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ルシア12歳、今私にできる事

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窓辺付近の細い蔦に魔力を流しながら、そーっと引っ張ってみる。
……紐なんて編んだこと無いから、ずるずると結構な長さの蔦の端を3本手繰り寄せた。
とりあえず三つ編みにしてみたは良いが、大丈夫だろうか。
本当はロープ用の編み方だったり四つ編みだったりの方が良いのだろうが、令嬢としての知識にも前世の知識にもそんなものは無い。
1本より3本の方がマシだろう。
とはいえ、不安になったので、一定間隔毎に爪で傷を付けて3本が纏まるように魔力を促し繋げる。
いざ逃げる時はさらにこの傷を過剰回復させればコブのようになるだろう。
私は蔦を引っ張っては編んで、足りなくなったら次の蔦を探して編んで、傷を作って魔力を流して繋いで、太くして、ということをひたすら繰り返した。
脱出用の長さにすることを優先した方が良いかもとは思いながらも、万一の時間稼ぎのため、とりあえず出来た蔦ロープでドアと家具をぎっちりと固定しておく。
気休めかもしれないが無いよりは良いだろう。

そしてまた蔦を編む作業に没頭する。
色々と考えるべきことはあるが、それは脱出してからだ。
いつリッチオーニ公爵が戻ってくるかわからないという恐怖と焦りから、最初は手が震えていたが、次第に編むことに集中できるようになっていった。

……結果、集中し過ぎたのだ。

部屋に近づいてくる足音に気がついたのは、もうその足音が間近に迫ってからだった。

慌てて窓際にあった大きな鏡台に蔦ロープを結びつける。
部屋の前で足音が止まり、ガチャり、と鍵を開け、ドアノブ音が捻られるが、ガッと音がして扉は開かない。
ドアノブは無事、先程固定した蔦ロープで引っ掛かっているようだ。

「あれ?」

リッチオーニ公爵の声が聞こえたあと、再度ガチャガチャと音がする。
ドアノブと鍵を確認しているのだろう。
私は音を立てないように気をつけながら、急いで蔦ロープを窓の外に投げた。
よし、地面までは届かないまでも、飛び降りて怪我しない程度の高さまではありそうだ。

「壊れたのかな?」

パンパン、と手を鳴らし、リッチオーニ公爵が召使いを呼ぶ声を聞きながら、私は慎重に、しかし急いで、夜の闇に紛れるため窓の外に躍り出たのだった。
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