21 / 26
20
しおりを挟む
気付いてしまった可能性にちょっと胃が痛くなる。
そうなってもいいように本気であいさつ回りをしておかなければ。
イェルハルドと別れると先ほどまではとりあえずで過ごしていたこの挨拶時間に気合を入れる。
とはいえ、何クラスに分かれるんだ?
全員とあいさつなんて無理だし、クラス分けされてから頑張ったほうがいいのか。
ほんの数秒前までの悩みをサクッと先送りにすることを決定する。
何人か見たことがあるアバターとそっくりな人も見かけたので顔を覚えながら、とりあえずは父母のところに戻ろうかと思いあたりを見回すと。
壁際に立つ真っ黒な衣装が目に飛び込んできた。
…いやな予感がして思わず目をそらす。
えっ?ほらここ、ヴァイナモイネン「貴族学院」だからさ~、平民はいないって母も言ってたよなぁ…
いや、『不可思議な幻想曲』内でもカラフルな髪が多かったな~とは思ったんだけど、実は黒髪が全くいなかったわけではなく。
思い当たるやつが一人だけいなくもないんだけど…
人影に入った上で横目で盗み見ると、黒髪を後ろに流して撫で付けた、真っ黒なフォーマルを着た鋭い目付きの男がこちらをじっと見ていた。
赤の一群に紛れているはずの私を捕捉した奴は口の端をニヤリとあげて、「見つけたぞ」とでもいうようにこちらへ歩み寄ってきた。
…セシリアの記憶には間違いなくあんな男はいない。
今のところは。
「やあ姫様。ご機嫌麗しゅう。」
「…どちら様でしょうか。」
とりあえずはとぼけてみようか。
「つれないじゃないか、ヒメ」
日本語のイントネーションで姫と呼ばれてはじめて気づく。
今まで勝手に脳内変換して会話が成立していただけで、ここで話されていたのは日本語じゃなかったのか。
…だがこいつは危険だ、私の黒歴史をいっぱい知っている。
SNSで交流があったが、積極的に私をネタにし数々の混沌に叩き落してきた元凶だ。
「よーしわかった、お父様に不審者がいるってチクってくるわ」
「本当は嬉しいくせに」
「嬉しくねーよ」
「心細かったんだろう?」
「それは」
心細くなかった、とは言えない。
エイドーロンに覚醒する可能性が高いのは学院への入学前。
その後もあるとはいえ、がくんと確率は落ちると聞く。
アーネがエイドーロンではない今、彼女がもしかしたらいつか、覚醒してくれるかもしれない、と諦めきれないでいるぐらいには、同郷の人間を求めていた。
「幸い、諸々の手がかりを探すのにここはちょうどいい。」
「手がかり?」
「帰りたくないのか?」
「…帰りたいに決まってるじゃないか。」
「決まりだな。この見た目は目立つから、何人かのエイドーロンとつなぎはつけている。」
「まじ?」
「追って話す。」
「……わかった。」
「こちらでの名前はエドヴァルド。エドでいい。じゃ、よろしくな、姫様。」
そう言って奴あらためエドは去って行った。
…あ、家名聞くの忘れてた。
まぁ、なんとかなるか。
そうなってもいいように本気であいさつ回りをしておかなければ。
イェルハルドと別れると先ほどまではとりあえずで過ごしていたこの挨拶時間に気合を入れる。
とはいえ、何クラスに分かれるんだ?
全員とあいさつなんて無理だし、クラス分けされてから頑張ったほうがいいのか。
ほんの数秒前までの悩みをサクッと先送りにすることを決定する。
何人か見たことがあるアバターとそっくりな人も見かけたので顔を覚えながら、とりあえずは父母のところに戻ろうかと思いあたりを見回すと。
壁際に立つ真っ黒な衣装が目に飛び込んできた。
…いやな予感がして思わず目をそらす。
えっ?ほらここ、ヴァイナモイネン「貴族学院」だからさ~、平民はいないって母も言ってたよなぁ…
いや、『不可思議な幻想曲』内でもカラフルな髪が多かったな~とは思ったんだけど、実は黒髪が全くいなかったわけではなく。
思い当たるやつが一人だけいなくもないんだけど…
人影に入った上で横目で盗み見ると、黒髪を後ろに流して撫で付けた、真っ黒なフォーマルを着た鋭い目付きの男がこちらをじっと見ていた。
赤の一群に紛れているはずの私を捕捉した奴は口の端をニヤリとあげて、「見つけたぞ」とでもいうようにこちらへ歩み寄ってきた。
…セシリアの記憶には間違いなくあんな男はいない。
今のところは。
「やあ姫様。ご機嫌麗しゅう。」
「…どちら様でしょうか。」
とりあえずはとぼけてみようか。
「つれないじゃないか、ヒメ」
日本語のイントネーションで姫と呼ばれてはじめて気づく。
今まで勝手に脳内変換して会話が成立していただけで、ここで話されていたのは日本語じゃなかったのか。
…だがこいつは危険だ、私の黒歴史をいっぱい知っている。
SNSで交流があったが、積極的に私をネタにし数々の混沌に叩き落してきた元凶だ。
「よーしわかった、お父様に不審者がいるってチクってくるわ」
「本当は嬉しいくせに」
「嬉しくねーよ」
「心細かったんだろう?」
「それは」
心細くなかった、とは言えない。
エイドーロンに覚醒する可能性が高いのは学院への入学前。
その後もあるとはいえ、がくんと確率は落ちると聞く。
アーネがエイドーロンではない今、彼女がもしかしたらいつか、覚醒してくれるかもしれない、と諦めきれないでいるぐらいには、同郷の人間を求めていた。
「幸い、諸々の手がかりを探すのにここはちょうどいい。」
「手がかり?」
「帰りたくないのか?」
「…帰りたいに決まってるじゃないか。」
「決まりだな。この見た目は目立つから、何人かのエイドーロンとつなぎはつけている。」
「まじ?」
「追って話す。」
「……わかった。」
「こちらでの名前はエドヴァルド。エドでいい。じゃ、よろしくな、姫様。」
そう言って奴あらためエドは去って行った。
…あ、家名聞くの忘れてた。
まぁ、なんとかなるか。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!
無色
ファンタジー
女の子とイチャラブしてぇ〜。
通り魔に刺されて死んだはずの私が目を覚ますと――――そこは見たこともない世界だった。
「あぅあぅあー」
あっれぇ?!私赤ちゃんじゃん!何これどうなってんのー?!
「こんにちは神でーす♡顔が好みすぎて転生させちゃった♡」
「だぅあーーーー!!」
剣?魔法?そんなの神様からもらったチートで余裕余裕……じゃない!!
スライムより弱いじゃん助けてーーーー!!!
私が神様にもらったチートって……女の子に好かれる百合チート?!!
なんッじゃそりゃーーーー!!
…いや最高だな神様ありがとー!!
しゅごい人生楽しみでしょうがなさすぎりゅ!!
ウッシッシ♡よーし新しい人生、女の子にいーっぱい愛されるぞー♡!!
幼なじみも魔女もロリっ子も、みんなみんな私のものにしてやるぜーー!!♡
これはファンタジーな世界で繰り広げられる、百合好き拗らせスケベ系女子による、何でもありの人生再生計画。
可愛い女の子たちに囲まれてキャッキャウフフするだけの、或いはヌルヌルグチョグチョしたいだけの、ドタバタだけどハートフルな日常のストーリー。
私が幸せになるための物語だ。
小説家になろうにて同時連載中
なろう版では一部挿絵有り、より多く更新されております
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
異世界ロマンはスカイダイビングから!
KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる