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魔金属の効果
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休暇最終日の夜。
かなり遅い時間になってサラが学生寮に戻ってきた。両手に荷物を目一杯抱えて帰ってきたサラの姿は滑稽でもある。
まるで旅行帰りのおばさんだわ。
リリスがそう思ったのも無理も無い。僅か一週間の休暇だというのに、サラの顔がパンパンに膨れ上がっていたからだ。
「・・・・・サラ、太ったの?」
躊躇いながら口を開いたリリスにサラは苦笑いをした。
「そうなのよ。実家に帰ったその日からずっと、両親や親族から食べ物の攻勢を掛けられちゃってね。あれを食べろこれを食べろって、もうきりが無かったわよ。」
そう言いながらサラは両手で頬を撫でた。
「私って太ると直ぐに顔に出るのよね。」
サラはそう言うと荷物を整理し始めた。その様子を見ながらリリスはサラの両親達の様子を思い浮かべた。サラの両親にしてみれば、娘の体調が気に成って仕方が無かったのだろう。
サラは新入生の時、召喚術の講義で召喚魔法を暴走させ、入院するような事態になった事があった。その時のサラの両親の心配する様子を傍で見ていたリリスには、サラの両親の気持ちも良く分かる。
久し振りに実家に帰ってきた娘にとにかく食べさせて、元気な姿を見ていたかったのね。
そう思うと微笑ましくなって、リリスも自然に笑みがこぼれた。
「そうそう、みんなにお土産があるのよ。リリスにはこれね。」
そう言ってサラはリリスに小さな包みを手渡した。何かしらと思いながらそれを開けると、緑色の貴石の付いた小さな髪飾りが出てきた。細緻な細工を施したシルバーの土台の上に嵌められている貴石はヒスイだろうか。しかも少し魔力を纏っているようだ。
この世界の宝石や貴石などは大概魔力を纏っている。
それは魔素が満ちた大地で産出されるので当然と言えば当然なのだが、リリスにとってはやはり不思議な現象である。
デザインが可愛いので気に入ったリリスは早速髪につけてみた。
ヒスイから放たれる魔力で頭皮が少し活性化されているのが分かる。
これってつけているだけで髪の質が良くなりそうだわ。
リリスは自分の髪を念入りに手で触りながら、サラに礼を言った。
「ありがとう、サラ。凄く気に入ったわ。これってわざわざ買ってくれたの?」
唐突なリリスの問い掛けにサラはアハハと笑った。
「そうじゃないのよ。ヒスイは私の領地の特産品なの。だからヒスイを使ったアクセサリーなんて山ほどあるのよ。」
「へえ~。マクロード領ってヒスイが採れるのね。」
「そうなのよ。両親が持って行けって言うから、クラスメイト全員の分を持ってきたわよ。女子は髪飾り、男子はネクタイピンだからね。」
そう言ってサラは手荷物の中から小さな包みを幾つも取り出した。
「でも男子にあげると特別なプレゼントだと誤解されちゃうかしら?」
「そうねえ。意味深な態度で手渡さない方が良いわよ。うつむき加減で恥じらいながら、『受け取ってください』なんてね。」
リリスの言葉にサラはガハハと豪快に笑った。
「それはないわぁ。私ってそんなキャラじゃないものね。」
それはそうかも知れない。サラはどちらかと言えば男性的な性格だ。
リリスはサラの言葉にうんうんとうなづきながら、自分のカバンから小さな布袋を取り出した。
「サラ。これは私からのプレゼントよ。受け取ってね。」
サラはリリスから手渡された布袋を受け取り、嬉しそうに開けてみた。
中から出てきたのは魔金属製のブレスレットだ。
これはリリスがエリスのあげたものと同じで、以前にシューサックから貰った魔金属の塊の一つを細分し、錬成してスキルを付与したものである。
魔金属特有の鈍い光沢をサラは不思議そうに見つめていた。
リリスにしてみれば、日頃から迷惑をかけているサラへの心遣いである。とは言ってもリリスが直接に迷惑をかけているわけではない。サラに迷惑を掛けているのは、リリスの部屋に前触れもなく雪崩れ込んでくる亜神達だ。
それでも亜神達の悪しき行状はリリスの責任として受け止めていた。どのみち亜神達なんて人間の事情を全く考慮に入れていないのは明白である。
亜神は亜神の行動原理に基づいて動くだけ。ユリアは以前そう言っていた。
それでも亜神の本体の一部分の状態で人間と絡もうとするのは、亜神の心の中に僅かに存在する良心なのかも知れない。その絡み方が人間にとって非常に迷惑な事も多々あるのだが。
サラは受け取ったブレスレットを手首に装着すると、驚きの表情でリリスの顔を見つめた。
「リリス。このブレスレットって生きているの? 私と魔力をやり取りしているわよ。」
生きている訳は無いのだが。
それにしてもエリスの時とは違った反応だ。
「それはその魔金属の特性だと思うわよ。」
リリスは笑って答えたが、正直言って真実は分からない。リリスの鑑定スキルを使ってもこの魔金属の合金の構成が完全には分からないからだ。
魔金属が所持者の魔力に反応するという話は聞いた事がある。
だが魔力を吸い上げたり、やり取りしたりするなんて、聞いた事が無い。
魔金属関連のスキルをレベルアップすれば分かるようになるのだろうか?
だがそもそも魔金属関連のスキルをレベルアップする手段方策自体が分からない。
シューサックさんって何をくれたのかしら?
そう思いながらサラの腕のブレスレットを見ていると、仄かに光り始め、軽く震動しているのが分かった。
その状況にサラも不安がっているだろうと思ったのだが、意外にもサラは嬉しそうな表情を見せている。
「不思議ねえ。このブレスレットを着けてから、魔力の流れが改善されているのが自分でも分かるわよ。」
サラの様子を見ながら、喜んでくれているのなら良いわとリリスは思った。
その後お互いの実家の様子を話しながら、二人は明日の授業の準備をして眠りに就いた。
翌日から授業が始まった。
授業の合間に一週間振りに顔を合わせたクラスメイト達とあれこれと話をしてみると、ほとんどの生徒が実家に帰っていた事が分かった。実家に帰らなかったのはエレンとニーナの二人で、両家の親を含めて休暇の間、他国にある保養地に行っていたらしい。
地方の貴族と違って大商人の家は羽振りが良いわねと言うサラの言葉に、リリスは苦笑いを浮かべるだけだった。
サラからのプレゼントはクラスメイト全員に好評だった。その日の授業の始まる前に手渡したのだが、全員その場で着けたために、女子は全員ヒスイの付いた髪飾り、男子は全員ヒスイの付いたネクタイピンで揃えていた状況は実に異常である。担任のケイト先生が教室に入ってきた途端に、『あら、校則が変わっていたのかしら?』と叫んだのも無理も無い。まるで学校指定のアクセサリーのように思える状況だ。
意外にも上級貴族の二人もそれぞれに気に入ったようで、嬉しそうに着けている様子はリリスから見ても微笑ましかった。後で聞いた話だが、マクロード領産のヒスイは上級貴族の間でも評判が良いそうだ。
そう言う特産品があると領地経営って有利よね。
リリスはその時そう思ったのだが、この時点では自分の領地に出現した豊穣の神殿が一大観光名所になるとは思ってもみなかった。
この日の午前中の授業を終え、リリスが昼食に向かおうとして席から立った時、突然教室の前の扉から女生徒が飛び込んできて、リリスの目の前で立ち止まった。
エリスだ。
汗を掻きながら走り込んできた様子で、ハアハアと息を荒立てている。その興奮の度合いが彼女の端正な顔立ちに似合わない。
だがその目が笑っているので、厄介事ではなさそうだ。
「リリス先輩! これ、凄いですよ!」
そう言ってエリスは腕に装着したブレスレットを指差した。昨日彼女に手渡したリリスお手製の魔金属のアクセサリーだ。
どうしたのよと尋ねながら、リリスはエリスが今日、二回目のダンジョンチャレンジに参加する予定だった事を思い出した。
どうやら午前中にダンジョンチャレンジを済ませたようである。
「私の水魔法の効果が、あの、ブリザードが、いや、魔力の補充が・・・」
一気に喋ろうとするので脈絡が無い。何を言っているのか分からないので、リリスはエリスの両肩に手を置き、その場に座らせた。
「とりあえず、落ち着こうね。」
そのままヒールでも掛けたい状況である。少し落ち着いたエリスはハンカチで汗を拭き、リリスの傍に座り直した。
エリスの話をまとめると、水魔法の効果が格段に強化されたと言う事である。
ウォーターカッターも数と威力が増し、アイスボルトも飛行速度がかなり早くなったと言う。
「極めつけはブリザードなんですよ。ブリザードってかなり高度の水魔法なので、私にはまだ十分にコントロール出来なくて、効果範囲が狭く、その効果も対象の表面に霜が付く程度だったんです。でも今日は全然違ってました!」
再び興奮してきたエリスを落ち着かせると、エリスは手のひらに水魔法で氷の粒を幾つか出現させ、それを口に含んでかみ砕き呑み込んだ。自分を冷静にさせる彼女なりの習慣なのだろう。
「半径10m程の範囲ですけど、魔物も木々も、あらゆるものが凍結しちゃったんです。」
「ロイド先生も唖然としていましたよ。」
エリスの表情が生き生きとしている。見ている側にもその気持ちが伝わってきて、つい頬が緩んでしまう。
ポンポンと軽くエリスの方を叩きながらリリスは笑顔で、
「それって凄いじゃないの。だったら今日のダンジョンチャレンジは楽勝だったでしょ?」
リリスの言葉にエリスはうんうんとうなづいた。
「付き添いのロイド先生には『凍結の魔女』って呼ばれちゃいましたよ。それって酷くないですか?」
「そうよね。酷いわよね。『凍結の魔女』じゃなくて『凍結の魔少女』よね。」
「ええっ!そこですかぁ?」
突っ込むところが違うと責められたリリスである。
「まあ良いじゃないの。良い結果が出たんだからね。」
リリスの言葉にエリスは、
「う~ん。微妙~。」
と言いながら苦笑いで教室を出て行こうとした。そのエリスの無邪気な表情にリリスも心が癒される。
あの魔金属のブレスレットをあげて良かったわ。
でも予想以上の効果が出たのね。
ブレスレットの効果は装着者の潜在能力に依るのかも知れない。だがあのミサンガのお礼だと思えば充分だろう。
何より本人が喜んでくれるのが一番だ。
また放課後に生徒会の部屋で会おうねと言いながら、リリスは頼もしい後輩をしばらく見送っていた。
かなり遅い時間になってサラが学生寮に戻ってきた。両手に荷物を目一杯抱えて帰ってきたサラの姿は滑稽でもある。
まるで旅行帰りのおばさんだわ。
リリスがそう思ったのも無理も無い。僅か一週間の休暇だというのに、サラの顔がパンパンに膨れ上がっていたからだ。
「・・・・・サラ、太ったの?」
躊躇いながら口を開いたリリスにサラは苦笑いをした。
「そうなのよ。実家に帰ったその日からずっと、両親や親族から食べ物の攻勢を掛けられちゃってね。あれを食べろこれを食べろって、もうきりが無かったわよ。」
そう言いながらサラは両手で頬を撫でた。
「私って太ると直ぐに顔に出るのよね。」
サラはそう言うと荷物を整理し始めた。その様子を見ながらリリスはサラの両親達の様子を思い浮かべた。サラの両親にしてみれば、娘の体調が気に成って仕方が無かったのだろう。
サラは新入生の時、召喚術の講義で召喚魔法を暴走させ、入院するような事態になった事があった。その時のサラの両親の心配する様子を傍で見ていたリリスには、サラの両親の気持ちも良く分かる。
久し振りに実家に帰ってきた娘にとにかく食べさせて、元気な姿を見ていたかったのね。
そう思うと微笑ましくなって、リリスも自然に笑みがこぼれた。
「そうそう、みんなにお土産があるのよ。リリスにはこれね。」
そう言ってサラはリリスに小さな包みを手渡した。何かしらと思いながらそれを開けると、緑色の貴石の付いた小さな髪飾りが出てきた。細緻な細工を施したシルバーの土台の上に嵌められている貴石はヒスイだろうか。しかも少し魔力を纏っているようだ。
この世界の宝石や貴石などは大概魔力を纏っている。
それは魔素が満ちた大地で産出されるので当然と言えば当然なのだが、リリスにとってはやはり不思議な現象である。
デザインが可愛いので気に入ったリリスは早速髪につけてみた。
ヒスイから放たれる魔力で頭皮が少し活性化されているのが分かる。
これってつけているだけで髪の質が良くなりそうだわ。
リリスは自分の髪を念入りに手で触りながら、サラに礼を言った。
「ありがとう、サラ。凄く気に入ったわ。これってわざわざ買ってくれたの?」
唐突なリリスの問い掛けにサラはアハハと笑った。
「そうじゃないのよ。ヒスイは私の領地の特産品なの。だからヒスイを使ったアクセサリーなんて山ほどあるのよ。」
「へえ~。マクロード領ってヒスイが採れるのね。」
「そうなのよ。両親が持って行けって言うから、クラスメイト全員の分を持ってきたわよ。女子は髪飾り、男子はネクタイピンだからね。」
そう言ってサラは手荷物の中から小さな包みを幾つも取り出した。
「でも男子にあげると特別なプレゼントだと誤解されちゃうかしら?」
「そうねえ。意味深な態度で手渡さない方が良いわよ。うつむき加減で恥じらいながら、『受け取ってください』なんてね。」
リリスの言葉にサラはガハハと豪快に笑った。
「それはないわぁ。私ってそんなキャラじゃないものね。」
それはそうかも知れない。サラはどちらかと言えば男性的な性格だ。
リリスはサラの言葉にうんうんとうなづきながら、自分のカバンから小さな布袋を取り出した。
「サラ。これは私からのプレゼントよ。受け取ってね。」
サラはリリスから手渡された布袋を受け取り、嬉しそうに開けてみた。
中から出てきたのは魔金属製のブレスレットだ。
これはリリスがエリスのあげたものと同じで、以前にシューサックから貰った魔金属の塊の一つを細分し、錬成してスキルを付与したものである。
魔金属特有の鈍い光沢をサラは不思議そうに見つめていた。
リリスにしてみれば、日頃から迷惑をかけているサラへの心遣いである。とは言ってもリリスが直接に迷惑をかけているわけではない。サラに迷惑を掛けているのは、リリスの部屋に前触れもなく雪崩れ込んでくる亜神達だ。
それでも亜神達の悪しき行状はリリスの責任として受け止めていた。どのみち亜神達なんて人間の事情を全く考慮に入れていないのは明白である。
亜神は亜神の行動原理に基づいて動くだけ。ユリアは以前そう言っていた。
それでも亜神の本体の一部分の状態で人間と絡もうとするのは、亜神の心の中に僅かに存在する良心なのかも知れない。その絡み方が人間にとって非常に迷惑な事も多々あるのだが。
サラは受け取ったブレスレットを手首に装着すると、驚きの表情でリリスの顔を見つめた。
「リリス。このブレスレットって生きているの? 私と魔力をやり取りしているわよ。」
生きている訳は無いのだが。
それにしてもエリスの時とは違った反応だ。
「それはその魔金属の特性だと思うわよ。」
リリスは笑って答えたが、正直言って真実は分からない。リリスの鑑定スキルを使ってもこの魔金属の合金の構成が完全には分からないからだ。
魔金属が所持者の魔力に反応するという話は聞いた事がある。
だが魔力を吸い上げたり、やり取りしたりするなんて、聞いた事が無い。
魔金属関連のスキルをレベルアップすれば分かるようになるのだろうか?
だがそもそも魔金属関連のスキルをレベルアップする手段方策自体が分からない。
シューサックさんって何をくれたのかしら?
そう思いながらサラの腕のブレスレットを見ていると、仄かに光り始め、軽く震動しているのが分かった。
その状況にサラも不安がっているだろうと思ったのだが、意外にもサラは嬉しそうな表情を見せている。
「不思議ねえ。このブレスレットを着けてから、魔力の流れが改善されているのが自分でも分かるわよ。」
サラの様子を見ながら、喜んでくれているのなら良いわとリリスは思った。
その後お互いの実家の様子を話しながら、二人は明日の授業の準備をして眠りに就いた。
翌日から授業が始まった。
授業の合間に一週間振りに顔を合わせたクラスメイト達とあれこれと話をしてみると、ほとんどの生徒が実家に帰っていた事が分かった。実家に帰らなかったのはエレンとニーナの二人で、両家の親を含めて休暇の間、他国にある保養地に行っていたらしい。
地方の貴族と違って大商人の家は羽振りが良いわねと言うサラの言葉に、リリスは苦笑いを浮かべるだけだった。
サラからのプレゼントはクラスメイト全員に好評だった。その日の授業の始まる前に手渡したのだが、全員その場で着けたために、女子は全員ヒスイの付いた髪飾り、男子は全員ヒスイの付いたネクタイピンで揃えていた状況は実に異常である。担任のケイト先生が教室に入ってきた途端に、『あら、校則が変わっていたのかしら?』と叫んだのも無理も無い。まるで学校指定のアクセサリーのように思える状況だ。
意外にも上級貴族の二人もそれぞれに気に入ったようで、嬉しそうに着けている様子はリリスから見ても微笑ましかった。後で聞いた話だが、マクロード領産のヒスイは上級貴族の間でも評判が良いそうだ。
そう言う特産品があると領地経営って有利よね。
リリスはその時そう思ったのだが、この時点では自分の領地に出現した豊穣の神殿が一大観光名所になるとは思ってもみなかった。
この日の午前中の授業を終え、リリスが昼食に向かおうとして席から立った時、突然教室の前の扉から女生徒が飛び込んできて、リリスの目の前で立ち止まった。
エリスだ。
汗を掻きながら走り込んできた様子で、ハアハアと息を荒立てている。その興奮の度合いが彼女の端正な顔立ちに似合わない。
だがその目が笑っているので、厄介事ではなさそうだ。
「リリス先輩! これ、凄いですよ!」
そう言ってエリスは腕に装着したブレスレットを指差した。昨日彼女に手渡したリリスお手製の魔金属のアクセサリーだ。
どうしたのよと尋ねながら、リリスはエリスが今日、二回目のダンジョンチャレンジに参加する予定だった事を思い出した。
どうやら午前中にダンジョンチャレンジを済ませたようである。
「私の水魔法の効果が、あの、ブリザードが、いや、魔力の補充が・・・」
一気に喋ろうとするので脈絡が無い。何を言っているのか分からないので、リリスはエリスの両肩に手を置き、その場に座らせた。
「とりあえず、落ち着こうね。」
そのままヒールでも掛けたい状況である。少し落ち着いたエリスはハンカチで汗を拭き、リリスの傍に座り直した。
エリスの話をまとめると、水魔法の効果が格段に強化されたと言う事である。
ウォーターカッターも数と威力が増し、アイスボルトも飛行速度がかなり早くなったと言う。
「極めつけはブリザードなんですよ。ブリザードってかなり高度の水魔法なので、私にはまだ十分にコントロール出来なくて、効果範囲が狭く、その効果も対象の表面に霜が付く程度だったんです。でも今日は全然違ってました!」
再び興奮してきたエリスを落ち着かせると、エリスは手のひらに水魔法で氷の粒を幾つか出現させ、それを口に含んでかみ砕き呑み込んだ。自分を冷静にさせる彼女なりの習慣なのだろう。
「半径10m程の範囲ですけど、魔物も木々も、あらゆるものが凍結しちゃったんです。」
「ロイド先生も唖然としていましたよ。」
エリスの表情が生き生きとしている。見ている側にもその気持ちが伝わってきて、つい頬が緩んでしまう。
ポンポンと軽くエリスの方を叩きながらリリスは笑顔で、
「それって凄いじゃないの。だったら今日のダンジョンチャレンジは楽勝だったでしょ?」
リリスの言葉にエリスはうんうんとうなづいた。
「付き添いのロイド先生には『凍結の魔女』って呼ばれちゃいましたよ。それって酷くないですか?」
「そうよね。酷いわよね。『凍結の魔女』じゃなくて『凍結の魔少女』よね。」
「ええっ!そこですかぁ?」
突っ込むところが違うと責められたリリスである。
「まあ良いじゃないの。良い結果が出たんだからね。」
リリスの言葉にエリスは、
「う~ん。微妙~。」
と言いながら苦笑いで教室を出て行こうとした。そのエリスの無邪気な表情にリリスも心が癒される。
あの魔金属のブレスレットをあげて良かったわ。
でも予想以上の効果が出たのね。
ブレスレットの効果は装着者の潜在能力に依るのかも知れない。だがあのミサンガのお礼だと思えば充分だろう。
何より本人が喜んでくれるのが一番だ。
また放課後に生徒会の部屋で会おうねと言いながら、リリスは頼もしい後輩をしばらく見送っていた。
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