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魔剣の返却4
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デルフィの研究施設からリゾルタ経由で帰って来た日の夜。
リリスは夢の中で真っ白な部屋の中に居た。目の前には椅子が並び、シューサックとキングドレイクが笑顔で座っている。
この状況はリリスも予想していたのだが・・・。
リリスが椅子に座るとシューサックが話し掛けて来た。
「リリス。ご苦労様だったな。恩に着るぞ。これで儂も思い残す事は無い。」
まるで成仏するぞと言わんばかりね。実際は加護と言う形態ながら正体不明なんだけど。
「お役に立てて良かったです。」
心にも無い事を口にしたリリスである。
「でも、ロングソードは受け取ってくれましたが、ショートソードは返されてしまいました。私に対する報償だと言う、子供だましの恩着せがましい言葉を添えて。」
皮肉交じりのリリスの言葉にシューサックは失笑した。
「うむ。あのショートソードは特殊な呪いが掛かっていて、儂でも修復出来なかったのだ。いや、修復出来ない事は無いのだが、手間と負担が多すぎる。過酷と言うべきか・・・・・」
シューサックの言葉の歯切れが悪い。
リリスが疑問に思っていると、キングドレイクがシューサックの言葉を補足した。
「儂が説明してやろう。リリス、あの魔剣を何だと思う?」
「何だと思うかと聞かれても、魔剣は魔剣ですよね。アクアスフレアと言う名前の水属性の魔剣です。」
リリスの言葉にキングドレイクはうんうんと頷いた。
「まあ、それはそうなんだがな。あの魔剣は稀有なドラゴンスレイヤーなのだよ。」
ええっ!
そうなの?
リリスの驚きを他所にキングドレイクは話を続けた。
「あのショートソードに課せられているのは、人族の言う一般的な呪いではない。竜族固有の再生能力や好戦的な気性、更に魔素や残留思念などをあの魔剣が取り込んでいるのだ。」
「アクアスフレアはその特性として倒した竜族の魔素を吸い上げる。言い換えれば吸血性の魔剣のようなものだ。あの剣の犠牲になった何千もの竜族の魔素が魔金属に姿を変え、剣身中央の溝にこびりついている。しかもそれは単なる魔素ではない。」
キングドレイクは言葉を選ぶような仕草をし、少し間を置いた。
「アクアスフレアに屈した事を受け入れていない、納得していない残留思念の塊と言った方が良いのだろう。それ故にあのこびりついている魔金属をはがすと、その分量に応じてアンデッド化した竜族が出現するのだ。」
厄介な剣ね。
でもそれだけアクアスフレアって強力な破壊力を持っていると言う事なのね。
「それならマキちゃんに浄化して貰えば良いんじゃないですか? なんだったら魂魄浄化って言う方法もあるし・・・」
リリスの言葉にキングドレイクは首を横に振った。
「単なる浄化では効果は無い。魂魄浄化も数名の介助者を伴って、聖女として神殿などで正式にやらなければ、完全には除去出来ないだろう。」
それは簡単じゃないわね。
マキちゃんは既に聖女の位置と称号は無いからなあ。
「はがす魔金属の分量に応じて出現するアンデッドは、アクアスフレアを持つ者に対して攻撃を仕掛けてくる。それを再び倒し、あの魔剣に屈した事をもう一度理解させてやらなければならんのだ。」
まあ、どこまでも面倒臭い魔剣なのねえ。
「少しずつはがしながら少しずつ倒していく。その作業にとてつもなく時間が掛かる。鍛冶職人の儂には手が負えん。」
そう言ってシューサックは深くため息をついた。
「リリス。お前にそれを直ぐにやれとは言わないが、気が向いたら少しづつやってくれないか? 少しづつで良いから。」
私にそんな事まで託さないでよ。
「気が向いたら・・・・・ですね。」
そう答えてリリスはシューサックから目を逸らした。それは気乗りがしないと言うリリスの意思表示でもある。
リリスの表情を見て、シューサックも話の落としどころを読み取った。
「まあ、いずれにしてもロングソードは依頼主の元に戻った。それで良しとしよう。いや、そのような言い方はリリスには失礼だな。」
「改めて礼を言おう。リリス、ご苦労様だった。心から感謝しておるぞ。」
シューサックは言い終わるとリリスに深々と頭を下げた。
「お役に立てて良かったです。」
リリスの言葉に他意は無い。
その言葉を聞きながら、シューサックとキングドレイクは笑顔を見せ、そのまま消えていった。
それと同時にリリスも深い眠りに陥っていった。
その日の昼休み。
リリスは休憩時間に魔法学院の薬草園に足を運んでいた。
マジックバッグからおもむろに取り出したのはショートソード、魔剣アクアスフレアである。
リリスは夢の中でキングドレイクから聞いた話が気になっていた。
魔剣の剣身の溝を塞いでいる魔金属に触れると、何となく指にピリッと電気が流れるように感じた。
これって要するに怨念を孕んだ魔金属なのね。
少しはがしてみようと思ったのは自分の力への過信でもある。
僅かな数のアンデッドなら自分でも対処出来るはずだ。
だがそれ以上に、アクアスフレアの持つ力を見てみたいと言うのがリリスの本音だった。
怖いもの見たさに、リリスは魔金属錬成のスキルを発動させ、そのこびりついている魔金属を僅かにはがしてみた。
そのはがした僅かな魔金属を手に取ると、それは小さな光の玉になり、少し離れた地面に落ちた。
その途端にその場に現れたのは2体のドラゴニュートの戦士だ。しかもアンデッド化していて瘴気を周囲に放っている。
その瘴気に堪らず、リリスは魔装を発動させた。
魔剣アクアスフレアを構えるリリス。
ギエエエエエッと言う不気味な声を上げてリリスを、否、アクアスフレアをアンデッドが睨みつけた。
その目は赤く光り、その顔は髑髏と言うよりはミイラに近い。粗末な剣を持ち、リリスに向かってにじり寄って来た。
拙いわね。
リリスは魔力を集中させ、アンデッドの足元に土魔法で深さ1mほどの泥沼を出現させた。更に2体のアンデッドがその泥沼に嵌ると、その泥沼を硬化させて敵の動きを止めた。
2体のアンデッドは硬化された地面から抜け出せず、上半身を動かしているがその場に固定されたままだ。
相手はアンデッドなので、泥沼の中に完全に埋めてしまっても倒したことにはならない。元々呼吸していないのだから。
アンデッドを見つめながら、リリスはアクアスフレアに水属性の魔力を流した。
水属性の魔法に関してはリリスもあまり得意ではない。リリスの中では持ち合わせている程度の扱いだ。
だがリリスの持つ魔力の特性や覇竜の加護に反応したようで、アクアスフレアは青白い光を放ち始めた。
それと同時にリリスの脳裏に言葉が浮かび上がってきた。
『超音波振動』
更に言葉と同時に激しく振動するウォーターカッターのイメージが浮かんでくる。
このスキルを使えって言うのね。
これって水の女神を装っていたユリアが、浄化のように見せていたスキルじゃないの。
アクアスフレアの意図を理解したリリスはそのイメージを頭に描きながら、超音波振動の発動を念じつつ魔力を大きく流した。
アクアスフレアの剣先から光がほとばしり、剣身が細かく振動し始めた。
リリスは身動きの出来ないアンデッドに近付き、アクアスフレアで真横に一閃した。その剣身から放たれた白い光の波動は、激しく振動しながら前方に広がり、アンデッドの身体を寸断してしまった。
それと同時にアンデッドの身体が光の粒となって四散し、泡のように消えていく。
アクアスフレアはその役割を終えたように、青白い光を放つのを止めた。
「これって確かに面倒よね。」
思わず呟いたリリスである。それはアクアスフレアに投入した魔力がそれなりに多かったからだ。
少しづつ魔金属をはがすたびにこの戦闘を繰り返すのかと思うと、うんざりしてしまう。
こんなのやってられないわね。
リリスはそう思ってアクアスフレアをマジックバッグに戻そうとした。
その時、リリスの目の前に光の玉が現われ、フッと姿を変えて水色の衣装を着たピクシーが出現した。
これは・・・ユリアだ。
でも、どうして?
驚くリリスに向けてユリアが話し掛けて来た。
「懐かしいわねえ! それってアクアスフレアじゃないの! あまりに懐かしい波動を感じて、思わず飛んで来ちゃったわよ。」
ユリアの言葉にリリスは驚いた。
「どうしてアクアスフレアを知っているの?」
「だって、そのアクアスフレアって私がイメルダに授けた魔剣なのよ。」
「イメルダって誰?」
リリスの疑問にユリアはアハハハと笑った。
「リリスが知らないのも無理ないわよね。イメルダはドラゴニュートの国の開祖ロムスの母親よ。その当時の部族長の娘で、実質的な国の開祖だけどね。」
「女性が国の実質的な開祖ってどう言う事?」
リリスには話の内容が良く掴めない。
「3000年ほど前、ドラゴニュートは部族間の抗争が激しかったのよ。当時は21の部族が血で血を洗う様な抗争を繰り返していたの。そのうちの一つの部族の長の娘がイメルダ。聡明で交渉力に長けた優秀な女性だったわ。」
水色の衣装のピクシーが遠くを見つめるような表情を見せた。
「ドラゴニュートの国を建て、部族間抗争を終わらせたいと願うイメルダにたまたま出会って、その構想の役に立てなさいと言いながら授けたのがそのアクアスフレアなのよ。それにしても懐かしいわねえ。」
そう言いながらピクシーがアクアスフレアに近付き、その剣身をいとおしむように撫でた。
だがその手で剣身中央の溝を塞いでいる魔金属に触れると、その手の動きが止まった。
「随分多くの竜族を倒したようね。ここまで溜まると8000から9000の竜族が犠牲になっているわねえ。」
どうやらユリアはアクアスフレアの特性を知っているようだ。ユリアが授けた魔剣だと言うのだから、当然と言えば当然の事なのだが。
「でもこれってどこにあったの?」
ユリアの言葉にリリスはそれまでの経緯を説明した。
だが話を聞くにつれてピクシーがう~んと唸りながら首を傾げた。
「ロングソードって何?」
「ロングソードはロングソードよ。このショートソードと合わせて二本でアクアスフレアなんでしょ?」
「何を言っているのよ。この剣がアクアスフレア! ショートソードって言うけど、イメルダが持つための女性用の剣だからこのサイズなのよ。」
うん?
話がかみ合っていないわね。
「だって・・・・・シューサックさんが修復のために預かったアクアスフレアは、ロングソードとショートソードの二本だったのよ。」
「だからぁ、そのロングソードって何なのよ。」
そう言ってピクシーは少し考え込んだ。程なく何かに気付いたように目を見開き、小声で呟くように話し始めた。
「そう言えば・・・・・イメルダが息子のロムスを開祖の位置に立てた時、アクアスフレアに似た水属性の大剣を造らせたって言ってたわね。開祖が持つ魔剣として、見栄えが良いものが欲しいって言ってたわ。もしかしてそれがそのロングソード?」
「ちょっと待ってよ! そうなると私は本物のアクアスフレアを持ち帰って来たって事?」
リリスの心に焦りが募る。
「そう言う事になるわよね。だってこれが正真正銘のアクアスフレアなんだもの。授けた私が言うんだから間違いないわよ。」
ユリアの言葉にリリスは軽い眩暈を覚えた。それが本当だとしたら・・・本物のアクアスフレアを返せと言ってくるだろう。ドラゴニュートを騙して持ち帰って来たと言う風に嫌疑を掛けられないだろうか?
拙い事になって来たわね・・・。
「ねえ、ユリア。私ってどうしたら良いの?」
「そんなの私に聞かないでよ。」
ユリアにしてもそう答えるしかない。
リリスはアクアスフレアを手に持ち、しばらく言葉も無く立ち尽くしていた。
その数日後。
リリスの不安が現実となって展開された。
昼休みの時間に職員室の傍のゲストルームに呼び出されたリリスは、ソファの上で座って待つ人物と使い魔を目にした。
メリンダ王女とフィリップ王子の使い魔の傍に座っているのは、上級貴族で文官のノイマンだ。
これは・・・アクアスフレアの件に違いない。
リリスは不安を胸に恐る恐るソファに座ったのだった。
リリスは夢の中で真っ白な部屋の中に居た。目の前には椅子が並び、シューサックとキングドレイクが笑顔で座っている。
この状況はリリスも予想していたのだが・・・。
リリスが椅子に座るとシューサックが話し掛けて来た。
「リリス。ご苦労様だったな。恩に着るぞ。これで儂も思い残す事は無い。」
まるで成仏するぞと言わんばかりね。実際は加護と言う形態ながら正体不明なんだけど。
「お役に立てて良かったです。」
心にも無い事を口にしたリリスである。
「でも、ロングソードは受け取ってくれましたが、ショートソードは返されてしまいました。私に対する報償だと言う、子供だましの恩着せがましい言葉を添えて。」
皮肉交じりのリリスの言葉にシューサックは失笑した。
「うむ。あのショートソードは特殊な呪いが掛かっていて、儂でも修復出来なかったのだ。いや、修復出来ない事は無いのだが、手間と負担が多すぎる。過酷と言うべきか・・・・・」
シューサックの言葉の歯切れが悪い。
リリスが疑問に思っていると、キングドレイクがシューサックの言葉を補足した。
「儂が説明してやろう。リリス、あの魔剣を何だと思う?」
「何だと思うかと聞かれても、魔剣は魔剣ですよね。アクアスフレアと言う名前の水属性の魔剣です。」
リリスの言葉にキングドレイクはうんうんと頷いた。
「まあ、それはそうなんだがな。あの魔剣は稀有なドラゴンスレイヤーなのだよ。」
ええっ!
そうなの?
リリスの驚きを他所にキングドレイクは話を続けた。
「あのショートソードに課せられているのは、人族の言う一般的な呪いではない。竜族固有の再生能力や好戦的な気性、更に魔素や残留思念などをあの魔剣が取り込んでいるのだ。」
「アクアスフレアはその特性として倒した竜族の魔素を吸い上げる。言い換えれば吸血性の魔剣のようなものだ。あの剣の犠牲になった何千もの竜族の魔素が魔金属に姿を変え、剣身中央の溝にこびりついている。しかもそれは単なる魔素ではない。」
キングドレイクは言葉を選ぶような仕草をし、少し間を置いた。
「アクアスフレアに屈した事を受け入れていない、納得していない残留思念の塊と言った方が良いのだろう。それ故にあのこびりついている魔金属をはがすと、その分量に応じてアンデッド化した竜族が出現するのだ。」
厄介な剣ね。
でもそれだけアクアスフレアって強力な破壊力を持っていると言う事なのね。
「それならマキちゃんに浄化して貰えば良いんじゃないですか? なんだったら魂魄浄化って言う方法もあるし・・・」
リリスの言葉にキングドレイクは首を横に振った。
「単なる浄化では効果は無い。魂魄浄化も数名の介助者を伴って、聖女として神殿などで正式にやらなければ、完全には除去出来ないだろう。」
それは簡単じゃないわね。
マキちゃんは既に聖女の位置と称号は無いからなあ。
「はがす魔金属の分量に応じて出現するアンデッドは、アクアスフレアを持つ者に対して攻撃を仕掛けてくる。それを再び倒し、あの魔剣に屈した事をもう一度理解させてやらなければならんのだ。」
まあ、どこまでも面倒臭い魔剣なのねえ。
「少しずつはがしながら少しずつ倒していく。その作業にとてつもなく時間が掛かる。鍛冶職人の儂には手が負えん。」
そう言ってシューサックは深くため息をついた。
「リリス。お前にそれを直ぐにやれとは言わないが、気が向いたら少しづつやってくれないか? 少しづつで良いから。」
私にそんな事まで託さないでよ。
「気が向いたら・・・・・ですね。」
そう答えてリリスはシューサックから目を逸らした。それは気乗りがしないと言うリリスの意思表示でもある。
リリスの表情を見て、シューサックも話の落としどころを読み取った。
「まあ、いずれにしてもロングソードは依頼主の元に戻った。それで良しとしよう。いや、そのような言い方はリリスには失礼だな。」
「改めて礼を言おう。リリス、ご苦労様だった。心から感謝しておるぞ。」
シューサックは言い終わるとリリスに深々と頭を下げた。
「お役に立てて良かったです。」
リリスの言葉に他意は無い。
その言葉を聞きながら、シューサックとキングドレイクは笑顔を見せ、そのまま消えていった。
それと同時にリリスも深い眠りに陥っていった。
その日の昼休み。
リリスは休憩時間に魔法学院の薬草園に足を運んでいた。
マジックバッグからおもむろに取り出したのはショートソード、魔剣アクアスフレアである。
リリスは夢の中でキングドレイクから聞いた話が気になっていた。
魔剣の剣身の溝を塞いでいる魔金属に触れると、何となく指にピリッと電気が流れるように感じた。
これって要するに怨念を孕んだ魔金属なのね。
少しはがしてみようと思ったのは自分の力への過信でもある。
僅かな数のアンデッドなら自分でも対処出来るはずだ。
だがそれ以上に、アクアスフレアの持つ力を見てみたいと言うのがリリスの本音だった。
怖いもの見たさに、リリスは魔金属錬成のスキルを発動させ、そのこびりついている魔金属を僅かにはがしてみた。
そのはがした僅かな魔金属を手に取ると、それは小さな光の玉になり、少し離れた地面に落ちた。
その途端にその場に現れたのは2体のドラゴニュートの戦士だ。しかもアンデッド化していて瘴気を周囲に放っている。
その瘴気に堪らず、リリスは魔装を発動させた。
魔剣アクアスフレアを構えるリリス。
ギエエエエエッと言う不気味な声を上げてリリスを、否、アクアスフレアをアンデッドが睨みつけた。
その目は赤く光り、その顔は髑髏と言うよりはミイラに近い。粗末な剣を持ち、リリスに向かってにじり寄って来た。
拙いわね。
リリスは魔力を集中させ、アンデッドの足元に土魔法で深さ1mほどの泥沼を出現させた。更に2体のアンデッドがその泥沼に嵌ると、その泥沼を硬化させて敵の動きを止めた。
2体のアンデッドは硬化された地面から抜け出せず、上半身を動かしているがその場に固定されたままだ。
相手はアンデッドなので、泥沼の中に完全に埋めてしまっても倒したことにはならない。元々呼吸していないのだから。
アンデッドを見つめながら、リリスはアクアスフレアに水属性の魔力を流した。
水属性の魔法に関してはリリスもあまり得意ではない。リリスの中では持ち合わせている程度の扱いだ。
だがリリスの持つ魔力の特性や覇竜の加護に反応したようで、アクアスフレアは青白い光を放ち始めた。
それと同時にリリスの脳裏に言葉が浮かび上がってきた。
『超音波振動』
更に言葉と同時に激しく振動するウォーターカッターのイメージが浮かんでくる。
このスキルを使えって言うのね。
これって水の女神を装っていたユリアが、浄化のように見せていたスキルじゃないの。
アクアスフレアの意図を理解したリリスはそのイメージを頭に描きながら、超音波振動の発動を念じつつ魔力を大きく流した。
アクアスフレアの剣先から光がほとばしり、剣身が細かく振動し始めた。
リリスは身動きの出来ないアンデッドに近付き、アクアスフレアで真横に一閃した。その剣身から放たれた白い光の波動は、激しく振動しながら前方に広がり、アンデッドの身体を寸断してしまった。
それと同時にアンデッドの身体が光の粒となって四散し、泡のように消えていく。
アクアスフレアはその役割を終えたように、青白い光を放つのを止めた。
「これって確かに面倒よね。」
思わず呟いたリリスである。それはアクアスフレアに投入した魔力がそれなりに多かったからだ。
少しづつ魔金属をはがすたびにこの戦闘を繰り返すのかと思うと、うんざりしてしまう。
こんなのやってられないわね。
リリスはそう思ってアクアスフレアをマジックバッグに戻そうとした。
その時、リリスの目の前に光の玉が現われ、フッと姿を変えて水色の衣装を着たピクシーが出現した。
これは・・・ユリアだ。
でも、どうして?
驚くリリスに向けてユリアが話し掛けて来た。
「懐かしいわねえ! それってアクアスフレアじゃないの! あまりに懐かしい波動を感じて、思わず飛んで来ちゃったわよ。」
ユリアの言葉にリリスは驚いた。
「どうしてアクアスフレアを知っているの?」
「だって、そのアクアスフレアって私がイメルダに授けた魔剣なのよ。」
「イメルダって誰?」
リリスの疑問にユリアはアハハハと笑った。
「リリスが知らないのも無理ないわよね。イメルダはドラゴニュートの国の開祖ロムスの母親よ。その当時の部族長の娘で、実質的な国の開祖だけどね。」
「女性が国の実質的な開祖ってどう言う事?」
リリスには話の内容が良く掴めない。
「3000年ほど前、ドラゴニュートは部族間の抗争が激しかったのよ。当時は21の部族が血で血を洗う様な抗争を繰り返していたの。そのうちの一つの部族の長の娘がイメルダ。聡明で交渉力に長けた優秀な女性だったわ。」
水色の衣装のピクシーが遠くを見つめるような表情を見せた。
「ドラゴニュートの国を建て、部族間抗争を終わらせたいと願うイメルダにたまたま出会って、その構想の役に立てなさいと言いながら授けたのがそのアクアスフレアなのよ。それにしても懐かしいわねえ。」
そう言いながらピクシーがアクアスフレアに近付き、その剣身をいとおしむように撫でた。
だがその手で剣身中央の溝を塞いでいる魔金属に触れると、その手の動きが止まった。
「随分多くの竜族を倒したようね。ここまで溜まると8000から9000の竜族が犠牲になっているわねえ。」
どうやらユリアはアクアスフレアの特性を知っているようだ。ユリアが授けた魔剣だと言うのだから、当然と言えば当然の事なのだが。
「でもこれってどこにあったの?」
ユリアの言葉にリリスはそれまでの経緯を説明した。
だが話を聞くにつれてピクシーがう~んと唸りながら首を傾げた。
「ロングソードって何?」
「ロングソードはロングソードよ。このショートソードと合わせて二本でアクアスフレアなんでしょ?」
「何を言っているのよ。この剣がアクアスフレア! ショートソードって言うけど、イメルダが持つための女性用の剣だからこのサイズなのよ。」
うん?
話がかみ合っていないわね。
「だって・・・・・シューサックさんが修復のために預かったアクアスフレアは、ロングソードとショートソードの二本だったのよ。」
「だからぁ、そのロングソードって何なのよ。」
そう言ってピクシーは少し考え込んだ。程なく何かに気付いたように目を見開き、小声で呟くように話し始めた。
「そう言えば・・・・・イメルダが息子のロムスを開祖の位置に立てた時、アクアスフレアに似た水属性の大剣を造らせたって言ってたわね。開祖が持つ魔剣として、見栄えが良いものが欲しいって言ってたわ。もしかしてそれがそのロングソード?」
「ちょっと待ってよ! そうなると私は本物のアクアスフレアを持ち帰って来たって事?」
リリスの心に焦りが募る。
「そう言う事になるわよね。だってこれが正真正銘のアクアスフレアなんだもの。授けた私が言うんだから間違いないわよ。」
ユリアの言葉にリリスは軽い眩暈を覚えた。それが本当だとしたら・・・本物のアクアスフレアを返せと言ってくるだろう。ドラゴニュートを騙して持ち帰って来たと言う風に嫌疑を掛けられないだろうか?
拙い事になって来たわね・・・。
「ねえ、ユリア。私ってどうしたら良いの?」
「そんなの私に聞かないでよ。」
ユリアにしてもそう答えるしかない。
リリスはアクアスフレアを手に持ち、しばらく言葉も無く立ち尽くしていた。
その数日後。
リリスの不安が現実となって展開された。
昼休みの時間に職員室の傍のゲストルームに呼び出されたリリスは、ソファの上で座って待つ人物と使い魔を目にした。
メリンダ王女とフィリップ王子の使い魔の傍に座っているのは、上級貴族で文官のノイマンだ。
これは・・・アクアスフレアの件に違いない。
リリスは不安を胸に恐る恐るソファに座ったのだった。
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