落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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2度目のダンジョンチャレンジ:その夜

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2度目のダンジョンチャレンジを終え、学生寮に戻ったリリスはサラに誘われて食堂で夕食を食べる事にした。学生寮にも地下に食堂があって、入寮者は朝食と夕食を食べる事が出来る。食堂と言っても食事の質は高い。豪勢な食事ではないがそれなりに満足できるメニューが揃っている。ここで食べない生徒は魔法学院の敷地の周辺部にあるレストランなどに足を運ぶのだが、そこまでそれなりに距離がある上に価格も高い。贅沢を望まなければ朝夕はこの食堂で充分なのだ。

椅子に座って二人共に煮込み料理のディナーを注文した。料理が出てくるまで水を飲んで待っていると、魔物の肉と野菜を煮込んだシチューのような料理とパン、付け合わせのサラダと3皿の総菜が運ばれてきた。美味そうな匂いが鼻をくすぐる。

この煮込み料理はワインがベースね。まるでビーフシチューだわ。ビーフじゃないけど・・・。

そう思いつつ煮込まれた肉や野菜を口に運ぶと、食材の旨味が口の中一杯に広がる。香辛料の風味や素材の味付けや調理の塩加減も絶妙だ。
その満足感でリリスは、ダンジョンチャレンジの疲れが吹き飛んでしまった。

頬の緩んだリリスの表情を見てサラもにやりと笑った。

「リリスを食事に誘って良かったわ。その様子だと疲れも吹き飛んだみたいね。二度目のダンジョンチャレンジお疲れ様。」

「ありがとう、サラ。お陰で元気が出たわ。」

サラの心遣いに感謝するリリスだった。

「それでエレンとニーナはどうだった?」

「そうねえ。基本的に戦闘には向いていないわね。」

リリスの言葉に納得した表情でサラはうんうんとうなづいた。

「そうでしょうね。そもそもあの二人は親の勧めで無理矢理ここに入学させられたそうよ。」

「それはみんな似たようなものじゃないの?」

「そう言われればそうかも知れないけど、あの二人は魔法学院を卒業した後の進路も決まっているのよ。二人共、王家にそれなりにつながりのある大商人の娘だからね。」

「えっ! 貴族の子女じゃないの?」

「正確に言えば貴族ではないわ。準貴族よ。王国の認証で貴族扱いに成っていると言えば良いのかしら。」

サラの言葉にふうんとリリスは答えた。

王家にそれなりにつながりのある大商人って・・・・・武器商人の類かしら?

そう思ってパンにかじり付いていると、食堂に二人の生徒が入ってきた。エレンとニーナだ。

あらあらと思って二人に手を振ると、二人はリリス達の真横のテーブルについた。

「リリスさん、今日はありがとう。」

改めて礼を言うエレンに謙遜して、リリスは良いのよと言いながら手を横に振った。

「それで二人共、レベルは上がったの?」

「ええ。私のファイヤーボールはレベル2になったわ。ニーナのウインドカッターもレベル2になったの。」

エレンの言葉にニーナもうんうんとうなづいた。この二人はエレンの方が良く喋る。ニーナは人見知りで口数の少ない子だ。

「気にしなくて良いのよ二人共。リリスはクラス委員の職務に忠実に励んだだけだから。」

サラの横槍にリリスは少しうんざりした。

「そんなつもりは無いんだけどねえ。」

そう言って苦笑いを浮かべるリリスにエレンが嬉しそうに話し掛けた。

「私、魔物の死骸が消えるなんて知らなかったわ。」

あらあら。本気でそう思っているのかしら。

「それはダンジョンだからよ。普通に森で遭遇したらね・・・・・」

そう言いながらリリスは言葉尻を濁した。血みどろの死骸を解体するんだと言おうとしたのだが、それを二人に想像させてしまうと食事が不味くなってしまうのは明白だ。
そんなリリスの配慮を読み取って、サラもそこには言及しなかった。

話してみればこの二人はどこにでも居そうな少女達だ。気さくに話を続けながら4人は夕食を堪能した。




その日の深夜。

リリスは突然目が覚めた。
眠りが浅かったわけではない。何者かに起こされたのだ。

だが人や魔物の気配はない。これはどうやらスキルによるもののようだ。

解析スキルの仕業ね。

そう考えた途端に頭の中に言葉が浮かんだ。

『獣性スキルの最適化が終了しました。』

夜中に私を起こした事への謝罪は無いのね。

大きな欠伸をして、眠気を吹き払いつつリリスは自分自身を鑑定した。


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル16

年齢:13

体力:600
魔力:1500

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル1

   ファイヤーボルト  レベル4

   アースウォール   レベル4

   加圧        レベル1



(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

 
スキル:鑑定 レベル2

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル1

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル1++ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル1++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル1++ (獣性要素による高度補正有り)

    解析 

    最適化

       
**************


あらっ! 随分スキルが増えたわね。

解毒や毒耐性を得てリリスはそれなりに満足した。毒持ちの魔物は意外に多い。爬虫類や両生類の形をした魔物は大概毒を持っている。更にジャイアントスパイダー等の蜘蛛の魔物も毒持ちが多い。
毒に対する耐性や解毒能力はこの世界では必須なのだ。

人間に毒を盛られる事だってあるからね。

そう思いながらもリリスは毒生成スキルが気に成った。

毒生成って、毒液を吐き出すの?

解析スキルを意識すると脳内に回答が浮かんできた。

『汗や血や吐息や唾液等に毒を混入できます。水属性や風属性の魔法の効果に付与する事も可能です。』

これってやばいわね! このスキルは絶対に封印しておこう。毒を盛られた人の近くに居たら私が疑われちゃうじゃないの。秘匿領域だから他人に知られる事は無いけど・・・・・。

『その他に毒分析レベル1が派生しましたが、解析スキルに組み込まれました。』

それはあんたの知識が増えたって事ね。良いんじゃないの。

『更に獣性スキルの気配探知は従来の探知スキルの拡張に転換されました。』

そう言えば探知スキルがレベル4にまで上がっている。

これってありがたいわね。それに高度補正まで付いているの?
それなら試してみようかしら?

リリスは探知スキルを発動させ、学生寮全体を探知してみた。
その途端にリリスの脳裏に学生寮全体の生命反応が明瞭に浮かび上がった。睡眠状態に有る無しの区別のみならず、生命力や魔力量まで大まかに分かる。
上級生が入寮している学生寮の上の方の階には小さな魔物の反応まで探知出来た。とりたてて害意は感じられない。これはおそらく特定の上級生の使い魔だろう。
だが最上階である8階の廊下で現れては消える複数の人の気配が探知された。従者なら現れたり消えたりはしない筈だ。
生滅を繰り返す複数の人の気配・・・・・これって何だろうか?

この学生寮には何か謎があるのかしら?

リリスは不審に思ったが、だからと言って今から最上階に確かめに行くのも不安だ。

明日、それとなくロイド先生に聞いてみよう。

自分にそう言い聞かせて、リリスは再び眠りに就こうとした。深夜なので直ぐに眠気が襲ってくる。

それにしても最適化スキルは良い仕事をしてくれるわね。

浅い眠りの中で発したリリスのこの思いに、何故か解析スキルが反応してしまった。

『拡張機能をねぎらっていただいてコピースキルも喜んでいますよ。これだけ優秀なユニークスキルなのに、活用出来る能力と親和性の持ち主が今までいなかったのですからねえ。』

何なの、このスキル。完全に擬人化されちゃっているわ。

深い眠りに陥っていく過程で、リリスはそう思ったのだが、これ自体が夢かも知れない。

夢に違いないわ。

再度思い直してリリスは深い眠りに落ちていった。






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