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プロローグ

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「うーん、惜しかったかな。」

 先生はハの字に下がった眉を前髪から覗かせながら、つくった笑顔を浮かべ、そう言った。
私はそんな先生の表情に愛おしさを感じ恍惚状態になるも、すぐにハッと我に返り、先生が手に持っている答案用紙を奪い取った。

「えっ、うそうそ。なんで。」

今日こそは10点満点をとれるつもりでいたのに。私は、先生そっちのけで誤答を探すのに必死になった。
赤色でばつがついている解答欄をまじまじと見るも、自分が何を間違えているのかがまったくわからない。
黙ったまま答案用紙を見て首を傾げていると、先生が口を開いた。

「完璧のペキ、は王じゃなくて玉だね。完璧っていう字は傷のない玉、っていうのが本来の意味でね。」

先生は、私の目の前に指を持ってきて、「玉」と空書きした。

「あ~、たま、ですね...。」

私は力なく言葉を放ち、左手で軽く頭を掻いた。満点を取れなかったことに加え、間違えている部分に気づけなかったことにもやるせなさを感じた。

「でも、すごいじゃん。5点取れたらいいほうだったし。」

そう言ってアイスコーヒーのストローに口をつけ手元の書類に目を落とす、先生の唇に今度は答案用紙そっちのけで釘付けになってしまった。

「ん...?」

先生は不思議そうにゆっくりこちらを目をやった。

「えっ、あっ、そうそうっ!そう思います...私、頑張ったでしょ。」

「あはは。どう?暗記楽しい?」

「まあまあ...。」












『先生に褒めてもらうために、辛かったけど頑張りました』









なーんて、







「先生のおかげですっ。」


「おー、そりゃあ良かったです。」


先生はにこっ、と笑って私に向かって会釈をした。先生の薄い唇が、横に広がって更に薄くなる。先生の切れ長の目が、細い線みたいになる。


「あー、それよりなんだか、暑いですねぇ。」


私はそう言ってエアコンのリモコンにふと目をやると、室内温度は25度、と表示されていた。


「ダメだよこれ以上下げちゃあ。温暖化対策!」


生真面目な顔で私に説教したかと思えば、悪戯ににやっと笑ってエアコンのリモコンをさっと取り上げる。









先生.....私の好きな人。




「いやここ、私の家だし。」




私はそう言って、先生の真似をしてにやっと笑った。


















先生と出会ったのは4ヶ月前。






高校2年生になった春、桜がすっかり散って地面をピンク色に染めていた、あのころだった。




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