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解呪の依頼3
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アイリス王妃が豊穣の神殿に来るようになって3日目の夜。
リリスの実家の屋敷の一室にリリス達が集まっていた。その場にいるのはリリスとユリアス、アイリス王妃とその侍従2名、メリンダ王女にフィリップ王子とその警護の兵2名である。それに加えて何故かロイヤルガードのリノが使い魔の形で同席していた。
王族の傍にロイヤルガードが待機しているのは普通の光景だが、何故に使い魔での参席になっているのだろうか?
疑問を抱くリリスであったが、白いリスの愛くるしさにその疑問も吹き飛んでしまった。
単にリリスの実家に来たかっただけなのかも知れない。あるいは解呪と聞いて興味を持ったのかも知れない。
この3日間、アイリス王妃はリリスの実家の屋敷のゲストルームに滞在していた。そこが一番安全で接待にもふさわしい場所だったからだ。その間メリンダ王女とフィリップ王子は転移の魔道具を使い、夜になるとお忍びで訪れていた。
この日までにフィリップ王子から呪いの事を毎日聞かされていたアイリス王妃は未だ半信半疑だったが、ユリアスの説明などもあって精査を受ける気持ちになっていたのだった。
ちなみに解呪の作業を行うのはリリスで、ユリアスは呪術におけるリリスの師匠と言う事になっている。師匠の立ち合いとアドバイスの元で、リリスが解呪を行なうと言う図式だ。
部屋の中央に設置された大きなベッドにアイリス王妃が横たわっている。その気品に満ち、優し気な表情は王妃と言う立場にふさわしい。やや足れ目気味の大きな瞳が見る者を和ませてくれる。
だが体調は決して良くは無い。少し動くだけで息が上がり、体力的にもかなり衰弱しているようだ。
体調が良くなるのならと言う気持ちで、フィリップ王子の言葉を受け入れたのだろう。
「それでは始めましょう。リリス、準備は良いか?」
ユリアスの言葉にリリスはハイと答え、非表示で魔装を発動させた。瞬時に魔力の流れが良く察知できるようになり、薄いローブを着たアイリス王妃の魔力の流れもそれなりに把握出来る。
「先ず魔力誘導でアイリス様の身体を精査してみよう。」
ユリアスの指示でリリスは魔力の触手をアイリス王妃の身体にゆっくりと撃ち込んでいく。この触手もかなり細く制御している。その先端にはまだ何も纏っていない。
ゆっくりと王妃の子宮や卵巣の付近に触手を伸ばしていくと、魔力の流れでそれらの臓器が活性化しているのが分かった。
これは明らかに護符の効果だ。
「女性特有の臓器が活性化して居ますね。」
リリスはそう言いながらユリアスの顔を見た。ユリアスはうんとうなづき、
「それでは解呪の呪詛を纏わらせてみよう。」
その言葉に合わせて、リリスは呪詛構築スキルを発動させた。限られたデータから選択するのだが、基本的に破邪の剣からコピーされた呪詛は解呪に関するものが大半で、それらをまとめて構築し魔力の触手の先端に纏わらせた。
その途端に魔力の触手が異様な反応を始めた。リリスの意志と関係なく、何かを探すように触手が勝手に動いていく。
その旨をユリアスに伝えると、
「それは呪詛が反応しているからだよ。」
そう言ってユリアスは呪詛の反応に委ねるように指示を出した。
だが確実に何かを見つけ出している反応ではない。魔力の触手は子宮や卵巣の周りをしきりに動き回り、何かを待っているようにも思える。
5分ほど経ち、その触手が俄かにその動きを速めた。
臓器の一点を目指して細い触手が集結したその時、触手の先に突然禍々しい魔力の渦が現われた。これが呪いなのか?
微生物化していた呪詛が集結するその時を触手の纏う解呪の呪詛が捉えたようだ。触手の先端から自律的に乖離された解呪の呪詛が魔力の渦を取り囲み、その渦を消し去っていくのが感じられた。
「ユリアス様、顕現した呪いを消す事が出来たようです。」
「まだ安心してはいかん。この呪いの発動は単発ではない筈だ。その周辺で時間を置いてまた発動するに違いない。」
ユリアスの言葉を受けて、リリスは再び魔力の触手の先端に解呪の呪詛を纏わらせた。
触手は再び自律的に動き回る。それに任せてリリスは魔力を送り続けた。
5分ほど経ってまた解呪の呪詛が反応し、臓器の一点に集中して解呪を施す。
この作業を何度となく繰り返し、すでに1時間近くが経っていた。
流石にリリスも額に汗が滲み、魔力の消耗に耐えていた。魔力吸引を発動させたいところだが、この閉鎖空間で、しかも王族達の傍ではそれを避けたい状況だ。止む無くマナポーションを飲み干しながら、地道な作業を継続するリリスである。
周りで見ているメリンダ王女やフィリップ王子もその姿勢を崩していない。リノですら使い魔の白いリスの目でじっと凝視している。
リリスは緊張感を途切れさせる事無く、リノに念話を送ってみた。
(リノ。あなたもダークエルフなら呪術には詳しいんじゃないの?)
突然念話を飛ばされてきたリノは少し驚いた様子で、
(呪術もそれなりには学んでいますが、リリス様の解呪の作業はかなり繊細な作業ですね。私でもそれほどに精密な魔力誘導は出来ません。ましてやその魔力に解呪の呪詛まで纏わらせるなんて・・・)
どうやらリリスの魔力誘導の状況を把握しているようだ。
(解呪の呪詛は貰い物だけどね。ユリアス様の盟友だったダークエルフが創り出したものよ。その人、ヌビアって名前だったそうよ。)
(・・・どうしてその名を御存じなんですか? ヌビアと言えばダークエルフでも一部の者しか知らない伝説的な呪術者ですよ。)
(本当にリリス様って・・・不思議な方ですね。)
不思議がられちゃったわ。
そう思いつつも、魔力の触手の操作には手を抜く事も無く、リリスは淡々と作業を続けた。だがようやく解呪の呪詛の反応が無くなってきたので、解呪はようやく終了できそうだ。
だが突然、リリスは魔力の触手の先端に違和感を覚えた。
何か細い糸のようなものが魔力の触手の先端から入り込んできたのを感じたからだ。
それをユリアスに伝えると、ユリアスは怪訝そうな表情になり、
「それを濃厚な魔力の塊で包み込んでごらん。」
その言葉に従って魔力を操作すると、糸のようなものを包み込む事が出来た。
「それを分離するんだ。床に放り出して構わないぞ。」
言われるままに糸のようなものを捉えた触手を、アイリス王妃の身体から抜き出したリリスは、その魔力の触手を根元から切り離した。
床の上に魔力の塊が転がっているのがぼんやりと見える。
それをユリアスは靴で踏みつぶした。
プチンと小さな音を立てて魔力の塊が四散していく。
「ユリアス様。今のは何ですか?」
リリスに問われてユリアスは忌々しそうな表情を見せた。
「今のは反転の呪詛だよ。あれが解呪者に侵入しようとしたと言う事は、呪いの解呪に成功したと思って良い。」
「でも、反転の呪詛なら放置しちゃっても良いのですか?」
リリスの言葉にユリアスはうんうんとうなづき、靴で踏みつぶした床の辺りに目をやった。
「反転の呪詛は解呪者に振りかかるものだ。解呪者から切り離した時点ですでに効力は無い。」
ユリアスはそう言いながらアイリス王妃に話し掛けた。
「アイリス様。かなり巧妙な呪いでしたが、リリスの技量もあって解呪に成功しました。」
その言葉にフィリップ王子達もほっと安堵のため息をついた。
「呪いが解呪されたので、体調の回復も容易なはずです。ポーション類で確かめてください。」
そう言いながらユリアスは王妃の侍従達に目配せをした。侍従達は持参していた高価なヒーリングポーションを取り出し、アイリス王妃の上半身をベッドから起こすと、それを飲むように促した。
アイリス王妃も魔力の触手を身体に撃ち込まれていたので、それなりに体力を消耗していたようだ。
言葉も無くうなづいてポーションを飲むと、ふっと表情が明るくなり、生気を取り戻してきたように感じられる。
「ありがとう。ポーションの効きが良いのが分かるわ。」
そう言ってアイリス王妃は笑顔を見せた。
「リリス、お姉様はもう大丈夫なの?」
それまで黙って見ていたメリンダ王女がアイリス王妃の顔を覗き込みながら、心配して声を掛けてきた。
「大丈夫よ。解呪には成功したわ。」
リリスの返事にほっとしてメリンダ王女はアイリス王妃の手を握った。
「でも誰がこんな事をお姉様に・・・・・」
そこまで言って声を詰まらせたメリンダ王女の頬を、アイリス王妃は優しく撫でた。
「メル。何処にも敵はいるものよ。それが王族の宿命なのだから。」
アイリス王妃の言葉にメリンダ王女も無言でうなづいた。
ユリアスはその様子を見ながらボソッと呟いた。
「今頃はこの呪いの術者が大変な目に遭っていますよ。反転の呪詛を組むためには代価を伴う。自分の寿命すら代価にしているかも知れません。それにこれだけ巧妙な呪いだから解呪に伴う影響も多大な筈です。」
「御自分の身の回りで急に倒れた者が居たら、疑ってみるのも良いかと思いますよ。」
ユリアスの言葉に表情を曇らせ、そうなの?と疑問を投げ掛けたアイリス王妃だが、縋り付くように絡んでくるメリンダ王女に笑顔を向けると、何時もの優し気な表情に戻った。
アイリス王妃はリリスに目を向けると、
「クレメンス家には色々とお世話になりましたね。リリスさん、今度メルやフィリップと一緒にリゾルタに遊びにいらっしゃい。王族専用の宝飾店にも案内してあげるわよ。代金は勿論王家が持ちますからね。」
褒賞としては妥当なところだろう。王妃からのありがたい申し出にユリアスとリリスは深々と頭を下げた。
フィリップ王子もアイリス王妃の言葉を受けて、あれこれと考えていた様子である。
「リゾルタの王都は商業が盛んで賑やかだから、一日中遊んでいられるよ。3人で偽装して遊びに行こう。」
フィリップ王子の言葉にメリンダ王女も強くうなづき、その様子にアイリス王妃もしばらくの間笑みを漏らしていた。
その日のうちにリリスはフィリップ王子の持つ転移の魔石で、メリンダ王女と共に魔法学院の学生寮に転移した。
翌日の早朝、アイリス王妃一行もリゾルタへの帰路に就いたとの連絡がリリスの元に届いたのは、その日の授業前の事だった。
どう言う経緯かは分からないが、担任のケイト先生から直接聞かされたのだ。
恐らく王家からの指示があったのだろう。
リリスさんも色々と大変ねと言うケイト先生のねぎらいの言葉を受け、リリスも若干表情を引きつらせながら失笑するしかなかった。
リリスの実家の屋敷の一室にリリス達が集まっていた。その場にいるのはリリスとユリアス、アイリス王妃とその侍従2名、メリンダ王女にフィリップ王子とその警護の兵2名である。それに加えて何故かロイヤルガードのリノが使い魔の形で同席していた。
王族の傍にロイヤルガードが待機しているのは普通の光景だが、何故に使い魔での参席になっているのだろうか?
疑問を抱くリリスであったが、白いリスの愛くるしさにその疑問も吹き飛んでしまった。
単にリリスの実家に来たかっただけなのかも知れない。あるいは解呪と聞いて興味を持ったのかも知れない。
この3日間、アイリス王妃はリリスの実家の屋敷のゲストルームに滞在していた。そこが一番安全で接待にもふさわしい場所だったからだ。その間メリンダ王女とフィリップ王子は転移の魔道具を使い、夜になるとお忍びで訪れていた。
この日までにフィリップ王子から呪いの事を毎日聞かされていたアイリス王妃は未だ半信半疑だったが、ユリアスの説明などもあって精査を受ける気持ちになっていたのだった。
ちなみに解呪の作業を行うのはリリスで、ユリアスは呪術におけるリリスの師匠と言う事になっている。師匠の立ち合いとアドバイスの元で、リリスが解呪を行なうと言う図式だ。
部屋の中央に設置された大きなベッドにアイリス王妃が横たわっている。その気品に満ち、優し気な表情は王妃と言う立場にふさわしい。やや足れ目気味の大きな瞳が見る者を和ませてくれる。
だが体調は決して良くは無い。少し動くだけで息が上がり、体力的にもかなり衰弱しているようだ。
体調が良くなるのならと言う気持ちで、フィリップ王子の言葉を受け入れたのだろう。
「それでは始めましょう。リリス、準備は良いか?」
ユリアスの言葉にリリスはハイと答え、非表示で魔装を発動させた。瞬時に魔力の流れが良く察知できるようになり、薄いローブを着たアイリス王妃の魔力の流れもそれなりに把握出来る。
「先ず魔力誘導でアイリス様の身体を精査してみよう。」
ユリアスの指示でリリスは魔力の触手をアイリス王妃の身体にゆっくりと撃ち込んでいく。この触手もかなり細く制御している。その先端にはまだ何も纏っていない。
ゆっくりと王妃の子宮や卵巣の付近に触手を伸ばしていくと、魔力の流れでそれらの臓器が活性化しているのが分かった。
これは明らかに護符の効果だ。
「女性特有の臓器が活性化して居ますね。」
リリスはそう言いながらユリアスの顔を見た。ユリアスはうんとうなづき、
「それでは解呪の呪詛を纏わらせてみよう。」
その言葉に合わせて、リリスは呪詛構築スキルを発動させた。限られたデータから選択するのだが、基本的に破邪の剣からコピーされた呪詛は解呪に関するものが大半で、それらをまとめて構築し魔力の触手の先端に纏わらせた。
その途端に魔力の触手が異様な反応を始めた。リリスの意志と関係なく、何かを探すように触手が勝手に動いていく。
その旨をユリアスに伝えると、
「それは呪詛が反応しているからだよ。」
そう言ってユリアスは呪詛の反応に委ねるように指示を出した。
だが確実に何かを見つけ出している反応ではない。魔力の触手は子宮や卵巣の周りをしきりに動き回り、何かを待っているようにも思える。
5分ほど経ち、その触手が俄かにその動きを速めた。
臓器の一点を目指して細い触手が集結したその時、触手の先に突然禍々しい魔力の渦が現われた。これが呪いなのか?
微生物化していた呪詛が集結するその時を触手の纏う解呪の呪詛が捉えたようだ。触手の先端から自律的に乖離された解呪の呪詛が魔力の渦を取り囲み、その渦を消し去っていくのが感じられた。
「ユリアス様、顕現した呪いを消す事が出来たようです。」
「まだ安心してはいかん。この呪いの発動は単発ではない筈だ。その周辺で時間を置いてまた発動するに違いない。」
ユリアスの言葉を受けて、リリスは再び魔力の触手の先端に解呪の呪詛を纏わらせた。
触手は再び自律的に動き回る。それに任せてリリスは魔力を送り続けた。
5分ほど経ってまた解呪の呪詛が反応し、臓器の一点に集中して解呪を施す。
この作業を何度となく繰り返し、すでに1時間近くが経っていた。
流石にリリスも額に汗が滲み、魔力の消耗に耐えていた。魔力吸引を発動させたいところだが、この閉鎖空間で、しかも王族達の傍ではそれを避けたい状況だ。止む無くマナポーションを飲み干しながら、地道な作業を継続するリリスである。
周りで見ているメリンダ王女やフィリップ王子もその姿勢を崩していない。リノですら使い魔の白いリスの目でじっと凝視している。
リリスは緊張感を途切れさせる事無く、リノに念話を送ってみた。
(リノ。あなたもダークエルフなら呪術には詳しいんじゃないの?)
突然念話を飛ばされてきたリノは少し驚いた様子で、
(呪術もそれなりには学んでいますが、リリス様の解呪の作業はかなり繊細な作業ですね。私でもそれほどに精密な魔力誘導は出来ません。ましてやその魔力に解呪の呪詛まで纏わらせるなんて・・・)
どうやらリリスの魔力誘導の状況を把握しているようだ。
(解呪の呪詛は貰い物だけどね。ユリアス様の盟友だったダークエルフが創り出したものよ。その人、ヌビアって名前だったそうよ。)
(・・・どうしてその名を御存じなんですか? ヌビアと言えばダークエルフでも一部の者しか知らない伝説的な呪術者ですよ。)
(本当にリリス様って・・・不思議な方ですね。)
不思議がられちゃったわ。
そう思いつつも、魔力の触手の操作には手を抜く事も無く、リリスは淡々と作業を続けた。だがようやく解呪の呪詛の反応が無くなってきたので、解呪はようやく終了できそうだ。
だが突然、リリスは魔力の触手の先端に違和感を覚えた。
何か細い糸のようなものが魔力の触手の先端から入り込んできたのを感じたからだ。
それをユリアスに伝えると、ユリアスは怪訝そうな表情になり、
「それを濃厚な魔力の塊で包み込んでごらん。」
その言葉に従って魔力を操作すると、糸のようなものを包み込む事が出来た。
「それを分離するんだ。床に放り出して構わないぞ。」
言われるままに糸のようなものを捉えた触手を、アイリス王妃の身体から抜き出したリリスは、その魔力の触手を根元から切り離した。
床の上に魔力の塊が転がっているのがぼんやりと見える。
それをユリアスは靴で踏みつぶした。
プチンと小さな音を立てて魔力の塊が四散していく。
「ユリアス様。今のは何ですか?」
リリスに問われてユリアスは忌々しそうな表情を見せた。
「今のは反転の呪詛だよ。あれが解呪者に侵入しようとしたと言う事は、呪いの解呪に成功したと思って良い。」
「でも、反転の呪詛なら放置しちゃっても良いのですか?」
リリスの言葉にユリアスはうんうんとうなづき、靴で踏みつぶした床の辺りに目をやった。
「反転の呪詛は解呪者に振りかかるものだ。解呪者から切り離した時点ですでに効力は無い。」
ユリアスはそう言いながらアイリス王妃に話し掛けた。
「アイリス様。かなり巧妙な呪いでしたが、リリスの技量もあって解呪に成功しました。」
その言葉にフィリップ王子達もほっと安堵のため息をついた。
「呪いが解呪されたので、体調の回復も容易なはずです。ポーション類で確かめてください。」
そう言いながらユリアスは王妃の侍従達に目配せをした。侍従達は持参していた高価なヒーリングポーションを取り出し、アイリス王妃の上半身をベッドから起こすと、それを飲むように促した。
アイリス王妃も魔力の触手を身体に撃ち込まれていたので、それなりに体力を消耗していたようだ。
言葉も無くうなづいてポーションを飲むと、ふっと表情が明るくなり、生気を取り戻してきたように感じられる。
「ありがとう。ポーションの効きが良いのが分かるわ。」
そう言ってアイリス王妃は笑顔を見せた。
「リリス、お姉様はもう大丈夫なの?」
それまで黙って見ていたメリンダ王女がアイリス王妃の顔を覗き込みながら、心配して声を掛けてきた。
「大丈夫よ。解呪には成功したわ。」
リリスの返事にほっとしてメリンダ王女はアイリス王妃の手を握った。
「でも誰がこんな事をお姉様に・・・・・」
そこまで言って声を詰まらせたメリンダ王女の頬を、アイリス王妃は優しく撫でた。
「メル。何処にも敵はいるものよ。それが王族の宿命なのだから。」
アイリス王妃の言葉にメリンダ王女も無言でうなづいた。
ユリアスはその様子を見ながらボソッと呟いた。
「今頃はこの呪いの術者が大変な目に遭っていますよ。反転の呪詛を組むためには代価を伴う。自分の寿命すら代価にしているかも知れません。それにこれだけ巧妙な呪いだから解呪に伴う影響も多大な筈です。」
「御自分の身の回りで急に倒れた者が居たら、疑ってみるのも良いかと思いますよ。」
ユリアスの言葉に表情を曇らせ、そうなの?と疑問を投げ掛けたアイリス王妃だが、縋り付くように絡んでくるメリンダ王女に笑顔を向けると、何時もの優し気な表情に戻った。
アイリス王妃はリリスに目を向けると、
「クレメンス家には色々とお世話になりましたね。リリスさん、今度メルやフィリップと一緒にリゾルタに遊びにいらっしゃい。王族専用の宝飾店にも案内してあげるわよ。代金は勿論王家が持ちますからね。」
褒賞としては妥当なところだろう。王妃からのありがたい申し出にユリアスとリリスは深々と頭を下げた。
フィリップ王子もアイリス王妃の言葉を受けて、あれこれと考えていた様子である。
「リゾルタの王都は商業が盛んで賑やかだから、一日中遊んでいられるよ。3人で偽装して遊びに行こう。」
フィリップ王子の言葉にメリンダ王女も強くうなづき、その様子にアイリス王妃もしばらくの間笑みを漏らしていた。
その日のうちにリリスはフィリップ王子の持つ転移の魔石で、メリンダ王女と共に魔法学院の学生寮に転移した。
翌日の早朝、アイリス王妃一行もリゾルタへの帰路に就いたとの連絡がリリスの元に届いたのは、その日の授業前の事だった。
どう言う経緯かは分からないが、担任のケイト先生から直接聞かされたのだ。
恐らく王家からの指示があったのだろう。
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