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休暇の最終日
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休暇の最終日。
リリスは学生寮の自室で使い魔を呼び出し、自分の五感を共有させた。更に魔力の波動も同期させる。これで遺跡の地下の施設に入れるはずだ。
リリスの身体はベッドの中で寝たままの状態である。
ちなみにタミアやユリアの使い魔のピクシーと区別する為、リリスは自分の使い魔のピクシーに紫の衣装を着せている。これは帰省中に思いついて実家で作り上げたものだ。
紫の衣装のピクシーが窓から飛び出し、学生寮の傍に降り立ち、暫く待っていると地面が仄かに光り出した。どうやらビーコンの役目の魔道具が反応しているようだ。少しその場で待機していると、地上1mほどの高さに黒い闇が現われ、その中から全身が紫のガーゴイルが現われた。これがどうやらユリアスの使い魔らしい。
ガーゴイルはリリスの使い魔を見つけて、直ぐに傍に寄ってきた。
「おや? 今日はお揃いだね、リリス。」
それって紫で揃えているって事なのね。
「たまたまですよ。それにしても全身紫って目立ちますね。」
「儂は紫が好きなんだよ。」
そう言う嗜好なのね。
でも全身紫ってちょっと引いちゃうわねえ。
「とりあえず、お約束通り遺跡に案内しますよ。私について来て下さい。」
そう言いながら紫の衣装のピクシーが飛び立ち、その後を紫のガーゴイルがついて来た。
空は快晴で風も心地好い。
暫く魔法学院の敷地上空を進み、2体の使い魔はレミア族の遺跡の上に近付いた。
「ユリアス様、あれが遺跡です。」
「う~ん。見た目はしょぼい遺跡だな。耕作の跡が残っているだけか?」
「ええ、地上部分はね。」
紫の衣装のピクシーが地上に接近し、ガーゴイルを誘導しながら薄暗い祠に入る。祠の中央部の階段から下に降りると墓所だと教わった空間に入った。その奥の壁の突起物を見つけて、ピクシーとガーゴイルはその前に停止した。
「これが地下の施設への転移装置の端末です。」
「この突起物がそうなのか? 確かに不思議な魔力を僅かに漂わせているようだが・・・」
リリスはピクシーに同期させた自分の魔力を、ピクシーの全身に纏わらせた。これでこの端末はリリスが訪れてきたと判断する筈だ。
ピクシーがガーゴイルの手を引いて、端末に触れ、魔力を流した。
その途端に転移装置が作動して、ピクシーとガーゴイルは賢者の居る空間に転移された。
白い壁で覆われた美術館のような建物。その広い空間の中央にホログラムではあるが、賢者ドルネアが立っていた。
「おや? これは奇異なお客さんだ。そちらのピクシーはリリスの使い魔だね。だがその傍にいる奇抜なガーゴイルは何者かね?」
リリスは施設の内部をきょろきょろと珍しそうに見ている紫のガーゴイルを、両手で押しながらドルネアの傍に誘導した。
「賢者様、お久しぶりです。このガーゴイルは私のご先祖様の使い魔でして・・・」
「うん? それはどう言う意味だ?」
そう言いながらドルネアはガーゴイルを精査した。
「ああ、召喚主はリッチなのだな。その魔力の波動で分かったよ。だがリッチが何の要件かね?」
ドルネアの問い掛けにガーゴイルが前に進み出て、
「お会い出来て良かった。お名前は賢者ドルネア様ですね。私はユリアスと言う名で・・・」
そこから滔々とユリアスは話し始めた。自分の出自からリッチになった経緯、更にレミア族の遺跡や遺物に興味を持ち、クレメンス領にある神殿の遺跡を探し出した事まで、興奮して話す口調に淀みがない。
一通りの話を聞いてドルネアはうんうんとうなづいた。
「そうか。南の神殿を見つけたのだね。再起動させてくれたことには感謝しよう。」
ドルネアの言葉を聞き、リリスは自分の疑問を口にした。
「賢者様。どうして私の領地にレミア族の神殿があるのですか? ここからは結構離れていますよ。」
「ああ、あそこはレミア族の開拓地だったのだよ。レミア族は開拓地を切り開く際に先ず豊穣の神殿を建てる。その神殿の放つ土魔法で土地を豊かにし、作物の生育を促し、更に入植者には護符によって子宝を授ける。そのお陰で開拓をスムーズに進めていく事が出来たのだ。」
そうなのね。
開拓地の中心にあの神殿があったのね。
そうするとやはり私の故郷ってレミア族の子孫が居たのかしら?
その後ドルネアは興奮気味のユリアスにパネルでの映像を見せ、更に施設内部の資料や書物庫まで案内した。
ユリアスの興奮は高まるばかりだ。
奇声をあげて驚くユリアスの様子を見て、ドルネアも笑顔を絶やさない。
ユリアス様って賢者様に気に入られたのかしら?
賢者様と言っても人工知能が操るホログラムなのだが。
一通り施設内を案内してドルネアはユリアスにその意思を伝えた。
「ユリアス殿。そなたもお分かりのようにレミア族はすでに滅んでしまっている。この儂も人工知能の生み出すホログラムにすぎん。」
「博物館の陳列品や図書館の蔵書は、それらを識別しカテゴリー別に整理する者がいて初めて存在価値が現われるものだ。それと同じように、ここの施設も価値を認識したうえで活用する者が必要なのだと儂は思う。人工知能の能力では与えられた状況を現状維持するだけで終わってしまうからな。」
「そこでじゃが・・・・」
ドルネアはユリアスの傍に近付いた。
「そなたがこの施設を人的側面で管理してくれまいか? そなたなら適材だと思う。己の研究対象としてこの施設を扱っても構わんぞ。」
「どのみち、リッチだから時間はいくらでもあるじゃろ?」
ドルネアの言葉にユリアスは驚きの表情を見せた。そうは言ってもガーゴイルが顔を引きつらせたように見えただけなのだが。
「ありがたい申し出だ。喜んでこちらにも来させてもらおう。」
そう言いながらガーゴイルが深々と頭を下げた。
「南方の神殿とは闇魔法の転移で行き来すれば良い。そなたの魔力の波動に合わせて、セキュリティを調整しておくのでな。」
ドルネアの言葉に再度ユリアスは謝辞を述べた。
「良かったですね、ユリアス様。」
「うむ。これもリリスのお陰だ。後日改めて礼に伺う事にしよう。」
ユリアスはリリスに謝意を述べ、ドルネアと今後の打ち合わせを始めた。
それにしても律義なリッチだわね。
でもその人柄が賢者様に認められて良かったわ。
これってご先祖様の就職先を斡旋出来たようなものかしらね?
リリスは安心してその場を離れ、使い魔の状態のまま学生寮に戻った。この時点で時刻はまだ昼前だ。
使い魔の召喚を解除したリリスは昼食後、まだ授業の始まっていない学舎の生徒会の部屋に向かった。
休暇は今日までなので学舎の中はひっそりとしており、事務室に僅かに職員が居るだけだ。その職員に会釈して学舎の廊下を進む。
リリスは今回、休暇を一日繰り上げて学舎に戻ってきた。その理由は休暇明けに学生達に配る予定の、生徒会関連の行事の内容やスケジュールの書類を用意する為だ。
生徒会の部屋に入ると1年生のクラス委員のエリスが書類を整理していた。彼女も休暇を一日繰り上げたようだ。
「お疲れ様、エリス。」
自分と同様に休暇を繰り上げて学舎に戻ったエリスをねぎらいながら、リリスは帰省の話でしばらく歓談した。
話が一区切りついたところで、
「そう言えばエリスがくれたミサンガを壊しちゃったのよね。」
そう言いながらリリスは申し訳なさそうにエリスを見つめた。
「それなら大丈夫ですよ。気にしないでください。先日のダンジョンチャレンジで激しい戦闘を繰り広げたとお聞きしていますからね。」
それってブラックウルフの群れの話よね。
「それでね。ミサンガを失くした事とは別なんだけど、エリスにこれをあげようと思って・・・」
そう言いながらリリスは懐から薄い金属製のブレスレットを取り出した。それはシューサックから貰った魔金属の塊の一つをリリスが細分し、錬成してスキルを付与したものだ。当初はブローチにしたのだが、直接身に着けた方が良いと思い、再度錬成してブレスレットに造り変えた経緯があった。このブレスレットは幅が2cm、厚みは2mmほどで切れ目が入っており、手首の近くに挟み付けるように装着出来る。
鈍い光沢を放つブレスレットをリリスから受け取り、エリスは珍しそうにそれをまじまじと見つめた。
「ありがとうございます、リリス先輩。でもこれって魔金属製じゃないですか? 材質そのものが高そう・・・」
「そんな事は無いわよ。つけてみて。」
リリスに促されてエリスはブレスレットを切れ目で広げ、手首の近くに装着した。その途端にブレスレットが仄かに光り出した。
「あれっ? このブレスレット、腕に吸い付いて来ますよ。不思議だわ。しかも少し魔力を吸っている・・・」
「あっ、でも力が漲ってくるように感じます。」
エリスはブレスレットを嵌めた腕を振り回しながら、装着感を確認していた。
「エリス、この休暇明けに2回目のダンジョンチャレンジがあるんでしょ? 微力ながら役に立つと思うわよ。」
リリスの言葉にエリスはハイと返事をしながら、嬉しそうにブレスレットを摩っていた。
リリスが1年生の時に体験したように、エリスもダンジョンチャレンジの最終組の数合わせで、2回目の潜入を余儀なくされていたのだ。
「私って水魔法しか使えないんですよね。火魔法は生活魔法程度しか使えないし、誰と組んでも足を引っ張るだけですから。」
苦笑いで謙虚に話すエリスだが、本当だろうかと思ってリリスはエリスを鑑定してみた。
**************
エリス・イリア・フリックス
種族:人族 レベル12
年齢:13
体力:800
魔力:1200
属性:水
魔法:ウォーターカッター レベル3
アイスボルト レベル3
ウォータースプラッシュ レベル3
ブリザード レベル2
スキル:探知 レベル2
毒耐性 レベル2
(ブレスレットによる効果)
魔力吸引 パッシブ
属性魔法に高度補正付加
**************
エリスの鑑定結果にリリスは唖然として言葉を失ってしまった。
誰が足を引っ張るのよ。
まだ13歳でこのステータスって何なの?
水魔法のスペシャリスト候補じゃないの。
しかもブリザードって相当高度な魔法のはずよ。
これでブレスレットの効果まで付加されたら、どうなるのかしらね?
この子のダンジョンチャレンジの感想が楽しみだわ。
そう思うとリリスは他人事ながら気持ちが高揚してきた。
「さあ、短時間で済ませましょうね。休暇が勿体ないわ。」
そう言ってリリスはエリスと共に、この日の事務作業に取り掛かったのだった。
リリスは学生寮の自室で使い魔を呼び出し、自分の五感を共有させた。更に魔力の波動も同期させる。これで遺跡の地下の施設に入れるはずだ。
リリスの身体はベッドの中で寝たままの状態である。
ちなみにタミアやユリアの使い魔のピクシーと区別する為、リリスは自分の使い魔のピクシーに紫の衣装を着せている。これは帰省中に思いついて実家で作り上げたものだ。
紫の衣装のピクシーが窓から飛び出し、学生寮の傍に降り立ち、暫く待っていると地面が仄かに光り出した。どうやらビーコンの役目の魔道具が反応しているようだ。少しその場で待機していると、地上1mほどの高さに黒い闇が現われ、その中から全身が紫のガーゴイルが現われた。これがどうやらユリアスの使い魔らしい。
ガーゴイルはリリスの使い魔を見つけて、直ぐに傍に寄ってきた。
「おや? 今日はお揃いだね、リリス。」
それって紫で揃えているって事なのね。
「たまたまですよ。それにしても全身紫って目立ちますね。」
「儂は紫が好きなんだよ。」
そう言う嗜好なのね。
でも全身紫ってちょっと引いちゃうわねえ。
「とりあえず、お約束通り遺跡に案内しますよ。私について来て下さい。」
そう言いながら紫の衣装のピクシーが飛び立ち、その後を紫のガーゴイルがついて来た。
空は快晴で風も心地好い。
暫く魔法学院の敷地上空を進み、2体の使い魔はレミア族の遺跡の上に近付いた。
「ユリアス様、あれが遺跡です。」
「う~ん。見た目はしょぼい遺跡だな。耕作の跡が残っているだけか?」
「ええ、地上部分はね。」
紫の衣装のピクシーが地上に接近し、ガーゴイルを誘導しながら薄暗い祠に入る。祠の中央部の階段から下に降りると墓所だと教わった空間に入った。その奥の壁の突起物を見つけて、ピクシーとガーゴイルはその前に停止した。
「これが地下の施設への転移装置の端末です。」
「この突起物がそうなのか? 確かに不思議な魔力を僅かに漂わせているようだが・・・」
リリスはピクシーに同期させた自分の魔力を、ピクシーの全身に纏わらせた。これでこの端末はリリスが訪れてきたと判断する筈だ。
ピクシーがガーゴイルの手を引いて、端末に触れ、魔力を流した。
その途端に転移装置が作動して、ピクシーとガーゴイルは賢者の居る空間に転移された。
白い壁で覆われた美術館のような建物。その広い空間の中央にホログラムではあるが、賢者ドルネアが立っていた。
「おや? これは奇異なお客さんだ。そちらのピクシーはリリスの使い魔だね。だがその傍にいる奇抜なガーゴイルは何者かね?」
リリスは施設の内部をきょろきょろと珍しそうに見ている紫のガーゴイルを、両手で押しながらドルネアの傍に誘導した。
「賢者様、お久しぶりです。このガーゴイルは私のご先祖様の使い魔でして・・・」
「うん? それはどう言う意味だ?」
そう言いながらドルネアはガーゴイルを精査した。
「ああ、召喚主はリッチなのだな。その魔力の波動で分かったよ。だがリッチが何の要件かね?」
ドルネアの問い掛けにガーゴイルが前に進み出て、
「お会い出来て良かった。お名前は賢者ドルネア様ですね。私はユリアスと言う名で・・・」
そこから滔々とユリアスは話し始めた。自分の出自からリッチになった経緯、更にレミア族の遺跡や遺物に興味を持ち、クレメンス領にある神殿の遺跡を探し出した事まで、興奮して話す口調に淀みがない。
一通りの話を聞いてドルネアはうんうんとうなづいた。
「そうか。南の神殿を見つけたのだね。再起動させてくれたことには感謝しよう。」
ドルネアの言葉を聞き、リリスは自分の疑問を口にした。
「賢者様。どうして私の領地にレミア族の神殿があるのですか? ここからは結構離れていますよ。」
「ああ、あそこはレミア族の開拓地だったのだよ。レミア族は開拓地を切り開く際に先ず豊穣の神殿を建てる。その神殿の放つ土魔法で土地を豊かにし、作物の生育を促し、更に入植者には護符によって子宝を授ける。そのお陰で開拓をスムーズに進めていく事が出来たのだ。」
そうなのね。
開拓地の中心にあの神殿があったのね。
そうするとやはり私の故郷ってレミア族の子孫が居たのかしら?
その後ドルネアは興奮気味のユリアスにパネルでの映像を見せ、更に施設内部の資料や書物庫まで案内した。
ユリアスの興奮は高まるばかりだ。
奇声をあげて驚くユリアスの様子を見て、ドルネアも笑顔を絶やさない。
ユリアス様って賢者様に気に入られたのかしら?
賢者様と言っても人工知能が操るホログラムなのだが。
一通り施設内を案内してドルネアはユリアスにその意思を伝えた。
「ユリアス殿。そなたもお分かりのようにレミア族はすでに滅んでしまっている。この儂も人工知能の生み出すホログラムにすぎん。」
「博物館の陳列品や図書館の蔵書は、それらを識別しカテゴリー別に整理する者がいて初めて存在価値が現われるものだ。それと同じように、ここの施設も価値を認識したうえで活用する者が必要なのだと儂は思う。人工知能の能力では与えられた状況を現状維持するだけで終わってしまうからな。」
「そこでじゃが・・・・」
ドルネアはユリアスの傍に近付いた。
「そなたがこの施設を人的側面で管理してくれまいか? そなたなら適材だと思う。己の研究対象としてこの施設を扱っても構わんぞ。」
「どのみち、リッチだから時間はいくらでもあるじゃろ?」
ドルネアの言葉にユリアスは驚きの表情を見せた。そうは言ってもガーゴイルが顔を引きつらせたように見えただけなのだが。
「ありがたい申し出だ。喜んでこちらにも来させてもらおう。」
そう言いながらガーゴイルが深々と頭を下げた。
「南方の神殿とは闇魔法の転移で行き来すれば良い。そなたの魔力の波動に合わせて、セキュリティを調整しておくのでな。」
ドルネアの言葉に再度ユリアスは謝辞を述べた。
「良かったですね、ユリアス様。」
「うむ。これもリリスのお陰だ。後日改めて礼に伺う事にしよう。」
ユリアスはリリスに謝意を述べ、ドルネアと今後の打ち合わせを始めた。
それにしても律義なリッチだわね。
でもその人柄が賢者様に認められて良かったわ。
これってご先祖様の就職先を斡旋出来たようなものかしらね?
リリスは安心してその場を離れ、使い魔の状態のまま学生寮に戻った。この時点で時刻はまだ昼前だ。
使い魔の召喚を解除したリリスは昼食後、まだ授業の始まっていない学舎の生徒会の部屋に向かった。
休暇は今日までなので学舎の中はひっそりとしており、事務室に僅かに職員が居るだけだ。その職員に会釈して学舎の廊下を進む。
リリスは今回、休暇を一日繰り上げて学舎に戻ってきた。その理由は休暇明けに学生達に配る予定の、生徒会関連の行事の内容やスケジュールの書類を用意する為だ。
生徒会の部屋に入ると1年生のクラス委員のエリスが書類を整理していた。彼女も休暇を一日繰り上げたようだ。
「お疲れ様、エリス。」
自分と同様に休暇を繰り上げて学舎に戻ったエリスをねぎらいながら、リリスは帰省の話でしばらく歓談した。
話が一区切りついたところで、
「そう言えばエリスがくれたミサンガを壊しちゃったのよね。」
そう言いながらリリスは申し訳なさそうにエリスを見つめた。
「それなら大丈夫ですよ。気にしないでください。先日のダンジョンチャレンジで激しい戦闘を繰り広げたとお聞きしていますからね。」
それってブラックウルフの群れの話よね。
「それでね。ミサンガを失くした事とは別なんだけど、エリスにこれをあげようと思って・・・」
そう言いながらリリスは懐から薄い金属製のブレスレットを取り出した。それはシューサックから貰った魔金属の塊の一つをリリスが細分し、錬成してスキルを付与したものだ。当初はブローチにしたのだが、直接身に着けた方が良いと思い、再度錬成してブレスレットに造り変えた経緯があった。このブレスレットは幅が2cm、厚みは2mmほどで切れ目が入っており、手首の近くに挟み付けるように装着出来る。
鈍い光沢を放つブレスレットをリリスから受け取り、エリスは珍しそうにそれをまじまじと見つめた。
「ありがとうございます、リリス先輩。でもこれって魔金属製じゃないですか? 材質そのものが高そう・・・」
「そんな事は無いわよ。つけてみて。」
リリスに促されてエリスはブレスレットを切れ目で広げ、手首の近くに装着した。その途端にブレスレットが仄かに光り出した。
「あれっ? このブレスレット、腕に吸い付いて来ますよ。不思議だわ。しかも少し魔力を吸っている・・・」
「あっ、でも力が漲ってくるように感じます。」
エリスはブレスレットを嵌めた腕を振り回しながら、装着感を確認していた。
「エリス、この休暇明けに2回目のダンジョンチャレンジがあるんでしょ? 微力ながら役に立つと思うわよ。」
リリスの言葉にエリスはハイと返事をしながら、嬉しそうにブレスレットを摩っていた。
リリスが1年生の時に体験したように、エリスもダンジョンチャレンジの最終組の数合わせで、2回目の潜入を余儀なくされていたのだ。
「私って水魔法しか使えないんですよね。火魔法は生活魔法程度しか使えないし、誰と組んでも足を引っ張るだけですから。」
苦笑いで謙虚に話すエリスだが、本当だろうかと思ってリリスはエリスを鑑定してみた。
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エリス・イリア・フリックス
種族:人族 レベル12
年齢:13
体力:800
魔力:1200
属性:水
魔法:ウォーターカッター レベル3
アイスボルト レベル3
ウォータースプラッシュ レベル3
ブリザード レベル2
スキル:探知 レベル2
毒耐性 レベル2
(ブレスレットによる効果)
魔力吸引 パッシブ
属性魔法に高度補正付加
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エリスの鑑定結果にリリスは唖然として言葉を失ってしまった。
誰が足を引っ張るのよ。
まだ13歳でこのステータスって何なの?
水魔法のスペシャリスト候補じゃないの。
しかもブリザードって相当高度な魔法のはずよ。
これでブレスレットの効果まで付加されたら、どうなるのかしらね?
この子のダンジョンチャレンジの感想が楽しみだわ。
そう思うとリリスは他人事ながら気持ちが高揚してきた。
「さあ、短時間で済ませましょうね。休暇が勿体ないわ。」
そう言ってリリスはエリスと共に、この日の事務作業に取り掛かったのだった。
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