合図でお互いに聖魔法の魔力を聖剣に流して相対する。
レニの身体から聖魔法の魔力が激しく沸き立ち、その表情も厳しいものになった。
一方、マキの姿は昨日の予行演習の時と同様だ。
聖魔法の魔力を受けてアリアドーネの剣身が青白く光りながら長く伸びた。だがその長さは2mほどだ。
これは剣技に合わせての設定なのだろうか。
更にマキの全身をプラチナ色のメタルアーマーが包み込むと、会場内の来賓達からもおおっ!と歓声が上がった。
その姿はまさに美人戦士の等身大のフィギュアである。
「剣技を始めよ!」
ミゲルの声に合わせて、二人の女性が前に進み出た。
即座に聖剣同士が光の筋を交わし合い、剣と剣が交錯し始める。
マキが鋭く剣を振り、それに合わせるようにレニも剣を合わせるように撃ち合う。キンキンキンッと金属音が放たれると共に、火花が散り、そのたびに聖魔法の魔力の波動が波紋のように広がった。
アリアドーネは魔力で構成された剣身であるが、質感は金属に近いもののようだ。
上段から振り下ろすマキの聖剣に対して、レニは下から跳ねのけるように聖剣を振って躱す。その躱された聖剣をマキは瞬時に横に一閃する。レニは上段に振り上げた聖剣で、マキの聖剣の剣先を叩き落とすように振り下ろした。だが撃ち降ろされても瞬時に聖剣を下から振り上げたマキに対して、レニは即座に反応し、剣先をあてがう様にしてその太刀筋を逸らせながら後方に飛んだ。
そのレニの着地点に向かってマキが聖剣を横に構えてダッシュする。
レニが着地した瞬間には斬り込んでいたマキである。だがレニは着地寸前にソニックを放ってマキの聖剣の太刀筋をずらし、剣を合わせてマキの背後に回り込もうとした。その動きを見ながらマキは身体を反転させるように走り込んでレニと対峙した。
この僅かな間合いの時間に、来賓達からの拍手が鳴り響いた。
マキもレニも疲れた様子を感じない。
それは聖剣から流れてくる聖魔法の波動に依るものなのだろう。
「ねえ、リリス。マキさんってあんなに剣技に優れていたの?」
芋虫が呟くのも無理も無い。
日頃のマキの動作を見ていれば、到底想像出来ないほどに激しく、しかもキレのある剣技だったからだ。
「そう思うのも無理ないわよね、メル。でもあの聖剣アリアドーネは憑依型の聖剣なのよ。剣聖が契約者に憑依して剣を振うから、マキちゃんはそれに従っているだけなのよね。」
「そうなの? それにしても凄い動きよね。まるで剣同士で打ち合わせをしていたみたいだったわ。」
「まあ、それはほぼ正解よ。アリアドーネの指示でアリアリーゼは動いているそうだからね。」
リリスの言葉に芋虫はう~んと唸って、考え込むような仕草をした。
その間にマキとレニは再び剣を交えた。
左右に身体を振りながらマキが斬り込んでいく。その動きはまるで忍者だ。だが一閃されたマキの聖剣に対して、レニは同じように聖剣を横に一閃しながら、マキの聖剣を上に払う様に逸らした。
マキはその聖剣を瞬時に撃ち降ろす。
その太刀筋をかわすようにレニも上段から撃ち降ろし、剣先がキンと音を立てて火花を散らした。瞬時に二人は半歩後ろに下がり、再度上段から撃ち合って、互いの前方に走り抜けた。
更に振り返ってマキが瞬時に跳躍し、上段から聖剣を撃ち降ろした。それを剣身で真正面に受け止め、レニは渾身の力で払い除けた。
両者の間合いが5mほどに広がった。
そこから両者共に一気に走り込み、剣を撃ち合って再度間合いを取り、それぞれの剣を構え直した。
「そこまで!」
ミゲルの声で両者は剣を収め、互いに一礼した。二人共肩で息をしているので、その消耗度もかなりのもののようだ。
来賓席からは万雷の拍手が沸き上がった。
「両者、剣を合わせよ。」
ミゲルの指示に応じてマキとレニはそれぞれの剣を抜いて斜め前に突き出し、その剣身の先の部分を重ね合わせた。
それに応じて、半地下の巨大な宝玉の周りの足場に待機していた10人ほどの祭司が、一斉に宝玉に向かって魔力を放ち始めた。
宝玉はそれに応じて膨大な魔力を放ち始め、会場内に聖魔法の濃厚な魔力が満ちて来た。
程なく重ね合わせた聖剣の周りに青白い光の球が無数に出現し、渦を巻くように絡み合いながら人の形に成っていく。
宙に浮かんだその姿は剣聖アリアである。
その大きさは3mほどもあるだろうか。
プラチナ色の鈍い光沢を放つメタルアーマーを装着し、腕組みをして仁王立ちの状態で宙に浮かんでいる。
その表情に派手さは無い。
清楚ではあるが少し冷たさを感じさせるような、凛とした表情である。
「我は剣聖アリア。我を呼び出したのはお前達か?」
穏やかではあるが力強い声がホール内に響き渡った。
ミゲルは恭しく礼をし、
「左様でございます、剣聖アリア様。アストレア神聖王国の王家が主催で、この祭祀を執り行いました。」
そう言って来賓席の王族達の方向に手のひらを向けた。
王族達もそれに応じて席を立ち、深く一礼をした。
その中央に位置しているのは現国王なのだろう。
剣聖アリアは来賓を一瞥し、ふっと頬を緩めた。
「このような剣技の祭祀に我が参席するのは200年振りだ。その間、聖剣アリアリーゼを厳重に保管しておいてくれた事には感謝する。」
「今日の祭祀を締めくくる意味で、我の加護を現王家に授けよう。これからも聖魔法に基づき神殿を支え、国と民の為に尽くすが良い。」
剣聖アリアはそう言うと、腕組みしていた手を前方に突き出し、聖魔法の魔力を一機に放った。
それと共に七色の光彩がアリアの身体中から放たれ、その魔力の波動が渦巻きながら来賓達を包み込んだ。
おおおおおおっと歓声が湧きあがる。
加護を受けた来賓達は歓喜の表情でアリアに頭を下げた。
その後アリアはにこやかな表情で徐々に消えていった。
まだ余韻が残る中、ミゲルの案内で祭祀は無事終了し、来賓達も席を立ち始めた。
マキとレニは舞台の袖で親し気に話し合っている様子だ。
「剣技に基づく祭祀って初めて見たわ。なかなか興味深いものね。」
芋虫の言葉にリリスも同意して相槌を打った。
「私はこれで五感の共有を切るわね。明日、大切な行事が王家主催であるのよ。その準備をしなくちゃいけないから・・・」
そう言ってメリンダ王女は使い魔の芋虫との五感の共有を切った。
それにより芋虫は再び、単なる装飾となった。
メルも忙しいわね。
リリスは心の中でメリンダ王女をねぎらいながら、会場を後にした。
マキを迎える為に大神殿のゲストルームに足を運ぶと、リリスはそこで異様な景色を目にした。
向こう向きのソファに二人の女性が座り、メタルアーマーの女性の肩にもう一人の女性が頭を預けて眠っている。
眠っているのはマキだ。
肩を貸しているのは誰だろうか?
「お疲れ様。」
マキを起こさぬように小声で呟くと、振り返った女性の顔は・・・・アリアだった。
うっ!
声を失うリリスであるが、アリアは極平然とリリスの顔を見つめ、対面のソファに座るように指を差した。
リリスが座るとアリアはマキの顔を覗き込んだ。
まだ眠っている。
「マキったら相当疲れちゃったのね。初めての憑依で、しかも初めての剣技だったから、無理も無いけどね。」
アリアはそう言うと、マキの頬を優しく撫でた。
「アリア・・・なのよね。私が前に会った時は小さくて儚げな少女だったと思うんだけど・・・・・」
リリスの言葉にアリアはアハハと笑った。
「あの時は剣聖と言っても本体の小さなかけらだったからね。このマキの魔力のお陰でここまで復活出来たのよ。」
アリアの言葉にリリスは驚くばかりだ。
「アリアの本体って・・・消滅しちゃったの?」
「そうね。完全に消滅したんじゃないんだけど、剣聖としての存在ではないわね。消滅しかけているところを管理者によって、別な存在に組み替えられたと言えば良いのかしら。異世界の事だから詳細は分からないけど、本体の様子は何となく分かるのよ。」
う~ん。
良く分からない。
だがそれにしてもアリアの話し方が気になる。
「アリアって・・・聞いていたよりも気さくなのね。」
リリスの言葉にアリアは再びアハハと笑った。
「それって気難しい剣聖だと言う評判を耳にしたのね。」
「まあ、元々はそうだったけど、私は本体のかけらだし、既に別な存在に近いものでもあるわ。特に大半をマキの魔力で再構成されたのでね。」
そう言うとアリアは眠っているマキの顔を見つめた。
「マキの聖魔法の魔力は本当に美味なのよね。聖女として聖魔法を極めた事もあって、清らかで雑味が無く力強い。それにこの世界では味わえないような深い味わいがある。それはリリス。あんたも同じよ。」
アリアは不思議そうな表情でリリスを見つめた。
「マキとリリスってもしかして・・・同じところから来たの?」
「まあ、そんなところよ。」
リリスはそう言ってお茶を濁した。
「でもリリスの魔力って、濃厚で味わい深いけど雑味も多いのよね。料理に例えると、ごった煮かしらね。」
「これって多角的にたくさんのスキルを持っている証拠だわ。」
「それに・・・秘匿しているようだけど、あんたって幾つの属性魔法を持っているのよ。もしかして6属性揃えたの?」
うっ!
誤魔化せないわね。
リリスは黙ってうんと頷いた。
アリアはその様子を見て納得したように軽くため息をついた。
「まあ、それ以上は聞かないわよ。秘匿している理由もあるのでしょうからね。」
アリアの肩でマキは一瞬、う~んと声をあげ、再びすやすやと眠り始めた。
アリアはその仕草にニヤッとしながら、リリスの顔を再び見つめた。
「そう言えば聖剣アリアリーゼの事で、話しておかなくてはならない事があるのよ。」
「何なの?」
「アリアリーゼはそろそろ限界が来ているわ。かなり無理な組成で造られた剣だからね。おそらくこの数日で使い物にならなくなりそう・・・」
そうなの?
シューサックさんのスキルでもかなり無理な作業だったのね。
「その時はよろしくね。」
そう言ってアリアはニヤッと笑った。
「あんたの魔力からは微妙にシューサックの臭いがするのよね。」
何だかいろんな面で見抜かれているわね。
気さくな剣聖なのがまだ救いだけど・・・。
返す言葉も無いリリスに向けて、アリアはニヤニヤと笑うだけだった。
その日の夕方になって、ホテルで待機していたリリスとマキはジークに呼び出された。
エントランスに行くと、ジークは二人を出迎え、その懐から大きな魔石を取り出した。
それは転移の魔石だ。
「君達二人は先に帰って貰う事にしたよ。転移の魔石の使用許可が下りたんだ。アストレア神聖王国からの出国のみだけどね。」
出国するのは構わないと言う事なのか?
「今回の祭祀の件でアストレア神聖王国の王家から、色々と優遇措置を受けられるようになったんだ。勿論そこにはノイマン様の外交交渉もあっての事だから、ノイマン様には感謝するんだよ。」
ジークの言葉にマキとリリスはうんうんと頷いた。
「僕はノイマン様の警護でこちらに残るから、君達二人で帰ってくれ。転移先は既にセットしてある。君達の魔力の波動も登録済だ。荷物を持ち魔力を流して作動させれば、瞬時にミラ王国の神殿の前に転移出来るよ。」
「神殿から魔法学院までは馬車を出してもらってくれ。話はメッセンジャーで伝えてあるので、神殿の馬車を出してくれるはずだ。」
ジークにしては随分段取りが良い。
ノイマンからの指示もあったのだろう。
30分後。
再びエントランスに戻り、リリスとマキは荷物を揃えた上で、転移の魔石を作動させて帰途に就いたのだった。
リリス達は大神殿の祭祀の行われる巨大なドーム状の広間に居た。
様々な照明によってライトアップされた円形の舞台の周囲に、幾重にも席が設けられ、既にアストレア神聖王国の王族や貴族達が座っている。
その数は約50人ほどだが、別席でアストレア神聖王国支配下の国からも来賓が来ているようだ。
明らかに異なる文化様式の衣装の来賓達なので、その違いは明白である。
未だにアストレア神聖王国の支配下にある国もあるのね。
リリスの思いは肩に憑依している使い魔を通して、メリンダ王女にも伝わった。
メリンダ王女はこの式典に合わせて、1時間ほど前から使い魔との五感の共有を始めていたのだ。
「かつての全盛時の領土の半分になっても、未だにアストレア神聖王国の庇護の下で存続する国があるのねえ。」
使い魔の芋虫はそう言うと身体をくねらせた。
「まあ、何かしらの利害関係があるんじゃないの?」
リリスはメリンダ王女に話し掛けながら、昨日マキが剣技の予行演習をした舞台を見つめた。
この舞台の下は半地下状になっていて、聖魔法の魔力を纏った巨大な宝玉が設置されているのだが、その宝玉からの聖魔法の魔力の波動が青白く立ち昇り、演劇のスモークのように舞台の上に流れ込んでいる。
その情景は実に幻想的だ。
また宝玉の周囲の足場に神官や祭司達が並び、宝玉と聖魔法の魔力をやり取りし始めたので、辺り一面にも青白い魔力の渦が巻き上がり、祭祀の雰囲気を更に盛り立てている。
ノイマンとジークに続き、リリスが席に座ると、本日の祭祀の簡単な説明が大祭司であるミゲルによってアナウンスされた。
いよいよ祭祀の始まりだ。
ミゲルの案内で舞台にマキともう一人の女性が上がった。ミゲルによって二人の女性の名と素性が簡略にアナウンスされた。
マキがミラ王国の王家の外戚として紹介されたのは予定通りである。
もう一人の女性はレニと言う名前で、王国軍に所属するパラディンだと言う。
マキよりも背が高く、筋肉質でがっしりとした女性だが、その顔つきは凛々しく男装の麗人と言っても良いだろう。
互いに挨拶をして舞台の中央に進む。マキはショートソードの状態のアリアドーネを構え、レニはアリアリーゼを構えた。
ミゲルの合図でお互いに聖魔法の魔力を聖剣に流して相対する。
レニの身体から聖魔法の魔力が激しく沸き立ち、その表情も厳しいものになった。
一方、マキの姿は昨日の予行演習の時と同様だ。
聖魔法の魔力を受けてアリアドーネの剣身が青白く光りながら長く伸びた。だがその長さは2mほどだ。
これは剣技に合わせての設定なのだろうか。
更にマキの全身をプラチナ色のメタルアーマーが包み込むと、会場内の来賓達からもおおっ!と歓声が上がった。
その姿はまさに美人戦士の等身大のフィギュアである。
「剣技を始めよ!」
ミゲルの声に合わせて、二人の女性が前に進み出た。
即座に聖剣同士が光の筋を交わし合い、剣と剣が交錯し始める。
マキが鋭く剣を振り、それに合わせるようにレニも剣を合わせるように撃ち合う。キンキンキンッと金属音が放たれると共に、火花が散り、そのたびに聖魔法の魔力の波動が波紋のように広がった。
アリアドーネは魔力で構成された剣身であるが、質感は金属に近いもののようだ。
上段から振り下ろすマキの聖剣に対して、レニは下から跳ねのけるように聖剣を振って躱す。その躱された聖剣をマキは瞬時に横に一閃する。レニは上段に振り上げた聖剣で、マキの聖剣の剣先を叩き落とすように振り下ろした。だが撃ち降ろされても瞬時に聖剣を下から振り上げたマキに対して、レニは即座に反応し、剣先をあてがう様にしてその太刀筋を逸らせながら後方に飛んだ。
そのレニの着地点に向かってマキが聖剣を横に構えてダッシュする。
レニが着地した瞬間には斬り込んでいたマキである。だがレニは着地寸前にソニックを放ってマキの聖剣の太刀筋をずらし、剣を合わせてマキの背後に回り込もうとした。その動きを見ながらマキは身体を反転させるように走り込んでレニと対峙した。
この僅かな間合いの時間に、来賓達からの拍手が鳴り響いた。
マキもレニも疲れた様子を感じない。
それは聖剣から流れてくる聖魔法の波動に依るものなのだろう。
「ねえ、リリス。マキさんってあんなに剣技に優れていたの?」
芋虫が呟くのも無理も無い。
日頃のマキの動作を見ていれば、到底想像出来ないほどに激しく、しかもキレのある剣技だったからだ。
「そう思うのも無理ないわよね、メル。でもあの聖剣アリアドーネは憑依型の聖剣なのよ。剣聖が契約者に憑依して剣を振うから、マキちゃんはそれに従っているだけなのよね。」
「そうなの? それにしても凄い動きよね。まるで剣同士で打ち合わせをしていたみたいだったわ。」
「まあ、それはほぼ正解よ。アリアドーネの指示でアリアリーゼは動いているそうだからね。」
リリスの言葉に芋虫はう~んと唸って、考え込むような仕草をした。
その間にマキとレニは再び剣を交えた。
左右に身体を振りながらマキが斬り込んでいく。その動きはまるで忍者だ。だが一閃されたマキの聖剣に対して、レニは同じように聖剣を横に一閃しながら、マキの聖剣を上に払う様に逸らした。
マキはその聖剣を瞬時に撃ち降ろす。
その太刀筋をかわすようにレニも上段から撃ち降ろし、剣先がキンと音を立てて火花を散らした。瞬時に二人は半歩後ろに下がり、再度上段から撃ち合って、互いの前方に走り抜けた。
更に振り返ってマキが瞬時に跳躍し、上段から聖剣を撃ち降ろした。それを剣身で真正面に受け止め、レニは渾身の力で払い除けた。
両者の間合いが5mほどに広がった。
そこから両者共に一気に走り込み、剣を撃ち合って再度間合いを取り、それぞれの剣を構え直した。
「そこまで!」
ミゲルの声で両者は剣を収め、互いに一礼した。二人共肩で息をしているので、その消耗度もかなりのもののようだ。
来賓席からは万雷の拍手が沸き上がった。
「両者、剣を合わせよ。」
ミゲルの指示に応じてマキとレニはそれぞれの剣を抜いて斜め前に突き出し、その剣身の先の部分を重ね合わせた。
それに応じて、半地下の巨大な宝玉の周りの足場に待機していた10人ほどの祭司が、一斉に宝玉に向かって魔力を放ち始めた。
宝玉はそれに応じて膨大な魔力を放ち始め、会場内に聖魔法の濃厚な魔力が満ちて来た。
程なく重ね合わせた聖剣の周りに青白い光の球が無数に出現し、渦を巻くように絡み合いながら人の形に成っていく。
宙に浮かんだその姿は剣聖アリアである。
その大きさは3mほどもあるだろうか。
プラチナ色の鈍い光沢を放つメタルアーマーを装着し、腕組みをして仁王立ちの状態で宙に浮かんでいる。
その表情に派手さは無い。
清楚ではあるが少し冷たさを感じさせるような、凛とした表情である。
「我は剣聖アリア。我を呼び出したのはお前達か?」
穏やかではあるが力強い声がホール内に響き渡った。
ミゲルは恭しく礼をし、
「左様でございます、剣聖アリア様。アストレア神聖王国の王家が主催で、この祭祀を執り行いました。」
そう言って来賓席の王族達の方向に手のひらを向けた。
王族達もそれに応じて席を立ち、深く一礼をした。
その中央に位置しているのは現国王なのだろう。
剣聖アリアは来賓を一瞥し、ふっと頬を緩めた。
「このような剣技の祭祀に我が参席するのは200年振りだ。その間、聖剣アリアリーゼを厳重に保管しておいてくれた事には感謝する。」
「今日の祭祀を締めくくる意味で、我の加護を現王家に授けよう。これからも聖魔法に基づき神殿を支え、国と民の為に尽くすが良い。」
剣聖アリアはそう言うと、腕組みしていた手を前方に突き出し、聖魔法の魔力を一機に放った。
それと共に七色の光彩がアリアの身体中から放たれ、その魔力の波動が渦巻きながら来賓達を包み込んだ。
おおおおおおっと歓声が湧きあがる。
加護を受けた来賓達は歓喜の表情でアリアに頭を下げた。
その後アリアはにこやかな表情で徐々に消えていった。
まだ余韻が残る中、ミゲルの案内で祭祀は無事終了し、来賓達も席を立ち始めた。
マキとレニは舞台の袖で親し気に話し合っている様子だ。
「剣技に基づく祭祀って初めて見たわ。なかなか興味深いものね。」
芋虫の言葉にリリスも同意して相槌を打った。
「私はこれで五感の共有を切るわね。明日、大切な行事が王家主催であるのよ。その準備をしなくちゃいけないから・・・」
そう言ってメリンダ王女は使い魔の芋虫との五感の共有を切った。
それにより芋虫は再び、単なる装飾となった。
メルも忙しいわね。
リリスは心の中でメリンダ王女をねぎらいながら、会場を後にした。
マキを迎える為に大神殿のゲストルームに足を運ぶと、リリスはそこで異様な景色を目にした。
向こう向きのソファに二人の女性が座り、メタルアーマーの女性の肩にもう一人の女性が頭を預けて眠っている。
眠っているのはマキだ。
肩を貸しているのは誰だろうか?
「お疲れ様。」
マキを起こさぬように小声で呟くと、振り返った女性の顔は・・・・アリアだった。
うっ!
声を失うリリスであるが、アリアは極平然とリリスの顔を見つめ、対面のソファに座るように指を差した。
リリスが座るとアリアはマキの顔を覗き込んだ。
まだ眠っている。
「マキったら相当疲れちゃったのね。初めての憑依で、しかも初めての剣技だったから、無理も無いけどね。」
アリアはそう言うと、マキの頬を優しく撫でた。
「アリア・・・なのよね。私が前に会った時は小さくて儚げな少女だったと思うんだけど・・・・・」
リリスの言葉にアリアはアハハと笑った。
「あの時は剣聖と言っても本体の小さなかけらだったからね。このマキの魔力のお陰でここまで復活出来たのよ。」
アリアの言葉にリリスは驚くばかりだ。
「アリアの本体って・・・消滅しちゃったの?」
「そうね。完全に消滅したんじゃないんだけど、剣聖としての存在ではないわね。消滅しかけているところを管理者によって、別な存在に組み替えられたと言えば良いのかしら。異世界の事だから詳細は分からないけど、本体の様子は何となく分かるのよ。」
う~ん。
良く分からない。
だがそれにしてもアリアの話し方が気になる。
「アリアって・・・聞いていたよりも気さくなのね。」
リリスの言葉にアリアは再びアハハと笑った。
「それって気難しい剣聖だと言う評判を耳にしたのね。」
「まあ、元々はそうだったけど、私は本体のかけらだし、既に別な存在に近いものでもあるわ。特に大半をマキの魔力で再構成されたのでね。」
そう言うとアリアは眠っているマキの顔を見つめた。
「マキの聖魔法の魔力は本当に美味なのよね。聖女として聖魔法を極めた事もあって、清らかで雑味が無く力強い。それにこの世界では味わえないような深い味わいがある。それはリリス。あんたも同じよ。」
アリアは不思議そうな表情でリリスを見つめた。
「マキとリリスってもしかして・・・同じところから来たの?」
「まあ、そんなところよ。」
リリスはそう言ってお茶を濁した。
「でもリリスの魔力って、濃厚で味わい深いけど雑味も多いのよね。料理に例えると、ごった煮かしらね。」
「これって多角的にたくさんのスキルを持っている証拠だわ。」
「それに・・・秘匿しているようだけど、あんたって幾つの属性魔法を持っているのよ。もしかして6属性揃えたの?」
うっ!
誤魔化せないわね。
リリスは黙ってうんと頷いた。
アリアはその様子を見て納得したように軽くため息をついた。
「まあ、それ以上は聞かないわよ。秘匿している理由もあるのでしょうからね。」
アリアの肩でマキは一瞬、う~んと声をあげ、再びすやすやと眠り始めた。
アリアはその仕草にニヤッとしながら、リリスの顔を再び見つめた。
「そう言えば聖剣アリアリーゼの事で、話しておかなくてはならない事があるのよ。」
「何なの?」
「アリアリーゼはそろそろ限界が来ているわ。かなり無理な組成で造られた剣だからね。おそらくこの数日で使い物にならなくなりそう・・・」
そうなの?
シューサックさんのスキルでもかなり無理な作業だったのね。
「その時はよろしくね。」
そう言ってアリアはニヤッと笑った。
「あんたの魔力からは微妙にシューサックの臭いがするのよね。」
何だかいろんな面で見抜かれているわね。
気さくな剣聖なのがまだ救いだけど・・・。
返す言葉も無いリリスに向けて、アリアはニヤニヤと笑うだけだった。
その日の夕方になって、ホテルで待機していたリリスとマキはジークに呼び出された。
エントランスに行くと、ジークは二人を出迎え、その懐から大きな魔石を取り出した。
それは転移の魔石だ。
「君達二人は先に帰って貰う事にしたよ。転移の魔石の使用許可が下りたんだ。アストレア神聖王国からの出国のみだけどね。」
出国するのは構わないと言う事なのか?
「今回の祭祀の件でアストレア神聖王国の王家から、色々と優遇措置を受けられるようになったんだ。勿論そこにはノイマン様の外交交渉もあっての事だから、ノイマン様には感謝するんだよ。」
ジークの言葉にマキとリリスはうんうんと頷いた。
「僕はノイマン様の警護でこちらに残るから、君達二人で帰ってくれ。転移先は既にセットしてある。君達の魔力の波動も登録済だ。荷物を持ち魔力を流して作動させれば、瞬時にミラ王国の神殿の前に転移出来るよ。」
「神殿から魔法学院までは馬車を出してもらってくれ。話はメッセンジャーで伝えてあるので、神殿の馬車を出してくれるはずだ。」
ジークにしては随分段取りが良い。
ノイマンからの指示もあったのだろう。
30分後。
再びエントランスに戻り、リリスとマキは荷物を揃えた上で、転移の魔石を作動させて帰途に就いたのだった。
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作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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