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ニーナの覚醒
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最近ニーナの笑顔が目に付く。
そう感じていたのはリリスだけではなかった。授業の合間の休憩時間にエレンとしきりに会話するニーナの表情がやけに明るい。それをサラからも指摘されて、リリスは先日保健室で魔力誘導を使ってニーナの枷を外した事がその要因なのだろうと考えた。
多分、自分に自信を持てるようになったのね。
良い傾向だわ。
そう思いながら次の授業に使う資料を教壇から各生徒に配り、リリスはガイと話していたエレンに声を掛けた。
「ねえ、エレン。ニーナってあんなに笑う子だっけ?」
声を掛けられたエレンは嬉しそうな表情を浮かべてリリスに答えてきた。
「そうなのよ。私も自分の事のように嬉しいのよね。」
机の上に腰かけていたガイもうなづきながら口を挟んだ。
「最近ニーナが気に成っている男子生徒も居るようだよ。例えばお前の従弟とか・・・・・」
「ええっ!デニスが・・・・・」
思わず小声で驚きながらデニスの座っている椅子を見たが、デニスは教室には居なかった。
後でカマを掛けてやろうかしら。
そう思ってニーナの方に目を向けたリリスに、エレンがうふふと笑って話し始めた。
「まるで小さい頃に戻ったようだわ。ニーナって10歳頃までは活発で明るい子だったのよ。それが急に塞ぎがちな子になっちゃって・・・」
「何かあったの?」
リリスの問い掛けにエレンは首を振った。
「それが全然分からないのよ。ニーナの祖父が躾けに厳しい人でね。ニーナを商人の娘としてしっかりと躾けるんだって言って、別荘に10日ほど閉じ込めていた事があるの。あの時からニーナの様子が変わってしまって。」
「余程厳しい教育をされて、それがトラウマになっちゃったんだろうって、私の両親が言っていたわ。」
それだ。
恐らくその時に<商人の枷>を掛けられたのだろう。
「でも今のニーナを見ていると、自分に自信が持てているようで、その心の余裕から笑顔がこぼれているのがありありと分かるわ。」
そう言いながらエレンは慈母のような目で、笑顔を絶やさないニーナを見つめた。
元々整った顔立ちで小柄なニーナが笑顔を見せると、まるで小動物のような愛くるしさがある。デニスの目がハートになるのも無理は無いかとリリスは改めて思った。
放課後、リリスは図書館に向かった。
<商人の枷>が気に成っていたからだ。そんなものを可愛い孫娘に掛けるなんて。そんな憤りを感じながら、何か資料が無いかと思ってリリスは図書館の扉をくぐった。
ニーナのステータスにはまだ<商人の枷>がステージ1だけ残っている。完全に無効化されていないので、それが阻害要素となって魔力吸引のスキルが発動出来ない状態だ。それでも鑑定スキルによればほとんど実害はないとの事なので、放置していても良いのだが・・・・・。
図書館の司書のケリー女史に話し掛けて受付を済ませると、リリスは魔法関係の書架を探り始めた。だがそれらしい文献は全く見当たらない。
ケリー女史に書物の検索の仕方を聞くと、受付のテーブルの片隅にある大きな水晶の前に案内された。この水晶が検索の魔道具だと言う。
「書物の内容やタイトル等を念じながら魔力を流すと応じてくれますよ。」
ケリー女史の言葉に従って、リリスは<商人の枷>と念じながら、水晶に魔力を注ぎ込んだ。水晶全体がボーッと青く光り、何かがリリスの脳内に投影されてくる。イメージで教えてくれるのだろうか?
リリスの脳内に閃いたのは『禁忌』と言う言葉だった。それと共に地下3階の奥に関連書物がある事が示された。
便利な機能ね。
感心しつつリリスは検索結果に従って階段を降り、地下3階の奥の書架を探ると、そこには赤い注意書きの書かれた表示がされていた。
『この書架の蔵書は禁忌にまつわる物も多く、自己責任で取り扱うように。』
禁忌となれば当然の事よね。
そう思い、ふうっとため息をついて書物をあさる事30分。意外にも簡単に関連書物が見つかった。
書物のタイトルは『民間の伝承と魔法の制約』だ。
公には用いられない魔法の類が収録されていて、その大半は闇魔法を基にした精神誘導だった。その中に<商人の枷>の文字を見つけたリリスは食い入るようにその記述を読んだ。
*******************
<商人の枷>
大陸南部で商人の子弟に対する躾として派生してきたもので、魔法の能力を制限し、実務に集中させる意図を持つ。その効果は半永久的で、被疑者への影響力は軽度なものの、学術的には呪術や呪詛に区分する研究者も多く、数十年来軽度の禁忌に分類されている。
魔法の能力に対する制限効果は即座に現れるが、制限力がそれほどに強くないので、能力的に高い被験者では重ね掛けする場合もある。但しこの場合身体的な負担も倍加し、魔力回路の断絶や精神疾患に及んだ例も報告されている。従って重ね掛けは主に奴隷階級に属する者を被験者とする場合に用いる傾向がある。
この枷の解除には高度な術者の技量が求められ、完全な解除に至った例はまだ存在しない。
*******************
どうしてこんなものを孫娘に掛けたのかしら?
憤りを越えて呆れてしまったリリスである。
そう言えばニーナの<商人の枷>も完全に無効化出来ていないけど大丈夫なのかしら?
リリスの思いに鑑定スキルが反応した。
『重ね掛けの状態からは脱していますので、大丈夫だと判断します。単体ではそれほどの制約も無く、ニーナ本人の元々の能力が高いので、悪影響は出てこない筈です。』
でも魔力吸引のスキルが阻害されているわよ。
『普通、学生生活でそんなものが必要ですか?』
必要な場合もあるんじゃないの?
『それはあなただけです。』
あらあら、言い切られちゃったわ。
『それに魔力吸引を使わなくても、ニーナ本人の魔力量は通常より多く、さらに増加していく余地もまだまだありますよ。』
増加する余地って、そんなの分かるの?
『魔力誘導でニーナの体内の魔力回路を探っていく際に確認できました。』
そうなの?
あんたがそう言うならそうなんでしょうけどね。
それにしてもどうしてこの<商人の枷>って完全に解除出来ないの?
『それは術者の寿命を代価にするからです。』
げっ!
それってエグイわね。
そこまでするの?
『だから禁忌なのですよ。』
う~んと唸ってリリスは考え込んでしまった。商家を守るためにそこまでするなんて有り得ない。でもここはそう言う世界なんだと考えるしかないのだ。
黙って書物を書架に戻したリリスは受付に戻り、ケリー女史に礼を言って図書館を後にした。
後日エレンに聞いた話では、ニーナの祖父は2年前に持病を悪化させて亡くなったそうだ。自分の余命が短い事を悟って、去り際にニーナに禁忌を掛けたのだろうか? そう考えると増々憤ってくる。
だがリリスのその様な思いとは裏腹に、教室でのニーナの評価は増々上がってきていた。
ニーナが幸せになれるのならそれで良いわよね。
そう思って何故か母親目線でニーナを見つめるリリスであった。
そんなリリスに思い掛けない依頼が舞い込んだ。担任のロイド先生からダンジョンチャレンジへの同行を願われたのだ。
「この時期にダンジョンチャレンジですか? 転入生でも居ましたっけ?」
リリスの言葉にロイドは薄ら笑いを見せた。
「王族以外でこの学院に転入生など居ないよ。今回は再チャレンジを申し出てきた生徒と一緒に取り組んで欲しい。勿論僕も同行するよ。」
「再チャレンジって誰ですか?」
「ニーナ君だよ。」
ええっと驚くリリスにロイドは言葉を続けた。
「驚くのも無理はない。でも彼女は急にやる気が出てきたようで、最初は止めたのだが本人の意思も固いよ。」
自分に自信が持てたのかしら?
それはそれで良い事なんだけど・・・・・。
「多分、彼女もやり残したって言う思いがあったんだろうね。」
「それで再チャレンジですか。」
「そう言う事だね。ついでにエレン君にも付き合って貰うよ。3人で1組が原則だからね。僕は常に監督役だ。」
あらあら。
エレンも気の毒に。
ガイが付いてくるって言いそうだわ。
「それでチャレンジの日程は?」
「今週の休日だ。それまで気持ちを整えて準備してくれ。もっともリリス君には準備など必要ないかも知れないが。」
そんな事は無いわよ。
だってシトのダンジョンって、今はタミアがダンジョンマスターじゃないの。
あいつの事だから暇つぶしに何をしてくるか予想も出来ないわよ。
ロイドの思いとは裏腹に、リリスは気持ちを引き締めていた。
そう感じていたのはリリスだけではなかった。授業の合間の休憩時間にエレンとしきりに会話するニーナの表情がやけに明るい。それをサラからも指摘されて、リリスは先日保健室で魔力誘導を使ってニーナの枷を外した事がその要因なのだろうと考えた。
多分、自分に自信を持てるようになったのね。
良い傾向だわ。
そう思いながら次の授業に使う資料を教壇から各生徒に配り、リリスはガイと話していたエレンに声を掛けた。
「ねえ、エレン。ニーナってあんなに笑う子だっけ?」
声を掛けられたエレンは嬉しそうな表情を浮かべてリリスに答えてきた。
「そうなのよ。私も自分の事のように嬉しいのよね。」
机の上に腰かけていたガイもうなづきながら口を挟んだ。
「最近ニーナが気に成っている男子生徒も居るようだよ。例えばお前の従弟とか・・・・・」
「ええっ!デニスが・・・・・」
思わず小声で驚きながらデニスの座っている椅子を見たが、デニスは教室には居なかった。
後でカマを掛けてやろうかしら。
そう思ってニーナの方に目を向けたリリスに、エレンがうふふと笑って話し始めた。
「まるで小さい頃に戻ったようだわ。ニーナって10歳頃までは活発で明るい子だったのよ。それが急に塞ぎがちな子になっちゃって・・・」
「何かあったの?」
リリスの問い掛けにエレンは首を振った。
「それが全然分からないのよ。ニーナの祖父が躾けに厳しい人でね。ニーナを商人の娘としてしっかりと躾けるんだって言って、別荘に10日ほど閉じ込めていた事があるの。あの時からニーナの様子が変わってしまって。」
「余程厳しい教育をされて、それがトラウマになっちゃったんだろうって、私の両親が言っていたわ。」
それだ。
恐らくその時に<商人の枷>を掛けられたのだろう。
「でも今のニーナを見ていると、自分に自信が持てているようで、その心の余裕から笑顔がこぼれているのがありありと分かるわ。」
そう言いながらエレンは慈母のような目で、笑顔を絶やさないニーナを見つめた。
元々整った顔立ちで小柄なニーナが笑顔を見せると、まるで小動物のような愛くるしさがある。デニスの目がハートになるのも無理は無いかとリリスは改めて思った。
放課後、リリスは図書館に向かった。
<商人の枷>が気に成っていたからだ。そんなものを可愛い孫娘に掛けるなんて。そんな憤りを感じながら、何か資料が無いかと思ってリリスは図書館の扉をくぐった。
ニーナのステータスにはまだ<商人の枷>がステージ1だけ残っている。完全に無効化されていないので、それが阻害要素となって魔力吸引のスキルが発動出来ない状態だ。それでも鑑定スキルによればほとんど実害はないとの事なので、放置していても良いのだが・・・・・。
図書館の司書のケリー女史に話し掛けて受付を済ませると、リリスは魔法関係の書架を探り始めた。だがそれらしい文献は全く見当たらない。
ケリー女史に書物の検索の仕方を聞くと、受付のテーブルの片隅にある大きな水晶の前に案内された。この水晶が検索の魔道具だと言う。
「書物の内容やタイトル等を念じながら魔力を流すと応じてくれますよ。」
ケリー女史の言葉に従って、リリスは<商人の枷>と念じながら、水晶に魔力を注ぎ込んだ。水晶全体がボーッと青く光り、何かがリリスの脳内に投影されてくる。イメージで教えてくれるのだろうか?
リリスの脳内に閃いたのは『禁忌』と言う言葉だった。それと共に地下3階の奥に関連書物がある事が示された。
便利な機能ね。
感心しつつリリスは検索結果に従って階段を降り、地下3階の奥の書架を探ると、そこには赤い注意書きの書かれた表示がされていた。
『この書架の蔵書は禁忌にまつわる物も多く、自己責任で取り扱うように。』
禁忌となれば当然の事よね。
そう思い、ふうっとため息をついて書物をあさる事30分。意外にも簡単に関連書物が見つかった。
書物のタイトルは『民間の伝承と魔法の制約』だ。
公には用いられない魔法の類が収録されていて、その大半は闇魔法を基にした精神誘導だった。その中に<商人の枷>の文字を見つけたリリスは食い入るようにその記述を読んだ。
*******************
<商人の枷>
大陸南部で商人の子弟に対する躾として派生してきたもので、魔法の能力を制限し、実務に集中させる意図を持つ。その効果は半永久的で、被疑者への影響力は軽度なものの、学術的には呪術や呪詛に区分する研究者も多く、数十年来軽度の禁忌に分類されている。
魔法の能力に対する制限効果は即座に現れるが、制限力がそれほどに強くないので、能力的に高い被験者では重ね掛けする場合もある。但しこの場合身体的な負担も倍加し、魔力回路の断絶や精神疾患に及んだ例も報告されている。従って重ね掛けは主に奴隷階級に属する者を被験者とする場合に用いる傾向がある。
この枷の解除には高度な術者の技量が求められ、完全な解除に至った例はまだ存在しない。
*******************
どうしてこんなものを孫娘に掛けたのかしら?
憤りを越えて呆れてしまったリリスである。
そう言えばニーナの<商人の枷>も完全に無効化出来ていないけど大丈夫なのかしら?
リリスの思いに鑑定スキルが反応した。
『重ね掛けの状態からは脱していますので、大丈夫だと判断します。単体ではそれほどの制約も無く、ニーナ本人の元々の能力が高いので、悪影響は出てこない筈です。』
でも魔力吸引のスキルが阻害されているわよ。
『普通、学生生活でそんなものが必要ですか?』
必要な場合もあるんじゃないの?
『それはあなただけです。』
あらあら、言い切られちゃったわ。
『それに魔力吸引を使わなくても、ニーナ本人の魔力量は通常より多く、さらに増加していく余地もまだまだありますよ。』
増加する余地って、そんなの分かるの?
『魔力誘導でニーナの体内の魔力回路を探っていく際に確認できました。』
そうなの?
あんたがそう言うならそうなんでしょうけどね。
それにしてもどうしてこの<商人の枷>って完全に解除出来ないの?
『それは術者の寿命を代価にするからです。』
げっ!
それってエグイわね。
そこまでするの?
『だから禁忌なのですよ。』
う~んと唸ってリリスは考え込んでしまった。商家を守るためにそこまでするなんて有り得ない。でもここはそう言う世界なんだと考えるしかないのだ。
黙って書物を書架に戻したリリスは受付に戻り、ケリー女史に礼を言って図書館を後にした。
後日エレンに聞いた話では、ニーナの祖父は2年前に持病を悪化させて亡くなったそうだ。自分の余命が短い事を悟って、去り際にニーナに禁忌を掛けたのだろうか? そう考えると増々憤ってくる。
だがリリスのその様な思いとは裏腹に、教室でのニーナの評価は増々上がってきていた。
ニーナが幸せになれるのならそれで良いわよね。
そう思って何故か母親目線でニーナを見つめるリリスであった。
そんなリリスに思い掛けない依頼が舞い込んだ。担任のロイド先生からダンジョンチャレンジへの同行を願われたのだ。
「この時期にダンジョンチャレンジですか? 転入生でも居ましたっけ?」
リリスの言葉にロイドは薄ら笑いを見せた。
「王族以外でこの学院に転入生など居ないよ。今回は再チャレンジを申し出てきた生徒と一緒に取り組んで欲しい。勿論僕も同行するよ。」
「再チャレンジって誰ですか?」
「ニーナ君だよ。」
ええっと驚くリリスにロイドは言葉を続けた。
「驚くのも無理はない。でも彼女は急にやる気が出てきたようで、最初は止めたのだが本人の意思も固いよ。」
自分に自信が持てたのかしら?
それはそれで良い事なんだけど・・・・・。
「多分、彼女もやり残したって言う思いがあったんだろうね。」
「それで再チャレンジですか。」
「そう言う事だね。ついでにエレン君にも付き合って貰うよ。3人で1組が原則だからね。僕は常に監督役だ。」
あらあら。
エレンも気の毒に。
ガイが付いてくるって言いそうだわ。
「それでチャレンジの日程は?」
「今週の休日だ。それまで気持ちを整えて準備してくれ。もっともリリス君には準備など必要ないかも知れないが。」
そんな事は無いわよ。
だってシトのダンジョンって、今はタミアがダンジョンマスターじゃないの。
あいつの事だから暇つぶしに何をしてくるか予想も出来ないわよ。
ロイドの思いとは裏腹に、リリスは気持ちを引き締めていた。
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