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ダンジョンチャレンジ 2
しおりを挟むシトのダンジョンの第1階層。
潜入早々、想定外の数の魔物の出現に直面して、ロイドは当惑を隠せなかった。だが担任の自分が戸惑う姿を生徒達に見せるのは逆効果だと思い、極力平静を保つように気を引き締めた。
そのロイドの背後から近づいてきたリリスがロイドに尋ねた。
「ロイド先生。このダンジョンってどうして成長できないのですか?」
「ああ、それはね・・・」
少し言い澱むロイドの表情にはまだ若干の戸惑いが見える。
「ダンジョンコアに問題があると言われているが、本当のところは詳しく分からないんだよ。ダンジョン自体は成長しようとしているようで、たまに想定外の魔物が出現する時もあるそうだが、その状態が継続出来ず、それだけで終わってしまって元の状態に戻るんだ。」
「そうするとこの10体のゴブリンもそうなんですか?」
「そうだね。今まで10体ものゴブリンが出現する事は無かった。今回も稀有な一例かも知れないね。これは僕の個人的な見解だが・・・・・」
ロイドは索敵でもしているように周囲を見回した。
「このダンジョンのコアは魔力の補充が上手く出来ないのかも知れないね。」
なるほどね。でもそれなら、魔力の補充が出来るようになれば成長し始めるって事なのかしら?
そんな局面には直接遭遇したくないとリリスは心底思った。ふと周りを見渡すと先に倒したゴブリンの死骸は全て消えてしまっている。全てダンジョンに吸収されてしまったのだが、後に残されたゴブリンの魔石を拾い上げながらリリスはふっとため息をついた。
ダンジョンって不思議よねえ。
ダンジョンが生き物だと改めて実感したリリスだった。
「ところで3人共、経験値が蓄積された実感はあるかい?」
ロイドの問い掛けに改めて3人は自分達のステータスを確認し始めた。
経験値そのものが具体的に見えてくることは無い。だが魔法やスキルのレベルを上げる事が可能か否かが見えてきた。
デニスはウインドカッターをレベルアップさせ、サラもウォーターカッターをレベルアップさせた。属性魔法をレベル1からレベル2に上げるのはそれほど大変な事ではない。
「意外にこのダンジョンの魔物って経験値が貯まるんだよね。」
ロイドの説明に二人共納得の表情だ。だがリリスは複雑な心境を味わっていた。すべての魔法やスキルがレベルアップ可能になっていたからだ。
そんなに経験値を稼げたのかしら? 確かに仕留めたゴブリンは一番多かったかも知れないけれど・・・。
とりあえずファイヤーボルトをレベル4に上げたのだが、まだアースウォールもレベルアップ可能になっている。不思議だなと思いつつアースウォールをレベル4に上げたが、まだスキルがレベルアップ可能のようだ。
鑑定スキル、探知スキルをレベル2に上げ、投擲スキルをレベル3に上げて、リリスのレベル上げ作業が終わった。
これは倒した魔物の質や量のみならず、自分とダンジョンとの相性が良いのかも知れない。
特別サービスなのかしら?
リリスにとってはそうとでも考えなければ納得出来ないほどの恩恵であった。
気持ちを引き締めて10分ほど前に進むと第2階層に降りる階段が見えてきた。だがその周りには2体のゴブリンが立っていた。そのゴブリンの様子がおかしい。よく見ると1体は弓を持ち、もう1体は長鎗を構えている。
「ロイド先生。あんなものが出るのですか?」
サラの言葉にロイドは首を傾げた。
「僕の記憶には無いね。あれは・・・」
そう言い続けようとした途端にロイドは矢が飛んでくるのを察知して、素早く防御シールドを前面に出現させた。
カンカンッ。
鋭い金属音がして空間魔法で造られたシールドの手前に矢が二本落ちた。
一気に二本の矢を射ったのか!
ロイドの顔に緊張が走る。射掛けられた矢と共に、長鎗を振り回して駆け出してくるゴブリンの姿が目に入った。
大きくジャンプしてシールドを越えようとするゴブリンに向けて、デニスがウインドカッターを放ち、リリスがファイヤーボルトを放つ。
ファイヤーボルトがゴブリンの腹部を貫き、火だるまになってゴブリンはリリス達の前に落ちた。
だがまだ弓を持つ敵が残っている。
距離は30m。敵からは弓矢の射程距離に入っているようだ。
リリスは投擲スキルをフルパワーで発動させ、肩口から二本のファイヤーボルトを放った。それと同時に手を前に出してファイヤーボルトの誘導を試みた。
出来ない筈は無いわよ。
投擲スキルがレベル3になった時点で、リリスにはそう言う確信が芽生えてたのだ。
ファイヤーボルトの接近を感じて避けようとするゴブリンの動きに合わせて、ファイヤーボルトに魔力を送り、投擲スキルで送り出した軌道に着弾寸前で修正を加えると、ファイヤーボルトはゴブリンの直前でグイっと向きを変え、ゴブリンの頭部と腹部を直撃した。
「おお! 見事だ。さすがはクラス委員だね。」
いやいや、それは関係ないから。
若干呆れた視線をロイドに送りながら、リリスは消し炭のようになったゴブリンの骸に近付いた。傍に落ちている弓矢は消えないので、これはドロップアイテム扱いなのだろう。程なく消えていったゴブリンの跡には小さな魔石も残っていた。
リリスはそれも回収して弓矢と共にロイドに渡した。これらは全て魔法学院の所有となるからだ。
その後ろからデニスが長鎗と魔石を持ってきた。これもロイドが回収する。
「デニス。上出来だったわよ。あんたのウインドカッターは有効な武器になるわよ。」
「そうだろ? 直撃出来なくても相手の身体を傷だらけには出来るからね。」
若干胸を張るデニスが微笑ましいと感じたリリスだが、サラの表情が若干寂しそうに見えた。
「私ってあまり役に立っていないわね。」
呟く声も弱々しい。
初めてのダンジョンでそんなに深刻にならなくても良いわよ。
そう言って励まそうとしたリリスが口を開く前に、デニスがサラに近付いて笑顔を向けた。
「ウォーターカッターの効果範囲を広げるようにすれば良いと思うよ。細かな水の刃を拡散させたらどうかな?」
「あら、デニス。良いアドバイスだわ。私もそう思うわよ。」
二人の言葉にサラの表情が明るくなった。少し気が楽になったのだろう。
「そうね、そうしてみようかしら。大きな刃で一気に刈り取るイメージで放っていたのだけれど・・・」
ここでロイドが会話に加わり、アドバイスを付け加えた。
「そこのところは臨機応変に切り替えるべきだね。」
「素早く動く複数の敵なら拡散させた方が効果的だし、動きが緩やかで巨大な敵なら大きな刃で切り付けて行けば良い。」
ロイドの指摘はサラにとって納得のいくアドバイスだったようだ。
サラは気を良くしてうんうんと嬉しそうにうなづいた。
3人を促してロイドは第2階層への階段に近付いた。
気を引き締めて全員で階段を下りると第2階層は・・・やはり草原だった。一面に広がる草原のところどころに小さな岩山が見える。第1階層に比べると少し蒸し暑く乾燥した雰囲気だ。
その草原の向こうから黒い影が複数、こちらに近付いてきているのが見えた。あれが話に聞いていた野犬なのだろうか?
「生命反応は5体。多分野犬だね。」
ロイドの言葉に気を引き締めて、リリスは近付く敵を注視した。
あれっ? あの火花は何?
野犬らしき黒い物体の周りに火花が飛んで見えた。
「拙い!」
ロイドが慌ててシールドを張った途端に、バリバリバリッとシールドに雷撃が飛んできた。威力はそれほどでもなさそうだが、雷撃を受けた事自体にロイドも驚きを隠せない。
「あれは野犬なんかじゃないぞ。雷撃性のブラックウルフだ!」
ロイドが叫んだ時点ですでに敵は、リリス達から50mほどの距離に到達していた。黒く大きな身体で軽快に疾走して近付くブラックウルフ。その体長は3m近く有りそうだ。
ブラックウルフって手強そうね。
初めて遭遇したブラックウルフを目の前にして、リリスの表情にも重苦しい緊張が現われていた。
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