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薬草採取3
しおりを挟むリリスの放った毒霧で意識を失った暴漢達。
その前に立つリリスの脳内に解析スキルの声が伝わってきた。
『解毒スキルの発動をお勧めします。』
あらっ?
私は毒耐性が効いているから身体に変調は無いわよ。
そう思いつつ背後を見ると・・・・・ケイトが白目を剥いて倒れていた。
あらあら。ケイト先生まで毒で倒れちゃったわ。
解析スキルがケイトの解毒を促してくれたようだ。
だがケイトの上半身を起こして、リリスはふとその動きを止めた。
この毒の効果時間は?
『2時間です。』
解析スキルに尋ねると即座に回答が返ってきた。
それならと思ってリリスはケイトに鑑定スキルを発動させた。
薬師だから持っている筈のあのスキルをコピーしたい。お目当ては調合スキルだ。
自力でヒーリングポーションを造ってみたい。
中二病を発症させたリリスはラノベの知識にも促され、解毒を後回しにしてケイトのステータスを探った。
あった! 調合スキルはレベル2だ。意外に低いわね。でもそのお陰でコピー出来そうだわ。
リリスはおもむろに額をケイトの額にくっつけた。即座にコピースキルが発動される。調合スキルが欲しい!
そう念じた途端にスキルのコピーが始まり、強烈な痛みがリリスの頭を襲う。痛いと叫びつつも耐えて、コピーは完了した。
まだずきずきと痛む頭にヒールを掛けながら、リリスは鑑定スキルで自分のステータスを確認した。
**************
リリス・ベル・クレメンス
種族:人族 レベル17
年齢:13
体力:700
魔力:1600
属性:土・火
魔法:ファイヤーボール レベル1
ファイヤーボルト レベル4
アースウォール レベル4
加圧 レベル1
(秘匿領域)
属性:水・聖
魔法:ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
ヒール レベル1+ (親和性による補正有り)
スキル:鑑定 レベル2
投擲 レベル3
魔力吸引(P・A) レベル1
探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)
毒生成 レベル2+++ (獣性要素による高度補正有り)
解毒 レベル1++ (獣性要素による高度補正有り)
毒耐性 レベル1++ (獣性要素による高度補正有り)
調合 レベル2
解析
最適化
**************
総合的なレベルが上がったのと体力や魔力が増えたのは、ケイト先生とパーティを組んで経験値を稼いだからなのね。
でも毒生成スキルがレベルアップしているのは何故?
解析スキルに問いただすと即座に回答が返ってきた。
『調合スキルと毒生成スキルとの連携が確立されました。』
それって毒の調合が高度になったって事なの?
毒持ちの魔物みたいになっちゃったわ。
『更に調合スキルと解毒スキルとの連携も確立されました。』
それなら解毒剤も調合出来るって事ね。
幅広く活用できそうな調合スキルを手に入れて、リリスは彼女なりに満足していた。
ああ、そうだ。ケイト先生を治療しないとね。
おもむろに解毒スキルを発動させ、ヒールのようにケイトの身体に魔力を流すと、程なく顔色が健康色に戻りケイトの意識が戻ってきた。
「うっ・・・う~ん。あらっ、リリスさん。ここは何処?」
何処と言われてもねえ。
如何にも天然なケイトの言葉に思わず笑みがこぼれてしまう。
「ケイト先生。助かりましたよ。たまたま通りがかった冒険者達が助けてくれたんです。」
「えっ? その人達は何処に居るの?」
「名前も告げずに去って行きましたよ。暴漢に向けて毒を放って倒してくれたようです。」
ケイトは事情が良く分からないと言った表情で首を傾げた。
少し間を置いてきょろきょろと周囲を見回し、目の前に倒れている二人の男を見て、ようやく状況が掴めたようだ。
「この男達は死んでいるの?」
「いえ。麻痺状態ですね。この麻痺毒の効果は2時間ほどだそうです。」
ケイトを抱き起し、リリスは倒れている男達に近付いた。バタバタしている間に30分が過ぎたようで、属性魔法の制限が切れている。それを確認した上でリリスは土魔法を発動させて、高さ1m横幅2mほどの土壁を出現させた。それを使って四角形の三方に立てる。これは土壁を使った檻だ。檻と言っても相手が意識を失った状態なので、高さはそれほど必要ない。土壁で仕切った場所に倒れた男達の身体を引き摺って運び、最後に解放部にも土壁を出現させて四方を囲むと完成だ。
「ねえリリスさん。私達の背後の樹上から落ちた男達の手足の向きが変よ。」
そう言われて良く見ると、腕や脚が異常な方向に捻じれている。打ち所が悪かったようだ。
複雑骨折しちゃってるわね。
だからと言って気の毒には思わない。彼等の傍には強靭そうな魔弓が落ちていたからだ。
「こんなもので狙われていたらやばかったわね。」
そう言いながらケイトはマジックボックスに暴漢たちの武器を収納してしまった。それらは戦利品と言う事だ。そのまま放置していても良く無い事は分かるのだが。
急いでケイトとリリスはダンジョンの入り口に戻り、門番の兵士に一連の内容を伝えて彼等に現場を確認してもらった。その間詰め所で事情聴取された後にしばらく待機させられたが、リリス達に非が無い事は明らかなのでそのまま魔法学院に戻る事を許された。
翌日の午後、ケイトに呼び出されたリリスは耕作地で薬草の植え付けを手伝っていた。残念ながらこの作業は魔法では出来ない。薬草が自力で動いて畑の土に根を下ろすような魔法は無いだろうかと、あまりにも無茶な事を考えながら、リリスはケイトと共に黙々と薬草の植え付けを続けた。
「ケイト先生。昨日のケフラのダンジョンでの出来事で、学院からお咎めを受けたって聞きましたけど・・・・・」
「ああ、その件ね。その通りよ。生徒を危険な目に遭わせたのだから当然なのだけれど、実害が無かったので訓戒処分で済んだわ。」
あっけらかんと笑うケイトの表情を見て、リリスも気が楽になった。
「あの暴漢達は色々と余罪があったそうよ。身代金目当ての誘拐の常習犯で、即座に犯罪奴隷として鉱山に送られるって聞いたわ。」
そうか。あいつらは一生鉱山から出られないのか。それも自業自得だとリリスは思った。
「でも私達を助けてくれた冒険者が特定出来ないのよね。一度会ってお礼を言いたいのだけれど・・・」
その件は分からないままで良いわよ。
リリスは心の中でそう叫んだ。基本的に天然のケイトなので、それほどそこに拘る事は無いと思うのだが、それでもリリスの不安が掻き立てられてしまう。
幸いケイトは話題を変えてくれた。
「それにしてもどんな毒を使ったのかしら? あの暴漢達を解毒する際に軍でもすごく手間取ったそうよ。一部の研究者の間では、未知の毒だと騒がれているらしいわ。」
あらあら。そんなところで騒ぎにならないで欲しいわね。間違っても私が造りましたとは言えないし・・・。
「まあ、助かったのだから良いじゃないですか。」
そうとしか言いようのないリリスである。
ヒーリングポーションの材料となるマキナ草の植え付けを終え、ケイトがウォータースプラッシュで畑に散水した。更にその上にケイトは魔力を放出していく。これは肥料代わりだと思えば良い。
でも霧に毒を混入できるのだから、散水に肥料を含ませる事も出来る筈よね。
そう思ったリリスの脳裏に解析スキルの言葉が浮かび上がった。
『肥料を調合しますか? 調合スキルで可能だと思いますので、スキル活用の為のチュートリアルとして発動するのが有意義だと考えます。』
いや。それはやらなくて良いわよ。話が複雑になっちゃうわ。でも肥料って調合出来るのね。
改めて調合スキルをコピー出来た事に満足感を感じながら、リリスはケイトに質問した。
「ねえ、ケイト先生。このマキナ草で私もヒーリングポーションを造れるのかしら?」
「あら、それは先日の授業で教えた通りよ。適切な材料と触媒と専用の器具があれば誰でも造れるわ。」
「でも調合スキルが必要なんですよね?」
「調合スキルはポーションを造る際の時間を短縮出来る。それとポーションの品質の向上にもなるの。スキルなしで造れば2時間掛かる作業が、スキルのお陰で5分ほどで終わってしまうのよ。」
ケイトの話を聞きながら、リリスはケイトから受けた授業を思い出した。ヒーリングポーションの生成の為には、材料のマキナ草をすり潰してエキスを取り出し、精製水と共にフラスコに入れて火にかけ、触媒として魔力を注ぎながら造り上げる。授業では10分ほどの時間しか火にかけられなかったので、中途半端な効果のものしか造れなかった。勿論授業なので少しでもヒールの効果が確認出来ればそれで良い。
完璧な製品にする為には、普通なら2時間は掛かると言う事だ。
うんうん。私も調合スキルでヒーリングポーションを造るわよ!
リリスは心の中でそう誓っていた。
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