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開祖の霊廟 後日談2
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リリスがメリンダ王女に呼び出された日の2日前。
開祖の霊廟に向かって行軍する10名ほどの兵士達の姿があった。
その先頭に立ち、指揮をしているのはジークだ。
その表情は如何にも面倒臭そうで、嫌々ながらにこの任務を引き受けた事がありありと分かる。
レザーアーマーにガントレットと言う軽装ながら、周囲に探知を張り巡らせていて、決して油断はしていない。
最近この近くの村人が、凶悪な魔物に遭遇したと言う報告を受けていたからだ。
どうやらトロールが迷い込んできたらしい。
トロールは見つけ次第駆除する事になっている。
図体がでかいので、接近に気付かず突如襲われると言うような事は無いが、それでも警戒するに越した事は無い。
ジークは鋭い眼光を周囲に振り向けながら、霊廟への道のりを急いだ。
ジークの傍には初老の男性が、ジークと同じような軽装で随伴している。
この男の名はケーニスと言い、今回の任務でジークが特別に招聘した隣国の魔導士だ。
稀有な才能の持ち主で、空間魔法のスペシャリストでもある。
ジークにしてみれば、どんな危険が待ち受けているかもしれない任務だ。しかも依頼主がメリンダ王女である。
勘弁願いたいと言ってしまいたいところだが、そう言う訳にもいかず、万全の準備を整えての調査となった。
マジでヤバくなれば、ケーニス殿の空間魔法でその魔物を隔離してしまえば良い。
要するに保険として招聘したのだ。
「ジーク殿。その魔物についての情報はあるのか?」
ケーニスの言葉にジークは苦笑いを浮かべた。
「実はあまり無いのですよ。闇のような魔物だとしか聞いておりません。」
そうなのだ。
メリンダ王女からの情報が曖昧で良く分からない。
それは闇のような魔物で、開祖の霊廟の周辺の生命を片っ端から取り込んでしまうと言うのだが、それだけでは対処の仕様が無いのだ。
本当に闇のような実体のない魔物だとすれば、物理攻撃は無効だろう。
魔法攻撃すら効くのか否か分からない。
危険度を正確に認識出来ないのだ。
「どうしても厄介な魔物だったとしたら、ケーニス殿の空間魔法で隔離していただくのが得策だと思います。」
「うむ。魔法攻撃すら効かぬのなら、不要な被害が出ぬうちに処理するのが良いでしょうな。」
そう言ってケーニスは顎を撫でた。
その足元でガサッと音がして、小さなウサギが飛び出し、ケーニスの前方に跳ねるように逃げて行った。だが10mほど先でそのウサギの身体が突然宙に舞った。その胴体に黒い触手が巻き付き、そのまま前方の藪の中に消えていった。
あれはシャドウバインドだ!
驚いたジークは兵士達にその場で待機するように指示を出した。
「気を付けろ! 前方の藪の奥に闇の魔物が居るぞ!」
藪の側方から回り込むように少しづつ移動すると、その切れ目から黒い塊りが見えて来た。
それはまさに闇だ。
真っ黒な闇が見えない壁に取りつくように位置している。黒く細い触手を数本、周辺に伸ばしているのは獲物を得るためだろうか?
触手の届かぬ距離から手始めに攻撃してみよう。そう思ってジークは兵士達に魔法攻撃の指示を出した。
兵士達はそれぞれにファイヤーボールを放ち、サンダーボルトを放ち、エアカッターを放った。
だがそれらは全て闇の中に吸い込まれるように消えていく。
闇の魔物には何の変化も起こらない。
「魔法攻撃も効かないのか!」
ジークの呟く声にケーニスも息を呑んだ。
だが様子を見ている間も無く、闇の魔物は不可侵圏の傍から離れ、球形になってゆっくりとジーク達の方に動き始めた。
「下がれ! 下がるんだ!」
ジークの叫びに兵士達も咄嗟に後退し始めた。だが突然闇から伸ばされた黒く細い触手が一人の兵士の足に纏わりつき、引き込もうとし始めた。
慌てた兵士はその傍らに生えていた樹木の幹にしがみついて抵抗した。
だが次の触手がその樹木に巻き付き、引っ張られた樹木はその根ごと引き倒されそうになっている。
「拙いな。隔離しますぞ!」
一歩前に出たケーニスは魔力を集中させ、気合と共にその両手から閃光を放った。兵士と樹木と黒い触手の周囲が一瞬ぼやけ、次の瞬間その場に半透明の球体が地上から僅かに浮かんでいるのが目に入った。その中にあの兵士と樹木の一部がうっすらと見えている。
亜空間で隔離させたと言う事なのだろうか?
ジークの表情を見てケーニスは手短に話した。
「あれは時限監獄です。内部には闇の魔物の触手は見られない。本体から切り離されて消滅したのでしょうな。」
「それは・・・亜空間で本体を隔離出来ると言う事ですね。」
反射的に返ってきたジークの言葉にケーニスは頷き、
「うむ。その通りだ。今直ぐ隔離しますぞ!」
そう言って再度魔力を集中させた。
その両手から魔力が放たれ、闇の周囲に幾つもの魔方陣が出現した。その魔方陣から瞬時に閃光が放たれ、闇の周囲が薄い紫色の空間で包み込まれた。その半透明の壁越しに闇が動き回っているのが見える。だが亜空間に隔離されてその外側には出てこられないようだ。
一辺が5mほどの立方体の形状の亜空間の中で、闇はしばらく暴れていたが、5分ほど経って諦めたように動かなくなってしまった。
ケーニスはその様子を注意深く見つめながら、その亜空間の領域の四隅に小さな埋め込み型の魔道具を設置した。
「この魔道具で亜空間を強化すれば、この状態で7日間維持出来る。亜空間ごと消滅させられるか否かは分かりませぬが・・・」
ケーニスの言葉にジークはうんうんと頷いた。
「7日間ですね。とりあえずこの状態で結構です。王族からは奴を消滅させろとは言われておりません。あくまでも調査が目的ですので・・・」
そう言ってジークは兵士達に撤収の指示を出した。
「後の事はお任せしますよ、王女様。」
ジークは皮肉めいた小声でそう呟き、やや疲れた表情でケーニスを労いながら帰途に就いたのだった。
一方、時限監獄によって亜空間に隔離されてしまった闇は、自分の置かれている状況を把握するために情報を収集しようと試みた。
閉ざされた空間の中から出る事は不可能だと当初は感じた。だがそのままその空間内に留まっていると確実に飢える事になる。
亜空間内には魔素に分解できるものなどないのだから。
闇は自分に対して空間魔法を施した人間の記憶を辿った。その人間は闇を亜空間に隔離した後に、その周囲に小さな物体を配置していた。
それを魔道具とは理解していなかったが、その物体が放つ特殊な魔力を闇は感じ取っていたのだ。
あの四隅にある物体がこの亜空間を維持しているのかも知れない。
あれを何とか出来ないだろうか?
闇は触手を伸ばし、周囲を探り始めた。
伸ばした触手は見えない壁に阻まれてしまうのだが、これを擦り抜ける事は本当に不可能なのだろうか?
魔力で創り上げた壁なら小さな穴をあける事も出来るのではないか?
闇の発想は空間魔法の常識に囚われていない。
その見えない壁に触手を擦りつけると、その壁を構成している魔力を解析し始めた。
それは普通に考えれば無謀な事なのだが、その亜空間を構成する際の魔力を再現出来れば何とかなるのではないかと闇は考えた。
触手の先から魔力を放ち反応を見る。
微妙に魔力の波長を変え、それを放つタイミングや強弱、更に抑揚までも微妙に変えながら試してみた。
普通の人間ならこんな事はまず考えないだろう。
だが先入観や既成概念の無い闇にとっては、色々と試行錯誤する事に抵抗が無かった。
更にあれこれと試行錯誤を繰り返しているうちに、魔力操作そのものも習熟するようになった。
ある段階を越えた時、闇は自分の身体の一部を切り離して自在に操作出来るようになっていた。
更に魔力の壁の構成要素をおぼろげながらも理解出来るようになってきた。
この壁は、構成する魔力がそのパターンを微妙に変えながら、縦横無尽に激しく動き回っている。
それがこの時点で闇が感じ取った魔力の壁の構成要素だ。
瞬間的に変化していく壁の魔力のパターンと、自分が放つ魔力のパターンを合わせる事が出来れば何とかなるかも・・・・・。
闇はそれを地道に試してみた。
それはまるで幾つものダイヤルロックで守られた金庫を開けるために、一つずつ数字を変えて試していくようなものだ。
その組み合わせは無数と思えるほどにある。
それでも闇は諦めない。
否、諦めると言う発想そのものが、闇の意識内に発生していなかったのだろう。
闇はその作業を何時間も続けた。
その作業の過程で闇は自分の身体の一部を切り離し、それにも別に作業を行わせる事を始めた。
更に闇は身体の一部を切り離す事を繰り返し、幾つもの小さな闇が同時進行で微妙に異なる魔力を放ち、その反応を闇の本体に返してくる。
それによって作業の効率が格段に良くなってきた。
そして偶然にもその小さな闇の放った魔力が壁の魔力と瞬間的に一致した。その波長や強弱抑揚や質が一致したようだ。
勿論壁を構成している魔力はその構成やパターンが常に変化しているのだが、偶然にも一致したのだろう。
その1秒にも満たない一瞬の出来事を闇は見逃さなかった。
瞬時にその箇所に小さな闇を同化させ、壁の外に送り込む事が出来たのだ。それは空間魔法の常識を覆す現実である。
だがそんな事は闇の意識の中にはない。
送り出した穴は瞬時に消えてしまったが、小さな闇との意識の流れは切れていないようだ。
外に送り出した小さな闇に闇の本体は指示を出し、壁の四隅にある魔道具の一つを破壊させた。
小さな闇が魔道具を取り込み魔素に分解してしまうと、その魔道具の魔素の特殊な味わいが闇の本体に伝わってくる。
それがまた刺激になって、闇は残りの魔道具の破壊を急がせた。
全ての魔道具が消滅すると壁は・・・・・・・・消えなかった。
だがその壁を維持出来る時間がかなり短縮されたのは分かる。
程なく壁が消滅すると予測出来た時、闇の意識の中に小さな達成感が生じた。もう少し待てば外に出られる。
その予測が闇の意識を高ぶらせる。
闇は期待と共に、待つと言う事を覚えた。
時間はその2日後に戻る。
職員室の傍のゲストルームでメリンダ王女からジークの報告内容を聞き、リリスはふと疑問に思った。
「亜空間に隔離してからどうするの? 隔離してから7日間しか維持出来ないのよね?」
リリスの言葉に芋虫が身体を左右に揺らした。
「良いのよ、時間的には間に合うから。」
「間に合うってどう言う事?」
リリスの問い掛けに小人が口を開いた。
「明日にもこの2体の芋虫を憑依させて、霊廟に向かって欲しいんだよ。明日は休日だよね?」
「そこに行ってどうするんですか? 魔法攻撃の通じない相手なら、私には何も出来ませんけど・・・」
渋面のリリスに芋虫がうふふと笑いながら、
「私達を連れて行ってくれれば良いのよ。後は任せて頂戴!」
う~ん。
メルには何か策があるのかしら?
首を傾げるリリスだが、とりあえずはメリンダ王女の依頼を了承した。
そして迎えた翌日の朝。
リリスはその両肩に2体の芋虫を憑依させ、王家直属の兵士数名と共に霊廟に向かっていた。
「ジーク先生は連れてこなかったの?」
リリスの問い掛けにメリンダ王女はえへへと意味深な笑い声を漏らした。
「ジークには今日の事は見られたくないのよ。」
秘密にするって言うの?
意味が分からないわね。
疑問を浮かべながら、兵士達の先導でリリスは霊廟に近付いた。
リリスの目の前に薄い紫色の大きな空間が現れた。これがケーニスの造り上げた亜空間なのだろう。
だが、その周囲に設置されている筈の魔道具が見当たらない。
おかしいわねえ。
不思議に思いながらリリスがその亜空間に近付くと、その中に闇が閉じ込められているのがぼんやりと見えた。
直径2mほどの真っ黒な闇の球体だ。
リリスがその亜空間に近付いた時、メリンダ王女がううっと呻き、立ち止まるように指示を出した。
「あれって・・・、あれってどう言う事なの?」
亜空間の向こう側に霊廟を覆う不可侵圏があったはずだが、あれだけ覆い尽くしていた木々がかなり伐採されたような状態だ。
しかもまだ残っている木々を覆う様に闇が取りつき、食べるように徐々に取り込んでいるのが見えた。
その木々の中にはトレントも混ざっていて、その枝を振り回しながら抵抗しているが、闇はお構いなくそれを取り込んでいく。
「闇の魔物って2体も居たの?」
リリスの疑問にメリンダ王女からの返答は無い。だがもう一方のエミリア王女の使い魔の芋虫が声を上げた。
「レイさんが霊廟の中に退避していると、精霊達が教えてくれました。不可侵圏を突破されてしまったそうです。」
それって尋常じゃないわね。
「メル。拙いわよ。もう1体闇の魔物が居るんだったら、私達には対処出来ないわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女はう~んと唸り、
「困ったわねえ。闇の魔物を捕獲すれば後は処理してくれるって言う約束だったのよ。」
「約束って誰と?」
リリスの言葉にメリンダ王女は即答しなかった。
少し間を置いて、
「ゲルよ。」
ええっ!
ゲルとそんな約束をしていたの?
リリスの驚きに芋虫は身体を小さくしてしまった。
「安易にゲルと約束して大丈夫なの? 見返りを求められるんじゃないの?」
「それは・・・・・」
メリンダ王女の言葉が途切れる。余程言い難い事なのだろう。
芋虫が身体を旋回し始めた。
何か迷っているような仕草だがその意図は分からない。メリンダ王女の心象を反映しているようだが・・・。
程なくメリンダ王女の言葉が聞こえて来た。
「闇の神殿を建ててあげるって約束したのよ。」
「闇の神殿! そんなものを何処に建てるのよ。まさか王都に建てるつもりじゃないでしょうね。」
メリンダ王女の言葉にリリスは反射的に答えた。
「ダメかなあ?」
「ダメに決まってるでしょ! ミラ王国が闇の勢力に取り込まれたって噂されるわよ。」
そう答えて闇が囚われている亜空間に目を向けると、信じられない事にその薄い紫色の半透明の壁が徐々に消えていくのが見えた。
「メル!大変よ!亜空間が消えていく・・・・」
リリスの悲鳴に近い声にメリンダ王女も驚き、薄れゆく亜空間の壁を目にした。
「そんな・・・・・。7日間は維持出来るって聞いたわよ。」
「そんな呑気な事を言っている場合じゃないわよ! 逃げるわよ!」
リリスはそう言うと同行していた兵士達と急いでその場を離れた。
遠ざかるリリス達の視界の中で、亜空間が消えて闇が外に現れたのが見える。出てきた闇は、トレント達を取り込もうとしているもう1体の闇の方向に向かっていった。亜空間があった場所からかなり離れた場所で元の不可侵圏を眺めると、リリスの目に驚くべき光景が映った。
2体の闇が接近し、一つになってしまった。それはそのまま大きくその身体を引き延ばし、複数のトレントを一気に取り込んでいく。
バリバリバリと食いちぎられるような音が響き渡り、複数のトレント達が抵抗も出来ず、一気に魔素に分解されていくのが遠くからも分かる。
その光景に誰も声を上げられず、じっと見つめているだけだった。
開祖の霊廟に向かって行軍する10名ほどの兵士達の姿があった。
その先頭に立ち、指揮をしているのはジークだ。
その表情は如何にも面倒臭そうで、嫌々ながらにこの任務を引き受けた事がありありと分かる。
レザーアーマーにガントレットと言う軽装ながら、周囲に探知を張り巡らせていて、決して油断はしていない。
最近この近くの村人が、凶悪な魔物に遭遇したと言う報告を受けていたからだ。
どうやらトロールが迷い込んできたらしい。
トロールは見つけ次第駆除する事になっている。
図体がでかいので、接近に気付かず突如襲われると言うような事は無いが、それでも警戒するに越した事は無い。
ジークは鋭い眼光を周囲に振り向けながら、霊廟への道のりを急いだ。
ジークの傍には初老の男性が、ジークと同じような軽装で随伴している。
この男の名はケーニスと言い、今回の任務でジークが特別に招聘した隣国の魔導士だ。
稀有な才能の持ち主で、空間魔法のスペシャリストでもある。
ジークにしてみれば、どんな危険が待ち受けているかもしれない任務だ。しかも依頼主がメリンダ王女である。
勘弁願いたいと言ってしまいたいところだが、そう言う訳にもいかず、万全の準備を整えての調査となった。
マジでヤバくなれば、ケーニス殿の空間魔法でその魔物を隔離してしまえば良い。
要するに保険として招聘したのだ。
「ジーク殿。その魔物についての情報はあるのか?」
ケーニスの言葉にジークは苦笑いを浮かべた。
「実はあまり無いのですよ。闇のような魔物だとしか聞いておりません。」
そうなのだ。
メリンダ王女からの情報が曖昧で良く分からない。
それは闇のような魔物で、開祖の霊廟の周辺の生命を片っ端から取り込んでしまうと言うのだが、それだけでは対処の仕様が無いのだ。
本当に闇のような実体のない魔物だとすれば、物理攻撃は無効だろう。
魔法攻撃すら効くのか否か分からない。
危険度を正確に認識出来ないのだ。
「どうしても厄介な魔物だったとしたら、ケーニス殿の空間魔法で隔離していただくのが得策だと思います。」
「うむ。魔法攻撃すら効かぬのなら、不要な被害が出ぬうちに処理するのが良いでしょうな。」
そう言ってケーニスは顎を撫でた。
その足元でガサッと音がして、小さなウサギが飛び出し、ケーニスの前方に跳ねるように逃げて行った。だが10mほど先でそのウサギの身体が突然宙に舞った。その胴体に黒い触手が巻き付き、そのまま前方の藪の中に消えていった。
あれはシャドウバインドだ!
驚いたジークは兵士達にその場で待機するように指示を出した。
「気を付けろ! 前方の藪の奥に闇の魔物が居るぞ!」
藪の側方から回り込むように少しづつ移動すると、その切れ目から黒い塊りが見えて来た。
それはまさに闇だ。
真っ黒な闇が見えない壁に取りつくように位置している。黒く細い触手を数本、周辺に伸ばしているのは獲物を得るためだろうか?
触手の届かぬ距離から手始めに攻撃してみよう。そう思ってジークは兵士達に魔法攻撃の指示を出した。
兵士達はそれぞれにファイヤーボールを放ち、サンダーボルトを放ち、エアカッターを放った。
だがそれらは全て闇の中に吸い込まれるように消えていく。
闇の魔物には何の変化も起こらない。
「魔法攻撃も効かないのか!」
ジークの呟く声にケーニスも息を呑んだ。
だが様子を見ている間も無く、闇の魔物は不可侵圏の傍から離れ、球形になってゆっくりとジーク達の方に動き始めた。
「下がれ! 下がるんだ!」
ジークの叫びに兵士達も咄嗟に後退し始めた。だが突然闇から伸ばされた黒く細い触手が一人の兵士の足に纏わりつき、引き込もうとし始めた。
慌てた兵士はその傍らに生えていた樹木の幹にしがみついて抵抗した。
だが次の触手がその樹木に巻き付き、引っ張られた樹木はその根ごと引き倒されそうになっている。
「拙いな。隔離しますぞ!」
一歩前に出たケーニスは魔力を集中させ、気合と共にその両手から閃光を放った。兵士と樹木と黒い触手の周囲が一瞬ぼやけ、次の瞬間その場に半透明の球体が地上から僅かに浮かんでいるのが目に入った。その中にあの兵士と樹木の一部がうっすらと見えている。
亜空間で隔離させたと言う事なのだろうか?
ジークの表情を見てケーニスは手短に話した。
「あれは時限監獄です。内部には闇の魔物の触手は見られない。本体から切り離されて消滅したのでしょうな。」
「それは・・・亜空間で本体を隔離出来ると言う事ですね。」
反射的に返ってきたジークの言葉にケーニスは頷き、
「うむ。その通りだ。今直ぐ隔離しますぞ!」
そう言って再度魔力を集中させた。
その両手から魔力が放たれ、闇の周囲に幾つもの魔方陣が出現した。その魔方陣から瞬時に閃光が放たれ、闇の周囲が薄い紫色の空間で包み込まれた。その半透明の壁越しに闇が動き回っているのが見える。だが亜空間に隔離されてその外側には出てこられないようだ。
一辺が5mほどの立方体の形状の亜空間の中で、闇はしばらく暴れていたが、5分ほど経って諦めたように動かなくなってしまった。
ケーニスはその様子を注意深く見つめながら、その亜空間の領域の四隅に小さな埋め込み型の魔道具を設置した。
「この魔道具で亜空間を強化すれば、この状態で7日間維持出来る。亜空間ごと消滅させられるか否かは分かりませぬが・・・」
ケーニスの言葉にジークはうんうんと頷いた。
「7日間ですね。とりあえずこの状態で結構です。王族からは奴を消滅させろとは言われておりません。あくまでも調査が目的ですので・・・」
そう言ってジークは兵士達に撤収の指示を出した。
「後の事はお任せしますよ、王女様。」
ジークは皮肉めいた小声でそう呟き、やや疲れた表情でケーニスを労いながら帰途に就いたのだった。
一方、時限監獄によって亜空間に隔離されてしまった闇は、自分の置かれている状況を把握するために情報を収集しようと試みた。
閉ざされた空間の中から出る事は不可能だと当初は感じた。だがそのままその空間内に留まっていると確実に飢える事になる。
亜空間内には魔素に分解できるものなどないのだから。
闇は自分に対して空間魔法を施した人間の記憶を辿った。その人間は闇を亜空間に隔離した後に、その周囲に小さな物体を配置していた。
それを魔道具とは理解していなかったが、その物体が放つ特殊な魔力を闇は感じ取っていたのだ。
あの四隅にある物体がこの亜空間を維持しているのかも知れない。
あれを何とか出来ないだろうか?
闇は触手を伸ばし、周囲を探り始めた。
伸ばした触手は見えない壁に阻まれてしまうのだが、これを擦り抜ける事は本当に不可能なのだろうか?
魔力で創り上げた壁なら小さな穴をあける事も出来るのではないか?
闇の発想は空間魔法の常識に囚われていない。
その見えない壁に触手を擦りつけると、その壁を構成している魔力を解析し始めた。
それは普通に考えれば無謀な事なのだが、その亜空間を構成する際の魔力を再現出来れば何とかなるのではないかと闇は考えた。
触手の先から魔力を放ち反応を見る。
微妙に魔力の波長を変え、それを放つタイミングや強弱、更に抑揚までも微妙に変えながら試してみた。
普通の人間ならこんな事はまず考えないだろう。
だが先入観や既成概念の無い闇にとっては、色々と試行錯誤する事に抵抗が無かった。
更にあれこれと試行錯誤を繰り返しているうちに、魔力操作そのものも習熟するようになった。
ある段階を越えた時、闇は自分の身体の一部を切り離して自在に操作出来るようになっていた。
更に魔力の壁の構成要素をおぼろげながらも理解出来るようになってきた。
この壁は、構成する魔力がそのパターンを微妙に変えながら、縦横無尽に激しく動き回っている。
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瞬間的に変化していく壁の魔力のパターンと、自分が放つ魔力のパターンを合わせる事が出来れば何とかなるかも・・・・・。
闇はそれを地道に試してみた。
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その組み合わせは無数と思えるほどにある。
それでも闇は諦めない。
否、諦めると言う発想そのものが、闇の意識内に発生していなかったのだろう。
闇はその作業を何時間も続けた。
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更に闇は身体の一部を切り離す事を繰り返し、幾つもの小さな闇が同時進行で微妙に異なる魔力を放ち、その反応を闇の本体に返してくる。
それによって作業の効率が格段に良くなってきた。
そして偶然にもその小さな闇の放った魔力が壁の魔力と瞬間的に一致した。その波長や強弱抑揚や質が一致したようだ。
勿論壁を構成している魔力はその構成やパターンが常に変化しているのだが、偶然にも一致したのだろう。
その1秒にも満たない一瞬の出来事を闇は見逃さなかった。
瞬時にその箇所に小さな闇を同化させ、壁の外に送り込む事が出来たのだ。それは空間魔法の常識を覆す現実である。
だがそんな事は闇の意識の中にはない。
送り出した穴は瞬時に消えてしまったが、小さな闇との意識の流れは切れていないようだ。
外に送り出した小さな闇に闇の本体は指示を出し、壁の四隅にある魔道具の一つを破壊させた。
小さな闇が魔道具を取り込み魔素に分解してしまうと、その魔道具の魔素の特殊な味わいが闇の本体に伝わってくる。
それがまた刺激になって、闇は残りの魔道具の破壊を急がせた。
全ての魔道具が消滅すると壁は・・・・・・・・消えなかった。
だがその壁を維持出来る時間がかなり短縮されたのは分かる。
程なく壁が消滅すると予測出来た時、闇の意識の中に小さな達成感が生じた。もう少し待てば外に出られる。
その予測が闇の意識を高ぶらせる。
闇は期待と共に、待つと言う事を覚えた。
時間はその2日後に戻る。
職員室の傍のゲストルームでメリンダ王女からジークの報告内容を聞き、リリスはふと疑問に思った。
「亜空間に隔離してからどうするの? 隔離してから7日間しか維持出来ないのよね?」
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「良いのよ、時間的には間に合うから。」
「間に合うってどう言う事?」
リリスの問い掛けに小人が口を開いた。
「明日にもこの2体の芋虫を憑依させて、霊廟に向かって欲しいんだよ。明日は休日だよね?」
「そこに行ってどうするんですか? 魔法攻撃の通じない相手なら、私には何も出来ませんけど・・・」
渋面のリリスに芋虫がうふふと笑いながら、
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う~ん。
メルには何か策があるのかしら?
首を傾げるリリスだが、とりあえずはメリンダ王女の依頼を了承した。
そして迎えた翌日の朝。
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「ジーク先生は連れてこなかったの?」
リリスの問い掛けにメリンダ王女はえへへと意味深な笑い声を漏らした。
「ジークには今日の事は見られたくないのよ。」
秘密にするって言うの?
意味が分からないわね。
疑問を浮かべながら、兵士達の先導でリリスは霊廟に近付いた。
リリスの目の前に薄い紫色の大きな空間が現れた。これがケーニスの造り上げた亜空間なのだろう。
だが、その周囲に設置されている筈の魔道具が見当たらない。
おかしいわねえ。
不思議に思いながらリリスがその亜空間に近付くと、その中に闇が閉じ込められているのがぼんやりと見えた。
直径2mほどの真っ黒な闇の球体だ。
リリスがその亜空間に近付いた時、メリンダ王女がううっと呻き、立ち止まるように指示を出した。
「あれって・・・、あれってどう言う事なの?」
亜空間の向こう側に霊廟を覆う不可侵圏があったはずだが、あれだけ覆い尽くしていた木々がかなり伐採されたような状態だ。
しかもまだ残っている木々を覆う様に闇が取りつき、食べるように徐々に取り込んでいるのが見えた。
その木々の中にはトレントも混ざっていて、その枝を振り回しながら抵抗しているが、闇はお構いなくそれを取り込んでいく。
「闇の魔物って2体も居たの?」
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「レイさんが霊廟の中に退避していると、精霊達が教えてくれました。不可侵圏を突破されてしまったそうです。」
それって尋常じゃないわね。
「メル。拙いわよ。もう1体闇の魔物が居るんだったら、私達には対処出来ないわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女はう~んと唸り、
「困ったわねえ。闇の魔物を捕獲すれば後は処理してくれるって言う約束だったのよ。」
「約束って誰と?」
リリスの言葉にメリンダ王女は即答しなかった。
少し間を置いて、
「ゲルよ。」
ええっ!
ゲルとそんな約束をしていたの?
リリスの驚きに芋虫は身体を小さくしてしまった。
「安易にゲルと約束して大丈夫なの? 見返りを求められるんじゃないの?」
「それは・・・・・」
メリンダ王女の言葉が途切れる。余程言い難い事なのだろう。
芋虫が身体を旋回し始めた。
何か迷っているような仕草だがその意図は分からない。メリンダ王女の心象を反映しているようだが・・・。
程なくメリンダ王女の言葉が聞こえて来た。
「闇の神殿を建ててあげるって約束したのよ。」
「闇の神殿! そんなものを何処に建てるのよ。まさか王都に建てるつもりじゃないでしょうね。」
メリンダ王女の言葉にリリスは反射的に答えた。
「ダメかなあ?」
「ダメに決まってるでしょ! ミラ王国が闇の勢力に取り込まれたって噂されるわよ。」
そう答えて闇が囚われている亜空間に目を向けると、信じられない事にその薄い紫色の半透明の壁が徐々に消えていくのが見えた。
「メル!大変よ!亜空間が消えていく・・・・」
リリスの悲鳴に近い声にメリンダ王女も驚き、薄れゆく亜空間の壁を目にした。
「そんな・・・・・。7日間は維持出来るって聞いたわよ。」
「そんな呑気な事を言っている場合じゃないわよ! 逃げるわよ!」
リリスはそう言うと同行していた兵士達と急いでその場を離れた。
遠ざかるリリス達の視界の中で、亜空間が消えて闇が外に現れたのが見える。出てきた闇は、トレント達を取り込もうとしているもう1体の闇の方向に向かっていった。亜空間があった場所からかなり離れた場所で元の不可侵圏を眺めると、リリスの目に驚くべき光景が映った。
2体の闇が接近し、一つになってしまった。それはそのまま大きくその身体を引き延ばし、複数のトレントを一気に取り込んでいく。
バリバリバリと食いちぎられるような音が響き渡り、複数のトレント達が抵抗も出来ず、一気に魔素に分解されていくのが遠くからも分かる。
その光景に誰も声を上げられず、じっと見つめているだけだった。
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伝説のドラゴン 世界をかけた戦い~記憶がない俺が天龍から授かった魔法で無双になる?!~
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俺が話せないのは誰かが魔法をかけたせいなのがわかった。 記憶は?
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
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辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
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