落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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王女とダンジョン4

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リリスが見つめる前で小さな人影が実体化する。

現われたのはブルーの衣装を着たピクシーとマントを着た小さな骸骨、そして全身黒ずくめのガーゴイルだった。

ピクシーは明らかにユリアだ。

やはりユリアが関与していたのね。そうでなければこのシトのダンジョンにケルベロスなんて出てこないわよ。

訝し気に見つめるリリスの視線を気にもせず、ピクシーは笑顔でリリスにパチパチパチと拍手を送った。

「お見事、お見事。」

「何がお見事よ、ユリア。あんなものを出してくるなんて、酷いじゃないの!」

「まあまあ。倒したんだから良いじゃないの。」

タミアみたいな言い草だわ。

「それにしてもハービーの群れを全滅させた黒炎は凄かったね。槍のような黒炎も秀逸だったと思うよ。」

そう話し掛けてきたのはガーゴイルだ。その声と気配でリリスは、ガーゴイルがゲルの使い魔だと分かった。
そうすると骸骨は誰だろうか?

リリスの思いを察してユリアは使い魔の主人を紹介した。

「ガーゴイルは誰の使い魔だか分かるわよね。ゲルなのよ。」

その言葉にリリスもうなづいた。

「人前に出てこないゲルだけど、メリンダの闇魔法を見てみたかったそうよ。」

その言葉に芋虫がう~んと唸った。

「それってありがたいんだけど、私の力じゃないわ。リリスの力がプラスされていなかったら、あんなに威力のある黒炎なんて発動出来ないもの。」

芋虫を介してのメリンダ王女の言葉にガーゴイルはうんうんとうなづいた。

「それは分かっているよ。でも素養は君にもありそうだからね。」

「そう言われると嬉しいわ。私も開祖みたいに闇の亜神の信者になろうかしら。」

「ああ、それなら歓迎するよ。」

ガーゴイルが照れている。

何よ、この構図は?

「メル。リップサービスはほどほどにね。」

「あら、リップサービスじゃないわよ。だってあの宝玉を依頼した開祖の動機は不純でも、そのお陰で長年に渡ってミラ王国の国境地帯の平和と治安が保たれたのは事実なのだから。」

あらまあ。
如何にも王族らしい優等生の言葉だわね。

「それで、ユリア。そちらの骸骨はどなた?」

突然話を振られたピクシーは、

「ああ、この骸骨ね。こいつがギースのダンジョンマスターをしていたリッチなのよ。」

そう言いながらピクシーが、遺骨の頭をぺちんと軽く叩いた。

「ほらっ! 挨拶しなさい。」

頭を叩かれた骸骨がへへへと笑い、頭を摩りながら口を開いた。

「アゾレスと言います。よろしくです~」

軽い口調でぺこぺこと頭を下げているアゾレスだ。

う~ん。
憎めないキャラだわね。
でもこのアゾレスが、難易度の高かったギースのダンジョンのダンジョンマスターだったとはとても思えないわ。

「こう見えてもこいつは戦闘狂なのよ。私にケルベロスの出動を進言したのはこいつだからね。」

そうなの?

「そうなんですよ。リリスさんから得体の知れない強力な力とスキルを感じたものですから、つい・・・・・」

「それにそのスキルに疑似人格らしきものまで感じたんですよね、へへっ。」

うっ!
拙いわね、このリッチ。
鑑定スキルがとんでもなく高いのかしら?

「そんなの、気のせいじゃないの?」

そう言って誤魔化したリリスは即座にピクシーに話を振った。

「それで、あれはどうするの?」

そう言いながらリリスがピクシーの背後を指差した。その指の先にあるのは動きが固まったままのジークとニーナだ。

「そう言えばあの辺りの時空を凍結したままだったわ。私達は退散するからすぐ元に戻すわね。」

「でもケルベロスの出現した事実はどうするの? シトのダンジョンにケルベロスが出たなんて話が広がったら、ここには誰も来なくなるわよ。ここは魔法学院の専用で、初心者向けのダンジョンなんだからね。」

リリスにそう言われて、ピクシーはう~んと唸って考え込んだ。
 
「それなら第4階層には入らなかった事にしましょう。第3階層での黒炎の暴走でダンジョンそのものまで影響を受け、強制的にダンジョンから追い出されてしまったと言うシナリオで・・・・・」

それっていい加減ねえ。
どうして亜神っていい加減な奴ばかりなのかしら?

「それじゃあ、そう言う事で。」

そう言ってピクシーがパチンと指を鳴らすと、リリスの目の前が暗転して、気が付くとジークやニーナと共に、魔法学院の学舎の地下の訓練場の隅にあるポータルの前に立っていた。

「どうやらあの強大な黒炎の影響で、強制的に退出させられたようだね。」

ああそうだ。話を合わせなくっちゃね。

ジークの言葉にわざとらしくリリスはうなづいた。

「リリス。私、疲れちゃったわ。帰るわね。今日はありがとう。」

リリスの肩の芋虫がジークとニーナにも挨拶して消えていった。使い魔の召喚を解除したようだ。

「少し中途半端だが今日はこれで終わりにしよう。」

ジークの顔にも疲労が滲む。第4階層での出来事が記憶から消し去られたとは言え、そこでの疲労は身体に残っているからだろう。

ジークが去った後、残されたニーナと共にリリスは重い足取りで学生寮に戻っていった。






その日の深夜、眠っているリリスは突然起こされた。
起こしたのは・・・・・鑑定スキルだ。

こんな深夜に何の用なの?

リリスの思いに応えて脳内に解析スキルの言葉が浮かんだ。

『コピーと最適化が終了しました。』

深夜に起こした事への謝罪は無いのね。でもコピーって何の?

『闇魔法ですよ。』

えっ!
何故?
だって、コピースキルを発動させてないわよ。

『額を付けると言う行動以上に密接したじゃないですか。』

それって・・・・・メルに憑依されたって事?

『そうですよ。身体の自由まで効かない状態でしたからね。突発的に発動してしまいました。』

突発的って事は想定外だったの?

『ええ、そうです。しかも流れ込んできた膨大なデータが最初は何だか分からず、暫くの間処理出来なくて混乱してしまいました。』

『コピーされてきた属性魔法やスキルだと判明したのは、ケルベロスを倒した後でしたね。』

そうなの。
最初から魔法やスキルとしてコピーされてきたのではなかったのね。
それでコピーの時に伴う何時もの頭痛も無かったのかしら?
だって、コピーされてきた自覚や認識すら無かったわよ。

『だから想定外だと言うのです。』

『それで魔法やスキルとして安定化させるのにも時間が掛かりました。』

それが終了したのが今と言う事なのね。

リリスはおもむろに自分のステータスを鑑定してみた。



**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル21

年齢:13

体力:1100
魔力:2700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル3+

   ファイヤーボルト  レベル5+

   アースウォール   レベル7

   加圧        レベル5+

   アースランス    レベル3

   硬化        レベル3



(秘匿領域)

属性:水・聖・闇(制限付き)

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

   液状化       レベル15 (制限付き)  

   黒炎        レベル2  (制限付き)

   黒炎錬成      レベル2  (制限付き)

 
スキル:鑑定 レベル3

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル3

    魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    魔装(P・A) (妖精化)

    勇者の加護(下位互換)

    解析 

    最適化

**************


本当だ。
闇魔法が加わっているわ。
でも闇魔法と聖魔法って相反する属性だから、干渉して相互に悪影響があると思うんだけど・・・。

『だから制限付きなのですよ。1日に10分程度しか使えません。』

でも最初からレベル2なの?
それに黒炎錬成って何?

『黒炎を作動させたときに短槍状に形を変えたじゃないですか。それで黒炎の操作技量が上がった事が要因ですね。』

『黒炎錬成はその際に派生したスキルのようなものです。』

『何れもレベル制限があって5までが限度ですね。』

まあ、どちらにしてもしばらくは闇魔法は使わないわよ。
あれもこれもって伸ばそうとすれば、中途半端になっちゃうから。

『それで良いと思いますよ。それに闇の属性を得た事で、闇魔法に対する耐性が少しだけ付きますからね。』

そうなの?
少しってどの程度?

『闇の属性を持たない人に比べて10%ほど耐性が付きます。』

それはそれでありがたいわ。
あまり使わない属性を持っていても邪魔にはならないと言う事ね。

『そんな贅沢な事を言わないでください。五つも属性を持っている人なんて、この大陸でも稀有ですよ。』

うんうん、そうよねえ。

そう言えば鑑定スキルも上がっているわね。
加圧がレベルアップしているのは何故?

『硬化を何度も限界近くまで使ったので連動したのだと思われます。』

確かに硬化と加圧って関連性がありそうね。連携し易いのかしら? そうすると効果と加圧を最初から連動するってのも良いかもね。

それに解毒スキルや毒耐性も上がっているわ。

『このところ凶悪な魔物の放つ瘴気に触れる機会が多かったからですね。魔力吸引も使う頻度に応じてレベルが上がったようです。』

まあねえ。サイクロプスやケルベロスなんて滅多に遭遇しない魔物だものね。

『困難に打ち勝った褒賞ですよ。』

良い事を言ってくれるじゃないの。
深夜に起こした事への謝罪はしなくて良いわよ。

『はいはい。それはどうも。』

まあ、心の籠っていない返事だわね。

まあ良いわ。お仕事ご苦労様でした。これでもあんたには常々感謝しているのよ。

そう念を送るとリリスは再び眠りに就いた。







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