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少年と聖剣
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聖剣を準備した日の放課後。
リリスは学生寮の最上階に向かっていた。
あらかじめ学舎の事務室から王族への連絡は付けておいた。その返答として最上階に持参せよと言う事なのだが、どうやらメイド長のセラの検閲を受けなければならないらしい。
セラさんにこんなものを見せたら、色々と尋問されそうだわ。
若干憂鬱な気持ちでリリスは最上階に上がった。黒いメイド服のセラがそこに待っている。獲物を求めるような目でセラはリリスを見つめた。
「リリスさん。メリンダ王女様から聞いているわよ。さあ、見せて頂戴!」
そう言いながらにじり寄ってくるセラに、リリスは圧倒されて後ろに引いてしまった。
仕方が無くリリスはマジックバッグから聖剣を取り出した。
鈍い銀色の光沢を放つ聖剣を見て、セラはうっと呻き驚きの表情を見せた。
「聖剣・・・・・なのね。」
セラの表情が意外にも冴えない。否、嫌がっているようにも思われる。
少し聖剣を鞘から出したものの、直ぐに鞘に収めてしまった。
「私って聖剣は苦手なのよね。」
あんたは魔物かい!
リリスは思わず声を上げそうになってしまった。
「聖剣の清らかな輝きを見ると、自分の過去の黒歴史が暴かれそうな気がするのよね。」
セラは意味深な言葉を吐いた。
駄目だわ。
これって多分、詳しく聞いちゃいけないのよね。
聞いたら最後、とんでもない事を聞かされそうだもの。
リリスはセラから聖剣を受け取ると、軽く会釈してメリンダ王女の部屋に向かった。
メリンダ王女の部屋の前で、待機していたメイドに名を名乗り、重厚なドアを開けて中へと入る。ソファにはメリンダ王女とフィリップ王子が仲良く座って談笑していた。
「待っていたわよ、リリス。出来上がった聖剣を見せて!」
リリスは聖剣をマジックバッグから取り出し、待ち切れない様子のメリンダ王女の目の前にそっと置いた。ちなみにこの聖剣の修復は、リリスの実家が懇意にしている鍛冶職人に依頼した事になっている。
「柄と鞘はとりあえず用意したものだから、気に入らなければ取り換えても良いわよ。」
リリスの言葉にうんうんとうなづきながら、メリンダ王女は聖剣を手に取った。その重みがずっしりと王女の腕に伝わってくる。
メリンダ王女を気遣って、隣に座っていたフィリップ王子が代わりに手に取り、その鞘から刀身を引き抜いた。
「少し重いが聖剣だから、聖魔法の魔力を流せば重さは軽減されるのだろうね。」
「ええ、その通りです。それに刀身の長さはリトラスが使うのに丁度良い長さだと思います。」
リリスの言葉にメリンダ王女は、ふうんと感心しながら聖剣を見つめていた。
メリンダ王女はリリスの方に向き直し、
「聖剣が修復された事は、リトラスには既に話してあるのよ。楽しみにしているから、明日にも手渡してあげたいわね。」
そう言いながらメリンダ王女は、ふっと考えを巡らせる仕草をした。
「うん。明日の午後に本人に手渡すのが良いわね。フランソワ叔母様とリトラスを学院に呼び寄せるわよ!」
また勝手な事を言い出したメリンダ王女である。
「リリス! あんたもその場に来るのよ!」
「えっ! 私も二人に会うの?」
反射的に驚いたリリスにメリンダ王女は語気を強め、
「当り前じゃないの! 聖剣の扱い方って私には分からないんだから。」
私にも詳しくは分からないわよ。それにフィリップ殿下も居るじゃないの。
そう思ってフィリップ王子の顔を見ると、フィリップ王子はリリスの思いを読み取ったようで、
「まあ、メルに付き合ってやってくれよ。それに君なら何でも知って居そうだし・・・」
仕方が無いわねえ。
それでまた午後の授業が潰れなければ良いのだけど。
明日の午後の授業は座学で、属性魔法の研究や開発の歴史になっている。リリスとしては最近関心を寄せている分野でもあるので、できれば潰したくないと言うのが本音だ。
渋々了承してリリスはメリンダ王女の部屋を後にした。
翌日の昼休み。
リリスは手早く昼食を済ませ、魔法学院の学舎のゲストルームに足を運んだ。メリンダ王女の計らいで、グランバート家からリトラスとその母親のフランソワが来ているからだ。
ゲストルームの扉を開けると、メリンダ王女とフィリップ王子の対面のソファに、リトラスとフランソワが深々と座り、和やかに談笑していた。
少し見ない間に、リトラスは随分たくましくなった様に感じられる。病弱だったとはとても思えない姿だ。
挨拶を交わしてリリスがメリンダ王女の隣に座ると、フィリップ王子の合図で、メイドが聖剣を運んできた。テーブルの上に丁重に置かれた聖剣を見て、リトラスはほおっと声を上げた。
早速リトラスは聖剣を持ち、その柄を握って刀身を鞘から引き抜いた。鈍い光を放つ銀色の両刃の刀身がその姿を現わした。
「細身の剣とは言え、結構重いですね。身体強化を掛けないと振り回せないかも・・・」
少し不安げなリトラスにフィリップ王子が口を開き、
「聖剣だから聖魔法の魔力を流すと重さが軽減される筈だよ。」
その言葉にリトラスはうんうんとうなづき、自分の魔力を聖剣に流してみた。
その途端に聖剣が明るく輝き、軽く震動し始めた。
「この聖剣って・・・・・僕から魔力を吸い上げていますよ。」
そう言った直後、リトラスはえっと驚きの声を上げた。
「軽くなってきた! うん、軽いですよ! 柄の重さしか感じない程です。」
聖魔法の魔力を吸い上げて、その真価が発揮されてきたようだ。
聖剣はその刀身全体が仄かに光りを放ち始めた。その光はまるで生き物の鼓動のように強弱を繰り返している。
だがその刀身からふいに小さな光の球が飛び出し、ゲストルームの壁際に移動して動きを止めた。
空中に浮遊する光の球を警戒して、フィリップ王子はロイヤルガードをゲストルームの周囲に待機させた。
だがその光の球からは、魔物の気配や嫌な波動を感じない。むしろ心穏やかな気持ちになってくる。光の球が放つ光はどうやらヒールの効果があるようだ。
これって何なのよ?
訝し気に見つめるリリス達の目の前で、光の球は形を変え、メタルブレードを装着した騎士の姿になった。半透明の騎士が浮かんだまま停止している。
その顔つきは精悍で有りながらも慈しみ深い。
半透明の騎士はリリス達に笑顔を向け、
「心配しなくても良い。我が名は剣聖ジークフリート。ホーリースタリオンに宿る剣の精霊である。」
剣の精霊?
要するに付喪神って事なの?
初めて見る剣聖にリリス達は声も出ず、押し黙って見つめるばかりだ。
「ホーリースタリオンの所持者が変わったので、契約を結びに来たのだ。我を呼び出した者はそこに居る少年なのか?」
剣聖は穏やかな表情でリトラスを指差した。
「はい。呼び出したつもりは有りませんが、聖魔法の魔力を流したのは僕です。」
殊勝に答えたリトラスに剣聖はにこやかにうんうんとうなづき、
「うむ。お前が聖剣の新しい所持者になる、否、なってもらわねばならぬ。」
そう言いながら剣聖は身を乗り出してきた。
「お前の聖魔法の魔力は実に清らかで高潔だ。以前の所持者のハーグの若い頃を連想させる。」
「残念ながらハーグは闇に落ち、我も長く聖魔法の魔力を浴びる事が出来なかった。それ故に我も精霊界へ戻る事すら考えたほどだ。」
剣聖の言葉の内容は良く分からない。おそらくはこの世界で具現化出来なくなると言う意味なのだろうとリリスは考えた。
「我と契約を結ぶことで、聖剣ホーリースタリオンは汝の身体の一部になり、剣技のレベルを大きく引き上げる。それに関して代価は求めない。汝が修練を積み、高位のパラディンとなる事が我の唯一の望みだ。」
「それは僕も望むところです。それでどうすれば良いのですか?」
リトラスは剣聖の目の前に進み出た。その表情は期待に満ちている。
「汝が我との契約を受け入れる事を宣言しながら、ホーリースタリオンに聖魔法の魔力を流せば良い。それで契約は成立する。」
それならばと言いながらリトラスは聖剣を立てて持ちあげた。その様子に母親のフランソワが心配して、背後からリトラスに声を掛けた。
「リトラス。契約を結んで本当に大丈夫なの?」
リトラスは振り返りながら、母親に笑顔でうんうんと強くうなづいた。確かに母親が心配する気持ちも分かる。だが剣聖と名乗るジークフリートに邪悪な気配は一切感じられない。むしろ高貴で潔癖な波動や暖かく穏やかな波動がひしひしと伝わってくる。剣聖の言葉に嘘偽りは無さそうだ。
「僕は高位のパラディンを目指し、剣聖ジークフリートとの契約を結びます!」
そう言いながらリトラスは聖剣に聖魔法の魔力を流した。それと同時に聖剣が青白く輝き、剣聖はその光の中に吸い込まれるように消えて行った。
安心して剣に戻ったと言う事なのだろうか?
青白い輝きが消える間際に、剣聖の声が聖剣から聞こえてきた。
「契約は成立した。我は常にホーリースタリオンと共にある。今後我が姿を現すのは、汝の身に生死の危機が訪れた時だ。その際には汝の身を守るために全力を尽くそう。」
あらまあ、加護にもなってくれるのね。良かったじゃないの。
そう思いながらリトラスの顔を見ると、リトラスは感激で目を潤ませていた。
確かにリトラスにとっては一生の宝物よね。
リトラスは聖剣を鞘に収めると、深々とリリスに頭を下げた。
「リリス先輩。ありがとうございます。」
「無理矢理ダンジョンに連れて行ってもらった上に、こんなものまで手に入れる事が出来るとは思いもよらなかったです。」
リトラスの雰囲気が更に精悍な雰囲気になったように感じられる。それは剣聖と契約を交わしたからなのだろうか?
「でもダンジョンでデュラハンを倒せたのはリト君の聖魔法のお陰だからね。リト君が手に入れるべき報酬だと思うわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女も強くうなづいた。
「リリスの言う通りよ、リトラス。私も誇らしく思うわ。」
メリンダ王女の言葉をかみしめるように、リトラスは何度も強くうなづいた。
そのリトラスの表情を見て、母親のフランソワも嬉しそうに笑顔を向けていた。
その後しばらく談笑して、フランソワとリトラスの親子はゲストルームから帰途に就いたのだった。
リリスは学生寮の最上階に向かっていた。
あらかじめ学舎の事務室から王族への連絡は付けておいた。その返答として最上階に持参せよと言う事なのだが、どうやらメイド長のセラの検閲を受けなければならないらしい。
セラさんにこんなものを見せたら、色々と尋問されそうだわ。
若干憂鬱な気持ちでリリスは最上階に上がった。黒いメイド服のセラがそこに待っている。獲物を求めるような目でセラはリリスを見つめた。
「リリスさん。メリンダ王女様から聞いているわよ。さあ、見せて頂戴!」
そう言いながらにじり寄ってくるセラに、リリスは圧倒されて後ろに引いてしまった。
仕方が無くリリスはマジックバッグから聖剣を取り出した。
鈍い銀色の光沢を放つ聖剣を見て、セラはうっと呻き驚きの表情を見せた。
「聖剣・・・・・なのね。」
セラの表情が意外にも冴えない。否、嫌がっているようにも思われる。
少し聖剣を鞘から出したものの、直ぐに鞘に収めてしまった。
「私って聖剣は苦手なのよね。」
あんたは魔物かい!
リリスは思わず声を上げそうになってしまった。
「聖剣の清らかな輝きを見ると、自分の過去の黒歴史が暴かれそうな気がするのよね。」
セラは意味深な言葉を吐いた。
駄目だわ。
これって多分、詳しく聞いちゃいけないのよね。
聞いたら最後、とんでもない事を聞かされそうだもの。
リリスはセラから聖剣を受け取ると、軽く会釈してメリンダ王女の部屋に向かった。
メリンダ王女の部屋の前で、待機していたメイドに名を名乗り、重厚なドアを開けて中へと入る。ソファにはメリンダ王女とフィリップ王子が仲良く座って談笑していた。
「待っていたわよ、リリス。出来上がった聖剣を見せて!」
リリスは聖剣をマジックバッグから取り出し、待ち切れない様子のメリンダ王女の目の前にそっと置いた。ちなみにこの聖剣の修復は、リリスの実家が懇意にしている鍛冶職人に依頼した事になっている。
「柄と鞘はとりあえず用意したものだから、気に入らなければ取り換えても良いわよ。」
リリスの言葉にうんうんとうなづきながら、メリンダ王女は聖剣を手に取った。その重みがずっしりと王女の腕に伝わってくる。
メリンダ王女を気遣って、隣に座っていたフィリップ王子が代わりに手に取り、その鞘から刀身を引き抜いた。
「少し重いが聖剣だから、聖魔法の魔力を流せば重さは軽減されるのだろうね。」
「ええ、その通りです。それに刀身の長さはリトラスが使うのに丁度良い長さだと思います。」
リリスの言葉にメリンダ王女は、ふうんと感心しながら聖剣を見つめていた。
メリンダ王女はリリスの方に向き直し、
「聖剣が修復された事は、リトラスには既に話してあるのよ。楽しみにしているから、明日にも手渡してあげたいわね。」
そう言いながらメリンダ王女は、ふっと考えを巡らせる仕草をした。
「うん。明日の午後に本人に手渡すのが良いわね。フランソワ叔母様とリトラスを学院に呼び寄せるわよ!」
また勝手な事を言い出したメリンダ王女である。
「リリス! あんたもその場に来るのよ!」
「えっ! 私も二人に会うの?」
反射的に驚いたリリスにメリンダ王女は語気を強め、
「当り前じゃないの! 聖剣の扱い方って私には分からないんだから。」
私にも詳しくは分からないわよ。それにフィリップ殿下も居るじゃないの。
そう思ってフィリップ王子の顔を見ると、フィリップ王子はリリスの思いを読み取ったようで、
「まあ、メルに付き合ってやってくれよ。それに君なら何でも知って居そうだし・・・」
仕方が無いわねえ。
それでまた午後の授業が潰れなければ良いのだけど。
明日の午後の授業は座学で、属性魔法の研究や開発の歴史になっている。リリスとしては最近関心を寄せている分野でもあるので、できれば潰したくないと言うのが本音だ。
渋々了承してリリスはメリンダ王女の部屋を後にした。
翌日の昼休み。
リリスは手早く昼食を済ませ、魔法学院の学舎のゲストルームに足を運んだ。メリンダ王女の計らいで、グランバート家からリトラスとその母親のフランソワが来ているからだ。
ゲストルームの扉を開けると、メリンダ王女とフィリップ王子の対面のソファに、リトラスとフランソワが深々と座り、和やかに談笑していた。
少し見ない間に、リトラスは随分たくましくなった様に感じられる。病弱だったとはとても思えない姿だ。
挨拶を交わしてリリスがメリンダ王女の隣に座ると、フィリップ王子の合図で、メイドが聖剣を運んできた。テーブルの上に丁重に置かれた聖剣を見て、リトラスはほおっと声を上げた。
早速リトラスは聖剣を持ち、その柄を握って刀身を鞘から引き抜いた。鈍い光を放つ銀色の両刃の刀身がその姿を現わした。
「細身の剣とは言え、結構重いですね。身体強化を掛けないと振り回せないかも・・・」
少し不安げなリトラスにフィリップ王子が口を開き、
「聖剣だから聖魔法の魔力を流すと重さが軽減される筈だよ。」
その言葉にリトラスはうんうんとうなづき、自分の魔力を聖剣に流してみた。
その途端に聖剣が明るく輝き、軽く震動し始めた。
「この聖剣って・・・・・僕から魔力を吸い上げていますよ。」
そう言った直後、リトラスはえっと驚きの声を上げた。
「軽くなってきた! うん、軽いですよ! 柄の重さしか感じない程です。」
聖魔法の魔力を吸い上げて、その真価が発揮されてきたようだ。
聖剣はその刀身全体が仄かに光りを放ち始めた。その光はまるで生き物の鼓動のように強弱を繰り返している。
だがその刀身からふいに小さな光の球が飛び出し、ゲストルームの壁際に移動して動きを止めた。
空中に浮遊する光の球を警戒して、フィリップ王子はロイヤルガードをゲストルームの周囲に待機させた。
だがその光の球からは、魔物の気配や嫌な波動を感じない。むしろ心穏やかな気持ちになってくる。光の球が放つ光はどうやらヒールの効果があるようだ。
これって何なのよ?
訝し気に見つめるリリス達の目の前で、光の球は形を変え、メタルブレードを装着した騎士の姿になった。半透明の騎士が浮かんだまま停止している。
その顔つきは精悍で有りながらも慈しみ深い。
半透明の騎士はリリス達に笑顔を向け、
「心配しなくても良い。我が名は剣聖ジークフリート。ホーリースタリオンに宿る剣の精霊である。」
剣の精霊?
要するに付喪神って事なの?
初めて見る剣聖にリリス達は声も出ず、押し黙って見つめるばかりだ。
「ホーリースタリオンの所持者が変わったので、契約を結びに来たのだ。我を呼び出した者はそこに居る少年なのか?」
剣聖は穏やかな表情でリトラスを指差した。
「はい。呼び出したつもりは有りませんが、聖魔法の魔力を流したのは僕です。」
殊勝に答えたリトラスに剣聖はにこやかにうんうんとうなづき、
「うむ。お前が聖剣の新しい所持者になる、否、なってもらわねばならぬ。」
そう言いながら剣聖は身を乗り出してきた。
「お前の聖魔法の魔力は実に清らかで高潔だ。以前の所持者のハーグの若い頃を連想させる。」
「残念ながらハーグは闇に落ち、我も長く聖魔法の魔力を浴びる事が出来なかった。それ故に我も精霊界へ戻る事すら考えたほどだ。」
剣聖の言葉の内容は良く分からない。おそらくはこの世界で具現化出来なくなると言う意味なのだろうとリリスは考えた。
「我と契約を結ぶことで、聖剣ホーリースタリオンは汝の身体の一部になり、剣技のレベルを大きく引き上げる。それに関して代価は求めない。汝が修練を積み、高位のパラディンとなる事が我の唯一の望みだ。」
「それは僕も望むところです。それでどうすれば良いのですか?」
リトラスは剣聖の目の前に進み出た。その表情は期待に満ちている。
「汝が我との契約を受け入れる事を宣言しながら、ホーリースタリオンに聖魔法の魔力を流せば良い。それで契約は成立する。」
それならばと言いながらリトラスは聖剣を立てて持ちあげた。その様子に母親のフランソワが心配して、背後からリトラスに声を掛けた。
「リトラス。契約を結んで本当に大丈夫なの?」
リトラスは振り返りながら、母親に笑顔でうんうんと強くうなづいた。確かに母親が心配する気持ちも分かる。だが剣聖と名乗るジークフリートに邪悪な気配は一切感じられない。むしろ高貴で潔癖な波動や暖かく穏やかな波動がひしひしと伝わってくる。剣聖の言葉に嘘偽りは無さそうだ。
「僕は高位のパラディンを目指し、剣聖ジークフリートとの契約を結びます!」
そう言いながらリトラスは聖剣に聖魔法の魔力を流した。それと同時に聖剣が青白く輝き、剣聖はその光の中に吸い込まれるように消えて行った。
安心して剣に戻ったと言う事なのだろうか?
青白い輝きが消える間際に、剣聖の声が聖剣から聞こえてきた。
「契約は成立した。我は常にホーリースタリオンと共にある。今後我が姿を現すのは、汝の身に生死の危機が訪れた時だ。その際には汝の身を守るために全力を尽くそう。」
あらまあ、加護にもなってくれるのね。良かったじゃないの。
そう思いながらリトラスの顔を見ると、リトラスは感激で目を潤ませていた。
確かにリトラスにとっては一生の宝物よね。
リトラスは聖剣を鞘に収めると、深々とリリスに頭を下げた。
「リリス先輩。ありがとうございます。」
「無理矢理ダンジョンに連れて行ってもらった上に、こんなものまで手に入れる事が出来るとは思いもよらなかったです。」
リトラスの雰囲気が更に精悍な雰囲気になったように感じられる。それは剣聖と契約を交わしたからなのだろうか?
「でもダンジョンでデュラハンを倒せたのはリト君の聖魔法のお陰だからね。リト君が手に入れるべき報酬だと思うわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女も強くうなづいた。
「リリスの言う通りよ、リトラス。私も誇らしく思うわ。」
メリンダ王女の言葉をかみしめるように、リトラスは何度も強くうなづいた。
そのリトラスの表情を見て、母親のフランソワも嬉しそうに笑顔を向けていた。
その後しばらく談笑して、フランソワとリトラスの親子はゲストルームから帰途に就いたのだった。
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