落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
上 下
35 / 313

宝玉の中身

しおりを挟む
冗談を言いながら小箱を手渡したフィリップ王子のニヤけた顔に、少しイラッとするリリスである。


「これは王家の倉庫に眠っていた宝玉だよ。これも良かったら貰ってくれたまえ。」

手渡された箱の中には直径が10cmほどの黄金色の宝玉が入っていた。透明で強い魔力を纏っている。だがよく見るとその宝玉の中に黒い点が二つ入っていた。

「その黒い点はその宝玉の纏う魔力の根源だ。それが何かは分からないんだが、放たれている魔力は穏やかで心が癒される波動だと思うよ。」

「そうですね。確かに穏やかで癒されますね。ありがとうございます。」

そう答えながらもリリスはその黒い点が気に成っていた。何故かリリスのコピースキルが微妙に反応しているからだ。
直ぐにでも鑑定したいところだが、フィリップ王子の目の前であまりスキルを披露するのは得策ではない。ここは単純に喜んでいる様子を見せておこう。
そう判断してリリスは再度頭を下げ礼を述べた。

するとフィリップ王子はリリスの目に前に立ち、その手を取った。

えっ!
今度は何?

驚くリリスにフィリップ王子は笑いかけて、

「リリス。君の魔力はかなり特殊なようだね。少し僕に魔力を流してくれないか?」

「僕は魔力の感知に関しては特殊なスキルを持っているんだよ。それはロイヤルガード達とのやり取りでも有用なんだけどね。」

そう言えばこの人はドルキア王国の諜報機関のトップだったわね。そこから考えても単なるシスコンではないと思うんだけど・・・。

あれこれと考えながらも、リリスは言われる通りにフィリップ王子の手に魔力を流した。

フィリップ王子はうんうんとうなづきながら、その魔力を味わうように感じ取っていた。

「これはかなり特殊な魔力の波動だね。魔力を貰いっぱなしでは申し訳ないので、僕からも魔力を送るよ。」

そう言ってフィリップ王子はリリスの手に魔力を流した。暖かい魔力が流れ込んでくる。
だが、ふとリリスはその魔力の最後に何か不純物のようなものを感じた。

これって何だろうか?

ふと感じた疑問ではある。だがそれほどに強くこだわるほどの物でもないので、敢えてスルーしてフィリップ王子の魔力を受け入れ、礼を言って触れていた手を離した。微かに解析スキルのざわめきを感じる。

しばらくの間歓談して、リリスは学生食堂から生徒会の部屋に向かった。だが生徒会の部屋には誰も居なかった。リリスはこのまま寮に帰ろうとしたのだが、フィリップ王子から貰った宝玉が気に成っていたので、生徒会の部屋に入ると椅子に座り、改めて黄金色の宝玉を取り出した。

これって琥珀かしら?
メノウじゃないわよね。

宝玉をしげしげと眺めながら、リリスは解析スキルを発動させた。

これって単なる宝玉なの?

『琥珀をベースにした人工的な宝玉です。おそらく古代の技術で造り上げられたものでしょう。ですが・・・・・』

『この宝玉の中に封じられているのは2体の魔物ですね。』

ええっ!
この黒い点って魔物なの?

『すでに封印されて魔力を吸収され、外殻も完全に消滅してしまっています。もはや存在そのものが風前の灯火ですね。』

『構造としては強力な魔法を操る高位の魔物を封じ、その魔物の魔力を術式で変換しながら害の無い魔力を放っているのでしょう。』

それって封じられた魔物が電池代わりって事なの?

『残酷な仕様ですが、そう言う事です。でもスキルはコピー出来ますよ。』

えっ?
どうして・・・・・。

もしかして、魔物とこの宝玉を介して接触出来るから?

『そうです。可能なはずです。ただ、魔物の存在そのものがもはや消えつつありますので、サルベージしながらコピーするのが良いと思われます。』

サルベージってどうするの?

『魔力吸引をアクティブにして、魔力を吸引しながらコピーするのです。』

そんな事をしたら魔物が消滅してしまうんじゃないの?
止めを刺す事になりそう・・・。

『スキルを活用してあげれば良いのではないかと思います。それが旅立つ者へのはなむけではないかと・・・』

う~ん。
後味が悪くなりそう。

そう思いながらもリリスは宝玉を額に付けた。瞬時にコピースキルが発動され、魔物の持つスキルが脳内に浮かんできた。

高位の火魔法と闇魔法。魔力誘導。魔装。

この魔装って何だろう?

『闇魔法はコピーしない方が良いでしょう。聖魔法と相殺されて補正がなくなってしまいます。』

そうでしょうねえ。
聖魔法と闇魔法を両方持つなんて無理があるわよね。

とりあえずリリスは宝玉の魔力を吸引しながら闇魔法以外のものをコピーした。だが意外にもコピー時の鋭い頭痛が現れない。魔物の生命反応がほとんど無いので、物質からコピーしているようなものだ。それ故に頭痛が無いのだろうとリリスは判断した。

スキルのコピーと魔力の吸引によって、宝玉の中の黒い点は完全に消え去ってしまった。

成仏してね。

そう思い、心の中で手を合わせたリリスであった。

『魔物の正体がようやく判明しました。魔人とピクシーですね。』

ええっ! 魔人なの!
魔人のスキルをコピーして大丈夫なのかしら?

若干の不安を感じつつ、リリスは自分自身に鑑定を掛けてみた。


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル18

年齢:13

体力:800
魔力:1700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル1

   ファイヤーボルト  レベル4

   アースウォール   レベル4

   加圧        レベル1



(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

 
スキル:鑑定 レベル2

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル1

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    解析 

    最適化


    獣性スキル高位火魔法(発動不可 調整中)

    獣性スキル魔力誘導(発動不可 調整中)

    獣性スキル魔装(発動不可 調整中)

       
**************


上手くコピーされたようだ。

『獣性スキルの最適化にはそれほど時間が掛かりません。数時間で処置できると思われます。』

そうなの?
それは楽しみだわ。

リリスは宝玉を制服のポケットにしまい込み、生徒会の部屋から寮へと戻った。

その日の夜、明日の授業の準備を終えてベッドに入ると、解析スキルがリリスに獣性スキルの最適化終了した事を伝えてきた。
それを確認すべく自分自身に鑑定を掛けると、


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル19

年齢:13

体力:800
魔力:1700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル3+

   ファイヤーボルト  レベル5+

   アースウォール   レベル4

   加圧        レベル1



(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

 
スキル:鑑定 レベル2

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル2

    魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    魔装(P・A) (妖精化)

    解析 

    最適化

**************


火魔法が底上げされている。それに伴って総合レベルも上がっているわ。
魔力誘導は最初からレベル3なのね。

『試しに魔力誘導で自分の身体の内部を探ってみてください。魔力の触手で体の中を辿っていく感覚です。』

それってタミアに脳の中を探られた時のアレなのね。

リリスが魔力誘導を発動させると、リリスの頭から2本の触手が生えてきた。否、生えてきたような感覚だけだ。だがそれでも自分の意志の通りに動く感覚がある。

面白いわね。

解析スキルの勧めるままに、自分の身体の内部に魔力の触手を打ち込んでみた。少し気味の悪い感覚はあるが、思った以上に体の内部を精査出来る。身体の中を巡らせるに連れて、自分の内臓や筋肉の弱っている部位が分かる。更に体内組織の魔素の濃淡まで見えてくる。

『魔力に毒性の魔素を組み込んで相手の体内に撃ち込むことも可能ですよ。』

そんな悪辣な事まで出来るの!

『そもそも魔人のスキルですからねえ。』

それはそうだろうけど、私は暗殺者じゃないからね。悪用はしないわよ。

『いずれ恋敵に使いたくなる時が来るかも知れませんよ。』

いやいや。
それは駄目だって。

でもこのスキルは有意義に活用させて貰うわよ。

この時リリスは、このスキルを早速使う事になるとは思っていなかった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...