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ルシア12歳、今私にできる事

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「君はね、昔の彼女によく似てるんだ。」

そういってリッチオーニ公爵が顔をのぞき込んでくる。
長いまつげに縁どられた神秘的な紫の瞳にのぞき込まれてなんだか落ち着かない。

「榛色の艶やかな髪も、何かに耐えるように引き結ばれた薄い唇も、理知的な瞳も、すらりと伸びた柔らかな手足も全部、あの頃の彼女に…」

公爵の顔が近い。
後ろに下がろうとして、カクンと身体から力が抜け、ベンチに倒れ込みそうになるところをリッチオーニ公爵に抱きしめられた。

「こうしゃくさま…」

なんだかふわふわする。体から力が抜けて、舌も回らない。

「そう、大人しくしててね。僕のかわいい子猫ちゃん。」

どうしてこんなことになっているのか、慌てて拒絶しようとしているのに体も頭もうまく動かない。
リッチオーニ公爵は私を横抱きにして立ち上がる。
このまま瞼を閉じてしまいたいくらい心地よい眠気と、警戒すべき相手に抱かれているというのに何故か「このまま身を任せて大丈夫だ」という安心感が頭の中を支配する。

「うまく効いたみたいだね。そのままゆっくり眠っていいよ。大丈夫、まだ何もしないよ。まだ、ね…」

先ほどお父様と一緒に客間に案内された時に手を付けた紅茶に何か盛られていたのだろうか。
それとも魔法…?
グルグルと考えているうちに、私の意識は闇に落ちていった。


=====


「お父様とルシアが帰ってこない?」

執事から報告を受け、ダリオは訝し気に聞き返す。
今日の午後早いうちに訪問すると聞いていたが、もうすぐ夕食時だ。
状況を考えるとすぐにとんぼ返りしてきてもおかしくないだけに、何があったのだろうかとつい心配になる。
執事も同じ考えだったからこそ報告に来たのだろう。

「ご夕食の準備はいかがしましょうか。」

「…悪いが一応用意しておいてもらえるかい?ただ、温め直しがきくようにしておいてもらえると。」

「かしこまりました。」

そう言って退室していく執事の後ろ姿を見ながら、使いをやるべきかとりあえずは待つべきか考えあぐねる。
大きな話になって、夕食を共にしてくるぐらいのことは一応想定の範囲内だ。
ただ、家に使いもなく、複雑な事情もあってかつ仲も良くない公爵家に長居するだろうか。
何かがおかしい。

「様子見ぐらい送っても罰は当たらないかな…」

そう呟き、ダリオは覚えたばかりの中級精霊術を駆使して小さな精霊を呼びだす。

「頼んだよ。」

蝶のような形の小さな精霊を自分の目の代わりとして窓から解き放つ。
公爵家ともなると魔法的な守りも硬いと予想されるためダメ元だ。

「何事もなければいいけど…」

そう言ってダリオは徐々に日が沈んでいく窓の外を眺めながらため息を一つつく。
そしてふと思い出したように机に戻り一通の手紙をしたため、もう一体鳥型の精霊を呼びだして持たせ、窓から飛び立たせたのだった。
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