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第二章 全てを見渡す島

episode 23 ライズ

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 そうして笑っているのも束の間、視線を男に向けると両手を空に掲げるとゆっくりと左右に開き始めた。

「何?
 何?
 これって……」

 両手の動きに合わせて先程男を包んでいた緑色の膜が、今度は船全体を覆い始めている。
 
「これがあると歌声に惑わされないのね。
 ほら、言った通りじゃない」

「あぁ、今のところはだね」

 レディは微笑み返すと海賊達に向き直り、大声を張り上げた。

「歌の聴こえない今だよ!!
 全速力で距離を取りな!」

 海賊の雄叫びと共に大きな帆が降ろされると船の速度が上がっていく。

「しかし、なんだって魔術師ウィザードが海賊船なんかにいたのかだね。
 しかもあれは、海賊ってわけにも見えないしな」

「それは後で本人から聞きましょ。
 今はあたし達を守ってくれているんだから」

 それから少し経つと緑の膜が徐々に消え始め、海賊からは目印だった孤島が見えたと声がしていた。

「ふぅ。
 ここまで着たらもういいでしょ。
 一旦休憩にしましょ」

「そうだね。
 やつらにも一休みするよう言ってくるよ」

 あたしとミーニャを置いてレディが船を周り始めると、代わりに''彼''があたしの元に寄ってきた。

「お疲れ様。
 ありがとう、助かったわ」

 ねぎらいの言葉を掛けたのに彼は訝しげな表情で自分の髪を触り、顎髭を触り始めた。

「どうしたの?」

「ちょっと待ってくれないか?」

 するとレディの元に足早に向かい何やら話すと、二人の海賊と共に船内へ消えて行った。

「どうしたのかしら?」

「どうしたのでしょう?」

 あたしとミーニャは訳が分からず呆然としてしまった。

「アテナ?
 大丈夫か?」

「え?
 あぁ、レディ。
 彼はどうしたの?
 ちょっと待てって急にここから居なくなったわ」

「あたいも良く分からないが、話はするから身だしなみを整えさせてくれってさ。
 あとは腹が減ったって。
 だから船長室に来るよう言っておいたよ」

「身だしなみ?
 ここで?
 なんだか厄介な人を助けちゃったのかしら」

「どう、だかね。
 ま、悪いやつじゃないとは思うが。
 あとは、何か得られる物があればいいんだが」

「そうね。
 あの船にいたんだもの、何かなきゃ困るわ」

 そうして、あたし達は船長室へと向かった。
 途中、レディは海賊の一人に軽い食事を持って来るよう話し、後は部屋で待つばかりとなった。

「いやー、遅くなった。
 待たせてすまなかったな、お嬢さん」

 唐突に入って来たのは、端正な顔立ちをした所謂いわゆる好青年だった。

「あんた誰?」

「誰?って、水くさい。
 さっきまで一緒にいたじゃないか。
 あの船から助けてもらったライズさ」

「あーあ。
 あんたライズっていうのね。
 随分と変わったわね、髭もなくなって髪も整うとさ」

 ライズと名乗った男は微笑むと、急にあたしの前に立ち手を引いた。
 無理矢理立たされる格好になったあたしは、何が起きたのか唖然とせざるを得なかった。

「ちょっ、ちょっとちょっと!」

「そりゃそうさ。
 なんたって君の美しさに釣り合うようにしなけりゃならないんだ。
 魔法石より輝く瞳に愛らしいまでのその唇。
 それと相反するかの様な威光を放つ佇まい。
 まさにこの世に生を受けた女神そのもの」

 あたしの周りを二度三度と回りながら語りかけるその言葉。
 決して悪い気はしなかった。

「この出会いは偶然なんかじゃない。
 出会うべくして出会った必然の出来事。
 運命とはまさにこの事なのだろう。
 そうは思わないかい?」

「え?
 あ、あぁぁ、そう、ね」

 否定する間もなく口が勝手に相槌をしてしまった。

「おえっ」

 嗚咽の漏れる方をチラリと見ると、レディが苦い顔をしてあたしを見ている。
 ま、まぁ何だ、とりあえずはレディの嗚咽には触れないでおこうと今は思った。
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