落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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ダンジョンチャレンジ 3

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リリス達に接近するブラックウルフの唸り声が聞こえてきた。そのスピードも速い。

足止めが必要よね。

リリスは魔力を集中させて瞬時に前方10mの位置にアースウォールを出現させた。高さが1m横幅は5mほどの土壁だ。さらにその5m向こうにもう一つ、高さが2mで幅が5mのアースウォールを出現させた。

高さ2mのアースウォールに隠れて、近付くブラックウルフの姿は見えない。それはブラックウルフにしても同じで、リリス達の気配は感じても土壁が邪魔で見えない。それ故にその高い身体能力でジャンプして飛び越えようとしたブラックウルフに向けて、狙いすましたリリスのファイヤーボルトが放たれた。

キーンと言う甲高い飛翔音をあげて高速で飛ぶファイヤーボルトは、ジャンプした3体のブラックウルフのうち2体の腹部から背中に向けて見事に貫き、そのままその身体を焼き尽くした。だがジャンプしたもう1体のブラックウルフはファイヤーボルトに反応して着弾直前に身体を捻って避けようとし、足を吹き飛ばされて土壁の前に落ちた。深手を負い苦し紛れにそのブラックウルフが雷撃を放つ。その雷撃はバリバリバリッと激しい雷鳴をあげてリリスに向かってきた。だがリリス達の前にはもう一つの土壁がある。雷撃はドウンと衝撃音をあげて土壁に直撃し事なきを得た。

「デニス! サラ! アースウォールの両脇に回ったわよ!」

手前に落ちたブラックウルフにスローイングダガーを放ってとどめを刺しながら、リリスは二人に向かって叫んだ。

「「任せて!」」

二人もリリスの意図を感じ取って、アースウォールの両側にそれぞれ、小振りなウインドカッターとウォーターカッターを拡散させて放った。そこに2体のブラックウルフが、アースウォールの両脇から回り込みながら突っ込んできたので、2体ともに負傷しギャッと悲鳴を上げて地面に転がった。
そこに向けてリリスのファイヤーボルトが容赦なく放たれる。
動きの鈍ったブラックウルフなどは、リリスの格好の獲物に過ぎない。

ボスッ。ボスッ。

ブラックウルフの身体を貫いたファイヤーボルトが激しく燃え上がり、あっという間に2体を焼き尽くしてしまった。

「おお! 良い連携プレーだね。」

ロイドは感心しつつもほっと胸をなでおろした。想定外の魔物の出現で、生徒達を守るために自分が戦う局面だと思っていたからだ。ロイドの魔法の技量であれば5体のブラックウルフもそれほど難敵ではない。それでも俊敏な敵なので多少は手古摺るだろうと思っていた。
それを難なく仕留めたリリス達のチームワークに驚かされていたのだった。

デニスはリリスに笑顔を向けて口を開いた。

「お疲れ様、リリス。今後は『土壁のリリス様』と呼ばせて貰うよ。」

「それ、止めてっていってるでしょ! 様を付ければ良いってものじゃないからね!」

「それならスナイパーと呼ぼうか?」

「私はアサシンでもないからね!」

デニスにからかわれるリリスを見ながらも、ロイドはスナイパーと言う言葉が少し気に成った。リリスの放つファイヤーボルトの命中精度に、何かのスキルの存在を感じざるを得ないからだ。だがリリスのステータスにはそれらしきスキルは見当たらない。

まさかと思うがスキルを秘匿出来るのか?
13歳の少女が?
それも何のために?

まあ、今ここでこだわる問題じゃないな。

ロイドは気持ちを切り替え、心に渦巻いた疑問を振り払った。

とりあえず、この第2階層の奥まで進もう。
ロイドは草原の奥の方に向けて進むようにリリス達に促した。

草原の奥に進む事約20分。リリス達の目の前には地下へ続く階段が見えてきた。

「ロイド先生。あの階段は第3階層へ続いているのですか?」

「いや。あの階段は未完成なんだよ。そこまでこのダンジョンが成長していないんだ。あの階段に向けて魔力を放つと少し反応するのだが、何時もそれだけで終わってしまう。何か原因があって第3階層まで成長出来ないのだろうね。」

そうなのかと思いながら、リリスは階段に近寄り、試しに魔力を放ってみた。それに反応して階段の奥が仄かに光を放ったが直ぐに消えてしまった。

「ほらね。こんな感じで、誰がやってもほとんど反応しないんだよ。」

ロイドの言葉にリリスは何故か諦めきれなかった。

「つまらないわねえ。目を覚ましなさい。」

そう言いながら手のひらに小さな火の玉を造り出すと、階段の奥に向けてポイッと投げつけた。
その途端に階段の周囲がグラグラと揺れ、階段の奥から三つの小さな光の球が飛び出して、リリス達の前方約100mの位置に着地した。その光の球が徐々に形を変えていく。そこに姿を現したのはメタルプレートを装着し、手に大きな剣を持つ2体のオーガファイターだ。そしてその後ろに黒いマントを着て、手に杖を持っているのはオーガメイジだろうか。
2体のオーガファイターは剣を振りかざし、巨体を揺らしながらリリス達に向かって駆け出してきた。

「リリス! 何をするんだよ! ダンジョンを怒らせちゃったじゃないか!」

デニスが焦って騒ぎ出したが、今更どうにもならない事は明白だ。
ロイドは背後のオーガメイジが全身に禍々しい魔力を纏い始めたのを感じて、即座に防御シールドを前方に張った。その直後にオーガメイジがファイヤーボールを放ってきた。

ドンッ。

火球がシールドにぶつかり、シールド全体にビリビリと衝撃が走った。

それなりの威力だな。

ロイドはそう感じてシールドを二重に張り直した。

その間にリリスはすでに戦闘態勢に入っていた。レベル4になったファイヤーボルトを二重構造で造り上げ、更に投擲スキルを全開させ、近付く2体のオーガファイターに向けて全力でそのファイヤーボルトを二本放った。

少し太めのファイヤーボルトが激しく回転しながら、キーンと金切り音をあげて高速で飛んでいく。
その様子を見てロイドは少なからず違和感を感じた。
あれがファイヤーボルトか?
ボルトと言うよりは太めの槍だ。

ドンッ。ドンッ。

二本のファイヤーボルトは見事に一本ずつオーガファイターに着弾した。

避ける余裕も無かった。それでもファイヤーボルトなど寄せつけぬと言う自負もあったのかも知れない。オーガファイターはその分厚いフルメタルプレートを過信して、正面からファイヤーボルトを受け止めてしまった。

だがリリスの放ったファイヤーボルトはありふれたものではない。着弾と共に外側の部分でオーガファイターのメタルプレートに穴を穿ち、内部に仕込まれたもう一本のファイヤーボルトがオーガファイターの身体を焼き尽くしてしまった。

その場に立ち尽くしたままゴウッと燃え上がるオーガファイターは、程なく消し炭となって崩れ落ちた。
その威力を目の前にして驚くロイドを尻目に、リリスは再度気を引き締めた。

残るはオーガメイジだ。

ファイヤーボールはロイドの張った防御シールドで防いでいるので、現状ではこちらに危害は無い。だがオーガファイターのように闇雲に飛び出してこないので、オーガメイジの行動範囲を制限する必要がある。

敵の出方を見定めるべく、リリスは斜め上方に二本のファイヤーボルトを放った。ファイヤーボルトは放物線を描き、オーガメイジの身体に向かった。だがオーガメイジはそれを避けようともしない。直撃して火の手が上がるが直ぐに消え去り、オーガメイジも無傷のようだ。

シールドを張ったのか!
それならこいつも自分の防御力を過信しているかも知れない。

リリスは再び二重構造のファイヤーボルトを準備し、オーガメイジに向かって斜行しながら駆け出した。

「危ない!」

ロイドの制止の声など気にもせず、リリスは駆ける。その動きに釣られてオーガメイジがファイヤーボールを放った瞬間に、リリスはオーガメイジの前方10mほどの位置にアースウォールを出現させた。

ドドーンッ。

アースウォールが衝撃で砕け散り、粉塵が舞い上がる。至近距離で爆発した自分のファイヤーボールに怯んで、動きが鈍くなったオーガメイジに向けて、リリスは二重構造のファイヤーボルトを全力で放った。投擲スキルが発動され、ファイヤーボルトの速度も増し、正確にオーガメイジに着弾した。

避けようもない攻撃だが、オーガメイジはシールドを張って躱すつもりだったようだ。それはリリスの思うつぼでもある。

着弾したファイヤーボルトの外側部分がオーガメイジのシールドを破壊し、内部に仕込まれたもう一本のファイヤーボルトがオーガメイジの身体を焼き尽くした。

火の塊となってオーガメイジは崩れ落ちた。
だがよく見ると頭部はそれほどに損傷していない。これはおそらく火魔法に対する耐性を持っていたからなのだろう。リリスにとってはそれなりの難敵だったようだ。

振り返るとデニスとサラはロイドと共にオーガファイターの死骸の傍にいた。リリスの戦闘に感心して拳を上げ、ガッツポーズ見せている。
3人がリリスに駆け寄る事無くその場を離れないのは、どうやらドロップアイテムの出現を待っているようだ。これだけの魔物だから、それなりのドロップアイテムが出現しても不思議ではない。

リリスもオーガメイジの死骸の傍に座り、ドロップアイテムの出現を待とうとした。だがその時に、リリスの頭にあらぬ思いがよぎった。

魔物の魔法やスキルってコピー出来るのかしら?

そうは言っても死んだ魔物と額をくっつけるのは精神的に無理だ。それなら自分の片方の手を魔物の額に付け、もう片方の手を自分の額に付け、魔力で繋いだらどうだろうか?
正気とも思えない想念に駆られ、リリスはロイド達に背を向け、手で額同士を繋いで魔力を流してみた。

だが、驚くことに瞬時にコピースキルが発動されてしまった。

ええっ!
コピー出来るの?

リリスは驚嘆のあまり言葉を失ってしまった。





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