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ルシア12歳、今私にできる事

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翌日、ダリオお兄様から侍女を通してメモを渡され、3日後の午後、お母様が宰相家であるピッツォラート侯爵夫人の茶会に招かれていることがわかった。
かの家は例の王弟、リッチオーニ公爵とも親しくしている。
ジョルジオを生んだ後は追う一方となっているお母様はきっとリッチオーニ公爵の出席を期待して、念入りなおしゃれの上参加するのだろう。
男性で茶会に出席する人はそれほど多くないが、リッチオーニ公爵はよくあちらこちらへ招かれ、出席しているという。
となると、実父に会わせるためにジョルジオも連れていくのかと思いきや、そうではないらしい。
基本大人だけの茶会だそうで、子どもだけの場は設けられないため、この場合ジョルジオを連れて行くと保護者としてずっとそばについていなければならない。
…もしかして、リッチオーニ公爵との逢瀬を期待しているのではないかと勘繰ってしまう。
すでに大きな子どもを3人も持つ母なのに、「女」を優先するようだ。
思わずため息が漏れる。

そうしてお母様が居ない隙で、かつジョルジオが自習時間として一人で魔法書の学習をしていると聞いた昼下がりに彼の部屋をノックしてみる。

「入って。」

きっと召使だと思っているのだろう。
声変わり前の少年の声。
久々に聞く。
すぐに騒がれては面倒なので、他の者のように「失礼します」と一言言って入り、後ろ手に鍵を閉める。
カチャン、という音にジョルジオが魔法書から顔を上げる。

「こっそり来たから、静かに話をできるかしら?」

私の顔を見てぽかんとしていたジョルジオがカクカクと頷く。

「お姉様!どうしたんですか!」

若干だけ声を押さえ、満面の笑みで走り寄って来て両手を握られ、ぶんぶん振られる。
きっと彼にしっぽがついていたら嬉し気にバタバタと左右に振られているのが見えただろう。

「ちょっと相談があって…」

「言ってくだされば僕から行ったのに!」

「ありがとう、でもお母様が怒るといけないから…」

お母様の名前を出すと途端にしょんぼりするジョルジオ。
この全力で感情を表してくる感じがかわいらしくて、いまいち嫌いになれないのだ。

「僕も、お兄様とお姉様、あとお父様にはあんまり近づいちゃいけないって言われてて…。せっかく3人兄弟なんだから仲良くしたいし、お父様とも話したいし、色々教えてほしいのに…。お母様の選んでくる先生たちはみんな『ジョルジオ様は高貴な身分ですから』ってたくさん課題を出すから、遊ぶ時間もあまりないんだ…」

『高貴な身分』というのは、この伯爵家のことではあるまい。
ジョルジオは、ダリオお兄様や私と本当の兄弟ではないことを知っているのだろうか。
前世の知識では学院入学前に知ったとされていたが、具体的な時期については思い出せない。
ただ、この雰囲気はきっと知らないのだろう。
でなければ血も半分しかつながらず、たまに会っても形式的な挨拶のみの不愛想な姉に、こんなに天真爛漫な対応はできまい。
本人からも喜びの気持ちだけが伝わってくる。
それなのに家庭教師たちはなんという迂闊な言い回しをしているのだろう。
段々と腹が立ってきた。
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