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第39話 ②
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それからフライタークは、タイミング良く店から出てきたアンネリーエを襲わせた。
その様子を離れたところで見物しようと思っていたフライタークは、アンネリーエを守る魔法を見て驚愕する。
五つの属性の強力な魔法が、次々と貧民たちを攻撃したのだ。
魔法師団に在籍していた頃でさえ、そんな攻撃魔法を見る機会はなかった。恐らく高名な魔法師がアンネリーエを守っているのだろう。
それからしばらくすると、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが駆けつけ、貧民たちを拘束していく。
アンネリーエはたまたま近くにいたのらしい騎士団員に保護され、店に戻っていった。
そんな一連の流れに、益々アンネリーエを手に入れたいと思うようになったフライタークは、急いで配下に魔道具を準備させると、警備の裏をかいてアンネリーエを連れ去ることに成功する。
そして商会の執務室で、アンネリーエに最後のチャンスを与えたのだが──。
「──お断りします」
恐ろしい麻薬を見せつけても、アンネリーエは気丈にフライタークの提案を断った。彼女の美しい瞳が、確固たる意志を持ち、真っ直ぐにフライタークを射抜く。
そんなアンネリーエを見て、どうしても手に入らないこの綺麗な人間を、自分の手で汚し尽くしたい──そんな欲望が芽生えていくのを、フライタークは自覚する。
そして逆上したフライタークは衝動が赴くままに、アンネリーエに高濃度の”アクア・ヴィテ”を飲ませてしまう。
一度”アクア・ヴィテ”を摂取してしまえば、アンネリーエは自分の思うままになるだろう。
治療薬も存在せず、禁断症状に苦しむアンネリーエが頼れる人間は、もはや自分しかいないのだ。
しかし、フライタークは欲しい物を手に入れた喜びに気を取られ、商会に殴り込んできた人物たちに気付いていなかった。
”ドゴォオオン!!”という爆音とともに、重厚な扉が吹き飛んだ。
「────アン……っ!!」
その声と衝撃に驚いたフライタークが振り向くと、いつか見た、騎士団の団長で英雄のジギスヴァルト・リーデルシュタインがその場に立っていることに気付く。
アンネリーエを見たジギスヴァルトの、怒気が爆発的に膨れ上がる。
「……な、何故貴方がっ?! どうしてここに──がはっ!!」
フライタークは、一瞬何が起こったのかわからなかった。
気が付けば吹き飛ばされ机に激突していたのだ。
「……っ、ごふっ!! ……ぐ、ぐぁあ……っ」
轟音とともに大切な書類が舞い上がり、高級品で揃えた調度品が無残に破壊される。
破壊されたのは調度品だけでなく、フライタークの身体もまた、内蔵がひっくり返るような衝撃を受け、肋骨が数本折られるほどの怪我を負ってしまう。
魔法に精通し、ある程度の戦闘経験を持っているフライタークだったが、防御魔法を発動させる間もなくジギスヴァルトに倒されてしまったのだ。
「く、くそ……っ!!」
フライタークは懐に忍ばせていた魔道具を発動させようと、血に染まった手を動かした、瞬間──。
「ぎゃあああああっ!!」
氷の刃がフライタークの手を突き破り、床にその手を縫い付けた。
強烈な痛みに襲われたフライタークが絶叫する。
しかし、その絶叫はフライタークの折れた骨と傷ついた内臓を刺激し、更に激痛を与えることになってしまう。
「あらら。あっという間にこの有様かー。相変わらず怖いなぁ」
聞き覚えがある声に視線を動かせば、そこにはかつての自分の上司であるヘルムフリートがいた。
「……っ?! アンさん!! これは……っ?!」
ヘルムフリートがアンネリーエに駆け寄るが、彼女はぐったりとしていて意識がない。
一先ずヘルムフリートは、アンネリーエの状態がこれ以上悪くならないように、固定の魔法をかけて応急処置を施した。
「……っ、だ、団、長……っ!!」
フライタークは、助かりたい一心で、ヘルムフリートに懇願する。
ジギスヴァルトの魔力が部屋の気温を下げ、フライタークの身体をじわじわと凍らせているのだ。
「た、助け……っ!!」
「え? 無理無理。こんなにキレたジギスヴァルトを、俺が止められる訳無いでしょ。それに……アンさんは俺の恩人だ。そんな人をこんな目に合わせたお前を、この俺が助ける訳無いだろう?」
「……っ、そ……そん、な……っぐわぁあああっ!!」
ヘルムフリートに断られたフライタークに絶望する時間すら与えるつもりがないのだろう、ジギスヴァルトがフライタークの足に氷の刃を何本も突き刺した。
「ああ、でも助ける気はないけど、今最優先すべきはアンさんだからね。ジギスヴァルト、その辺で止めてくれる? 早くアンさんを診て貰わないと、彼女の状態がヤバい」
ヘルムフリートの言葉に、怒りで我を忘れていたジギスヴァルトの目が正気に戻る。
「アンは俺が連れて行く!! お前はコイツを見張っていろ!!」
我に返ったジギスヴァルトはアンネリーエを抱き上げると、ヘルムフリートにフライタークを任せて商会を飛び出していく。
(くそ……っ!! アン……っ!! 死なないでくれ……っ!!)
ジギスヴァルトは祈りながら、王宮へと向かう。
そこには王国最高の知識と技術を持つ王宮医師がいるはずだ。
その様子を離れたところで見物しようと思っていたフライタークは、アンネリーエを守る魔法を見て驚愕する。
五つの属性の強力な魔法が、次々と貧民たちを攻撃したのだ。
魔法師団に在籍していた頃でさえ、そんな攻撃魔法を見る機会はなかった。恐らく高名な魔法師がアンネリーエを守っているのだろう。
それからしばらくすると、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが駆けつけ、貧民たちを拘束していく。
アンネリーエはたまたま近くにいたのらしい騎士団員に保護され、店に戻っていった。
そんな一連の流れに、益々アンネリーエを手に入れたいと思うようになったフライタークは、急いで配下に魔道具を準備させると、警備の裏をかいてアンネリーエを連れ去ることに成功する。
そして商会の執務室で、アンネリーエに最後のチャンスを与えたのだが──。
「──お断りします」
恐ろしい麻薬を見せつけても、アンネリーエは気丈にフライタークの提案を断った。彼女の美しい瞳が、確固たる意志を持ち、真っ直ぐにフライタークを射抜く。
そんなアンネリーエを見て、どうしても手に入らないこの綺麗な人間を、自分の手で汚し尽くしたい──そんな欲望が芽生えていくのを、フライタークは自覚する。
そして逆上したフライタークは衝動が赴くままに、アンネリーエに高濃度の”アクア・ヴィテ”を飲ませてしまう。
一度”アクア・ヴィテ”を摂取してしまえば、アンネリーエは自分の思うままになるだろう。
治療薬も存在せず、禁断症状に苦しむアンネリーエが頼れる人間は、もはや自分しかいないのだ。
しかし、フライタークは欲しい物を手に入れた喜びに気を取られ、商会に殴り込んできた人物たちに気付いていなかった。
”ドゴォオオン!!”という爆音とともに、重厚な扉が吹き飛んだ。
「────アン……っ!!」
その声と衝撃に驚いたフライタークが振り向くと、いつか見た、騎士団の団長で英雄のジギスヴァルト・リーデルシュタインがその場に立っていることに気付く。
アンネリーエを見たジギスヴァルトの、怒気が爆発的に膨れ上がる。
「……な、何故貴方がっ?! どうしてここに──がはっ!!」
フライタークは、一瞬何が起こったのかわからなかった。
気が付けば吹き飛ばされ机に激突していたのだ。
「……っ、ごふっ!! ……ぐ、ぐぁあ……っ」
轟音とともに大切な書類が舞い上がり、高級品で揃えた調度品が無残に破壊される。
破壊されたのは調度品だけでなく、フライタークの身体もまた、内蔵がひっくり返るような衝撃を受け、肋骨が数本折られるほどの怪我を負ってしまう。
魔法に精通し、ある程度の戦闘経験を持っているフライタークだったが、防御魔法を発動させる間もなくジギスヴァルトに倒されてしまったのだ。
「く、くそ……っ!!」
フライタークは懐に忍ばせていた魔道具を発動させようと、血に染まった手を動かした、瞬間──。
「ぎゃあああああっ!!」
氷の刃がフライタークの手を突き破り、床にその手を縫い付けた。
強烈な痛みに襲われたフライタークが絶叫する。
しかし、その絶叫はフライタークの折れた骨と傷ついた内臓を刺激し、更に激痛を与えることになってしまう。
「あらら。あっという間にこの有様かー。相変わらず怖いなぁ」
聞き覚えがある声に視線を動かせば、そこにはかつての自分の上司であるヘルムフリートがいた。
「……っ?! アンさん!! これは……っ?!」
ヘルムフリートがアンネリーエに駆け寄るが、彼女はぐったりとしていて意識がない。
一先ずヘルムフリートは、アンネリーエの状態がこれ以上悪くならないように、固定の魔法をかけて応急処置を施した。
「……っ、だ、団、長……っ!!」
フライタークは、助かりたい一心で、ヘルムフリートに懇願する。
ジギスヴァルトの魔力が部屋の気温を下げ、フライタークの身体をじわじわと凍らせているのだ。
「た、助け……っ!!」
「え? 無理無理。こんなにキレたジギスヴァルトを、俺が止められる訳無いでしょ。それに……アンさんは俺の恩人だ。そんな人をこんな目に合わせたお前を、この俺が助ける訳無いだろう?」
「……っ、そ……そん、な……っぐわぁあああっ!!」
ヘルムフリートに断られたフライタークに絶望する時間すら与えるつもりがないのだろう、ジギスヴァルトがフライタークの足に氷の刃を何本も突き刺した。
「ああ、でも助ける気はないけど、今最優先すべきはアンさんだからね。ジギスヴァルト、その辺で止めてくれる? 早くアンさんを診て貰わないと、彼女の状態がヤバい」
ヘルムフリートの言葉に、怒りで我を忘れていたジギスヴァルトの目が正気に戻る。
「アンは俺が連れて行く!! お前はコイツを見張っていろ!!」
我に返ったジギスヴァルトはアンネリーエを抱き上げると、ヘルムフリートにフライタークを任せて商会を飛び出していく。
(くそ……っ!! アン……っ!! 死なないでくれ……っ!!)
ジギスヴァルトは祈りながら、王宮へと向かう。
そこには王国最高の知識と技術を持つ王宮医師がいるはずだ。
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