落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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開祖の魔剣 余談1

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学生寮の最上階で王族に仕えるメイドのチーフであるセラ。

その表情はにこやかだが、目は決して笑っていない。緊張感に満ちたリリスに向けてセラは話し続けた。

「昨日のロイヤルガード達の不祥事は看過出来ないものでしたので、大幅に人員を入れ替えました。いくらリリス様を探知出来なかったとしても、王族の招待客だったのですから、それ相応の対応をすべきでしたね。見て見ぬ振りをするような臨機応変さが足りなかったのだと思います。」

そう言ってセラは座ったまま再度頭を下げた。口調はどこまでも穏やかである。

「学生寮最上階のロイヤルガードの新しいリーダーが、お詫びを兼ねて挨拶をしたいと言うので、今日は此処に連れてきました。そうは言っても姿を現す事は仕事柄タブーなので、使い魔でのご挨拶となります。」

まあ、随分律義なロイヤルガードね。
余程昨日の反撃が効いたのかしら?

そう思っていると。リリスの目の前に真っ白なリスがふっと現れた。

うっ!
可愛い!

リスはそのつぶらな目をリリスに向けて軽く会釈をした。

「リリス様。リノです。お久し振りですね。覚えていらっしゃいますか?」

「えっ! リノなの? 勿論覚えているわよ。ドルキアの王都の神殿で私のガードに就いてくれたじゃないの。」

「ハイ。そうでしたね。」

そう言いながらリスがリリスに近付いてきた。そのぷっくらとした頬が可愛くて、リリスは思わず指でリスの頬を摩った。その感触が気持ち良い。
リスは嬉しそうな表情でリリスの指に絡んでいる。その仕草はとても使い魔には見えないものだ。

「ところでリリス様は古代魔法にも長じているのですか?」

「それって昨日の私の報復の事?」

「ええ、そうです。聞いた話ではあの後、ロイヤルガード達はパニックになったそうですよ。得体の知れない魔法やスキルを放たれたのではと・・・」

やはり邪眼は効果てき面だったようだ。

でも邪眼でそんなに混乱するとは思わなかったわ。私が今まで読んできた異世界物のラノベには大概出てくるわよ。
そんなに特殊なスキルじゃないと思うんだけどなあ。

そう思いつつもリリスは弁解に回った。

「まあ、そこには触れないでよ。私も執拗な探知や精神波での干渉に、つい腹が立ってやっちゃったんだから。」

「お気持ちは分かります。特に今回は彼等はリリス様の護身用のダガーにまで拘ってしまって・・・・・」

そうなのよね。
まさかあれに拘るとは思わなかったもの。

リリスはうんうんとうなづきながら、例のスローイングダガーを取り出し、テーブルの上に置いた。

「そうそう。これなんですよね。」

そう言ってグッと前に身を乗り出してきたのはセラである。その目が異様に輝いているのは何故だろうか?

「昨日私が預かった時、心の中では大層驚きました。まさかこんなものをお持ちだなんて。」

えっ!
セラさんも驚いていたのね。

「リリス様。このダガーの魔金属の合金の構成はお分かりですか?」

「ああ、それね。オリハルコンとヒイロカネが含まれているのは分かるんだけど、それ以外の構成物が分からないのよね。」

セラの問い掛けにリリスはつい無造作に答えてしまった。

「そこまではお分かりになるのですね。私も職業柄鑑定スキルには自信がありますが、それでもリリス様と鑑定結果は同じでした。分析出来ない構成物はおそらく魔力を通じさせるための触媒とその強化の為の金属でしょうね。」

「これだけの割合でそれらを混入させると、普通は合金の強度が下がり、自重も重くなってしまいます。でもこのダガーは大きさから考えても軽く強度も保たれている。しかも魔力との親和性が高い上に、属性魔法まで付与されている。これと同じ材料で出来た武具は幾つかありますが、すべてその国の宝物庫に保管されているものばかりですよ。」

それでロイヤルガード達が拘っていたのね。

リリスが察した事を見透かして、セラは話を続けた。

「数百年前、シューサックと名乗る伝説の鍛冶職人がおりました。所有者の魔力と極度に馴染む究極的な素材を造り上げ、伝説に残る魔剣や魔装具を残した鍛冶職人です。このダガーの素材もその方の造り上げた魔金属の合金だとお見受けしました。」

まるでお宝鑑定ね。
でも、シューサックさんってそんなに有名な人だったんだ。
確かに生産職を極めたとは言っていたけどね。

「驚いたのはそればかりではありません。そのような魔金属の合金であるにもかかわらず、ダガーとして錬成されたのがつい最近のようで・・・・」

そう言いながらセラはニヤリと笑った。

「いや、やめておきましょう。私はこのダガーに関しては・・・・・これ以上首を突っ込まない方が良いのでしょうね。」

セラは何かを悟ったような表情で身体を後ろに引き、ソファにもたれ掛かった。

そうね。
触れないで頂戴。
身のためよとまでは言わないけどね。

リリスとしてもこれ以上深入りはされたくないところだ。

「それにしてもセラさんは武器に詳しいですね。」

リリスの言葉に反応して、リノの使い魔のリスが口を挟んだ。

「それは当然ですよ、リリス様。このセラさんは武術の達人ですし、無類の武器マニアですからね。毎晩寝る前に刀剣を見て、うっとりしていると言う噂まであるほどですから。」

うっ!
この人ってあまり近付かない方が良い人だ。

「リノ。あまり誇張するのは止めてね。毎晩じゃないから。週に1~2度の事よ。」

涼しい顔で言い放つセラの言葉に、リリスは引いてしまった。
それにしても王族のメイドは普通の人では務まらないようだ。

じっとダガーを見つめているセラの視線を気にしながら、リリスはダガーを懐に片付けた。

「また学生寮の最上階に呼ばれる事があるかも知れないから、その時はよろしくね、リノ。」

「ハイ。こちらこそよろしくお願いします。そうは言ってもリリス様の動向は基本的にスルーしますけどね。」

そう言いながらリノの使い魔はうふふと笑った。

そうよね。そうしてよね。
王族に害意がある筈が無いのだから。

今後も王族達の要件で呼び出される事はあるだろう。
その際に余計な神経を遣わなくて済む。

学生寮のロイヤルガードに気心の知れた相手が来てくれて良かった。リリスは心底そう思ったのだった。

その後リノの使い魔と暫く歓談し、セラに見送られてリリスは学生寮に戻って行った。





翌日の昼休み。

リリスは学舎の傍の図書館に向かった。

セラの話が気に成って、シューサックについて調べてみようと考えたのだ。

図書館の司書のケリー女史に話し掛けて受付を済ませると、リリスは受付のテーブルの片隅にある大きな水晶の前に立った。

以前にケリー女史に教えられた通りの方法で、リリスは<シューサック>と念じながら、水晶に魔力を注ぎ込んだ。水晶全体がボーッと青く光り、何かがリリスの脳内に投影されてくる。リリスの脳内に閃いたのは『鍛冶』『伝説』と言う言葉だった。それと共に地下2階の奥に関連書物がある事が示された。

地下2階に降りてそれらしき書架を探すと、『鍛冶職人に纏わる伝説』と言う書物が見つかった。その書物の冒頭に書かれていたのがシューサックに関する記述である。

やはりシューサックは伝説的な鍛冶職人であったようだ。

***************

シューサックは約500年前に実在した伝説の鍛冶職人である。当初は冒険者として生計を立てていたが、生産系の特殊なスキルを幾つも持っていたので、同時代に存命であった賢者ユーフィリアスの勧めで鍛冶職人となった。彼の持っていたスキルは魔金属錬成と魔金属に対する属性魔法の付与、身体強化系のスキルの付与、防御系のスキルの付与であったとされる。

このうち魔金属錬成は錬金術師がごく稀に取得する稀有なスキルで、それ故にシューサックを錬金術師として分類する文献もある。
このスキルは低レベルでは文字通り魔金属を錬成する事を可能とするが、高レベルに達すると複数の素材や触媒を自在に練り合わせ、用途の応じた魔金属の合金を容易く造り上げる事も可能であると言われている。勿論魔金属の合金は高レベルの鍛冶職人でも作成出来るが、シューサックのスキルは圧倒的に作成時間が短く、またその品質も普通の鍛冶職人のものとは比べ物にならないほどの差があった。

また、シューサックの造り上げた魔金属の素材は多種多様で、3~4種類の魔金属で構成される規格外の逸品も複数残されており、それらは使用者の用途や魔力量や魔力の波動に合わせてオーダーメイドしていたとの記述も多々存在している。
それ故にシューサックへの依頼は王族や貴族階級がメインとなり、一般人向けの物は現時点では残っていない。
一説ではミラ王国の開祖エドワード王が所持していたとされる魔剣ダークファイターも、シューサックが造り上げたものとされるが、これは確証がなく伝説の域を超えない。

***************

最初の記述はこのようなものであった。この後に魔金属の合金の一般的な作成手順や、触媒の種類による効果などが詳しく書かれていたが、これらはリリスにはあまり興味が無かったので読み飛ばした。いくら魔金属錬成スキルを手に入れたと言っても、鍛冶職人になるつもりなどリリスには無いからだ。最後に現存するシューサック作の魔剣や武具と、その保有国が列挙されてシューサックに関する記述は閉じられていた。

う~ん。
シューサックさんって思っていた以上に伝説的な人だったのね。
でも私が魔金属錬成スキルを持っていても『猫に小判』よねえ。
どうやってレベルを上げるのかも分からないし、活用の仕方が分からないわ。

そう思ってリリスは書架にその本を戻した。

結局知人友人の為に、魔金属からアクセサリーを造る程度の事しか思い浮かばないリリスであった。
それはリリスらしいと言えばリリスらしい発想なのだが・・・・・。





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