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使い魔達の喧騒3
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リリスとフィリップ王子が食い入るように見つめる映像は、5人の冒険者がダンジョンに入るところから始まった。
「今のところ5階層までになっているの。でも難易度は高いわよ。その分ドロップアイテムや褒賞もたっぷり用意したわ。」
第一階層は朽ち果てた神殿の内装のままで、暗がりから魔剣を持つオーガファイターやオーガメイジが襲ってくる。その数も多い。倒しても倒しても湧いてくるように襲ってくる敵の数は、総数で20体にも及びそうだ。しかも魔法の攻撃があまり効かない。
「最初からきついわねえ。」
だが冒険者達も奮闘していた。メイジがシールドを幾重にも張って敵の火球を防御し、タンク役のファイターが大きな盾で突破口を開くと、リーダーの戦士が大きな魔剣で問答無用に切り倒していく。更にエルフのアーチャーが火属性や雷属性の矢を放ち、的確に敵を撃ち抜いていく。
その背後でクレリックがパーティ全体の攻撃力を上げ、全員にヒールもかけていく。
流石はAランクの冒険者達だ。
全ての敵を倒してドロップアイテムをマジックバッグにしまい込むと、ポーションをがぶ飲みしながら次の階層に挑んでいった。
第2階層から第4階層までは同じような戦いが続く。どの階層も魔物の総数は20体ほどだが、すべての魔物の魔法耐性が高く、魔法の攻撃があまり効かない。出てくる魔物の種類は体長3mのティラノのような走竜や、小型のサラマンダーやワイバーンであったりするのだが、飛翔系の魔物にもアーチャーの魔弓が威力を発揮して、難なくこなしていった。
「あのエルフのアーチャーは凄いだろ? 彼女の技量はこの大陸でもトップクラスだと思うよ。」
「そうですね。後方からの支援攻撃としては破格ですね。でもあのタンク役のファイターも凄いですね。大盾のバッシュで走竜を食い止めるなんて、どれだけ身体強化しているんですかね。」
フィリップ王子とリリスの言葉に、ブルーの衣装のピクシーもうんうんとうなづいていた。
「でもここからが大変なのよ。」
ピクシーの言葉を耳にしながら映像を見ていると、冒険者達は第5階層に辿り着いた。
この第5階層の入り口には女神の像が立っている。これは水を司る亜神のものだ。
女神の像から声が聞こえてくる。
『よく此処まで辿り着きましたね。』
『この第5階層を踏破する為に、私の力を授けます。発動は1回限りで、浄化の波動を大きく放ち活路を見出しなさい。この階層の先の出口は浄化の波動の発動から5分後に閉じられてしまいます。そこに辿り着けばたっぷりと褒賞を授けましょう。』
女神の像から光が放たれて、リーダーの戦士の魔剣に大きなブルーの光が纏わり付いた。
それと同時にフロアの奥からドドドドドッと怒涛のような地響きが伝わってきた。
よく見ると近付いてくるのはスケルトンの軍団だ。手に魔剣を持ちフルメタルアーマーで武装したスケルトンの総数は数百体にも及ぶ。更にスケルトンのアーチャーまでいるようで、その放つ矢がキーンと金切り音を発てて放物線を描き冒険者達に向かってくる。
もはや冒険者達に余裕はない。
アンデッドには浄化が最適だ。
メイジが幾重にもシールドを掛けてスケルトンの放つ矢を受け止めている間に、リーダーの戦士が魔剣を大きく振りかぶり、前方に向けて浄化の波動を放った。
淡いブルーの波動がびりびりと空気を震わせながら真っ直ぐにフロアの奥まで伸びていく。それが先になるにつれて横にも広がって拡散されていく。
スケルトン達はその波動に巻き込まれて浄化され大半が消えていった。
「今だ! 奥まで突っ走るぞ!」
リーダーの掛け声を合図に冒険者達は全力で奥へと駆け出した。フロアの両側に居て浄化の波動を直接には受けなかったスケルトン達が起き上がり、冒険者達に向かって詰め寄っていく。その残数は50体ほどだ。わずかながらに飛んでくる矢を避けながら、冒険者達はフロアの奥の部屋に駆け込んだ。ここまでで約4分。部屋の入り口は横幅が10mほどで扉や仕切りは無く、冒険者達が駆け込んだ時点で両側から格子状の扉が現われた。それが徐々に閉まっていくのだがそのスピードが遅い。
余裕で部屋に入ったものの、今度はそこに襲い掛かろうとするスケルトン達と戦わなければならない。しかも扉が格子状なので剣も矢も扉を突き抜けて冒険者達に向かってくる。スケルトン達が全力で投げつけてくる魔剣や矢を避けながら、メイジが雷撃を放ちアーチャーが矢を放つが、スケルトン達は属性魔法に対する耐性がかなり強く設定されているようで、冒険者達の攻撃をものともしない。止む無くメイジがシールドを張り、タンク役の戦士が盾で扉の隙間を塞ぎながら、耐え忍ぶこと約1分。
ようやく扉が閉まると共に、そこに群がっていたスケルトン達は跡形もなく消さってしまった。
勝利だ。
冒険者達はその疲労でその場に膝をつき、肩で息をして血や汗を拭った。
程なく部屋の奥が開き、大きな宝箱と出口の扉が出現して映像は終わった。
「フィリップ! 感想は?」
「そうですね。冒険者達からの報告書の内容と一致しています。それにしても・・・・・最後の階層はエグいですね。」
小人の言葉にピクシーがうんうんとうなづいた。
「そうでしょ。単なるタイムトライアルで済まない所がみそなのよ。」
「それに、最後の階層は入ってくるたびに、魔物の種類と構成、攻撃パターンやフロアの構造が微妙に変化するからね。マンネリ化しないわよ。」
「リリス! あなたの感想は?」
話を振られたリリスはう~んと考えた。
「難易度が高いので上級者には評価されそうね。ただ、少し疑問が・・・・・」
ブルーの衣装のピクシーが首を傾げた。
「疑問って何よ?」
「浄化って水属性の魔法だっけ? 聖属性なのでは?」
リリスの疑問にブルーの衣装のピクシーがうっと呻いた。そこに赤い衣装のピクシーが割って入ってくる。
「リリス。そこは演出だからね。細かい事に拘るんじゃないのよ。」
「演出? タミア、それってどういう意味なの?」
「だから演出なのよ。浄化って言った方がありがたみがあるでしょうからね。ユリア、説明してあげてよ。」
話を振られてブルーの衣装のピクシーが口を開いた。
「要するに洗浄魔法の極強化版なのよ。生活魔法の洗浄は水魔法だからね。それを極限近くまで強化したのがあれ、つまり『浄化の波動』なのよ。」
「そうねえ。リリスの記憶領域にあった知識で言うと、『水の超音波振動を利用した洗浄』かしらね。」
ああ、そう言う事なのね。
何となく分かる気がするわ。
ここでピクシー達の踏み付けから逃れ出たノームが、身体のあちらこちらを摩りながら口を開いた。
「ダンジョンに変化をつけるんやったら、僕も手伝ってやろうか? 落とし穴とか底なし沼とか土槍の罠とか、いろいろあるで。」
「遠慮しておくわ。土魔法ってダサいから。」
「ダサいってなんや!そんな言い方はないやろ。リリス!僕の弟子の君からも言うてやってくれ。土魔法を馬鹿にされとるぞ。」
「リリス。あんた、いつからこいつの弟子になったのよ。」
「やだ、リリスったら。このキモイ奴に何かいやらしい事をされたんじゃないの?」
「リリス。それは本当なのか?人族が亜神の弟子になるなんて・・・」
話が混乱してまとまりがなくなってしまった。
リリスは呆れてしまって、少し間を置き大声を上げた
「私はチャーリーの弟子なんかになっていません!」
「いい加減にしてよね。話をまとめるわよ。それであんた達の要件は何なのよ?」
使い魔達が静かになった。
赤い衣装のピクシーが他の使い魔達に小声で話し掛けた。
「リリスったら頃合いを見てまとめ始めちゃったわよ。クラス委員の本領発揮かしらね?」
何を言っているんだろうかと思いつつ、リリスは使い魔達の目をじっと見つめた。
「私はリースの地下神殿のダンジョンの出来栄えを、リリスに聞きに来たのよ。フィリップの感想も聞けたから要件は済んだわ。」
ユリアの使い魔であるブルーの衣装のピクシーがしずしずと答えた。
「私はこいつがリリスのところに行くって言うから、ついでについて来ただけよ。」
タミアの使い魔である赤い衣装のピクシーが答えた。如何にも暇つぶしの要件だ。
「僕はさっきも言うた通り、リリスに授けた土魔法のスキルが適正化されているか確かめに来たんや。それと土魔法を底上げしてあげた結果も見ておきたかっただけや。いずれもリリスの魔力の気配で状態は分かったから要件済みやね。」
チャーリーの使い魔のノームが答えた。
「僕はダンジョン化したリースの地下神殿について、冒険者達から上がってきた報告書の内容をリリスに教えてあげようと思って来たんだよ。でも映像で確認させて貰えるとは思ってもみなかったね。」
フィリップ王子の使い魔の小人が答えた。
「そうすると要件は全て済んだのね。」
リリスは姿勢を正して使い魔達に口を開いた。
「それじゃあ、これで解散!」
リリスの号令にハイハイと答えながら、使い魔達は消えていった。
だがフィリップ王子の使い魔の小人が去り際に立ち止まり、振り返って尋ねた。
「ところでリリス。50インチって何の事だ?」
「ああ、それは亜神の言葉で映像の大きさを表す単位ですよ。気にする必要はありません。忘れて下さい。」
妙なところに引っ掛からないで欲しいわね。
リリスはそう思いつつ小人を送り出した。だが小人が消えると同時にまたノームが現われた。
「チャーリー。まだ何か要件があるの?」
リリスに邪険に問い掛けられたノームはソファに胡坐をかき、サラの眠るベッドを見つめた。
「サラ君の事で気に成る事があるんやけどね。」
「サラの事で?」
「そうや。この子、変わったスキルを持ってるやろ?」
そう言われてリリスもハッとした。
「もしかして亜神召喚の事?」
「そうや。それの事や。これって人族が持つスキルや無いで。普通はダークエルフの持つスキルや。このスキルで召喚されるとしたら、おそらく・・・・・闇属性を司る亜神デスブラッド=ゾル=ダーク。」
ええっ!
闇を司る亜神!
しかもその名前が如何にも禍々しい。
そんなものを召喚してしまうなんて・・・・・。
そう考えるとリリスは青ざめてしまった。
「闇の亜神って・・・・・世界を闇に葬るの?」
リリスの問い掛けにノームはハハハと笑った。
「君は闇の亜神と魔王を混同しとるね。」
「闇の亜神って人見知りで陰キャやで。いつも人前に出るのを避けとるからね。」
「そうなの? もしかして心が闇なのかしら?」
「おっ! 上手い事言うやんか。それに近いね。」
青ざめたリリスの顔が即座に元に戻ってきた。心配する必要もなさそうだ。
それにしても、亜神って変わり者ばかりなの?
呆れるリリスを横目に見ながら、ノームがサラのベッドに近付いた。
「あいつら、サラ君を眠らせるだけで、放置して消えて行きよった。ほんまにええ加減な奴らやで。」
そう言うと、ノームはサラに手を向けパチンと指を鳴らした。
「これで10分後には目が覚める筈や。起きたら水を飲ませてやってな。」
「ねえねえ、チャーリー。タミアとユリアってサラに何をしたの? 意識を奪っただけじゃ無いの?」
「ああ、体密着型の亜空間への隔離による身体機能の強制停止やね。コールドスリープみたいなもんかな。」
サラに何をしてくれるのよ!
永遠に休眠させるつもりだったの?
呆れて言葉も無いリリスにノームが手を振った。
「ほな。」
それって軽いお別れの言葉だっけ?
それにしても関西弁を操る亜神って何なのよ。
私も吉●新喜劇の知識が役立つとは思っていなかったわ。
消え去って行ったノームの方向を見つめながら、リリスはほっと安堵のため息をついたのだった。
「今のところ5階層までになっているの。でも難易度は高いわよ。その分ドロップアイテムや褒賞もたっぷり用意したわ。」
第一階層は朽ち果てた神殿の内装のままで、暗がりから魔剣を持つオーガファイターやオーガメイジが襲ってくる。その数も多い。倒しても倒しても湧いてくるように襲ってくる敵の数は、総数で20体にも及びそうだ。しかも魔法の攻撃があまり効かない。
「最初からきついわねえ。」
だが冒険者達も奮闘していた。メイジがシールドを幾重にも張って敵の火球を防御し、タンク役のファイターが大きな盾で突破口を開くと、リーダーの戦士が大きな魔剣で問答無用に切り倒していく。更にエルフのアーチャーが火属性や雷属性の矢を放ち、的確に敵を撃ち抜いていく。
その背後でクレリックがパーティ全体の攻撃力を上げ、全員にヒールもかけていく。
流石はAランクの冒険者達だ。
全ての敵を倒してドロップアイテムをマジックバッグにしまい込むと、ポーションをがぶ飲みしながら次の階層に挑んでいった。
第2階層から第4階層までは同じような戦いが続く。どの階層も魔物の総数は20体ほどだが、すべての魔物の魔法耐性が高く、魔法の攻撃があまり効かない。出てくる魔物の種類は体長3mのティラノのような走竜や、小型のサラマンダーやワイバーンであったりするのだが、飛翔系の魔物にもアーチャーの魔弓が威力を発揮して、難なくこなしていった。
「あのエルフのアーチャーは凄いだろ? 彼女の技量はこの大陸でもトップクラスだと思うよ。」
「そうですね。後方からの支援攻撃としては破格ですね。でもあのタンク役のファイターも凄いですね。大盾のバッシュで走竜を食い止めるなんて、どれだけ身体強化しているんですかね。」
フィリップ王子とリリスの言葉に、ブルーの衣装のピクシーもうんうんとうなづいていた。
「でもここからが大変なのよ。」
ピクシーの言葉を耳にしながら映像を見ていると、冒険者達は第5階層に辿り着いた。
この第5階層の入り口には女神の像が立っている。これは水を司る亜神のものだ。
女神の像から声が聞こえてくる。
『よく此処まで辿り着きましたね。』
『この第5階層を踏破する為に、私の力を授けます。発動は1回限りで、浄化の波動を大きく放ち活路を見出しなさい。この階層の先の出口は浄化の波動の発動から5分後に閉じられてしまいます。そこに辿り着けばたっぷりと褒賞を授けましょう。』
女神の像から光が放たれて、リーダーの戦士の魔剣に大きなブルーの光が纏わり付いた。
それと同時にフロアの奥からドドドドドッと怒涛のような地響きが伝わってきた。
よく見ると近付いてくるのはスケルトンの軍団だ。手に魔剣を持ちフルメタルアーマーで武装したスケルトンの総数は数百体にも及ぶ。更にスケルトンのアーチャーまでいるようで、その放つ矢がキーンと金切り音を発てて放物線を描き冒険者達に向かってくる。
もはや冒険者達に余裕はない。
アンデッドには浄化が最適だ。
メイジが幾重にもシールドを掛けてスケルトンの放つ矢を受け止めている間に、リーダーの戦士が魔剣を大きく振りかぶり、前方に向けて浄化の波動を放った。
淡いブルーの波動がびりびりと空気を震わせながら真っ直ぐにフロアの奥まで伸びていく。それが先になるにつれて横にも広がって拡散されていく。
スケルトン達はその波動に巻き込まれて浄化され大半が消えていった。
「今だ! 奥まで突っ走るぞ!」
リーダーの掛け声を合図に冒険者達は全力で奥へと駆け出した。フロアの両側に居て浄化の波動を直接には受けなかったスケルトン達が起き上がり、冒険者達に向かって詰め寄っていく。その残数は50体ほどだ。わずかながらに飛んでくる矢を避けながら、冒険者達はフロアの奥の部屋に駆け込んだ。ここまでで約4分。部屋の入り口は横幅が10mほどで扉や仕切りは無く、冒険者達が駆け込んだ時点で両側から格子状の扉が現われた。それが徐々に閉まっていくのだがそのスピードが遅い。
余裕で部屋に入ったものの、今度はそこに襲い掛かろうとするスケルトン達と戦わなければならない。しかも扉が格子状なので剣も矢も扉を突き抜けて冒険者達に向かってくる。スケルトン達が全力で投げつけてくる魔剣や矢を避けながら、メイジが雷撃を放ちアーチャーが矢を放つが、スケルトン達は属性魔法に対する耐性がかなり強く設定されているようで、冒険者達の攻撃をものともしない。止む無くメイジがシールドを張り、タンク役の戦士が盾で扉の隙間を塞ぎながら、耐え忍ぶこと約1分。
ようやく扉が閉まると共に、そこに群がっていたスケルトン達は跡形もなく消さってしまった。
勝利だ。
冒険者達はその疲労でその場に膝をつき、肩で息をして血や汗を拭った。
程なく部屋の奥が開き、大きな宝箱と出口の扉が出現して映像は終わった。
「フィリップ! 感想は?」
「そうですね。冒険者達からの報告書の内容と一致しています。それにしても・・・・・最後の階層はエグいですね。」
小人の言葉にピクシーがうんうんとうなづいた。
「そうでしょ。単なるタイムトライアルで済まない所がみそなのよ。」
「それに、最後の階層は入ってくるたびに、魔物の種類と構成、攻撃パターンやフロアの構造が微妙に変化するからね。マンネリ化しないわよ。」
「リリス! あなたの感想は?」
話を振られたリリスはう~んと考えた。
「難易度が高いので上級者には評価されそうね。ただ、少し疑問が・・・・・」
ブルーの衣装のピクシーが首を傾げた。
「疑問って何よ?」
「浄化って水属性の魔法だっけ? 聖属性なのでは?」
リリスの疑問にブルーの衣装のピクシーがうっと呻いた。そこに赤い衣装のピクシーが割って入ってくる。
「リリス。そこは演出だからね。細かい事に拘るんじゃないのよ。」
「演出? タミア、それってどういう意味なの?」
「だから演出なのよ。浄化って言った方がありがたみがあるでしょうからね。ユリア、説明してあげてよ。」
話を振られてブルーの衣装のピクシーが口を開いた。
「要するに洗浄魔法の極強化版なのよ。生活魔法の洗浄は水魔法だからね。それを極限近くまで強化したのがあれ、つまり『浄化の波動』なのよ。」
「そうねえ。リリスの記憶領域にあった知識で言うと、『水の超音波振動を利用した洗浄』かしらね。」
ああ、そう言う事なのね。
何となく分かる気がするわ。
ここでピクシー達の踏み付けから逃れ出たノームが、身体のあちらこちらを摩りながら口を開いた。
「ダンジョンに変化をつけるんやったら、僕も手伝ってやろうか? 落とし穴とか底なし沼とか土槍の罠とか、いろいろあるで。」
「遠慮しておくわ。土魔法ってダサいから。」
「ダサいってなんや!そんな言い方はないやろ。リリス!僕の弟子の君からも言うてやってくれ。土魔法を馬鹿にされとるぞ。」
「リリス。あんた、いつからこいつの弟子になったのよ。」
「やだ、リリスったら。このキモイ奴に何かいやらしい事をされたんじゃないの?」
「リリス。それは本当なのか?人族が亜神の弟子になるなんて・・・」
話が混乱してまとまりがなくなってしまった。
リリスは呆れてしまって、少し間を置き大声を上げた
「私はチャーリーの弟子なんかになっていません!」
「いい加減にしてよね。話をまとめるわよ。それであんた達の要件は何なのよ?」
使い魔達が静かになった。
赤い衣装のピクシーが他の使い魔達に小声で話し掛けた。
「リリスったら頃合いを見てまとめ始めちゃったわよ。クラス委員の本領発揮かしらね?」
何を言っているんだろうかと思いつつ、リリスは使い魔達の目をじっと見つめた。
「私はリースの地下神殿のダンジョンの出来栄えを、リリスに聞きに来たのよ。フィリップの感想も聞けたから要件は済んだわ。」
ユリアの使い魔であるブルーの衣装のピクシーがしずしずと答えた。
「私はこいつがリリスのところに行くって言うから、ついでについて来ただけよ。」
タミアの使い魔である赤い衣装のピクシーが答えた。如何にも暇つぶしの要件だ。
「僕はさっきも言うた通り、リリスに授けた土魔法のスキルが適正化されているか確かめに来たんや。それと土魔法を底上げしてあげた結果も見ておきたかっただけや。いずれもリリスの魔力の気配で状態は分かったから要件済みやね。」
チャーリーの使い魔のノームが答えた。
「僕はダンジョン化したリースの地下神殿について、冒険者達から上がってきた報告書の内容をリリスに教えてあげようと思って来たんだよ。でも映像で確認させて貰えるとは思ってもみなかったね。」
フィリップ王子の使い魔の小人が答えた。
「そうすると要件は全て済んだのね。」
リリスは姿勢を正して使い魔達に口を開いた。
「それじゃあ、これで解散!」
リリスの号令にハイハイと答えながら、使い魔達は消えていった。
だがフィリップ王子の使い魔の小人が去り際に立ち止まり、振り返って尋ねた。
「ところでリリス。50インチって何の事だ?」
「ああ、それは亜神の言葉で映像の大きさを表す単位ですよ。気にする必要はありません。忘れて下さい。」
妙なところに引っ掛からないで欲しいわね。
リリスはそう思いつつ小人を送り出した。だが小人が消えると同時にまたノームが現われた。
「チャーリー。まだ何か要件があるの?」
リリスに邪険に問い掛けられたノームはソファに胡坐をかき、サラの眠るベッドを見つめた。
「サラ君の事で気に成る事があるんやけどね。」
「サラの事で?」
「そうや。この子、変わったスキルを持ってるやろ?」
そう言われてリリスもハッとした。
「もしかして亜神召喚の事?」
「そうや。それの事や。これって人族が持つスキルや無いで。普通はダークエルフの持つスキルや。このスキルで召喚されるとしたら、おそらく・・・・・闇属性を司る亜神デスブラッド=ゾル=ダーク。」
ええっ!
闇を司る亜神!
しかもその名前が如何にも禍々しい。
そんなものを召喚してしまうなんて・・・・・。
そう考えるとリリスは青ざめてしまった。
「闇の亜神って・・・・・世界を闇に葬るの?」
リリスの問い掛けにノームはハハハと笑った。
「君は闇の亜神と魔王を混同しとるね。」
「闇の亜神って人見知りで陰キャやで。いつも人前に出るのを避けとるからね。」
「そうなの? もしかして心が闇なのかしら?」
「おっ! 上手い事言うやんか。それに近いね。」
青ざめたリリスの顔が即座に元に戻ってきた。心配する必要もなさそうだ。
それにしても、亜神って変わり者ばかりなの?
呆れるリリスを横目に見ながら、ノームがサラのベッドに近付いた。
「あいつら、サラ君を眠らせるだけで、放置して消えて行きよった。ほんまにええ加減な奴らやで。」
そう言うと、ノームはサラに手を向けパチンと指を鳴らした。
「これで10分後には目が覚める筈や。起きたら水を飲ませてやってな。」
「ねえねえ、チャーリー。タミアとユリアってサラに何をしたの? 意識を奪っただけじゃ無いの?」
「ああ、体密着型の亜空間への隔離による身体機能の強制停止やね。コールドスリープみたいなもんかな。」
サラに何をしてくれるのよ!
永遠に休眠させるつもりだったの?
呆れて言葉も無いリリスにノームが手を振った。
「ほな。」
それって軽いお別れの言葉だっけ?
それにしても関西弁を操る亜神って何なのよ。
私も吉●新喜劇の知識が役立つとは思っていなかったわ。
消え去って行ったノームの方向を見つめながら、リリスはほっと安堵のため息をついたのだった。
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