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アリスティア、王都に帰る
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長い廊下を何回も曲がり、夕食のための部屋へ向かう。
途中マリアお姉様と合流し、談笑しながら行ったのであっという間だ。
部屋に入るとすでにドーラ様一家は席についていた。
王様と王妃様、マーシュお兄様はまだ着いていない。
お仕事が忙しいのだろうか。
各地で食べたおいしいものの話をしていると、ほどなく王様たちが到着した。
皆が席につくと、王様が全員の顔を見回す。
「それでは祈りを捧げよう。
女神ロミア様、今日もお守りいただきありがとうございます。
御命に背かないよう、そしてわが一家一族明日への活力のため、世界の恵みをいただきます。」
「いただきます。」
そう、こちらの世界、かしこまった場では食事の前のお祈りがある。
そして唱和するのは「いただきます」と「ご馳走様でした」だ。
ビビに習った時は日本を思い出してほっこりした。
「今日はアリスが無事に、そして使徒になって戻ってきてくれた嬉しい日だ。いつもより豪華な食事を用意している。皆、ゆっくりと楽しもう。」
食事の慣例として、まずホスト側、王家だと王様が挨拶をする。
その後、フルコースのように一皿ずつ運ばれるのをそれぞれ執事が説明し、みんな無言で食べる。
そして食べ終わってから感想を言い合っていると次のメニューが運ばれてくる、という流れらしい。
ちなみに、私は王宮料理に非常に期待していた。
まず王都にあると卵や肉があるらしい、という話を聞いている。
そして実は、道々では醤油や味噌が存在していた。
多少値の張るものらしいが、中流ぐらいの家庭なら常食できる程度の価格帯らしい。
ということは、当然今日のメニューでも使われているのでないか。
魚も、王都から馬車で1時間ぐらいの距離の場所に大きな湾があり、そこでは新鮮な魚が水揚げされて貴族たちが楽しんでいるらしい、という噂を聞いた。
並べられているカトラリーは洋食器だが、もしかしたらメニューは懐石料理なのでは?と期待しているのだ。
まず、一皿目、白い小さな皿が運ばれてくる。
「先付けは花弁風ミニトマトとディージーの醤油漬け、です。」
ちょっと待って。いまディージーって言ったよね。
ミニトマトを花のようにあしらい、ディージーも添えられた鮮やかな一品が運ばれてくる。
トマトの醤油漬けって想像できない、と思いながら恐る恐るかじってみると、あれ?なんか醤油味じゃない…?
ディージーも口に入れてみるが、こちらも同じ風味がする。
もしかしてこの蛍光黄色みたいな豆から作った醤油なわけ?
香りをかぐと、失敗した豆腐の時にも感じたオレガノとクミンを混ぜて、さらに知らない香辛料を一杯ぶち込んだような独特な香りがする。
…あれ、トマトカレーな気分…違う、そうじゃない!
かといっておいしくないわけでもなく、ぺろりと食べ終わった。
うん。なんか違う感はあるけどまあまあ。
家族たちは
「ディージー醤油の香りが豊かですね」
とか
「これはメルディア地方のミニトマトでしょうか」
とか談笑している。
メルディアは南の地方だ。
「お凌ぎは米麺のとろろ和え、竹筒盛りとアージのすり身レフボノ風です。」
うん。米麺はおいしいんだけど、多分これさっきのディージー醤油だ。
断じてこれは醤油じゃない…
アージは多分アジに似た魚なのだろう。
味がそんな感じだ。
レフボノは地方の名前なのか国の名前なのかわからない。
ビビから習った中にはなかった。
おいしいけど食べたことのない風味だ。
「レフボノ風とは珍しいですね。」
マーシュお兄様は知っているようだ。
「お兄様、レフボノ、とはどこにあるのですか?」
「ああ、レフボノは王都から見ると南東にある、諸島群の中でも大きな島のことだよ。魚料理とハーブ研究が盛んなんだ。」
「そうなんですね!ぜひいつか行ってみたいです!」
ハーブ×木魔法で美容商品の研究開発とかしたら一儲けできそう!
魚料理が発展している、というのも魅力だ。
目を輝かせて言うと、マーシュお兄様が優しい目でこちらを見ている。
「アリスは勉強熱心になったね。わからないことがあればなんでも聞くといいよ。」
「はい!ありがとうございます!」
そんなやりとりをしていると、さっそく次のメニューが運ばれてきた。
「お椀はアリス様にお持ちいただきました、ルーディアの夏野菜をふんだんに使用したスープでございます。」
蓋がされたスープ皿が運ばれてきたが、開けられてびっくりした。
蛍光オレンジのような、目に刺さる色のスープに、トウモロコシが浮かんでいる。
恐る恐る飲んでみると…
うん。これもディージー入ってるね。
なんなんだ。みんなそんなにディージー好きなのか。
おいしくないわけではなく、体に良さそうな野菜味スープだ。
でもせっかくだから野菜スープはコンソメ味が良かったなぁ…
まあ、異国料理どころではなく異世界料理なのだから仕方ない。
「アリス、ルーディア地方はどうでしたか?」
「村々には特色があり、様々な植物が育てられているところが多かったです。自分でも育ててみたく、種や苗ももらってきました。」
「まあ!それではさっそく庭園に土地を用意して植えてみましょうか!」
「嬉しいです!ママ、ありがとうございます!」
よっしゃ、家庭菜園ゲット!
せっかくなのできちんとママ呼びしておくと王妃様はめちゃくちゃ嬉しそう。
良かったよかった。
=====
昨日更新できなかったため、ちょっと長めに。
もう少し晩餐編続きます。
途中マリアお姉様と合流し、談笑しながら行ったのであっという間だ。
部屋に入るとすでにドーラ様一家は席についていた。
王様と王妃様、マーシュお兄様はまだ着いていない。
お仕事が忙しいのだろうか。
各地で食べたおいしいものの話をしていると、ほどなく王様たちが到着した。
皆が席につくと、王様が全員の顔を見回す。
「それでは祈りを捧げよう。
女神ロミア様、今日もお守りいただきありがとうございます。
御命に背かないよう、そしてわが一家一族明日への活力のため、世界の恵みをいただきます。」
「いただきます。」
そう、こちらの世界、かしこまった場では食事の前のお祈りがある。
そして唱和するのは「いただきます」と「ご馳走様でした」だ。
ビビに習った時は日本を思い出してほっこりした。
「今日はアリスが無事に、そして使徒になって戻ってきてくれた嬉しい日だ。いつもより豪華な食事を用意している。皆、ゆっくりと楽しもう。」
食事の慣例として、まずホスト側、王家だと王様が挨拶をする。
その後、フルコースのように一皿ずつ運ばれるのをそれぞれ執事が説明し、みんな無言で食べる。
そして食べ終わってから感想を言い合っていると次のメニューが運ばれてくる、という流れらしい。
ちなみに、私は王宮料理に非常に期待していた。
まず王都にあると卵や肉があるらしい、という話を聞いている。
そして実は、道々では醤油や味噌が存在していた。
多少値の張るものらしいが、中流ぐらいの家庭なら常食できる程度の価格帯らしい。
ということは、当然今日のメニューでも使われているのでないか。
魚も、王都から馬車で1時間ぐらいの距離の場所に大きな湾があり、そこでは新鮮な魚が水揚げされて貴族たちが楽しんでいるらしい、という噂を聞いた。
並べられているカトラリーは洋食器だが、もしかしたらメニューは懐石料理なのでは?と期待しているのだ。
まず、一皿目、白い小さな皿が運ばれてくる。
「先付けは花弁風ミニトマトとディージーの醤油漬け、です。」
ちょっと待って。いまディージーって言ったよね。
ミニトマトを花のようにあしらい、ディージーも添えられた鮮やかな一品が運ばれてくる。
トマトの醤油漬けって想像できない、と思いながら恐る恐るかじってみると、あれ?なんか醤油味じゃない…?
ディージーも口に入れてみるが、こちらも同じ風味がする。
もしかしてこの蛍光黄色みたいな豆から作った醤油なわけ?
香りをかぐと、失敗した豆腐の時にも感じたオレガノとクミンを混ぜて、さらに知らない香辛料を一杯ぶち込んだような独特な香りがする。
…あれ、トマトカレーな気分…違う、そうじゃない!
かといっておいしくないわけでもなく、ぺろりと食べ終わった。
うん。なんか違う感はあるけどまあまあ。
家族たちは
「ディージー醤油の香りが豊かですね」
とか
「これはメルディア地方のミニトマトでしょうか」
とか談笑している。
メルディアは南の地方だ。
「お凌ぎは米麺のとろろ和え、竹筒盛りとアージのすり身レフボノ風です。」
うん。米麺はおいしいんだけど、多分これさっきのディージー醤油だ。
断じてこれは醤油じゃない…
アージは多分アジに似た魚なのだろう。
味がそんな感じだ。
レフボノは地方の名前なのか国の名前なのかわからない。
ビビから習った中にはなかった。
おいしいけど食べたことのない風味だ。
「レフボノ風とは珍しいですね。」
マーシュお兄様は知っているようだ。
「お兄様、レフボノ、とはどこにあるのですか?」
「ああ、レフボノは王都から見ると南東にある、諸島群の中でも大きな島のことだよ。魚料理とハーブ研究が盛んなんだ。」
「そうなんですね!ぜひいつか行ってみたいです!」
ハーブ×木魔法で美容商品の研究開発とかしたら一儲けできそう!
魚料理が発展している、というのも魅力だ。
目を輝かせて言うと、マーシュお兄様が優しい目でこちらを見ている。
「アリスは勉強熱心になったね。わからないことがあればなんでも聞くといいよ。」
「はい!ありがとうございます!」
そんなやりとりをしていると、さっそく次のメニューが運ばれてきた。
「お椀はアリス様にお持ちいただきました、ルーディアの夏野菜をふんだんに使用したスープでございます。」
蓋がされたスープ皿が運ばれてきたが、開けられてびっくりした。
蛍光オレンジのような、目に刺さる色のスープに、トウモロコシが浮かんでいる。
恐る恐る飲んでみると…
うん。これもディージー入ってるね。
なんなんだ。みんなそんなにディージー好きなのか。
おいしくないわけではなく、体に良さそうな野菜味スープだ。
でもせっかくだから野菜スープはコンソメ味が良かったなぁ…
まあ、異国料理どころではなく異世界料理なのだから仕方ない。
「アリス、ルーディア地方はどうでしたか?」
「村々には特色があり、様々な植物が育てられているところが多かったです。自分でも育ててみたく、種や苗ももらってきました。」
「まあ!それではさっそく庭園に土地を用意して植えてみましょうか!」
「嬉しいです!ママ、ありがとうございます!」
よっしゃ、家庭菜園ゲット!
せっかくなのできちんとママ呼びしておくと王妃様はめちゃくちゃ嬉しそう。
良かったよかった。
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昨日更新できなかったため、ちょっと長めに。
もう少し晩餐編続きます。
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