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ルシア12歳、今私にできる事

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前世の知識を思い返すと、シーツやカーテンを結んで梯子に…という定番よりは、布団を投げ落としてその上に、という方がケガが少なかったはずだが、今回のケースだと投げ落とした音で気付かれてしまうだろう。
そっと窓を開けてみると、壁には館の歴史を感じさせる蔦が這っていた。
…体重をかけられるほどの太さはなさそうだ。
考えあぐねていると、小さな光る蝶が窓から飛び込んできた。

「…精霊?」
思わず声が出る。
耳にとまっているが質感が全くない。

「よかった!ルシア、聞こえるかい?」

「ダリオお兄様?」

聞きなれた声が蝶から聞こえ、小声で問い返す。
この時間まで連絡がない自分たちのことを不審に思ったお兄様が動いてくれたのだろう。
遠くでジョルジオの声もするが、何を言っているかまでは聞こえない。
とりあえずは声が響かないよう窓を閉め、そっとベッドに潜り込む。

「あまり長くは持たないと思う。状況を教えて。」

「リッチオーニ公爵邸の2階に捕らえられています。何らかの薬を盛られた可能性が高く、お父様も見当たりません。リッチオーニ公爵はほんの少し前に私の様子を見て去りましたが、戻ってきた場合何かされる可能性が高いです。」

「時間的猶予は?」

「わかりません。女性と閨事でもしそうな風でしたが」

「…なるほど、おおよそわかった。脱出は?」

「今方法を探っていたところです。出るだけなら可能ですが、バレずには難しいかもしれません。」

「今諸々の手配をしているところだから…そうだな、2時間、何とか逃げ切ってくれ。」

「…わかりました。」

2時間…どうやって乗り切ればいいのだろう。
いつもだと一瞬で過ぎていってしまう時間だが、危機が身近に迫る中で待つと考えると長く感じる。

「手助けができなくてすまない。ジョルジオから聞いた話が本当なら、もしかしたら部屋で隠れていても乗り切れるかもしれないが…」

「ということはこちらに来てる女性は…」

「想像の通りだ。ただこの際彼女が頑張ってくれるとありがたいんだがね。」

「…公爵はなるべく早く戻って来るつもりのようです。」

「であれば何とも言えないな。判断は任せる。」

「わかりました。」

「…なるべく急ぐから。無事で。」

「努力します。」

そこまで話すと、精霊はふわっと溶けて消えてしまった。
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