落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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開祖の魔剣 余談2

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開祖の魔剣の件から1週間ほど経ったある日の放課後。

生徒会の用事を済ませて学生寮の自室に戻ろうとすると、ドア越しに複数の会話が聞こえてきた。
また厄介な連中が雪崩れ込んできたのかと思いながら、リリスは勢いよくドアを開けた。

「「「お帰り!」」」

案の定、使い魔達がソファに座っている。
だが今日は亜神の使い魔が見当たらない。
小人とその肩に生えた芋虫は、フィリップ王子とメリンダ王女だ。フィリップ王子ってメリンダ王女の言い成りなのだろうか?
そう思いながらその傍を見ると、全身紫のガーゴイルがいる。

何故にユリアス様が此処に居るの?
勝手に入って来ちゃったのかしら?

疑問を抱くリリスにガーゴイルが口を開いた。

「お邪魔してるよ、リリス。」

ガーゴイルはそう言いながら、ソファにゆったりと座り直した。随分寛いでいる様子である。

「これってどう言う状況なんですか? いや、その前に、お互いの素性は分かっているんですか?」

リリスの問い掛けに使い魔達はうんうんとうなづいた。

「先程お互いの自己紹介を済ませたよ。」

「だがまさかリリスの部屋に王族の使い魔が来ているとは思わなかったぞ。」

紫のガーゴイルの言葉に小人が言葉を繋ぐ。

「僕はメルの用事でここに来ただけだよ。リリスのご先祖様に会えるとは思わなかったけどね。」

「それでメルは?」

「私はこの前の開祖の魔剣の件で、リリスに褒賞は何が良いか聞きに来たのよ。レオナルドお兄様が直接本人に聞いた方が良いって言うので・・・」

褒賞ねえ。
別に拘っていないんだけどね。

「それでユリアス様は?」

話を振られてガーゴイルは芋虫の方からこちらに向き直った。どうやら芋虫が気に成っている様子である。

「儂はドナルドからの伝言を伝えに来たんだよ。」

ご先祖を伝言役って・・・お父様も大胆ね。

リリスの思いは小人にも伝わった。

「このユリアスさんってリリスのご先祖様だよね? クレメンス家はご先祖をメッセンジャーの代わりに使うのかい?」

「それは誤解ですよ、殿下。」

やれやれと呟きながら、リリスはカバンを机の傍に置き、ガーゴイルの隣の空いた場所に座った。
ガーゴイルはリリスの顔を眺めてニヤッと笑った。

「それでユリアス様は殿下と王女にどんな風に自己紹介したんですか?」

「どんな風にってありのままだよ。先程もクレメンス家の初代当主グレナドと共にミラ王国の内乱平定に参加した話で盛り上がっていたところだ。」

ガーゴイルの言葉に芋虫が大きな声をあげた。

「そうなのよ、リリス! まさか200年程前の我が国の内乱の状況を、当時の人から聞けるとは思わなかったわ。」

そう言いながら芋虫がその目をぎろっと見開いて、もの言いたげにリリスをじっと見つめた。

「ところでリリス。ミラ王国の王国史は学んだの?」

「ええ、1年生の必須科目だからね。でもそれ以前にも幼い頃から聞かされているわよ。一応貴族の娘だからね。」

「内乱ってエスタール王の統治していた頃の話よね。」

リリスの言葉にうんうんと芋虫は満足げにうなづいた。

「そう。当時のエスタール王は病弱で複数の王族や貴族を摂政に任命していたの。そこに付け込んで王家の転覆を画策した一派と守旧派が争い、ミラ王国全土を巻き込む内乱になったのよね。クレメンス家の初代当主が王家を守る守旧派として活躍した話は、知識としては知っていたけど、当事者から聞くと生々しくて新鮮だわ。」

「そうなのだよ。南方方面での戦でグレナドは大きな勝利を収めた。あの戦いが勝敗の分岐点だったと言っても良い。劣勢になっていた守旧派はあの戦から勢いを取り戻し、その後の戦で王家転覆を狙う一派の駆逐にも成功した。その褒賞として王家から下賜されたのが今のクレメンス領だ。」

うんうん、なるほど。そうだったのね。

「ところでユリアス様の要件って何なの?」

「ああ、それはだな・・・」

そう言ってガーゴイルはリリスの方に顏を向けた。

「ドナルドからの伝言で、リリスが帰郷した際に捕縛した盗賊達の素性が分かったそうだ。」

ああ、あの連中の事ね。
厄介な召喚術師もいたわね。

「その話だけど、僕もこのユリアスさんから聞いて驚いたよ。あの街道で盗賊が出るなんてねえ。でも4人まとめて捕縛したところが如何にもリリスらしいけどね。」

小人もそう言いながら身を乗り出してきた。

「あの盗賊達は南方の国々で悪事を行なっていた連中で、貴族の子女を誘拐して身代金を奪い、挙句の果てに人質を殺害していたそうだ。色々な国から追跡されてミラ王国に逃れてきたばかりだったと自供している。とりたてて特別な背景は無いから安心しろとドナルドは言っていたよ。」

そう。
それならまだ良いわ。
私個人を特定して狙ったので無いのなら。

「要するに通りすがりの犯行なのね。」

「そう言う事だ。だが盗賊の中に居た召喚術師は元々高ランクの冒険者として名を馳せていた者だそうだ。よくそんな奴を倒せたね。」

「ええ、土魔法を駆使しましたから。」

さらっと言い放つリリスに小人と芋虫がうんうんとうなづいた。

「それでこそリリスよね。だって学生寮のロイヤルガードまで戦闘不能にしちゃうんだから。」

「メル。その話はもう終わった事よ。メイド長のセラさんとも和解したからね。でも新しいロイヤルガードのリーダーがリノだったのは意外でした。あれって殿下の配慮ですか?」

リリスに話を振られた小人が口を開き、

「そうだね。顔見知りがいた方が、リリスも暴れないかと思ってね。」

「私は猛獣じゃありませんからね。」

小人の言葉に思わずぷっと頬を膨らませたリリスである。

「まあまあ、そんな不満げな顔をしないでくれよ。でもあの一件でロイヤルガード達の受けたショックは計り知れないものがあったのも事実だ。」

「そんなに?」

「だって君にほとんどのロイヤルガードが意識を奪われてしまって、王族の警護に空白の時間が生じてしまったんだ。ほんの5分ほどだったそうだが、その時間に無防備になった王族の生命を奪おうと思えば奪う事も出来たんだからね。」

小人の言葉にリリスはぞっとした。
成り行きだったとは言えあの場で邪眼を放った事が、それだけのインパクトを与えていたのかと改めて知ったからだ。
それを考えるとロイヤルガードを全員入れ替えた事も理解出来る。ロイヤルガードとしては失格の烙印を押されたようなものだ。

「まあ、あんな騒動は二度と起こさないようにしてくれよ。」

「はい。以後慎みます。」

少し身を縮め、殊勝に返答したリリスである。
内心では先に手を出したのはあいつらだと思いながら・・・。

「それで褒賞の事なんだけど・・・・・」

芋虫が話題を変えてリリスに尋ねてきた。

「実際には何か欲しいものがあるの? 以前のドルキアの宝玉の時のように、馬車一杯の金塊が良い?」

メリンダ王女も言う事が極端だ。そこまでに値するような事をした覚えはリリスには無い。

「それは遠慮するわ。私は特に何もしていないわよ。ゲルと話を取り付けただけだから。」

そう話すリリスの脇腹をガーゴイルがツンツンと突いてきた。何か言いたい事がありそうだ。

「リリス。特に欲しいものが無いと言うのなら、豊穣の神殿をクレメンス家のものとして、王家から承認して貰うのが良いと思うぞ。」

う~ん。それも良いかなあ。

リリスがふと考え込むのと同時に、芋虫が身を乗り出して口を挟んだ。

「そうそう! 豊穣の神殿の噂は王都にも伝わってきているわよ。子宝を授けるって本当なの?」

「それはだな・・・」

そう切り出してユリアスは豊穣の神殿の事を滔々と話し始めた。さらに神殿から与えられる護符の実物を取り出して小人に手渡した。

その護符を見つめながら、一連の話を聞いて芋虫が驚いた様子で、

「豊穣の神殿の噂って本物だったのね。王都の一部の貴族の中には、クレメンス家が始めた怪しい商売じゃないかって言う者も居るのよ。」

「それは酷いな。」

ガーゴイルが紫の身体を真っ赤にして憤慨している。だがそんな風に悪評を受けるのも無理も無い話だ。それ故に王家の承認を受ければ悪い風評も無くなるだろう。案外良い選択かも知れない。

「それじゃあ、私への褒章は豊穣の神殿をクレメンス家所有の本物の神殿として、王家から承認して頂く事としてください。」

リリスの言葉にガーゴイルもうんうんとうなづいた。

「分かったわ、リリス。でも一応現場に行政官を送って確認させるわね。こう言うのは手順を踏まないとダメなのよ。」

それはそうなのだろう。それなりの手続きは必要だ。現場での対応は父親とユリアスに任せれば良い。

「ありがとう、メル。私にはそれで充分よ。」

リリスはそう言って芋虫に感謝した。
そのリリスを横目で見ながらガーゴイルがう~んと考え込んだ。

「それにしてもリリスは不思議な娘だな。グレナドの子孫でこれ程に王家にかかわりを持つ者が現われるとは、思いもよらなかったよ。」

小人は要件を済ませたので席を立ち、帰ろうとしていたがその場で立ち止まり、ガーゴイルに顔を向けた。

「リリスのお陰で此処に居るメルも生命を長らえました。また僕の妹のマリアナも王家の逆賊から狙われ危ない所を免れました。リリスが見つけてくれた宝玉のお陰で、ドルキアでの現王家の統治の正当性も確立されました。リリスと関わっていると、災難を逃れ幸福を呼び込むように思えてならないんです。」

殿下、それは買い被り過ぎですよ。

「ふむ。たいしたものだ。それならリリスを教祖に仕立てるか。豊穣の神殿の主神と言う事で・・・」

「ユリアス様! それは話の趣旨が違います。殿下はそう言う事を言ってるんじゃありませんからね。」

「ハハハッ。分かっておるよ。冗談だ、冗談。」

そう言いながら手を振り、ガーゴイルは消えて行った。

「変なところで冗談を言わないで欲しいわよね。」

不満を口にするリリスに小人が笑顔を見せた。

「ユリアスさんはリリスの事を自分の孫娘のように思っているんだろうね。」

「実年齢は200年近く離れていますよ。」

リリスの素っ気ない言葉に小人は再びソファに座り、

「彼の事は先程色々と聞いたんだけど、自分の妻や子供や孫までも内乱で亡くしたそうだよ。リリスを見ていると亡くなった孫娘を思い出すと言っていたからね。それにリッチ化して正気を失う者も多いと聞く。そう言う意味からもユリアスさんは稀有な存在だよ。」

そう言って小人は立ち上がり、芋虫と共に部屋から出て行った。



程なく部屋の戻ってきたのはサラだ。
聞けばメリンダ王女に席を外すように依頼されたと言う。

「またサラを邪魔者扱いしたのね。」

リリスの呟きにサラは首を横に振った。

「良いのよ、リリス。どのみち私には縁のない話でしょうからね。リリスを見ていると、王族に関わるのも大変そうに見えるもの。」

まあ、そう言って貰えると気が楽になるわ。

「それに、メリンダ王女に最上階で待機しているように指示されたのよ。そこでメイドのセラさんから最高級の紅茶と茶菓子を頂いたわ。もうそれだけで私としては充分よ。」

一応サラをもてなしてくれたようだ。それを聞いてリリスはメリンダ王女に感謝した。
先日サラとメリンダ王女を引き合わせたので面識はある。その上、ゲルを呼び出す際にサラのスキルを活用した事をメリンダ王女も知っている。
それを考えれば邪魔者扱いは出来ない筈だ。

そんな風にサラに気を遣ってくれれば良いのよ。
亜神の連中もこれくらい気を遣ってくれれば良いのだけれど・・・。

「セラさんってとても上品な方ね。さすがは王族に仕えるメイドだわ。」

いやいや、
それは違うわよ、サラ。
あの人は武器マニアだからね。
でもサラがそう思っているのなら・・・それでも良いわ。

リリスのダガーを食い入るように見つめていたセラの表情を思い浮かべ、苦笑しながら、リリスはサラを誘って夕食の場に向かったのだった。







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