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…頭が痛い。
体中が熱い。
これは…右腕の魔力管が傷ついている?
そうだ、お兄様と模擬戦をしている時に細剣にまとわせていた雷の魔力が制御を失い、体内に逆流したんだった。

え?

妹が一人いただけだったはずなんだけどお兄様って…

「ルシア、大丈夫かい?」

少年の声が聞こえ、体中が痛むのを耐えて視線を声の聞こえた側に向ける。
美しい銀髪に新緑の瞳、すっと通った鼻筋に薄い唇の兄、ダリオが手を差し伸べ、心配そうにこちらを見ている。

え?

ルシアにダリオ?
自分の名前なのに他人の、まるで物語で見た名前のような気がしている。
呆然としていると、ダリオお兄様が私を横抱きにして歩き出す。

「訓練は終わりだ。ちょっと部屋で休んだほうが良いね。」

14歳とはいえ、すらりと背の高いダリオお兄様に抱えられ、視点が大分高くなる。

「申し訳ありません。」

謝るが、違和感が拭えない。
屋敷に近づくにつれ、既視感が大きくなる。
自分の住む屋敷に対し既視感というのもおかしな話だ。
でもあれ?
これスチルで見たことがある?

スチル?

頭痛がひどくなる。

「ルシア?どうした?」

痛む頭に耐えるようにギュッと目をつぶる。

「ルシア、おい!」

ダリオお兄様の声がだんだん遠くなり、私は意識を失った。

==========

私は夜道を歩いていた。
街灯がぽつりぽつりとついているが、人通りは少ない。
どこかからの帰り道なのか、疲れ果てていたことだけはおぼえている。
吹き付ける冷たい風に上着に首元を埋めるよう肩を竦めぼんやりと歩き続ける。
突然、ラッパががなりちらしたような音と大きな光が2つ目の前に現れ、物凄い衝撃のあと、体が急熱くなり、そして凍えそうなほど寒くなる。
ああ、まだダリオ様のルートクリアしていないのになぁと思いながら意識が途切れた。

==========

ああそうか。

倒れてからの混乱が妙にしっくりくる。

私は別の世界で生きて、死んだのだ。

そしてここはきっと、私が死ぬ前に読んでいた物語の世界、「ザ・スウィーテスト・ロンド ~私だけの王子様~」、通称甘プリの中だ。
物語、とは言っても、手のひらサイズの魔晶板のようなものを使って読むもので、自分の選択次第でどんどん展開が変わっていくのだ。
主人公の名前はカレン。
そして、カレンと登場するイケメンたちの仲を邪魔するのが

「ルシア、か。」

そう、私なのだ。
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