落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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姉妹校にて4

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ロックゴーレムの蠢く祠の中。

エリスのブリザードで凍結した地面を踏みしめ、リリスは祠の中に数歩進んだ。ブリザードのお陰でロックゴーレムの動きは緩慢になっている。
だが地下にもまだ姿を現わしていないロックゴーレムが居るはずだ。

リリスは一気に魔力を集中させると、土魔法を発動させ、祠の中に直径30mにも及ぶ泥沼を出現させた。その深さは5mほどで、ロックゴーレム達を埋めるには充分な深さである。

泥沼の上に加圧を掛けながら、その表面を硬化していく。魔力吸引スキルをアクティブに切り替えて、その地面から魔力を吸い上げていく。
だがそれでもロックゴーレムの気配は消えていない。
元々地下に隠れていたロックゴーレムを含め、約100体もの気配がまだ感じられる。
呼吸をする魔物ではないので、生き埋めにしても生命活動は停止しないのだ。

数秒後、リリスの立つ地面がゴゴゴゴゴッと揺れ、硬化された泥沼の表面に無数の亀裂が走った。
どうやら泥沼の中で硬化されたままでもロックブラストを放っているようだ。

更に地面のところどころから勢い良く岩石が飛び出してきた。

拙いわね。

リリスは再び泥沼の表面を硬化させ、更に魔力を注ぎ込んでその硬化の幅を深めていった。
既に地表から10mほども硬化しただろう。
だが深く探知をすると、ロックゴーレムは驚くべき動きを見せた。

ロックゴーレムの気配が地下の一点に集中していく。

これって・・・・・まさかと思うけど集合しているの?

このリリスの予感は正しかった。
祠の中央部分にドンッと大きな衝撃音を立てて、大量の岩石が噴き出した。バラバラと地面に落ちる岩石の中で、硬化された泥沼の表層部に亀裂が走り、そこから巨大な手がグッと地表に突き出してきた。

「合体・・・・・しちゃったのね。」

思わず呟いたリリスの目の前で、その手が地表を掴み、腕が伸び上がってくるのが見えた。

あんな巨体のロックゴーレムに出てこられたらアウトだ。

リリスは慌てて土魔法を放ち、その硬化された地表を再び泥沼に戻した。ロックゴーレムの巨大な手を加圧で抑え込み、更に深くまで泥沼を形成していく。その深さは既に30mほどにもなっただろうか。流石に魔力の消耗が激しい。
冷や汗を掻きながらもリリスは再度魔力吸引スキルで魔力を補充した。

これなら簡単に地表に出てこれないだろう。
そう思ったリリスの思いをあざ笑う様に、泥沼の中から大量のロックブラストが噴き出し、祠の中に撒き散らされた。

更にロックゴーレムは泥沼の底でロックブラストを下方に放ち、推力を得て泥沼から浮かび上がろうとし始めた。
リリスは即座に泥沼の表面を硬化させたが、それを突き破られるのは時間の問題だろう。

こうなったら溶岩に巻き込むしかないわね。

リリスは火魔法と土魔法を連動させ、時折ロックブラストの吹き出す泥沼に向けて大きく魔力を放ち始めた。

一気に魔力が消耗していく。

だがそれでもリリスは継続して魔力を放ち続けた。それと共に泥沼のあちらこちらから蒸気が沸き立ち、祠の中にその熱気が充満してきた。

まだまだこれからよ。

魔力を吸引して補充しながら、リリスは魔力を放っていく。

泥沼の表面がやがて沸き立ち、沸騰するお湯のようにゴボゴボと音を立て始めた。更にその表面が少し赤くなっていく。

泥沼の中のロックゴーレムも暴れ出した様子で、ドンドンドンと激しい衝撃が地下から伝わってきた。

やがて泥沼の表面が赤く発光し始めた。激しい炎熱が泥沼から巻き上がり、蒸気と共に祠の中を駆け巡る。
その炎熱は祠の入り口に居たゴーグ達にも伝わって来た。

「これは・・・・・何を見せられているんだ?」

唖然とするゴーグの傍で、ジークは冷静にリリスの動きを見つめていた。
それはリリスの技量を確認するかのような目つきだ。

「危険だから祠の外で待機していなさい。」

エリスやルイ、イライザに声を掛けて、ゴーグは再び祠の中を覗き込んだ。

泥沼が赤々と燃え、沸き立っている。それは間違いなく溶岩だ。
噴き出す炎熱と蒸気が入り口にも回ってくる。エリスは軽く冷気を放ってそれを避け始めた。

リリスは自分の手前に分厚い土壁を生じさせて、その炎熱を避けるように工夫をした。それでも汗が噴き出して止まらない。
水魔法で頭から水を掛けながらもリリスは魔力を放ち続けた。

頃合いを見て探知スキルを発動させ、泥沼の深層部まで探知してみると、もはやロックゴーレムの気配は無い。
どうやら倒したようだ。
いくら火魔法に耐性を持っているとは言え、溶岩に巻き込まれれば流石に耐え切れないだろう。

ロックゴーレムって元々が土なんだから、土に還って頂戴。

そう呟いてリリスは魔力を放つのを止めた。
魔力吸引スキルを掛けていても、既に魔力は30%ほどまで消耗している。元々魔力のない世界で、転移門から流れている魔力も希薄なので、魔力吸引の効率もあまり良くないようだ。

リリスは疲労のあまり、その場に膝をついた。

そのタイミングを見計らって、エリスが祠の中に入り、冷気を放ちながらリリスの傍に駆け寄った。

「先輩。お疲れ様でした。」

そう言いながら放たれる冷気でリリスもホッと一息入れた。

泥沼はまだ赤々と燃え立っているが、時間が立てばその炎熱も収まるだろう。
目を凝らして見ると、既に溶岩の表面は固まってきている。

「気休めにブリザードを掛けてみましょうか?」

エリスはその場で立ち上がり、土壁の前方に魔方陣を出現させた。その魔方陣の向きを変え、斜め上方に勢い良く冷気を噴出すと、次第に炎熱が収まって来た。

その間にリリスはマジックバックからマナポーションを数本取り出し、それを一気に飲み干した。

これだけの魔力が補充されれば大丈夫よね。

リリスはよろよろと立ち上がり、両手を突き出すと、大きく魔力を放ち始めた。それにつれて溶岩の泥沼が表面から次第に土に戻っていく。
土魔法で土や岩石の組成を変換しているのだ。
それでも溶岩の持っていたポテンシャルとしての熱量は残る。
それまでも自身のものとして回収するには、リリスの技量やスキルはまだまだ未熟だ。

ある程度の深さまで溶岩の組成を変えて土に戻したリリスは、その表面をしっかりと硬化させた。
それでもまだ熱量が残っているので硬化された表面は熱い。

「エリス。ブリザードを地表に向けてくれる?」

「ええ、良いですよ。」

エリスは魔力を操作して魔方陣の向きを斜め下方に変え、硬化された地表にブリザードの冷気を放ち始めた。

その効果もあって次第に地表が白くなっていく。
霜が付く程度には戻ったようだ。

「エリス。もう良いわよ。ありがとう。」

リリスの言葉にエリスはハイと答え、ブリザードを放つ魔方陣を解除した。
炎熱除けの土壁を消滅させ、リリスはその場に座り込んだ。

「1年分の魔力を操作したように感じるわ。」

そう言いながら、リリスはハアハアと肩で息をした。そのリリスの背中をさすりながら、エリスはその労をねぎらった。

「リリス先輩の奥の手を見せてもらいましたよ。」

エリスの笑顔がリリスにも喜びとなって返ってくる。

「エリスに後始末して貰って助かったわよ。」

「そうですね。火の後始末は水ですよね。」

そう言って笑うエリスにリリスも釣られてぷっと吹き出した。リリスが起き上がれる状態に回復するのを待って、エリスはリリスに肩を貸し、祠の入り口まで連れ戻したのだった。









集会所に戻り、リーフにロックゴーレムを駆逐した事を報告し、リリス達は1時間ほど休憩を取ろうとした。
リリスやエリスの身体にかなり無理が掛かった為だ。

だが集会所を訪れたハイエルフの女性が施してくれた特殊なヒールのお陰で、リリス達が全回復するまでには10分も掛からなかった。
ロックゴーレムの駆逐によって、多少なりとも魔力の流れが良くなってきたのだろう。
村の住居から顔を出すハイエルフの姿が目に映る。

リーフから転移門の起動装置の設定を変える事を再度託され、リリス達は再び丘の上の祠に戻った。
祠の内部は既に外気と変わらない温度になっている。

地熱がまだ若干残っているので、ブリザードで凍り付いた地表も元の状態に戻っているようだ。
ちなみに探知してみてもロックゴーレムの気配は無い。

ゴーグは祠の奥に進み、最奥部の壁に手を置いた。その壁には幾つかの穴が掘られていて、リーフの話によれば、その穴に適切な宝玉を嵌めた上で魔力を流せば隠し扉が開くと言う。

ゴーグはリーフに教わった通りの位置に宝玉を嵌め、そこに魔力を流した。
その途端に壁が広範囲に光り、その片隅に扉が現われた。
その扉を開けて中に入ると、そこには大きな台座の上に3個のオーブが設置されていた。
直径1mほどのオーブは様々な色に変化しながら仄かに発光している。

そのオーブを教わった通りの位置関係に設置して魔力を台座全体に流すと、キーンと言う金切り音を立てて台座が振動し始めた。その振動が2分ほど続き、オーブがカッと激しく光ると魔力の流れが変わったのがリリスにも分かった。

リーフの話ではこれで転移門が再起動されたはずだ。

やれやれと呟きながらゴーグが扉を閉めて宝玉を回収し、祠の外に出るとそこには数名のハイエルフが待ち受けていた。
聞けば魔力の流れが滞らなくなって、外出する気力が出て来たそうだ。

口々に礼を言うハイエルフ達に言葉を交わしながら、リリス達は集会所のリーフの元に戻った。

「お疲れさまでしたね。そして、ありがとうございました。」

リーフはゴーグから宝玉を受け取りながら、リリス達の一人一人に礼を告げた。

「それで、リーフさん達は今後ここに留まるのですか?」

リリスの問い掛けにリーフは少し考え込んだ。その表情には若干の余裕を感じる。転移門の再起動で懸念事項がなくなったからなのだろう。

「村の者とも話し合いますが、私の意志としてはそろそろ元の世界に戻ろうと思います。」

リーフの言葉にゴーグもうんうんと頷いた。

「私もそれが良いと思います。現時点では少なくとも大きな戦乱は起きていませんし、またそれが起きそうな予兆もありませんから。」

ゴーグはそう言うとジークの方に顔を向けた。

「ミラ王国で受け入れてあげれば良いのではないか? 領地内に適度に整備された良い森があるだろうからな。」

ゴーグの言葉にジークはう~んと唸って、

「人族の立ち入るような森でも構わないのか?」

そう問い返したジークにゴーグはハハハと笑って口を開いた。

「ハイエルフの集落に人族が辿り着く事など有り得ないよ。森の中に溶け込むように秘匿されるからね。でもハイエルフの方から人族に用事がある場合もある。人族がハイエルフの集落に辿り着くのは、ハイエルフの方から用件があって呼ばれた時だけだ。」

ゴーグの言葉にリーフも失笑を浮かべながら頷いていたので、それは事実なのだろう。
ミラ王国は人族を中心とした王国だが、他種族にも比較的寛容だ。そういう観点から考えればハイエルフも住み易いかも知れない。

オルトのダンジョンに余計な負担を掛ている事を考えても、ハイエルフ達は元の世界に戻るべきだろう。
それにしても、転移門を設置したオルトのダンジョンのダンジョンマスターはどうしたのだろうか?
形の上ではオルトのダンジョンを放置してしまった事になる。
リーフに聞いてもダンジョンマスターの所在は分からないと言うので、リリスもそれ以上は聞かなかった。






30分の後。

リリス達は転移門を起動させ、オルトのダンジョン第4階層の転移門の前に戻る事が出来た。
やれやれと言うルイとイライザの呟きを背に、リリス達は長い螺旋階段を上り、第3階層の最奥部に出た。
だがその途端に下層に向かう階段はふっと消えてしまった。
そこは何もない岩肌の壁のままだ。

夢でも見ていたのだろうか?

そんな思いがリリスの胸を過る。
だがそのリリスの目の前に、あの黒い人影がすっと現われた。その白い眼をこちらに向けて近づいてくる。

「ご苦労様だったな。お前達には感謝するぞ。」

その言葉を残して黒い人影はふっと消え去ってしまった。

「早く帰りましょう。ここに何時までも長居は無用だ。」

ルイに促されてゴーグは懐から転移の魔石を取り出した。魔力を流すと反応しているので、転移は可能なようだ。

「長い一日だったね。まるでもう何日も立ってしまったようだ。」

そう呟いたジークの言葉が当たっていたとは、リリスもこの時点で分からなかった。

ゴーグが転移の魔石を発動させ、リリス達はイシュタルト魔法学院の学舎地下の訓練場に戻ったのだった。








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