上 下
38 / 47
ルシア12歳、今私にできる事

37

しおりを挟む
「お姉様、ジョルジオです。」

早めの夕食を済ますと、お母様は「仕事」と言って出かけていった。
着飾っていったので、またどこかのパーティーだろうか。
こういう時は、いつも明け方まで帰ってこない。
せっかくなのでその隙にと思いお姉様の部屋を訪れたのだ。

コンコン、と再度扉をノックするが、中から返事はない。
普段はこちらの棟に来ないからなのか、遠巻きに僕の様子を気にしている召使が何人かいた。
一番近くに居るメイドを呼び寄せ、声をかける。

「お姉様はどこにいるかな?」

「ルシアお嬢様はまだ外出からお戻りになっていません。」

「そう、ありがとう。」

「いえ、失礼いたします。」

緊張したようにそう答えると、早足で去っていってしまった。
…嫌われているんだろうか。
もしお姉様さえ良かったら、お兄様のところについてきてもらって、3人でお話をしたいと思っていたのにどうしよう。
ダリオお兄様と2人きりで話したことはほとんどないから緊張する。
心の準備ができるまで、と思ってうろうろしていると、扉の向こうから話声が聞こえる。
どうやらメイド同士のようだ。

「よりによってリッチオーニ公爵のところなんて…」

「旦那様も行きたくないでしょうし…お嬢様も直々にお手紙が来るなんて何をなさったのかしら。」

「こんな時間まで帰ってこないなんて誰も予想してなかったんじゃない?奥様が知った時のことを考えるだけで今から具合が悪いわ。」

「え?ご存じないの?さっきリッチオーニ公爵宅に行くって発たれたからてっきりご存じの上でなんだと。」

「まあ!奥様もなの?ということは向こうでひと嵐起こしてきそうね…」

「いやねぇ、色々覚悟してたほうが良いかも。」

「全く、夜に殿方の家に通うなんてまったく堂々としているわよ。」

「そもそも隠す気ないんじゃない?私たちの感覚からするとあり得ないわよね。」

「ジョルジオ様もお気の毒だわぁ。何の罪もないのに。でも旦那様だって他人の御子を積極的に育てたくなんてないだろうしねぇ。」

「そうよねぇ。奥様もジョルジオ様の将来、どうお考えなのかしら。」

ひそひそと話は続いているが、それ以上僕の耳には入ってこなかった。
お母様が行っているのはパーティーじゃなくてリッチオーニ公爵邸?
仕事じゃなかった?
…というか、僕がお父様の子どもじゃない?

確かめなければ。

その思いだけが僕の頭を支配し、僕は慌ててダリオお兄様の部屋に駆け込んだ。
しおりを挟む

処理中です...