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ルシア12歳、今私にできる事

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その後頭の中に増えた情報を一度整理したが、もやがかかったようになっていて、死ぬ間際のことと仲の良い妹がいた気がする、ということくらいしか思い出せない。
唯一例外だったのが例の物語についてだ。
どれだけこの物語に未練を残していたのだろう。

「ザ・スウィーテスト・ロンド ~私だけの王子様~」、通称甘プリは女性向けの恋愛ゲームだ。
魔晶板のようなもの、前世ではスマホと呼ばれるものを使って小さな遊びを交えながら読みすすめるものだった。
主人公のカレンは私の前世と同じような世界で暮らす人物だったはずだが、自宅の古い蔵にあった箱を開けたところ、「剣と魔法のファンタジーの世界」と称されるここ、イルテオゴート大陸の一国、ミディーレに「世渡り人」として転移してしまった女子高生だ。

「世渡り人」。
それは古くからこの世界で栄達の鍵を握るといわれている、異世界からの転移者だ。
彼らは有用な知識を持つことが多く、世渡り人が現れる「祠」を守る家は守護家とも呼ばれ、貴族としてのステータスのひとつとなる。
また、守護家には世渡り人を身内として守りこの世界の人間として育てる義務が課せられ、守護家は世渡り人を養子とし、この世界の知識やルールを教え込む。
代わりに世渡り人の持つ知識や技術を得ることができるので、世渡り人の存命中は非常に栄える場合が多い。
また、世渡り人は往々にして、魔法や剣技などの成長スピードが非常に速いらしい。
元が物語だったことを考えると主人公補正、というやつなのではないだろうか。
とはいえ、この世界が物語の中なのか、それとも何者かがこの世界をモチーフに前世の世界で物語を書いたのか、ということは神のみぞ知るのだろう。

ちなみにカレンの特技はジャズダンスと呼ばれるダンスのはずだ。
…スチルと呼ばれる絵で見ただけなので、どんなダンスかはいまいちよくわからなかったが。

今、自分が12歳であることを考えると、正式にゲームが始まるのは最速でもミディーレ国学院に通うこととなる15歳。
カレンは入学の1年半前にこちらの世界へ飛ばされてくるはずだから、警戒すべきはそこからだ。
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