落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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少年とダンジョン4

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ケフラのダンジョンから戻った日の夜。

リリスは夢の中で誰かに名前を呼ばれた。誰の声だろうか?
何度も呼ばれ半覚醒状態になった時、リリスは自分が紫色の部屋の中に居る事に気が付いた。
壁も天井も紫色の部屋で、その中央に白いテーブルがあり、二人の老人が座っている。
よく見ると顔見知りだ。
一人はシューサックでもう一人はキングドレイクだった。

「リリス。呼び出して申し訳ないね。まあ、椅子に座ってくれ。」

シューサックに促され、リリスは二人の老人の対面に座った。

「お前を呼び出したのは、ここに居るキングドレイクから話があるからだ。」

そう言いながらシューサックはキングドレイクの顔を見た。キングドレイクはうむとうなづき、リリスに向けて話を始めた。

「リリス、儂のせいで迷惑を掛けてしまった。申し訳なかったな。大いに反省しておるよ。」

そう言って軽く頭を下げるキングドレイクだが、リリスには何の事だか分からない。その表情を見ながらシューサックがニヤリと笑った。

「まあ、詳しく説明しないと何のことか分かるまい。」

「そうだな。最初から話そう。」

そう言ってキングドレイクはふっとため息をついた。

「お前がダンジョンに潜ると知って、儂は過度に興奮してしまったのだよ。まだ若い覇竜であった頃、何度かダンジョンに潜り、完全に制覇した時の事を思い出したのだ。」

竜がダンジョンに?

「キングドレイクさんってダンジョンに潜った事があったのね。」

「うむ。人化して5か所のダンジョンを完全に制覇したぞ。それを思い出し、興奮のあまりケフラのダンジョンコアを威嚇してしまったのだ。」

そうなのね。

「それでダンジョンコアが暴走しちゃったのね。」

リリスの言葉にシューサックがへへへと笑った。

「威嚇だけではあるまい。キングドレイク、正直に話せ。ケフラのダンジョンコアを本気で喰らおうと思ったのだろう?」

その言葉にキングドレイクはウッと唸り言葉を詰まらせた。

「ダンジョンコアを・・・・・食べるの?」

「そうだ。キングドレイクが幾つものダンジョンに潜ったのは、ダンジョンコアを喰らうためだよ。体内に取り込み魔素や魔力に分解して吸収する。まさに喰らうと言う表現が適切だ。」

シューサックの言葉にキングドレイクはばつが悪そうに頭を掻き、訥々と話を続けた。

「あれは実に美味なのだよ。儂も最初は仲間の覇竜から聞いて、半信半疑でダンジョンコアを狙ったのだ。だがあまりの美味にすっかり虜になってしまったのだよ。それでつい調子に乗って幾つものダンジョンを荒らしてしまった。」

「それでケフラのダンジョンに入った時に、『さあ喰らってやるぞ!』と思念で叫んでしまったのだ。」

私の知らないところでそんな事をしていたのね。
それは・・・ケフラのダンジョンコアが暴走する筈だわ。 

「結果としてお前の身に危険を呼び寄せてしまった。本当に申し訳なかったな。今後あのような不始末は二度と起こさぬ。」

謝罪するキングドレイクに、リリスは大丈夫ですよと言いながら失笑するだけだ。

「だがよくあのデュラハンを倒せたものだ。リリスが錬成出来るのは魔金属だけでは無かったのか?」

キングドレイクの疑問にシューサックは得意そうな表情で、

「基本的には魔金属が錬成の対象だが、最適化スキルが錬成対象を広げてしまっておるのだ。魔力誘導と連携するのは全く想定外じゃよ。」

そう言いながらシューサックは笑みを漏らした。

「ところでリリス。ハーグがお前に与えたホーリースタリオンは持っておるのだな。」

「ええ。マジックバッグに入れてあります。」

リリスの返答にシューサックはうむとうなづいた。

「そうか、それなら良い。あの聖剣を復元する際の注意点を教えてあげよう。」

復元?
私がするの?

「復元すると言ってもかなり朽ちていますよ。元の通りの聖剣には復元出来そうもないと思うのですが・・・」

リリスはホーリースタリオンの刀身が、半分程度に朽ちていた事を思い浮かべていた。

「別に元の通りにする必要はあるまい。聖剣を扱うのは使い魔で憑依していた子供ではないのか? 子供の扱えるサイズにすれば良いのだ。」

「本来のホーリースタリオンは刀身が2mもあった。だがお前に近い年齢の子供であれば刀身は1mあれば充分だろう。それでも聖剣としては稀有な力を発揮する筈だ。」

うんうん。
確かにそうよね。リトラスが使うんだもの。

「ちなみにあのホーリースタリオンの製作者は儂じゃ。ハーグの聖魔法の魔力に合わせて材料を組み合わせた傑作の一振りじゃよ。」

あら、そうだったのね。

「ハーグさんとは知り合いだったのですね。」

リリスの言葉にシューサックは遠くを見つめるような表情を見せた。

「うむ。儂が出会った頃のハーグは本当に高潔なパラディンじゃった。そう言えばアストレア神聖王国は今も存在しておるのか?」

「ええ、ありますよ。でも東方にある小さな国ですけどね。」

「そうなのか。アストレア神聖王国はかつては、周辺の諸国家をも束ねる強大な王国だったのだがなあ。ハーグは5万の聖騎士を擁する聖騎士団の優秀な騎士団長だったのだ。」

「政争に巻き込まれ、一族が抹殺されてしまったと聞いたのはかなり後の事だが、まさか闇に落ちてしまっていたとは思いもよらなかったぞ。」

シューサックの話を聞いてキングドレイクも神妙な表情を見せた。

「人族の世界には魑魅魍魎が棲み付いておるからなあ。この大陸に棲む魔物も或いは人の心が生み出したものなのかも知れぬ。」

シューサックはキングドレイクの言葉に苦笑いをして、

「その言葉が他人事のように聞こえるのは、お主が生態系の頂点に君臨していたからなのだろうな。儂らはその時その時を精一杯生きる事しか考えていなかったよ。」

そう言いながらシューサックはリリスの正面に向き直した。

「あの少年はなかなかの逸材だ。お前の身体に流れ込んできた聖魔法の魔力には、高潔な聖騎士に通じる強い意志を感じた。あの魔力ならホーリースタリオンも受け入れてくれるだろう。」

「聖剣が使い手を受け入れると言う事ですか?」

「うむ、その通りだ。そのように魔力の受容体を合金として組み込んであるのだからな。」

シューサックの言葉にリリスは再度、深い躊躇いを感じた。

「そんなものを私が復元出来るのですか?」

「それは大丈夫じゃよ。儂の造り上げた聖剣を儂から受け継いだスキルで錬成するだけだからな。細身の両刃の剣が良いじゃろう。基本的な形状さえ出来れば、あとは聖魔法の魔力を纏う事によって、聖剣が持ち主に最適な状態に自己修正してくれるはずだ。」

そんな事が出来るの?

「まるで生き物ですね。」

「魔力を介して持ち主の身体の一部となるようなものだよ。」

そう言うとキングドレイクとシューサックは椅子から立ち上がった。

「夜中に呼び出してしまってすまなかったな。明日の学業に支障が出てはならん。儂らはこれで失礼するよ。」

立ち去ろうとするシューサックにリリスは声を掛けた。

「シューサックさんって何時もこんな風に出てこれるの?」

問われたシューサックは首を横に振り、

「いや、今回は特例だ。儂が僅かな時間でも実体化出来たのは、このキングドレイクの覇竜の加護のお陰じゃよ。」

「人族の加護とは比べ物にならん。加護と言うにはあまりにも特殊だ。影響力が大きく、多様性もあり、応用性も高い。」

その言葉にキングドレイクが付け加え、

「それも全てはお前の持つ最適化スキルによる結果だ。」

そう言ってキングドレイクはパチンと指を鳴らした。

「おやすみ。」

その言葉と共にリリスの足元が闇となり、リリスは椅子に座ったままその中に落ちて行った。

「この終わり方は止めてよ~!」

絶叫と共にリリスの意識が消えて行った。




起床時間になり、ルームメイトのサラから『昨日の夜、うなされていたわよ。』と心配されたリリスは、何でもないのよと笑顔でサラに返答しつつ朝の支度を始めた。あんな終わり方をしなくても良いのにとぶつぶつ言いながら。


その日の昼休み。

早めに昼食を終えたリリスはケイト先生が管理している薬草園に足を運んだ。
人目に付かない場所で聖剣の復元をしたかったからだ。

広大な薬草園の片隅で、リリスはマジックバッグの中から朽ちたホーリースタリオンを取り出した。柄も朽ちていてボロボロだ。刀身も朽ちて今にも折れてしまいそうだ。

言われた通りにやるしかないわね。

リリスは魔金属錬成スキルを発動させ、魔力を纏った両手で刀身を包み込んだ。魔力の流れと共に朽ちた刀身が飴のように変形していく。

長さは1mほどで良いわよね。とりあえず聖剣の形であれば・・・。

イメージを常に頭に思い浮かべ、それに応じて魔力で操作していく作業だ。過去体験したゲームの記憶を探り、幾つかの聖剣のイメージを思い出しながら、リリスは錬成作業を進めた。

程なく1mほどの長さの両刃の細身の剣が出来上がった。手元の鍔の部分も洋剣のイメージで錬成し、その下の柄になるグリップの部分にはねじ止めの穴を開けておく事も忘れていない。聖魔法をまだ流していないが、それでも剣は不思議な波動を放っている。この剣を形作る魔金属の合金はよほど特殊な配合なのだろう。

聖剣の柄と刀身を収める鞘はお店で買うしかないわよね。

そう思いながら、リリスは錬成し終えた聖剣をマジックバッグに収納した。

魔法学院の広大な敷地の中には購買部と呼ばれる大きな建物があり、その中には日用品や食料など様々な物品が販売されている。
その一角にはポーションショップや武器店、防具店等もある事をリリスは知っていた。
学生の中には身体強化などの魔法を使い、剣や斧をメインにして戦うタイプの者もいる。それ故に武器や防具のメンテナンスはどうしても必要だ。
彼等にとって武器店や防具店は必要不可欠なのである。

リリスは昼の休憩時間がまだ充分残っている事を確認して、購買部の武器店に足を運んだ。



辿り着いた武器店の中に入ると、鍛冶職人を兼ねる若い店主と数名の学生が目に入った。よく見ると顔見知りのカップルが居る。
ガイとエレンだ。
二人はリリスの顔を見ると興味深そうに近付いてきた。

「どうしたの? リリスに武器は必要とは思えないけど。」

エレンの言葉にリリスは窘めるような口調で、

「私だって護身用に武器を持つ事はあるわよ。」

「でも今日は別の要件で来たの。来年入学する上級貴族の男の子に剣を贈る要件を王族から託されたのよ。」

リリスの言葉にガイはほうっと驚きの声を上げ、

「リリスも王族の使い走りをするようになったのかい?」

そう言ってニヤリと笑うガイの表情がウザい。
リリスはふっとため息をつき、

「あんただって王族から頼まれれば嫌とは言えない筈よ。一応貴族の子弟でしょ?」

「それはそうだが、俺にはそんな事を頼まれるような接点が無いからな。それに・・・」

ガイはそう言いながらエレンの顔を見つめ、

「エレンの頼みなら何でも聞くけどね。」

あらあら。
またこんなところで惚気始めちゃったわ。

しかもエレンはやだわと言いながら赤くなっている。

付き合ってられないわね。

呆れた表情でリリスは店主のカールに話し掛けた。

「カールさん。私が預かっているこの剣に柄と鞘を用意してくれますか?」

そう言いながらリリスはマジックバッグから聖剣の刀身を取り出し、店主の目の前のテーブルの上に置いた。

眩く光る刀身に店主とガイがおっと驚きの声を上げた。

「これって聖剣だね。しかもかなり特殊な物のようだ。これにふさわしい柄と鞘となると・・・・・」

店主は少しの間考え込み、刀身を手にして後ろの棚から幾つかの柄の材料と鞘を取り出した。

「どれが良いかな?」

「お任せします。」

店主の問い掛けにリリスは即座に返答した。自分で考えたところで迷うだけだからだ。

「分かった。今すぐ用意してあげるよ。あまり凝った造りには出来ないけど良いかい?」

「それは構わないですよ。とりあえず使えれば良いと思うので・・・」

リトラスは上級貴族の子弟だ。必要となれば両親が高価な材料を使って凝った造りの柄や鞘を用意するだろう。



待つ事、約10分。

リリスの目の前に差し出された聖剣は、グリップの部分に硬い木材や魔物の皮で巻き上げられた、鈍い光沢を放つ銀色の柄が造り上げられていた。柄の末端には宝玉などを嵌める穴も造られている。鞘は出来上がっていたもので聖剣にぴったりと合うものを選んだようで、これも銀色を基調にした凝った装飾のものだった。

「この柄に使われている魔物の皮って何ですか?」

興味本位にリリスはカールに尋ねた。

「それはワイバーンの皮だよ。鱗の無い部分の皮だが、魔力を纏いやすく、しかも適度にざらざらしていて握って振り回しても滑らない。結構希少な素材だけどね。」

そんなものがあるのね。

「一応、聖剣に合わせて銀色の系統のもので統一したよ。聖剣ってやっぱり銀色が似合うからね。」

うんうん。確かにそうよね。

リリスはカールの配慮に感謝した。

「でも盾は要らないのかい? この剣なら細身だから片手でも扱える。それ故に盾を使う事も可能だと思うよ。剣技を習う過程で盾の扱いも習得すべきだろうからね。」

「それはまた本人に聞いておきます。でも両刃の剣を持ちながら盾を持つのは邪魔にならないの?」

それを聞いてガイが口を挟んだ。

「重装備のメタルプレートなら、利き腕の反対側の肩口から盾を装着出来るものもあるぞ。身体を張って相手の攻撃を受け止める形になるけどね。」

う~ん。
それってタンク役の装備よね。
リトラスにはそれは似合わないわねえ。
パラディンとして颯爽と戦って欲しいのも。

何となくゲームのキャラをリトラスに当てはめようとするリリスであった。

支払いの請求はメリンダ王女で良いだろう。後で交渉すれば良いだけだ。

嫌とは言わない筈よね。

カールにその旨を伝えて聖剣をマジックバッグに収納し、リリスは学舎に戻って行ったのだった。








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