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ルシア12歳、今私にできる事

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「やっと2人きりになれたね」

手を取られたまま庭に着くと、少しだけ頬を赤らめたリッチオーニ公爵が嬉しそうに言う。
屈託のない笑顔は、少しだけジョルジオと似ているかもしれない。
年齢よりも幼く見えて、「あ、意外に童顔で好みかも」という思いが脳裏をよぎる。
…今までの自分であれば、「童顔」なんて言葉は使わないと思うので、もしかしたら前世の自分の意識が混ざりつつあるのかもしれない。
もし、最初に会った時にこの顔を見せてくれていたら婚約を考えていた可能性もある。
もちろん、アレクス殿下との婚約が無ければ、だが。

「我が家の庭は椿が自慢なんだ。早めに咲く木は終わってしまったけれど、まだ充分見応えがあるから案内するよ。」

前世とは言え自分に縁のある花だと思うと、少し楽しみになる。
庭はすっきりと明るい色の花々が多く、甘い匂いが漂っている。
公爵自慢の椿は真っ白な大樹だった。
大振りで幾重にも重なる花弁が美しい。
つやつやと光る葉から、丁寧に手入れされていることがうかがえる。
確かに、これは見事だ。
ぽかん、と口を開けて見上げる私にリッチオーニ公爵が得意げに言う。

「どうだい?素晴らしいだろう?キミの美しさにはかなわないかもしれないが…」

微笑みながらウィンクされる。
きざったらしい仕草でも、妙に似合ってしまう。

「はい、とても美しい椿ですね。大切にされているのが伝わってきます。」

「そう言ってもらえると見せたかいがあったよ。」

実はこの人、そんなに悪い人じゃないんじゃないだろうか。
花を大切にできる人に悪い人はいないって母さんが…
でもそれは前世の話だし…

「……私の、どこが良いのでしょうか?」

少しだけ、彼と話をしてみたくなった。
ぽつり、と疑問に思っていたことを聞いてみる。
母に似た面差しだろうか。

「そうだな…一目惚れ、じゃダメなのかい?」

「母に似ていましたか?」

貴族令嬢として良くないのはわかるのだが、ついポロリと思っていたことが口に出てしまった。
…ちょっと前世の記憶が前より鮮明になっている気がする。
今の記憶とまじりあって変な感じだ。

「そう、と言ったらキミは軽蔑するかい?」

苦笑しながら彼は答える。

「…わかりません。」

「そうだなぁ、ちょっと昔話をしようか。」
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