落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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竜達との交流1

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タミアとユリア、そしてリンを交えた仮想ダンスパーティーは、大いに盛り上がったまま終了した。

結局この日の仮装ダンスパーティーで生徒会のメンバーはダンスを踊る機会も無かった。それでも何事も無く無事にイベントを終えた事での達成感はある。
それを励みにして生徒会のスタッフは前に進む。実に殊勝な者達である。

この日はある程度の片づけを済ませて解散となった。だが学生寮に戻ろうとするリリスにリンが付いてきた。今夜は一緒に寝ると言い張るリンに困ったリリスだが、それならと言いながらリンは人目の無いのを確認して人化を解いた。更にその姿を小さくして手のひらサイズの幼竜の姿になってしまった。
その間、約10秒。
あっという間の出来事にリリスは唖然とするばかりだ。

(リリスお姉様。この姿なら誰かの使い魔だと言っても疑われませんよね。)

念話で語り掛けてくるリンである。

手のひらサイズのリンを肩に乗せ、リリスは学生寮の自室に戻った。ルームメイトのサラに説明が必要かと思っていたが、サラは真っ赤なメイド服を着たままベッドの上で眠っていた。疲れ果ててそのまま眠ってしまったのだろう。
一日を通してリリスにはサラが踊っている場面しか記憶にない。
矢継ぎ早に相手を替えて踊っていたようだ。
止む無くリリスは眠り込んでいるサラの衣装を脱がせ、パジャマに着替えさせてベッドに寝かせた。その間サラは寝ぼけてむにゃむにゃと呟くだけだった。

(サラさんは疲れ果てていますね。でもその赤いメイド服って少し怪しい気配がします。)

(えっ? リンちゃん、それってどう言う事?)

(う~ん。何と言ったら良いのか・・・男性を呼び寄せるフェロモンのような気配が少し・・・。)

そうなの?

リリスはベッドの隅っこに折りたたんだ赤いメイド服を手に取り、クンクンと匂いを嗅いでみた。だが特に気に成る点は無い。
でもあのセラさんから借りた物だけに、そう言った効果が付与されていても不思議ではない。
あるいはセラさんからの移り香かも知れない。

どちらにしてもあまり深入りはしない方が良さそうね。

リリスはそう思うと赤いメイド服を元に戻し、パジャマに着替えてベッドに入った。仰向きに寝たリリスの胸元にリンがちょこんと乗っかっている。
このまま寝るのも良いのだが、寝がえりでリンを押し潰したりしないだろうか?
そんなリリスの不安を他所に、リンはリリスの胸元で気持ちよさそうに身体を伸ばした。

(リンちゃん。本当にお泊りして良かったの?)

(ええ、大丈夫ですよ。警護の竜達にも随時連絡を取り合っていますからね。)

リンの鼻息がリリスの首元をくすぐる。

(念話でやり取りしているの?)

(念話でも通じますが、今は仮想空間で連絡を取っています。)

仮想空間?

(それってどう言う事なの?)

リリスの問い掛けにリンは首を持ち上げた。そのつぶらな目がリリスを見つめる。

(高位の竜は仮想空間で交流しているんです。その方が念話よりも自分の意思を伝え易いので。)

う~ん。
想像がつかないわねえ。

(リリスお姉様もゲストとして仮想空間に入って見ますか? 私の権限で招待しますから。)

そう言われても意味が分からない。
それでも少し興味が湧いたのでリリスはリンに委ねる事にした。

(お姉様の資質なら容易に入れますよ。心を無にしてリンの目を見つめて下さい。)

言われるままにリリスはリンの目を見つめた。
数秒でふっと意識が飛び、気が付くと淡い紫の空間にリリスは立っていた。

リリスの前方にはリンが立っている。その傍に二人の大柄で屈強な男性が立っていた。この二人は恐らく警護の竜の人化した姿なのだろう。

「姫様。明日には我らの拠点にお帰り下さいね。」

「皆も心配していますから。」

リンちゃんって姫様と呼ばれているのね。

リンは二人の警護から窘められているようだ。
分かったわよと言い放ちながら、リンはリリスの傍に駆け寄ってきた。
その後を追うように二人の男性がこちらに向かって来る。

「リリス様ですね。お噂は兼ねがね伺っています。」

そう言いながらその男性はクンクンと匂いを嗅ぐ仕草をした。

「うむ。確かに覇竜の気配が僅かに感じられる。リリス様は覇竜の加護を受けた人族だと言うデルフィ殿の話は本当なのだな。」

またあの賢者様はあちらこちらで言いふらしているのね。

この二人の竜はハドルとヌディアと名乗った。気の優しそうなハドルに対して、ヌディアは少し好戦的な雰囲気の竜だ。

「ねえ、リンちゃん。デルフィさんってドラゴニュートだけど、この空間で交流しているの?」

リリスに話を振られたリンはうんうんとうなづき、

「デルフィ様は特別です。私のもう一人の育ての親ですからね。」

リンの言葉をハドルが補足した。

「デルフィ殿はこの仮想空間のシステムを姫様の要望に合わせて改良してくださったのです。以前は曖昧な容姿でしか存在出来なかったのですが、今はこうして姿かたちも明瞭になって、誰であるかも容易に識別出来るようになったのですよ。」

流石は賢者様ね。オブザーバーとして扱われているのかしら?

そう思っているとリリスの目の前に突然デルフィが現われた。

「呼んだかね?」

突然の出現に思わず、お呼びじゃないわよと突っ込みそうになったリリスである。

デルフィはニヤリと笑いながら、

「この空間では自分が会いたいと願う相手の傍に移動出来るのだよ。」

ふうん。そう言う仕組みなのね。イメージで識別して位置情報を検索出来るって事なの?

そう思っているうちにリリス達の周りに続々と人が集まってきた。どれも人化した竜なのだが、リンに挨拶をしながらもリリスをジロジロと舐め回すように見ている。中にはリリスを指差してひそひそと内緒話をしている者も居る。興味津々でリリスを見つめる視線が痛い。
何となく失礼な連中だ。

知らない振りをしてやり過ごそうとしたリリスに一人の男性が近付いてきた。骨太な体格で如何にも強そうな戦士の容貌である。

「君がリリスだね。」

この男は呼び捨てだ。

「俺の名はタレスだ。君は覇竜の加護を受けた人族だと聞いている。是非ともこの仮想空間の闘技場で試合をして欲しい。」

そう言いながらタレスと名乗る竜はグッとリリスの顔を睨みつけてきた。

嫌だわ。こんなところでまた厄介事に巻き込まれるなんて。

うんざりした表情でリリスはデルフィの顔を見た。助け舟を出しと欲しい気持ちがありありと見える。
だがデルフィはハハハと笑って、

「受けてやれば良い。闘技場は今賑わっておるぞ。」

そう言ってリリスを焚きつけてきた。

私が大変な目に遭ったのを知っていて言ってるの?

憤慨するリリスにデルフィは呟いた。

「ここは仮想空間だからな。戦いと言っても苦痛も傷も負わないのだよ。」

「ええっ? それってどう言う意味ですか?」

困惑したリリスはデルフィに聞き返した。

「闘技場に行けば分かるよ。」

そう言ってデルフィがパチンと指を鳴らすと、瞬時にリリス達の目の前に幾つもの闘技場が現われた。だがそれは闘技場が現われたのではなく、リリス達が瞬時に闘技場の傍に移動したようだ。

プロレスのリングのような施設がいくつも設置されていて、その中で竜同士で闘っているのだが、中には女性の姿も見える。それぞれが炎を纏った拳で殴り合い、その衝撃でリングの端に吹き飛ばされる者も居た。
それを見てうっとリリスは唸った。

如何にも痛そうじゃないの!

だがデルフィはリリスの思いを読み取って首を横に振った。

「あれは演出だよ。あの方が如何にも戦っている雰囲気だからね。」

そうなの?

いまだに信じられないリリスに向けてデルフィはリングの一つを指差し、

「あのリングを見てごらん。両サイドにボードがあって二本のゲージが見える筈だ。上の緑のゲージが戦闘力を表わし、下の赤いゲージが生命力を表わしている。赤いゲージが消えてしまえば負けになる・・・と言っても肉体的には何のダメージも無いのだがね。」

ああ、そう言う事ね。
これって体感型の格闘ゲームだわ。
それなら女性でも参加できるわよね。

リリスはようやくこの闘技場の仕組みを理解した。

タレスに促されてリリスもリングに上がった。リングの端には宝玉が設置されていて、その宝玉に手を置き、自分の魔力を流してながらスキルを登録するのだと言う。

「魔力を通してその者の戦闘履歴が分かる。それを分析して自動的にスキルを割り出し、そのスキルの評価値で戦闘力のゲージが発生するのだ。」

デルフィの言葉に何も考えず、リリスは宝玉に手を置き魔力を流した。だがよくよく考えると戦闘履歴が分かると言う事は隠しスキルも分かってしまうと言う事になる。

拙かったかしら・・・。

そう案じたリリスの思いは的中してしまった。

戦闘力の緑のゲージが太く長く浮かび上がり、意味ありげに点滅している。
それを目にしてタレスはぎょっとした。

「リリス。君は覇竜の加護で火魔法が少し強化されただけではないのか?」

そう問われてリリスはう~んと考え込み、

「火魔法と土魔法を操れますけどね。」

「そうだとしたらこの戦闘力のゲージは何なのだ?」

そう言われてもねえ。

リリスは分からない振りをして首を傾げた。

だが恐らくは隠しスキルが算入されているのだろう。毒攻撃や溶岩流なども算入されているのかも知れない。

赤い生命力のゲージは誰も同じ長さで、戦闘力に応じて生命力のゲージを削る分量も変わってくる。その仕組みを理解した上で、リリスはタレスとリングの中央で対峙した。

痛くないと言われても、大柄な男性に拳を向けられるとつい委縮してしまう。

それでもリンが応援してくれているのでリリスは気持ちを引き締めて、これはゲームだと自分に言い聞かせながら戦いに臨んだのだった。








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