27 / 70
第二章 全てを見渡す島
episode 23 ライズ
しおりを挟む
そうして笑っているのも束の間、視線を男に向けると両手を空に掲げるとゆっくりと左右に開き始めた。
「何?
何?
これって……」
両手の動きに合わせて先程男を包んでいた緑色の膜が、今度は船全体を覆い始めている。
「これがあると歌声に惑わされないのね。
ほら、言った通りじゃない」
「あぁ、今のところはだね」
レディは微笑み返すと海賊達に向き直り、大声を張り上げた。
「歌の聴こえない今だよ!!
全速力で距離を取りな!」
海賊の雄叫びと共に大きな帆が降ろされると船の速度が上がっていく。
「しかし、なんだって魔術師が海賊船なんかにいたのかだね。
しかもあれは、海賊ってわけにも見えないしな」
「それは後で本人から聞きましょ。
今はあたし達を守ってくれているんだから」
それから少し経つと緑の膜が徐々に消え始め、海賊からは目印だった孤島が見えたと声がしていた。
「ふぅ。
ここまで着たらもういいでしょ。
一旦休憩にしましょ」
「そうだね。
やつらにも一休みするよう言ってくるよ」
あたしとミーニャを置いてレディが船を周り始めると、代わりに''彼''があたしの元に寄ってきた。
「お疲れ様。
ありがとう、助かったわ」
労いの言葉を掛けたのに彼は訝しげな表情で自分の髪を触り、顎髭を触り始めた。
「どうしたの?」
「ちょっと待ってくれないか?」
するとレディの元に足早に向かい何やら話すと、二人の海賊と共に船内へ消えて行った。
「どうしたのかしら?」
「どうしたのでしょう?」
あたしとミーニャは訳が分からず呆然としてしまった。
「アテナ?
大丈夫か?」
「え?
あぁ、レディ。
彼はどうしたの?
ちょっと待てって急にここから居なくなったわ」
「あたいも良く分からないが、話はするから身だしなみを整えさせてくれってさ。
あとは腹が減ったって。
だから船長室に来るよう言っておいたよ」
「身だしなみ?
ここで?
なんだか厄介な人を助けちゃったのかしら」
「どう、だかね。
ま、悪いやつじゃないとは思うが。
あとは、何か得られる物があればいいんだが」
「そうね。
あの船にいたんだもの、何かなきゃ困るわ」
そうして、あたし達は船長室へと向かった。
途中、レディは海賊の一人に軽い食事を持って来るよう話し、後は部屋で待つばかりとなった。
「いやー、遅くなった。
待たせてすまなかったな、お嬢さん」
唐突に入って来たのは、端正な顔立ちをした所謂好青年だった。
「あんた誰?」
「誰?って、水くさい。
さっきまで一緒にいたじゃないか。
あの船から助けてもらったライズさ」
「あーあ。
あんたライズっていうのね。
随分と変わったわね、髭もなくなって髪も整うとさ」
ライズと名乗った男は微笑むと、急にあたしの前に立ち手を引いた。
無理矢理立たされる格好になったあたしは、何が起きたのか唖然とせざるを得なかった。
「ちょっ、ちょっとちょっと!」
「そりゃそうさ。
なんたって君の美しさに釣り合うようにしなけりゃならないんだ。
魔法石より輝く瞳に愛らしいまでのその唇。
それと相反するかの様な威光を放つ佇まい。
まさにこの世に生を受けた女神そのもの」
あたしの周りを二度三度と回りながら語りかけるその言葉。
決して悪い気はしなかった。
「この出会いは偶然なんかじゃない。
出会うべくして出会った必然の出来事。
運命とはまさにこの事なのだろう。
そうは思わないかい?」
「え?
あ、あぁぁ、そう、ね」
否定する間もなく口が勝手に相槌をしてしまった。
「おえっ」
嗚咽の漏れる方をチラリと見ると、レディが苦い顔をしてあたしを見ている。
ま、まぁ何だ、とりあえずはレディの嗚咽には触れないでおこうと今は思った。
「何?
何?
これって……」
両手の動きに合わせて先程男を包んでいた緑色の膜が、今度は船全体を覆い始めている。
「これがあると歌声に惑わされないのね。
ほら、言った通りじゃない」
「あぁ、今のところはだね」
レディは微笑み返すと海賊達に向き直り、大声を張り上げた。
「歌の聴こえない今だよ!!
全速力で距離を取りな!」
海賊の雄叫びと共に大きな帆が降ろされると船の速度が上がっていく。
「しかし、なんだって魔術師が海賊船なんかにいたのかだね。
しかもあれは、海賊ってわけにも見えないしな」
「それは後で本人から聞きましょ。
今はあたし達を守ってくれているんだから」
それから少し経つと緑の膜が徐々に消え始め、海賊からは目印だった孤島が見えたと声がしていた。
「ふぅ。
ここまで着たらもういいでしょ。
一旦休憩にしましょ」
「そうだね。
やつらにも一休みするよう言ってくるよ」
あたしとミーニャを置いてレディが船を周り始めると、代わりに''彼''があたしの元に寄ってきた。
「お疲れ様。
ありがとう、助かったわ」
労いの言葉を掛けたのに彼は訝しげな表情で自分の髪を触り、顎髭を触り始めた。
「どうしたの?」
「ちょっと待ってくれないか?」
するとレディの元に足早に向かい何やら話すと、二人の海賊と共に船内へ消えて行った。
「どうしたのかしら?」
「どうしたのでしょう?」
あたしとミーニャは訳が分からず呆然としてしまった。
「アテナ?
大丈夫か?」
「え?
あぁ、レディ。
彼はどうしたの?
ちょっと待てって急にここから居なくなったわ」
「あたいも良く分からないが、話はするから身だしなみを整えさせてくれってさ。
あとは腹が減ったって。
だから船長室に来るよう言っておいたよ」
「身だしなみ?
ここで?
なんだか厄介な人を助けちゃったのかしら」
「どう、だかね。
ま、悪いやつじゃないとは思うが。
あとは、何か得られる物があればいいんだが」
「そうね。
あの船にいたんだもの、何かなきゃ困るわ」
そうして、あたし達は船長室へと向かった。
途中、レディは海賊の一人に軽い食事を持って来るよう話し、後は部屋で待つばかりとなった。
「いやー、遅くなった。
待たせてすまなかったな、お嬢さん」
唐突に入って来たのは、端正な顔立ちをした所謂好青年だった。
「あんた誰?」
「誰?って、水くさい。
さっきまで一緒にいたじゃないか。
あの船から助けてもらったライズさ」
「あーあ。
あんたライズっていうのね。
随分と変わったわね、髭もなくなって髪も整うとさ」
ライズと名乗った男は微笑むと、急にあたしの前に立ち手を引いた。
無理矢理立たされる格好になったあたしは、何が起きたのか唖然とせざるを得なかった。
「ちょっ、ちょっとちょっと!」
「そりゃそうさ。
なんたって君の美しさに釣り合うようにしなけりゃならないんだ。
魔法石より輝く瞳に愛らしいまでのその唇。
それと相反するかの様な威光を放つ佇まい。
まさにこの世に生を受けた女神そのもの」
あたしの周りを二度三度と回りながら語りかけるその言葉。
決して悪い気はしなかった。
「この出会いは偶然なんかじゃない。
出会うべくして出会った必然の出来事。
運命とはまさにこの事なのだろう。
そうは思わないかい?」
「え?
あ、あぁぁ、そう、ね」
否定する間もなく口が勝手に相槌をしてしまった。
「おえっ」
嗚咽の漏れる方をチラリと見ると、レディが苦い顔をしてあたしを見ている。
ま、まぁ何だ、とりあえずはレディの嗚咽には触れないでおこうと今は思った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる