上 下
12 / 47
ルシア12歳、今私にできる事

11

しおりを挟む
「大丈夫かい?」

扉を開け、あらわれたのはダリオお兄様だった。
少しだけ眉間にしわが寄って、口は引き結んでいる。
普通の人が見ると苛つき、にらみつけているように見えるのだろう。
しかし、お兄様からは私を心底心配していることが伝わってくる。

「はい。緊張しすぎてしまったようで…」

前世云々の話は特段すべきではないと思い黙っておく。

「良かった。じゃあ、帰ろうか。」

ホッとしたのか、例の悪役笑いをし、すたすたと歩いて行ってしまう。
…私が強がっている可能性とかはあまり考えていないらしい。
まあ、実際大丈夫なので、慌てて起き上がりついて行く。

「アレクス殿下とは仲良くなれたかい?」

「とても良くしていただきました。」

「それは良かった。」

言葉少なにすたすたと歩く。
…お兄様は帰り道をわかっているのだろう。
進む方向に迷いがない。

「お兄様たちはどのような話を?」

「馬車で話そうかな。」

「わかりました。」

…話が続かない。
単に陛下と非公式で会ったことを極力伏せたいのだろうか。
それともここで話せないような話をしたのだろうか。
後者の場合、もしかしたら私ごときが聞かないほうが良かったのかもしれない。
とはいえ、質問してしまった今となっては後の祭りだ。
仕方が無いので腹をくくって粛々と歩く。

それにしても、とアレクス殿下との邂逅を思い出す。
確かゲームの世界でヒロインにアレクス殿下がルシアとの初対面について話していた際、庭園の話も出ていたはずだ。
確か、美しい庭園を見せても説明は無視。
終いには自身の家の庭を見に来るよう勧められた、よその家の庭を見て勉強しろと言われたように感じた、というような内容だったはず…
あの素晴らしい庭に対し、どうしてそんな反応ができたのか頭をひねり、一つの可能性にたどり着いた。
もしかして、美しすぎて言葉が出なかったんじゃなかろうか。
そして何らかの自慢の言葉が引っかかって反発した、とか…?
あり得ない話ではないだろう。
もしくは、
「素晴らしい椿でした。(花の美しさがわかる殿下に来てお話をするついでにで良いので)我が家の庭園にある薔薇も(うちの庭師が頑張って手入れしているので)ぜひお目にかけたい。(品種改良したものだから、王城の庭園にも採用していただけたら嬉しい)」
と営業をかけた可能性もある。
元々、言葉は少なく、表情はそれほど豊かではなく、たまに笑うと悪役顔。
何を言っても見下されている、もしくは企んでいる、と取られても不思議ではないのだ。
…物事は今後丁寧に説明するようにしよう、と心に誓ったのだった。
しおりを挟む

処理中です...