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第四章 新たなる魔人王
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後で部屋に行くと言われて二日。
レディの言う『後で』に待ちくたびれていたところにようやく顔を見せに来た。
「遅い!
遅すぎるわよっ」
「悪い悪い。
色々と考えと気持ちとが纏まらなくってね」
「それに、なんでテティーアンまで一緒に……」
「そいつはまぁ、これから話すとするよ。
下で一杯やりながらどうだい?」
「そうね。
そうしましょ」
酒場になっている一階のテーブルに移動し、各々が頼んだ飲み物が届けられると杯を合わせ無事に戻って来れたことを祝った。
「とは言うものの、何も成し遂げてはないんだけどね。
むしろ、脅威を目の当たりにして逃げて来たんだから」
「ははっ!
まぁそう言うなって。
命ある限り、次があるってことさ」
「それで?
これからどうするか決まったの?」
「ああ、そいつを今から話すことにするよ。
先ずは国に動いて貰うってことにしたんだがね、もう一つの顔である漁師の町としてを活かそうと決まったのさ。
具体的には漁に出た際に魔者を見たとね。
それによって国は確かめに出ざるを得なくなると思うんだ。
それによって植えられた危機感を逆手にとり、海賊であった我々が力を貸すと。
国にとっちゃあ小さな海賊よりも魔者の方が危険だろうし、何よりも海賊を盾にして兵士を守ることも出来るとなれば文句もないだろう。
それに加え海賊を国の所有物として海軍に仕立て上げたら自国の戦力も倍増するってもんだ。
あとは条件として、今後は海賊行為を辞める代わりに今までのことは拝め無しにするって運びに持っていこうかとも思っていてね」
「なるほどね、国の利益と危機感を利用するってことなのね。
クリスティアンなら上手く交渉を纏められそうな案だわ」
「そこでだ、その交渉にあたいが動こうかと思っていてね」
それにはあたしも驚き、飲み物を口に運ぶ途中で動きを止めてしまった。
「なんでレディが?
まだこの国にいるの?」
「というか……あたいはこの国に残ろうかと思っている」
「なっっ!?」
「二日も待たせたのはこれを決意する為だったんだよ。
あたいはさアテナ、友としてあんたと旅をするのが楽しかったし、これからもしたいと思っていた。
だが、もう一人の友をこのまま野放しにしても行けないって思ってね」
「いや、彼女、カルディアはもう人間じゃないし、レディのことを友達なんて思ってもいないわよ?」
「それはアテナの言う通りさ。
でもね、お互いが友と認めなければ友ではないってことはないと思うのさ。
自分が相手を友として認めたのなら、それは友であって裏切りでも何でもないんじゃないかってね。
そして、自分が納得するまで相手を見届ける、カルディアはあたいの手で決着をつけるってことこそが友への愛なんじゃないかと思ってさ」
「なにそれ?
意味分かんないわよ」
「今は分からなくてもいいさ。
裏切られた憎しみや怒りってのはさ、相手を友として愛していたからこそ沸き上がる感情でね、それを忘れて感情に囚われるたらそれは自分の、人間としての価値を失うことなのさ。
誰しも何かを愛する気持ちは持って接するから人間でいられるんだよ。
あたいはカルディアもアテナもミーニャも愛している。
それはいつまででも失いたくないからね」
「それって異性でも同性でも変わらない友としての愛があるってこと?」
「そういうこと。
恋愛だけが愛の全てではないんだよ。
だから、あたいの手でカルディアを止めることがカルディアへの愛なのさ」
「友達の愛……ね。
今まで考えたこともなかったわ」
「それを考えるにはまだ早いのさ。
今は友達として好き嫌いで充分ってことさね。
何も難しいことじゃない、心の奥底に耳を傾けれる時が来るから今は理解出来なくていい」
「ん~、あたしなりに整理するなら、友達だったカルディアが魔人になって色々壊そうとしてるから友達だった責任を持って彼女を止める、そんな感じでいいのかしら?」
「それで構わないよ。
何も間違ってはいないから、今はそれでいい。
だからアテナ、あんたは旅を続けてアリシアを探して自分の気持ちを確かめて欲しい。
こっちが片付いたらまた一緒に楽しみたいからさ」
「ん~、はぁぁぁ~……。
なんだかさ、複雑な気持ちだわ。
あたしもレディといるのが楽しかったし、けどお姉様を探したい気持ちもあるし。
……そうよね、止めるってこともおかしなことだものね。
分かったわ。
よし、いいわ!
あたしもレディは大切な友達と思ってる、だからこの剣はレディに貸すわ」
「な、なんだい、唐突に」
「必要でしょ?
カルディアを止めるにはさ。
それに友達の物ならぞんざいに扱えないでしょ?
必ず生きてその手で返しなさいよねっ」
「ふふっ。
アテナらしいね。
分かったよ。
この剣、しっかりと貸して貰おう」
「ええ、あたしの絶対は絶対だから役目を終えたら返しに来てよ」
「分かってるよ、大丈夫だ。
あとね、テティーアンが一緒に来て貰った理由なんだがさ。
あたいの代わりに一緒に行って貰おうと思ってね」
「レディから話を聞いて私が提案したんだが、どうだろう?
一緒に行ってもいいかい?」
「えっ?
いや、別に良いけどどうして急に」
「アテナは私を助けてくれた恩人でもあるし、何よりも可能性を感じたからね、見て見たくなったのさ」
「恩人だなんて当たり前のことしただけだから気にしなくて良いけど、可能性って?」
「海を股に掛けるのが海賊であるなら、世界を股に掛けることが出来そうだってね」
「そんな大股じゃないわよ、あたし。
それに世界を股に掛けたら恥ずかしいじゃない」
「いや、それは多分意味が違うと思うぞ?」
「え?
そう?
まぁ、どうだって良いわ。
なら、これからよろしくね、ティーア」
「ティーア?」
あたしが咄嗟に思いついた愛称に全員が首を傾げた。
「テティーじゃ普通過ぎるじゃない。
それにここにはミーニャがいるし、だったら似た感じでティーアで良いじゃない。
変?」
「変」
賑やかな酒場に女性の綺麗な三重奏が奏でられた一瞬だった。
「どこが変なのよ。
やっぱり人間とは合わないのかしら」
「そうじゃないと思うが……」
レディの呟きはあたしの左耳から見事に右耳から抜けていき、脳内には言葉一つ残らなかった。
「ところでさ、レディは残って交渉するって言うけど海賊でもないのにどうやって交渉するの?」
「そいつはね、あたいの出自を利用しようかと思っていてね。
実はあたいはさ……」
レディの過去を大して聞いて来なかったから知らなかったが、この場にいる全員が目を丸くせざるを得なかった。
そして、クリスティアンからの伝言であるアリシアの行方を聞いたあたし達は解散し、次なる地へと向かう準備を始めたのだった。
レディの言う『後で』に待ちくたびれていたところにようやく顔を見せに来た。
「遅い!
遅すぎるわよっ」
「悪い悪い。
色々と考えと気持ちとが纏まらなくってね」
「それに、なんでテティーアンまで一緒に……」
「そいつはまぁ、これから話すとするよ。
下で一杯やりながらどうだい?」
「そうね。
そうしましょ」
酒場になっている一階のテーブルに移動し、各々が頼んだ飲み物が届けられると杯を合わせ無事に戻って来れたことを祝った。
「とは言うものの、何も成し遂げてはないんだけどね。
むしろ、脅威を目の当たりにして逃げて来たんだから」
「ははっ!
まぁそう言うなって。
命ある限り、次があるってことさ」
「それで?
これからどうするか決まったの?」
「ああ、そいつを今から話すことにするよ。
先ずは国に動いて貰うってことにしたんだがね、もう一つの顔である漁師の町としてを活かそうと決まったのさ。
具体的には漁に出た際に魔者を見たとね。
それによって国は確かめに出ざるを得なくなると思うんだ。
それによって植えられた危機感を逆手にとり、海賊であった我々が力を貸すと。
国にとっちゃあ小さな海賊よりも魔者の方が危険だろうし、何よりも海賊を盾にして兵士を守ることも出来るとなれば文句もないだろう。
それに加え海賊を国の所有物として海軍に仕立て上げたら自国の戦力も倍増するってもんだ。
あとは条件として、今後は海賊行為を辞める代わりに今までのことは拝め無しにするって運びに持っていこうかとも思っていてね」
「なるほどね、国の利益と危機感を利用するってことなのね。
クリスティアンなら上手く交渉を纏められそうな案だわ」
「そこでだ、その交渉にあたいが動こうかと思っていてね」
それにはあたしも驚き、飲み物を口に運ぶ途中で動きを止めてしまった。
「なんでレディが?
まだこの国にいるの?」
「というか……あたいはこの国に残ろうかと思っている」
「なっっ!?」
「二日も待たせたのはこれを決意する為だったんだよ。
あたいはさアテナ、友としてあんたと旅をするのが楽しかったし、これからもしたいと思っていた。
だが、もう一人の友をこのまま野放しにしても行けないって思ってね」
「いや、彼女、カルディアはもう人間じゃないし、レディのことを友達なんて思ってもいないわよ?」
「それはアテナの言う通りさ。
でもね、お互いが友と認めなければ友ではないってことはないと思うのさ。
自分が相手を友として認めたのなら、それは友であって裏切りでも何でもないんじゃないかってね。
そして、自分が納得するまで相手を見届ける、カルディアはあたいの手で決着をつけるってことこそが友への愛なんじゃないかと思ってさ」
「なにそれ?
意味分かんないわよ」
「今は分からなくてもいいさ。
裏切られた憎しみや怒りってのはさ、相手を友として愛していたからこそ沸き上がる感情でね、それを忘れて感情に囚われるたらそれは自分の、人間としての価値を失うことなのさ。
誰しも何かを愛する気持ちは持って接するから人間でいられるんだよ。
あたいはカルディアもアテナもミーニャも愛している。
それはいつまででも失いたくないからね」
「それって異性でも同性でも変わらない友としての愛があるってこと?」
「そういうこと。
恋愛だけが愛の全てではないんだよ。
だから、あたいの手でカルディアを止めることがカルディアへの愛なのさ」
「友達の愛……ね。
今まで考えたこともなかったわ」
「それを考えるにはまだ早いのさ。
今は友達として好き嫌いで充分ってことさね。
何も難しいことじゃない、心の奥底に耳を傾けれる時が来るから今は理解出来なくていい」
「ん~、あたしなりに整理するなら、友達だったカルディアが魔人になって色々壊そうとしてるから友達だった責任を持って彼女を止める、そんな感じでいいのかしら?」
「それで構わないよ。
何も間違ってはいないから、今はそれでいい。
だからアテナ、あんたは旅を続けてアリシアを探して自分の気持ちを確かめて欲しい。
こっちが片付いたらまた一緒に楽しみたいからさ」
「ん~、はぁぁぁ~……。
なんだかさ、複雑な気持ちだわ。
あたしもレディといるのが楽しかったし、けどお姉様を探したい気持ちもあるし。
……そうよね、止めるってこともおかしなことだものね。
分かったわ。
よし、いいわ!
あたしもレディは大切な友達と思ってる、だからこの剣はレディに貸すわ」
「な、なんだい、唐突に」
「必要でしょ?
カルディアを止めるにはさ。
それに友達の物ならぞんざいに扱えないでしょ?
必ず生きてその手で返しなさいよねっ」
「ふふっ。
アテナらしいね。
分かったよ。
この剣、しっかりと貸して貰おう」
「ええ、あたしの絶対は絶対だから役目を終えたら返しに来てよ」
「分かってるよ、大丈夫だ。
あとね、テティーアンが一緒に来て貰った理由なんだがさ。
あたいの代わりに一緒に行って貰おうと思ってね」
「レディから話を聞いて私が提案したんだが、どうだろう?
一緒に行ってもいいかい?」
「えっ?
いや、別に良いけどどうして急に」
「アテナは私を助けてくれた恩人でもあるし、何よりも可能性を感じたからね、見て見たくなったのさ」
「恩人だなんて当たり前のことしただけだから気にしなくて良いけど、可能性って?」
「海を股に掛けるのが海賊であるなら、世界を股に掛けることが出来そうだってね」
「そんな大股じゃないわよ、あたし。
それに世界を股に掛けたら恥ずかしいじゃない」
「いや、それは多分意味が違うと思うぞ?」
「え?
そう?
まぁ、どうだって良いわ。
なら、これからよろしくね、ティーア」
「ティーア?」
あたしが咄嗟に思いついた愛称に全員が首を傾げた。
「テティーじゃ普通過ぎるじゃない。
それにここにはミーニャがいるし、だったら似た感じでティーアで良いじゃない。
変?」
「変」
賑やかな酒場に女性の綺麗な三重奏が奏でられた一瞬だった。
「どこが変なのよ。
やっぱり人間とは合わないのかしら」
「そうじゃないと思うが……」
レディの呟きはあたしの左耳から見事に右耳から抜けていき、脳内には言葉一つ残らなかった。
「ところでさ、レディは残って交渉するって言うけど海賊でもないのにどうやって交渉するの?」
「そいつはね、あたいの出自を利用しようかと思っていてね。
実はあたいはさ……」
レディの過去を大して聞いて来なかったから知らなかったが、この場にいる全員が目を丸くせざるを得なかった。
そして、クリスティアンからの伝言であるアリシアの行方を聞いたあたし達は解散し、次なる地へと向かう準備を始めたのだった。
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