落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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学生生活のスタート

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入学式当日。

式典に参加する為、リリスとサラは新品の制服に着替えて、寄宿舎から学舎に向かった。
学舎の大きなホールに新入生20名を迎えて、教職員や来賓の参席を待ち、入学式は厳かに始まった。

当初から分かっていた事だが、来賓からの挨拶や教職員の紹介など、リリスにとっては退屈極まりない式典だった。

入学式なんてこんなものよね。

小学校から大学に至るまでの入学式の記憶が蘇ってくる。

あくびを噛み殺しつつリリスは式典の終わるのを待った。式典の終了と共に教員に誘導されて新入生が教室に向かう。サラやデニスも一緒なのでリリスに気後れは無い。
教室に入って自分の名前の付いた机に座ると、それぞれの自己紹介が始まった。

担任の教師はロイド・デル・ゾンタークと名乗る、若いが魔術に長けた長身で金髪の男性だった。王都に居住する貴族の次男で、黒縁の眼鏡が印象的な教師だが、校内での評判は良いらしい。

生徒たちの自己紹介が始まり、リリスやサラやデニスも簡単な自己紹介をした。その中でリリスが気に成るのはやはり上級貴族の子女5人だ。
5人のうち3人はあまり目立たない存在で、それほどに気を遣う事は無さそうだとリリスは考えた。だがあとの二人がかなり気に成る。
一人はオリビア・ローズ・アクアリスと名乗る女子で、アクアリス家の男性は全て軍の要職に赴任していると言う。このオリビアは見るからに気が強く、その言葉から下級貴族を見下している事は明白だ。

あまり近付きたくは無いわね。

リリスはオリビアの巻き散らすオーラに辟易しながらそう思った。

もう一人はケント・ブルズ・コーディアスと名乗る男子で、コーディアス家は王国の外交を主に担当する名門であり、王家の外戚に当たるそうだ。
ケントは見た目には優男だがその言葉の端々に気位の高さが現れている。魔術にも長け、稀有な3属性の持ち主であり、驚いたことにファイヤーボールはレベル5であった。
ところが、後に聞いた話だがこれには裏があって、軍の優秀な魔術師を数名雇い、ケントとパーティを組ませてダンジョンに潜らせたそうだ。ケント自身は安全な領域でシェルターの中に居て何もしなくても、雇った魔術師達が深い階層の魔物を狩る事で、ケントにも魔術師達ほどではないが少なからず経験値が貯まっていく。
それを数年繰り返してきた結果、レベルを上げる事が出来たと言う仕組みだ。

オリエンテーションが終わった後のこの日の予定は無く、解散して寄宿舎に戻って良いと言う事になったが、早速オリビアとケントの周りには取り巻きの生徒がそれぞれに二人付き従っていた。
まるで家来のようだとリリスは思ったが、入学前から二人の家来に近い立場で準備してきた生徒たちであると聞いて、改めてリリスは貴族社会の上下関係に呆れてしまった。

寄宿舎でその事をサラに話すと、サラはケタケタと軽く笑った。

「安心してよ、リリス。私達のような田舎の下級貴族はお呼びじゃないのよ。取り巻きの生徒達は下級貴族の子女とは言っても、アクアリス家やコーディアス家に取りつくことで、自分達の家門の名声を上げる事が出来る。そう言う位置と立場にある家門の貴族の子女達なのよ。」

なるほどねとリリスは思った。
貴族社会にはありそうな事であり、自分はそれを非難する立場でもない。
気の毒な立場の生徒達もいるのだと同情するだけだった。



翌日になって、簡単な座学の後に学舎の地下の訓練場に移動して、魔法の技量のチェックが行われた。

広い訓練場の片隅に3体の標的が並んでいる。これはリリスが領地の屋敷の庭で訓練してきたものと全く同じものだ。
それに向けて一人ずつ魔法を放っていく。

ほとんどの生徒達はレベル1のファイヤーボールやウインドカッター、ウォーターカッター等で標的を狙うが、これがなかなか当たらない。標的から10mほどまで近づいてようやく命中するのだが、それでも3体全てに命中出来たのはほとんどおらず、デニスもサラも1体を命中させただけだった。

その中で、リリスは標的から15mの位置に立ち、ファイヤーボルトを素早く放って3体共に見事に射抜いた。チェックしていたロイドはその結果を見てうんうんとうなづいた。

「効率重視ならファイヤーボルトと言う事だね。リリス君、君の判断は正しいと思うよ。」

ロイドの評価にリリスも一応満足した。敢えて投擲スキルの発動を抑え、レベルを抑えたファイヤーボルトでの着弾だが、それでも3体の標的の頭部を正確に撃ち抜いていたからだ。

このリリスの後に3体の標的を破壊したのはケントだった。レベル5のファイヤーボールで3体の標的を巻き込んで一気に焼き尽くしてしまった。

さすがはレベル5のファイヤーボールね。威力が段違いだわ。

その威力に感心するリリスだったが、彼女の目の前でケントはその場に膝をつき、ハアハアと肩で息をして辛そうな表情を見せた。
ロイドが心配して声を掛けたが、明らかに魔力をかなり消耗してしまったようだ。張り切って全力投入したのだろう。

やはり思った通りだわ。ズルをしてレベルを上げても魔力量が伴っていなかったのね。

魔力量を増幅する為に、地道であり苦痛を伴う訓練を繰り返してきたリリスにとっては、ケントの姿が滑稽にも思えた。

そして最後に登場したのはオリビアだった。サイズは小さめだが威力のあるファイヤーボールを放ち、オリビアは2体の標的を破壊した。だが1体の標的を外してしまい、ちっと舌打ちをして唇を噛んだ。
彼女はその悔しそうな表情をそのままリリスの方に向けてきた。キッと睨むその鋭い眼差しを向けられて、思わずリリスは視線を逸らしてしまった。

こんな些細な事で目を付けられるのも嫌よね。

リリスがそう思ったのも無理もない。
憮然として元の場所に戻るオリビアを、取り巻きの女子達が慰める様子を見ながら、ロイドは記録用紙の記載を済ませた。魔法の技量のチェックはこれで終わりだが、属性魔法以外の魔法や、武器に特化したスキルを持つ生徒もいるので、該当する生徒のみ次のチェックが待っている。

ロイドはデータを確認してふとリリスに話し掛けた。

「リリス君。君は土の属性の持ち主だね? この中で土の属性を持っているのは君だけだ。それで一つ気に成るのだが、君のステータスの中でレベル3のアースウォールとはどんなものか、見せてくれないか?」

「ええ。良いですよ。土の壁を造るだけですけどね。」

土の壁と言う言葉を聞いて、生徒達の中からクスクスと小さな笑い声が漏れてきた。そんなものが役に立つのかと言う失笑なのだろう。
その失笑を気にも留めず、リリスは訓練場の地面の土を確認し、魔力を集中させて地面に手をかざすと下から引き出すようにアースウォールを出現させた。

高さ2m幅2mの土の壁が出現したのだが、その表面はモルタルを塗ったようにつるつるとしていて光沢を放っている。
それを見てロイドは硬化処置が施されている事に驚いた。

「こんなものが造れるとはね。」

土壁の表面を撫で、感心した様子でロイドは生徒達に次の指示を出した。

「魔法以外の武器でこの土壁を壊せる者は、それぞれに武器庫の武器を選んでここに集合してくれ。」

ロイドの指さす方向に小さな武器庫がある。訓練場の隅に建てられた小屋で、剣やハンマーや弓などが用意されていた。これらは通常攻撃用のありふれた武器だ。武器のスキルを持つ数人の生徒がその中に入り、各々の得意とする武器を持って出てきた。

その中で剣を持つ生徒とバトルアックスを持つ生徒が代表として選ばれ、ロイドの指示で横に並んで同時に土壁を壊し始めた。だが一撃ではほとんどダメージが出ない。バトルアックスのガキンと言う鈍い衝撃音が伝わってきたが、それでも土壁は少し削れただけだ。

即席の土壁じゃないか。
こんな筈はない。
俺達は身体強化の魔法まで使っているんだぞ。


そう叫びながら二人の生徒ががむしゃらに土壁を攻撃した。3分ほど経って土壁はガラガラと崩れてしまったのだが、その傍で二人の生徒は息を切らして座り込んでしまった。

「二人共、ご苦労様だったね。だが3分も掛かっていてはその間の防御はどうするんだ? 土壁に阻まれている間に、リリス君に何度もファイヤーボルトで頭を射抜かれていてもおかしくないと思うぞ。」

ニヤッと笑ってロイドはリリスの顔を覗き込んだ。

そんな凶悪な事はしないわよ。私を何だと思っているのよ!

素直な気持ちを目で訴えたリリスの表情を見てふっと笑いながら、ロイドは壊れた土壁の残骸を手に取り、興味深そうにまじまじと見つめた。

「魔物の攻撃を一時的に凌ぐ防御壁としては充分な強度だね。これで魔法耐性が付与されれば申し分ないのだが・・・」

ロイドの言葉にリリスもうんうんとうなづくだけだった。確かに魔法耐性の付与が当面の課題だと彼女は思っていたからだ。

こうなったら絶対に魔法耐性の付与の方法を手に入れるわよ!

リリスはこの時、自分の心にめらめらと沸き立つ決意に対して、コピースキルが反応を示しているのを感じた。

この中の誰かが付与魔法のスキルを持っているのかも知れないわね。
いずれ調べ上げて頂くわよ!

この時のリリスのスキルの反応をロイドはふと感じた。だが微弱なので誰のものとは特定出来ない。

これは妖気か?
それとも邪気なのか?
魔物の気配に近いものだが、誰が放ったのだろうか?

ロイドはまだこの時点で、例年になく厄介事の多いクラスを受け持った事に気が付いていなかったのだった。




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