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獣人の国へ1
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リンディと話をしたその日の放課後。
日が傾きかけているがまだ空は明るい。リリスは一人で薬草園の中に入ってきた。
周りにはもちろん誰もいない。薬学のケイト先生から管理を依頼されているのはリリスだけだ。それに広大な薬草園に足を運ぶような、もの好きな生徒は魔法学院にはいない。
一応周囲を見回した上で、リリスはカバンから小さな宝玉を取り出した。
リンディを介してエイヴィスから貰った小さな赤い宝玉は、リリスの手のひらの上で仄かに光り始めた。リリスの魔力に反応しているのだろうか?
リリスはリンディから教えられた通り、自分の魔力をスッと宝玉に流してみた。その途端に宝玉が大きく光り、赤い光の流れがリリスの額にズズッと流れ込んできた。それはまるでリリスの額にコピースキルの入り口があるのを知っているかのように。
少し驚きながらもリリスは、宝玉からの光の流れをそのまま受け入れた。
感覚としてはコピースキルの発動中と同じだ。
光の流れが収まると、宝玉はパリンと音を立てて壊れてしまった。そのかけらが砂のように崩れ、跡形もなく消えていく。
これはどんな仕組みになっているのだろうか?
首を傾げつつリリスは解析スキルを発動させた。
上手く取り込めたかしら?
『取り込めましたが、その詳細は不明です。特殊なスキルだと言う事は分かるのですが、最適化されてステータス上に現れるまでには、しばらく時間が掛かりますね。』
そうなの?
変なものを取り込んだんじゃないでしょうね。
『変なスキルと言う事はなさそうです。現時点で分かっているのは風属性の上位魔法のスキルのようです。』
風属性?
私は風属性は持っていないわよ。
『そうですね。それ故に発動しても、かなり制限の掛かるスキルになると思います。』
『それに、風属性を持っていても発動に制限が掛かるだろうと思われます。それだけ特殊なスキルなのでしょう。』
そう。
それなら楽しみにして待っているわね。
ところで、この猫の形のブローチは何だか分析出来る?
『それは説明を受けた通り、獣人に仮装するための魔道具ですね。でもかなり複雑な動作をしそうなので、カスタマイズの選択肢が豊富にあるのかも知れません。』
そうなの?
それなら試しに作動させてみるわね。
リリスは猫の形のブローチに自分の魔力を流した。
ブローチは白く光り、リリスの目の前に3面の半透明のモニターが現れた。そのモニターがリリスを取り巻くように位置を変え、リリスの全身を写し出している。その姿はすでに猫耳の獣人だ。
ほどなくリリスの手元にこれも半透明の操作盤が出現した。その操作盤には多数のボタンスイッチがあり、それを操作するたびに顔の各部分から手足の形状まで事細かく変更可能になっている。
まるで、RPGのキャラメイクだわ。それもかなり細かく設定可能のようね。
リリスが操作を続けると、肌の色や質感まで変更出来ることが分かった。
ここまで細かく仮装出来るなら、確かに獣人の国に潜入しても怪しまれないわよね。その必要があるのか否かは分からないけど・・・。
操作盤のリセットボタンを押してブローチの起動を解除すると、モニターも消え、すべてが元に戻った。
う~ん。
用途を考えると微妙だわねえ。
リリスは訝しげに見つめながら、そのブローチをカバンに仕舞い込み、気を取り直して薬草園を後にした。
翌日の早朝。
リリスはベッドの中で解析スキルに起こされた。
『スキルの最適化が終了しました。ステータスを開いて確認してください。』
まだ起床時間まで30分もあるのに・・・。
リリスは不満を抱きつつも、寝たままステータスを開いてみた。
**************
リリス・ベル・クレメンス
種族:人族 レベル22
年齢:14
体力:1300
魔力:3800
属性:土・火
魔法:ファイヤーボール レベル5+++
ファイヤーボルト レベル7+++
アースウォール レベル7
加圧 レベル5+
アースランス レベル3
硬化 レベル3
(秘匿領域)
属性:水・聖・闇(制限付き)
魔法:ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
ヒール レベル1+ (親和性による補正有り)
液状化 レベル15 (制限付き)
黒炎 レベル2 (制限付き)
黒炎錬成 レベル2 (制限付き)
スキル:鑑定 レベル3
投擲 レベル3
魔力吸引(P・A) レベル3
魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)
探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)
毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)
解毒 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)
毒耐性 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)
火力増幅(加護と連携可能)
火力凝縮(加護と連携可能)
亜空間シールド(P・A)(加護と連携可能)
減圧(重力操作)レベル5+
調合 レベル2
魔装(P・A) (妖精化)
魔金属錬成 レベル1++(高度補正有り)
属性付与 レベル1++(高度補正有り)
スキル特性付与 レベル1++(高度補正有り)
呪詛構築 (データ制限有り)
→瞬間移動(発動に制限有り)
覇竜の遺志を継ぐ者
解析
最適化
**************
えっ?
瞬間移動?
『そうです。瞬間移動です。ですが・・・かなり制限があります。』
『移動距離は50m。発動は瞬時ですが、連続使用は出来ません。次回の発動まで10分間が必要になります。』
そうなの?
それって風属性を持たないからなの?
『その通りです。それ故に最適化には相当手間取りましたよ。』
まあ、お疲れ様。
『瞬間移動は風属性の上位魔法にあたる空間魔法に分類されます。』
『その特殊性もあってステータスでは魔法に表示されず、スキルとして表示されています。繰り返し使える魔道具を身体に埋め込んだようなものだと理解してください。』
繰り返しって言っても10分に一度って事よね。
そんなに役に立つの?
『緊急で敵の必殺技の直撃を回避するのには有効だと思いますよ。』
ああ、なるほどね。
緊急回避用の隠しスキルって事ね。それなら有難いわ。
今日のお昼休みに薬草園で試してみるわね。
リリスは解析スキルに礼を伝えながら、ベッドの中で再び眠りに就いた。
その日の放課後、リリスは担任のケイト先生に呼び出されて職員室に足を運んだ。
何の用事だろうかと思いながらケイト先生のデスクに向かうと、そこには非常勤講師のジークがケイト先生の横に座り、和やかに談笑していた。
相変わらずチャラい雰囲気の男だ。まるでケイト先生をナンパしているかのような雰囲気にも見える。
うっ!
ジークが居る。
嫌な予感しかしないわね。
心の中の動揺を顔に出さぬように意識しながら、リリスは二人に会釈した。
「やあ、リリス君。急に呼び出して悪かったね。」
悪かったなんて思ってもいないくせに・・・。
そう思いながらリリスは笑顔で傍にあった椅子に座った。
「リリスさん、急に呼び出してごめんなさいね。ジーク先生の今回の特別補講でリリスさんに白羽の矢が立ったのよ。」
それって毒矢じゃないの?
心の中で悪びれつつもリリスは特別補講が気になった。またどこかのダンジョンに選抜メンバーで潜るのだろうか?
「今回はどんな補講ですか?」
リリスの問い掛けにジークは白いジャケットの襟を正しながら、意外な言葉を伝えた。
「今回はミラ王国の同盟国内で森林地帯に多発する魔物の駆除だよ。一応日当も出るからいいアルバイトだと思うよ。」
「日当が出るんですか?」
「一応ね。金貨もしくは魔石での現物支給と言う事になっている。軍でたまにやる作業なんだよ。」
ジークはそう言いながらリリスの反応を確かめた。その目つきが嫌らしい。
「君はアブリル王国を知っているかい?」
「聞いたことはあります。獣人が支配する小国だったと記憶しています。でもそれ以上の事は良く知りません。」
リリスの返答にジークはうんうんと頷いた。
「貧しい小国だよ。でもミラ王国とは同盟関係にある。どちらかと言えばミラ王国の属国のようなものだけどね。」
「そのアブリル王国の森林地帯に、定期的に魔物が集団で発生するワームホールがあるんだ。その近くには住民達の村落もいくつかあるので、放置しておく事は出来ない。それで定期的な駆除を我が軍に依頼されているんだよ。」
ワームホールと言う言葉を聞いて、リリスは少なからぬ不安を感じた。エイヴィスとの絡みでとんでもない戦闘を強いられたのもワームホールだったからだ。
「魔物の集団ってどの程度の規模なんですか?」
リリスの問い掛けにジークの目がぎろっと光った。光ったように見えただけなのだが。
「数百匹と言いたいところだが、実際には多くて50匹程度だ。それでも手間なので軍の連中が嫌がるんだよね。」
なによ。
軍の嫌がるような事を私にやれって言うの?
そう感じたリリスの表情を見透かして、ジークはわざとらしく小声で呟いた。
「特別補講だから勿論、成績への評価点は大きいよ。それにアブリル王国から日当もいただける。君の戦闘能力で考えれば、それほどの苦労もしないだろう。悪い話じゃないと思うよ。」
う~ん。
なんとなく胡散臭い気がするんだけど・・・。
「それで同行するメンバーは誰ですか?」
「今回は1年生のエリスとリンディだよ。アブリル王国はリンディの母方の祖国になるんだ。」
これってエリスとリンディの訓練がメインなのかしら?
私はその為の保険ってところね。
でもエリスやリンディの戦闘も見てみたいわ。
そう考えるとリリスは気持ちが前向きになった。
「分かりました。それで出発は何時ですか?」
リリスの承諾にジークは嬉しそうな笑みを見せた。
「次の休日だ。学舎の地下の訓練場から転移して移動するからね。」
リリスはハイと答えてその場を離れようとした。だが席を立ったリリスに背後からケイト先生の声が掛かった。
「リリスさん、頑張ってね。それと、珍しい薬草があったら採取しておいてね。」
う~ん。
やはりケイト先生って天然だわ。
遊びに行くわけじゃないのにねえ。
空気が読めないと言うか・・・。
リリスはケイト先生に愛想笑いを返して職員室から出て行った。
そして迎えた休日の朝。
身支度を整えて学舎の地下に向かったリリスはエリスとリンディに合流した。
3人共にレザーアーマーにガントレットを着用し、エリスとリンディは短剣を所持している。リリスの護身用の武器は勿論、魔金属製のスローイングダガーだ。リンディの姿がやけに様になっている。やはり獣人はレザーアーマーにガントレットが良く似合う。その可愛らしい表情と相まってまるで人気沸騰中のコスプレイヤーのようだ。
「リンディ。良く似合っているわよ。」
リリスは思わず声を掛けた。
「ありがとうございます、先輩。どうですか? 学院の制服よりも似合っているでしょ?」
どうやら本人も自覚があるようだ。
エリスも加わりしばらく談笑しながら待っていると、ジークも3人と同様にレザーアーマーを着て現れた。
森林地帯での戦闘になるので、動きやすい防具を選んだのだろう。そのチャラい容貌にレザーアーマーは似合わない。
リリスは一瞬噴き出しそうになってしまった。それをこらえてジークと挨拶を交わすと、ジークは懐から大きな魔石を取り出した。
転移の魔石のようだ。
「3人共、用意は出来ているかい?」
ハイと言う3人の返事を確認し、ジークは転移の魔石を起動させた。
日が傾きかけているがまだ空は明るい。リリスは一人で薬草園の中に入ってきた。
周りにはもちろん誰もいない。薬学のケイト先生から管理を依頼されているのはリリスだけだ。それに広大な薬草園に足を運ぶような、もの好きな生徒は魔法学院にはいない。
一応周囲を見回した上で、リリスはカバンから小さな宝玉を取り出した。
リンディを介してエイヴィスから貰った小さな赤い宝玉は、リリスの手のひらの上で仄かに光り始めた。リリスの魔力に反応しているのだろうか?
リリスはリンディから教えられた通り、自分の魔力をスッと宝玉に流してみた。その途端に宝玉が大きく光り、赤い光の流れがリリスの額にズズッと流れ込んできた。それはまるでリリスの額にコピースキルの入り口があるのを知っているかのように。
少し驚きながらもリリスは、宝玉からの光の流れをそのまま受け入れた。
感覚としてはコピースキルの発動中と同じだ。
光の流れが収まると、宝玉はパリンと音を立てて壊れてしまった。そのかけらが砂のように崩れ、跡形もなく消えていく。
これはどんな仕組みになっているのだろうか?
首を傾げつつリリスは解析スキルを発動させた。
上手く取り込めたかしら?
『取り込めましたが、その詳細は不明です。特殊なスキルだと言う事は分かるのですが、最適化されてステータス上に現れるまでには、しばらく時間が掛かりますね。』
そうなの?
変なものを取り込んだんじゃないでしょうね。
『変なスキルと言う事はなさそうです。現時点で分かっているのは風属性の上位魔法のスキルのようです。』
風属性?
私は風属性は持っていないわよ。
『そうですね。それ故に発動しても、かなり制限の掛かるスキルになると思います。』
『それに、風属性を持っていても発動に制限が掛かるだろうと思われます。それだけ特殊なスキルなのでしょう。』
そう。
それなら楽しみにして待っているわね。
ところで、この猫の形のブローチは何だか分析出来る?
『それは説明を受けた通り、獣人に仮装するための魔道具ですね。でもかなり複雑な動作をしそうなので、カスタマイズの選択肢が豊富にあるのかも知れません。』
そうなの?
それなら試しに作動させてみるわね。
リリスは猫の形のブローチに自分の魔力を流した。
ブローチは白く光り、リリスの目の前に3面の半透明のモニターが現れた。そのモニターがリリスを取り巻くように位置を変え、リリスの全身を写し出している。その姿はすでに猫耳の獣人だ。
ほどなくリリスの手元にこれも半透明の操作盤が出現した。その操作盤には多数のボタンスイッチがあり、それを操作するたびに顔の各部分から手足の形状まで事細かく変更可能になっている。
まるで、RPGのキャラメイクだわ。それもかなり細かく設定可能のようね。
リリスが操作を続けると、肌の色や質感まで変更出来ることが分かった。
ここまで細かく仮装出来るなら、確かに獣人の国に潜入しても怪しまれないわよね。その必要があるのか否かは分からないけど・・・。
操作盤のリセットボタンを押してブローチの起動を解除すると、モニターも消え、すべてが元に戻った。
う~ん。
用途を考えると微妙だわねえ。
リリスは訝しげに見つめながら、そのブローチをカバンに仕舞い込み、気を取り直して薬草園を後にした。
翌日の早朝。
リリスはベッドの中で解析スキルに起こされた。
『スキルの最適化が終了しました。ステータスを開いて確認してください。』
まだ起床時間まで30分もあるのに・・・。
リリスは不満を抱きつつも、寝たままステータスを開いてみた。
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リリス・ベル・クレメンス
種族:人族 レベル22
年齢:14
体力:1300
魔力:3800
属性:土・火
魔法:ファイヤーボール レベル5+++
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加圧 レベル5+
アースランス レベル3
硬化 レベル3
(秘匿領域)
属性:水・聖・闇(制限付き)
魔法:ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
ヒール レベル1+ (親和性による補正有り)
液状化 レベル15 (制限付き)
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黒炎錬成 レベル2 (制限付き)
スキル:鑑定 レベル3
投擲 レベル3
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探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)
毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)
解毒 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)
毒耐性 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)
火力増幅(加護と連携可能)
火力凝縮(加護と連携可能)
亜空間シールド(P・A)(加護と連携可能)
減圧(重力操作)レベル5+
調合 レベル2
魔装(P・A) (妖精化)
魔金属錬成 レベル1++(高度補正有り)
属性付与 レベル1++(高度補正有り)
スキル特性付与 レベル1++(高度補正有り)
呪詛構築 (データ制限有り)
→瞬間移動(発動に制限有り)
覇竜の遺志を継ぐ者
解析
最適化
**************
えっ?
瞬間移動?
『そうです。瞬間移動です。ですが・・・かなり制限があります。』
『移動距離は50m。発動は瞬時ですが、連続使用は出来ません。次回の発動まで10分間が必要になります。』
そうなの?
それって風属性を持たないからなの?
『その通りです。それ故に最適化には相当手間取りましたよ。』
まあ、お疲れ様。
『瞬間移動は風属性の上位魔法にあたる空間魔法に分類されます。』
『その特殊性もあってステータスでは魔法に表示されず、スキルとして表示されています。繰り返し使える魔道具を身体に埋め込んだようなものだと理解してください。』
繰り返しって言っても10分に一度って事よね。
そんなに役に立つの?
『緊急で敵の必殺技の直撃を回避するのには有効だと思いますよ。』
ああ、なるほどね。
緊急回避用の隠しスキルって事ね。それなら有難いわ。
今日のお昼休みに薬草園で試してみるわね。
リリスは解析スキルに礼を伝えながら、ベッドの中で再び眠りに就いた。
その日の放課後、リリスは担任のケイト先生に呼び出されて職員室に足を運んだ。
何の用事だろうかと思いながらケイト先生のデスクに向かうと、そこには非常勤講師のジークがケイト先生の横に座り、和やかに談笑していた。
相変わらずチャラい雰囲気の男だ。まるでケイト先生をナンパしているかのような雰囲気にも見える。
うっ!
ジークが居る。
嫌な予感しかしないわね。
心の中の動揺を顔に出さぬように意識しながら、リリスは二人に会釈した。
「やあ、リリス君。急に呼び出して悪かったね。」
悪かったなんて思ってもいないくせに・・・。
そう思いながらリリスは笑顔で傍にあった椅子に座った。
「リリスさん、急に呼び出してごめんなさいね。ジーク先生の今回の特別補講でリリスさんに白羽の矢が立ったのよ。」
それって毒矢じゃないの?
心の中で悪びれつつもリリスは特別補講が気になった。またどこかのダンジョンに選抜メンバーで潜るのだろうか?
「今回はどんな補講ですか?」
リリスの問い掛けにジークは白いジャケットの襟を正しながら、意外な言葉を伝えた。
「今回はミラ王国の同盟国内で森林地帯に多発する魔物の駆除だよ。一応日当も出るからいいアルバイトだと思うよ。」
「日当が出るんですか?」
「一応ね。金貨もしくは魔石での現物支給と言う事になっている。軍でたまにやる作業なんだよ。」
ジークはそう言いながらリリスの反応を確かめた。その目つきが嫌らしい。
「君はアブリル王国を知っているかい?」
「聞いたことはあります。獣人が支配する小国だったと記憶しています。でもそれ以上の事は良く知りません。」
リリスの返答にジークはうんうんと頷いた。
「貧しい小国だよ。でもミラ王国とは同盟関係にある。どちらかと言えばミラ王国の属国のようなものだけどね。」
「そのアブリル王国の森林地帯に、定期的に魔物が集団で発生するワームホールがあるんだ。その近くには住民達の村落もいくつかあるので、放置しておく事は出来ない。それで定期的な駆除を我が軍に依頼されているんだよ。」
ワームホールと言う言葉を聞いて、リリスは少なからぬ不安を感じた。エイヴィスとの絡みでとんでもない戦闘を強いられたのもワームホールだったからだ。
「魔物の集団ってどの程度の規模なんですか?」
リリスの問い掛けにジークの目がぎろっと光った。光ったように見えただけなのだが。
「数百匹と言いたいところだが、実際には多くて50匹程度だ。それでも手間なので軍の連中が嫌がるんだよね。」
なによ。
軍の嫌がるような事を私にやれって言うの?
そう感じたリリスの表情を見透かして、ジークはわざとらしく小声で呟いた。
「特別補講だから勿論、成績への評価点は大きいよ。それにアブリル王国から日当もいただける。君の戦闘能力で考えれば、それほどの苦労もしないだろう。悪い話じゃないと思うよ。」
う~ん。
なんとなく胡散臭い気がするんだけど・・・。
「それで同行するメンバーは誰ですか?」
「今回は1年生のエリスとリンディだよ。アブリル王国はリンディの母方の祖国になるんだ。」
これってエリスとリンディの訓練がメインなのかしら?
私はその為の保険ってところね。
でもエリスやリンディの戦闘も見てみたいわ。
そう考えるとリリスは気持ちが前向きになった。
「分かりました。それで出発は何時ですか?」
リリスの承諾にジークは嬉しそうな笑みを見せた。
「次の休日だ。学舎の地下の訓練場から転移して移動するからね。」
リリスはハイと答えてその場を離れようとした。だが席を立ったリリスに背後からケイト先生の声が掛かった。
「リリスさん、頑張ってね。それと、珍しい薬草があったら採取しておいてね。」
う~ん。
やはりケイト先生って天然だわ。
遊びに行くわけじゃないのにねえ。
空気が読めないと言うか・・・。
リリスはケイト先生に愛想笑いを返して職員室から出て行った。
そして迎えた休日の朝。
身支度を整えて学舎の地下に向かったリリスはエリスとリンディに合流した。
3人共にレザーアーマーにガントレットを着用し、エリスとリンディは短剣を所持している。リリスの護身用の武器は勿論、魔金属製のスローイングダガーだ。リンディの姿がやけに様になっている。やはり獣人はレザーアーマーにガントレットが良く似合う。その可愛らしい表情と相まってまるで人気沸騰中のコスプレイヤーのようだ。
「リンディ。良く似合っているわよ。」
リリスは思わず声を掛けた。
「ありがとうございます、先輩。どうですか? 学院の制服よりも似合っているでしょ?」
どうやら本人も自覚があるようだ。
エリスも加わりしばらく談笑しながら待っていると、ジークも3人と同様にレザーアーマーを着て現れた。
森林地帯での戦闘になるので、動きやすい防具を選んだのだろう。そのチャラい容貌にレザーアーマーは似合わない。
リリスは一瞬噴き出しそうになってしまった。それをこらえてジークと挨拶を交わすと、ジークは懐から大きな魔石を取り出した。
転移の魔石のようだ。
「3人共、用意は出来ているかい?」
ハイと言う3人の返事を確認し、ジークは転移の魔石を起動させた。
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